推しの子 Reboot~三原色の子達~   作:フロストランタン

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入試と『今日あま』の行方は……?


21 入試

「お兄ちゃん、どうだった?」

 

「余裕。唯一懸念するとしたら、名前くらいじゃね?」

 

「あはっ、本名星野愛久愛海(アクアマリン)だもんね~」

 

 俺達は陽東高校に入試を受けに来ていた。以前は普通科を選んだ俺だったが、今回はルビーと同じ芸能科を受ける事にした。面接での受け答えは問題ないはずだし、ルビーの方も手応えはしっかりあったようで、余裕の表情だ。この分なら無事に二人とも通るだろう。

 

 それはそうと、面接官に俺が名乗った瞬間、ザワリと妙な空気になった。芸名ならまだしも、本名が愛久愛海(アクアマリン)だからな。やはりというか、インパクトは相当なものがあったようだ。

 

「あぁ、居た居た。やっぱり二人ともウチの芸能科受けに来たのね」

 

 ルビーと試験の感触を確かめ合っていると、後ろから聞き慣れた声が聞こえてきた。

 

「あっ、かなちゃん! おひさー」

 

「有馬? 今日は登校日じゃないだろ?」

 

 今はドラマ『今日あま』の撮影期間中でもあり、有馬とは頻繁に顔を会わせている。だから俺とは久しぶりでも何でもないが、ルビーは2ヶ月近く会っていなかった。

 

「あんた達を激励してあげようと思って来てあげたのよ。で、どう? 手応えは?」

 

「余裕ヨユー! 4月からは先輩後輩だね。お兄ちゃんも心配があるとしたら名前くらいだってさ」

 

 ルビーは既に受かった気でいるらしい。有馬と同じ学校に通える事を喜んでいる。

 

「あはは。私も最初はいっちょ前に芸名なんて生意気って思ったもんよ。でも本名聞いてビックリ。まさか『アクアマリン』だなんて普通思わないじゃない?」

 

「だよね~。でも気に入ってるんだよ? ルビーにアクアマリンに……」

 

「そりゃあんたは良いでしょうよ、まだダメージ少ない名前だし」

 

「ダメージって……さりげなくディスんな、仮にも親から貰った名前なんだからな」

 

「ご、ごめん。そんなつもりはなかったんだけど……」

 

 生意気でムカつく事もあるが、こういうとき素直に謝るようになったのは、回帰以前との大きな違いの一つだろうか。俺も生まれたての頃は名前でダメージを負っていた気もするが、長年付き合ってきた今となってはむしろ愛着があるし、周囲の微妙な反応にも慣れたものだ。ただ有馬は放っておくと調子に乗る。ムカつく煽りをし始める前に釘を刺しておくのが結局のところ最善なのだ。

 

「やることは終わったし、さっさと帰るか。俺は監督のところに寄るから、途中までな」

 

「りょー」

 

「あ、私も一緒に……って、監督?」

 

 有馬はやはり付いてくるつもりだったようだ。前は偶然の再会した勢いでついてきただけだったと思うが、今回はどういうつもりなんだか。別にいいけど。

 

「なんと、あの五反田監督だよ。懐かしいよねー、かなちゃんとお兄ちゃんの初共演も監督の作品だったじゃない? あっそう言えば、『今日あま』のドラマ見たよ」

 

 有馬の質問に答えたルビーが、ドラマの話題を振った。有馬もルビーの評価が気になったようだ。

 

「へー。その……ルビーの目から見て、どうだった?」

 

「うーん、そうだなぁ。脚本とかオリジナルのキャラクターとか、突っ込みどころはいっぱいあったよ。演技も第1話は皆へたっぴだったし。かなちゃんは皆に合わせるの大変そうだったね」

 

「あー、まぁ……そうなるわよね、うん……」

 

 アイが女優をやっていることもあってか、ルビーは芝居を見る目も肥えてきている。有馬が周りに合わせて演技を抑えている事には気付いていたみたいだ。

 

「あっでもでも、回を追うごとに皆の演技が目に見えて良くなってて、なんかこう……新人アイドルが成長していく姿をリアルタイムで追ってるみたいな感じ? それで段々とハマってきちゃってさぁ……6話だけじゃなくて、もっと続けば良いのにね」

 

「そ、そう……?よかった、ちゃんとあの子達の成長が視聴者の目にも見えてたのね」

 

 有馬が安堵の表情を浮かべる。ルビーも評した通り、第1話放送時のネットの評価は星1や2が殆んどだった。役者陣は士気こそ高かったが、所詮は1週間の付け焼き刃で挑んだ現場だ。初日からその成果が表れるなどという期待は、余りにも都合が良すぎた。4話まで公開された現在、少しずつ巻き返してきてはいるが、最終的に星3を超えられれば御の字といったところだ。

 

「あの子達の成長を見守ってくれてる人が居るって思うと、なんて言うか……感慨深いわね」

 

「えっ、今のかなちゃん、なんだかすごくお姉さんぽいかも……」

 

「そ、そう?」

 

「あの地獄を知れば、そんな気持ちも沸くよな?」

 

 地獄というのは、初日の稽古の事だ。原作をしっかり予習してきたメルトは初対面の斜に構えたようなスレた態度ではなく、少年のように澄んだ目をしていた。

 おおかた原作の雰囲気に当てられて、恋愛したい症候群にでもなっていたのだろう。

 

 徹夜でコミックを読んでいたアイも「私もこんな恋愛してみたかったな」と呟いていたっけ。それを聞いたルビーは割と真面目に危機感を抱いたようで「どうしよー」なんて泣きついてきたっけ。

 

 そんなこんなで微妙に浮わついた雰囲気で始まった稽古だが、早速事件は起きた。想像以上のメルトの大根ぶりが判明し、有馬も一瞬目から生気が消え失せていた。

 

「アクアは序盤からこれでもかってくらいにメルト君を追い込んでたわよね」

 

「まぁな」

 

「初心者相手に鬼かと思ったわよ。そういう拘りが強いっていうか妥協を許さないとこ、やっぱり五反田監督に似てるわね」

 

「別に似てねぇよ。アレはいくらなんでも文句言いたくなるだろ。有馬だって、正直しんどかったろ」

 

 俺に詰められて泣きそうになりながら、必死こいてたメルト達。それを全力でフォローしてきた有馬の負担も大きかっただろう。

 

「そうね、第一声がアレだものね……でもあれで本気だったのよねぇ……」

 

「えっ、なになに? どういうこと?」

 

 俺と有馬があの地獄の空気を思い出してゲンナリしていると、ルビーは興味を引かれたようで、無遠慮にグイグイと迫ってきた。

 

「狙ってもあんな棒読み出来ないわよ、普通。流石の私もこれに合わせるとか地獄かよって思ったわ」

 

「そんな酷かったんだ!?」

 

 有馬の表情を見てルビーが悲鳴のような声をあげる。

 

「アクア、ちょっとやって見せてやんなさいよ」

 

「ええ……?」

 

 有馬はあの時のメルトの演技を真似して見せろというのだ。何で俺がそんな……。

 

「フォマエ、ソンナカオシテテタノシーノ?」

 

「ぷっwあっはははは! ちょっとお兄ちゃん、流石に盛りすぎー!」

 

 俺のモノマネを見たルビーが指を指して大笑いする。

 

「いや、こんなんだったよな?」

 

「いやいやいや、絶対ふざけて大袈裟にやってるでしょ?」

 

 残念ながら誇張でもなんでもなく、まんまコレだったんだよ。

 

「ぷっ……くく、思ってた以上に似すぎ……あんた意外とモノマネ上手いじゃない……」

 

 今だから有馬も笑っていられるが、初めて目の前でコレをやられたときは全くもって笑い事じゃなかった。

 

「ここまでとは聞いてねぇぞ!」

 

 喉元まで出かかった言葉を、俺はどうにか気合いで飲み込んだ。有馬も目に虚無を湛えていた。メルトを始め役者たちはいたって真剣だった。それをわかっていたからこその虚無感だったに違いない。

 

 そこから何とか一週間かけて芝居の基礎を徹底的に叩き込み、原作者の吉祥寺先生が見学に来る日には、下手なりに熱意を持って頑張っている姿は見せられた。最後に先生は「あまり期待はせず見守ってますので、これからも頑張って下さいね」と激励の言葉を残していった。

 

 失望しなかったわけではないだろう。期待を裏切られたと思ったかもしれない。それでも、誰もが原作をリスペクトし、本気で我武者羅になって取り組んでいることだけは伝わったと思いたい。

 

「撮影も残すところ最終話のみだ。終わり良ければ…とまでは言わないが、有終の美を飾りたいとこだな」

 

「そうね。遂に原作屈指のあのシーンだし、気合いも入るってもんよ。ルビーも期待してなさい? ちょっと本気出しちゃうから」

 

「わぁ、楽しみぃー! ふふんふーん♪」

 

 ルビーは上機嫌に若干音を外した鼻歌を歌い始めた。

 

(上手いとは言わないが、メロディーだけで何の曲か分かるようになったんだから、上達したよな……)

 

 ちょっと失礼な事を考えながら、俺は人知れず笑みを浮かべて先頭を歩いた。




『今日あま』の収録も終わりが近付き、平和なほのぼの回もそろそろ終わりが近い……かも知れません。
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