推しの子 Reboot~三原色の子達~   作:フロストランタン

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24 気掛かり

「はー疲れたー! でも楽しかったぁ~! あっ、かなちゃんお疲れーって、なんか元気なくない?」

 

「アンタがいつにも増してテンション高過ぎなのよっ! 私は別に……いつもと変わりないわ」

 

 私が居るのは苺プロの事務所。レッスンから帰ってきたばかりだというのに、ルビーは元気が有り余っているらしい。ウザいくらいのハイテンションだ。私は苺プロに移籍してからまだこれといった仕事がなく、本を読んで時間を潰していた。

 

「その様子を見るに、余程嬉しいことでもあったみたいね?」

 

「だって子供の頃から憧れてきたアイドルになって、推してきた先輩達とのレッスンだよ? そんなのテンション上がるに決まってるじゃん! 握手とかハグもしちゃった♪」

 

 ルビーは目をキラキラと輝かせ、喜びを全身で表しながら早口で捲し立ててくる。

 

「やってることがファンなのよね……」

 

 同じグループのメンバー相手に厄介ファンみたいな絡み方したら、ウザがられないかしら? 

 

「ふふん、ただのファンじゃ密着なんて出来ないよ。でもメンバーならいつでもチャンスはあるんだー」

 

「少しは遠慮しなさいよ」

 

「メンバー間でのスキンシップをするのは最早自然の摂理なんですけど?」

 

「きっ……」

 

(「キモ」は言っちゃダメよね。あかねも泣いちゃったことあったし……。にしてもこの子ったら、好きな事にはとことん純粋で真っ直ぐね……)

 

 それがルビー(この子)の長所であり、短所ともなり得る。アイドルに限らず、芸能界は人気商売だ。同じアイドルグループの仲間であっても、それは例外ではない。表面上は仲良く振る舞っていたとしても、水面下では意地汚い足の引っ張り合いや、押し合い圧し合いなんて当たり前のようにやっているのだ。

 

 メンバーにリスペクトを強く抱いているこの子が、果たしてその熾烈な競争を勝ち抜いて行けるのかしら。内外から期待を寄せられていたはずのハイスペックな新人が、洗礼ともいうべき熾烈な芸能界の荒波に揉まれてポッキリと心折れてしまう、なんていう話も少なくない。

 

 ルビーとはそれなりに付き合いも長い。普段見せている図太さを発揮できればやっていけるだろうけど、それだけじゃない繊細な部分もある。ごくたまに、天真爛漫を絵に描いたようなルビーからは想像できないような、触れたら壊れてしまいそうな儚い表情を浮かべているときがあるのを私は知っている。

 

(アクアは気付いているのかしらね……)

 

 かく言う私も、それに気づいてはいても踏み込むことができず、いつも二の足を踏んでしまうのだけど。

 

「ところでアクアは? ここ数日事務所でも見てない気がするけど、何か仕事でも入ってるの?」

 

「……あー、うん。一応……」

 

「何よその歯切れの悪い反応」

 

 あからさまにテンションが下がったルビーが、気まずそうにノートPCを差し出してきた。何事かと思って画面を見ると、そこには────

 

『今からガチ恋始めます』

 

 画面中央にはテロップが踊り、学校の校舎が写し出されている。

 

「えっ……アクアが恋愛!?」

 

 若くて顔の良い男女が放課後の学校に集まり、共に時間を過ごしていくうちに、やがて恋が芽生える……というコンセプトの、いわゆる恋愛リアリティーショーだ。

 

「なるほどねー。あんたの浮かない表情の理由が分かったわ。双子の兄の好いた惚れたを、番組を通して見せられるわけだ。そりゃあ気まずいなんてモンじゃないわよねー」

 

(アイツ、私の前じゃ色恋とか興味ありませんみたいな顔しといて、興味自体はあったってワケ? 私はそういう目で見られてなかっただけか……)

 

 別にそういう関係じゃなくたって、今のままでも十分楽しい関係ではある。でも、こういう事実を改めて目にすると、なんだかモヤモヤする。

 

(これじゃまるで……私が意識がアイツを意識しちゃってるみたいじゃない……!)

 

 違うと否定したいけど、雑念を振り払うには至らない。

 

「……ルビーはもう見たの?」

 

「まだ……」

 

「そう」

 

 止まったままのPCの画面を見つめる。……ボタンを押すだけなのに、何となくその勇気が出ない。少しの間、微妙な沈黙が場を包む。

 

(ええい、拝んでやろうじゃないのよ!)

 

 

 意を決してボタンに触れようとしたその時、不意にドアが開いてアクアが姿を現した。

 

「アクア……っ?」

 

「有馬か……。ルビーももう帰ってたんだな」

 

「ただいま、お兄ちゃん……っ」

 

 あれ、と思った。ルビーが上擦った声で分かりやすく動揺しているのに、アクアはそれを気にかける様子がない。普段なら目敏く気づいて怪しむなりするはずだ。それにルビーの予定も知っているはずだから、レッスンの感想を聞きそうなものだ。

 

(なんだか、余裕がないような……)

 

 頻繁に顔を会わせてきたわけではないけれど、アクアとの付き合いはそれなりに長い。些細な変化だとしても、それに気付ける程度には理解しているつもりだ。

 

「ねぇ、これからかなちゃんとこれ見る所だったんだけど」

 

「あー、俺ちょっと出掛けるから。飯もいい」

 

「……監督の所?」

 

「まぁ、そんなとこ……」

 

 曖昧に返事をしたアクアはそのまま振り返りもせず出て行ってしまった。どこか様子がおかしいと感じたのは、きっと気のせいではない。

 

「お兄ちゃん、何かあったのかな……」

 

 ルビーは心配げにアクアの消えていったドアを見詰める。

 

「……はっ!? もしかしてお兄ちゃん……」

 

「えっ、な、何よ?」

 

「ホラ、お兄ちゃんってボッチ気質っていうか、一人で何か考え込んでることあるじゃん? 学校とかでも友達と馴染んでるところを見かけないんだよね。もしかして、今の仕事場でハブられたりしてるんじゃ……」

 

「えぇ……? いや、流石にそれは……うーん、ないとも言い切れない、かも……」

 

「やっぱり!?」

 

『今日あま』の現場も若い世代の役者が多く、アクアもやりたい放題やっていた。それでも大きな問題が起きなかったのは、現場全体の雰囲気が良かったからだ。私も努めてフォローにまわっていたし、撮影スタッフ陣も雰囲気作りには気を配ってくれていた。

 

 しかし、現場によって空気感は大きく違う。現場スタッフが殺伐としていたり、演者同士に深い溝があったりと、何かしら問題を抱えている事の方が多く、気持ちよく演技に取り組める現場は実は少ない。

 

 アクアに限って、現場で馴染めずに落ち込むなんて考えにくいけど、それでも絶対ではないだろう。

 

「どどどどーしよ……何か助けになれないかな……?」

 

「待ちなさい、まだそうと決まったわけじゃないでしょ? ……とりあえずこれ見てみましょう。現場で何かあったのなら、何か分かるかもだし」

 

「そ、そうだね……」

 

 妙な大義名分を得てしまった私は、真剣な表情で再生ボタンを押した。

 




ルビーは研究生としてレッスンを開始しています。
有馬はまだこれといった仕事のオファーはなく、事務所で待機になりがちです。
『今ガチ』収録が始まっているようですが、なにやらアクアの様子がおかしいようです。
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