推しの子 Reboot~三原色の子達~ 作:フロストランタン
俺はミヤコさんが疲れて寝てしまった隙に、早速計画行動に移すことにした。
(中身に予想が付いているとはいえ、緊張するな)
「……ルビー。おいルビー」
「っ!!?」
俺がそっと後ろから小声で声をかけると、仰天の表情を貼り付けたルビーがガバッと振り返ってきた。
「…えっ? 今……」
目を大きく見開いて口をパクパクさてているが、俺は構わず話を始める。
「もしかして、前世の事覚えてる? 俺もなんだけd「赤ちゃんが喋った! キm」バ、バカ……っ!」
寝ているミヤコさんを起こしてしまわないように小声で話しかけているのに、いきなり大声を出すから咄嗟に口を塞ぐ。
「声がデケェんだよ、二人が起きるだろっ」
慌てる余り言葉が少し乱暴になってしまったが、俺の言葉にハッとしてミヤコさんとエメの方に視線を泳がす。ルビーが小声で謝ってきた。
「で、どうなんだ? これだけ喋れるってことは、そうなんだよな?」
「う、うん……。何で分かったの?」
「昨夜も壮絶な戦いだったな」
「あっ」
バツが悪そうな顔をするルビー。ほぼ毎晩、アイのアンチとリプ合戦続けているのは把握済みだ。俺は更に続ける。
「毎晩夜中にあんな騒いでおいて、よく今までバレてないと思ってたもんだ」
「うっ……」
小さくなってしょんぼりするルビー。苛めたいわけじゃないから、この辺りでやめておくか。
「それで、ここからが本題なんだが…」
「ん……」
うたた寝から目覚めると、肩にブランケットがかけられていた。
(あら?)
時計を見る。時刻は21時を少し回ったあたりだ。ちょうど生放送の歌番組が終わって数分といった所。となると、まだ壱護達は帰ってきていないはず。
「一体誰が……」
「あ、それは僕が」
「あぁ、どうもありがと……えぇえっ!? 」
思わず叫びに近い声を上げた私は悪くない。だってそうでしょ? 生後数ヶ月の赤ちゃんが立って歩いて流暢に喋ってるんだから。
「えっ、え、ああ赤ちゃんが喋ってる? 夢? 夢よね?」
「いや現実。ハイ、お水どうぞ」
相手に同意を求めたわけではないけれど、差し出されたコップを受け取り、一気に飲み干す。お陰で一気に頭が冷えた。
「ちょっとは落ち着いた?」
「え、えぇ、まぁ……」
(いやムリムリムリ!)
いくら育児経験のない私にだって分かる。この子は異常だと。あり得ない。まだ一歳にも満たない乳児が立って歩く。そこまでならまだ「早熟」の一言で片付けられる。かもしれない。
でもこれはない。
口調も文脈も、子供のそれではなくまるで大人と話しているかのようだ。
「……はっ? まさかドッキリ? そうよ、どこかにカメラとか仕掛けてるんでしょ?」
そうであって欲しい。そうであれ。
私は目の前の現実を受け止めきれず、祈るように周囲を見回す。
「どうしたら信じてもらえる? 何かクイズでも出す? 難しい漢字を書いて見せる?」
私の乳児がトドメを刺しにくる。どう見ても仕掛けなんてない。
「うぅ……いやでも、だって……そんな……非現実的……」
もう何が何だか分からない。頭がパンクしそう。
「まぁ、一つ深呼吸して」
言われるがままに大きく息を吸って、ゆっくり吐き出した。不思議なことに、それだけで少し落ち着きを取り戻せた気がする。
「最初に言っておく。俺はアンタの味方だ。それだけは信じてくれ」
「……!」
ただ事とは思えない程に真剣な眼差し。相手は赤ん坊なのに、雰囲気に飲まれてしまった。
「話を進めると、俺は何故か前世の記憶をもって生まれた。それで今置かれてる状況も、事情も理解してるってわけだ」
「は、はぁ…」
色々突っ込みたいけれど、今はとにかく話を聞くだけ聞こう。言っていることは理解できるし。したくないけど。でも現実を受け入れるしかないんだと悟った。
(まるでタチの悪い悪夢のようだけど……)
「一時的とはいえ、本来なら一人で三人も赤ん坊の相手するのは相当な負担だと思う。大人の時間も都合も構わず泣くし、その理由も言葉になんて出来ないないから、大人の方が察するしかない」
「そうね、改めて考えると、地獄の苦行ね。育児経験もないのに。それも三人同時……」
「だが俺は違う。こうして言葉で意思の疏通も出来るし、空気を読まず泣く事もないし、理不尽なワガママも言わない。普通の赤ん坊や幼児ほど手はかからないだろ?」
「成る程……」
言われてみると、それだけでもかなり助かる。
「ただ、そうは言っても身体は赤ん坊だ。どうしたって大人の助けは必要になる。だから……」
「お互い協力し合おうっていうこと?」
「まぁ……有り体に言えばそうなる。今の俺に出来ることなんて殆んどないけど……」
「いいえ、話せる相手がいるだけでも嬉しいわ」
本当なら言葉も理屈も通じない相手に孤軍奮闘しなければいけない中、味方が出来たような気がして、少し心が軽くなった。
「そうか。ありがとう、ミヤコさん」
「ええ」
赤ん坊に良い笑顔で握手を求められたのには違和感しかなかったけれど、それは極力表に出さず、彼の手を握る。
(ホント、小さな手)
「あぁ、そうだ。この事は勿論誰にも秘密にして欲しい。特にアイには」
「え、どうして?」
「そりゃ、自分が産んだ子が俺みたいなオカルトな子供だって知ったら……ショックだろ?」
私はその言葉を否定も肯定も出来なかった。深い悲しみと罪悪感と後悔が入り交じった表情に絶句してしまったから。
(一体前世でどんな人生送ったら、そんな表情出来るっていうの……)
「だから……」
「分かったわ。誰にも言わない。二人だけの秘密ね」
「正確には三人だけどな」
「えっ」
もう一人協力者が居る? 考えられるとしたら、一人しかいない。
「……壱護ね?」
「いや違う」
「違うんかいっ!」
(考えあっての事だったんだと思って見直しかけてたのに! アノヤロウ、ただ面倒事押し付けてきただけだった!)
「そ、そう怖い顔しないでくれ」
いけない、つい殺意が顔に出てしまったわ。でも、他に心当たりなんて思い浮かばない。
「実はルビーも、俺と同じように誰かの生まれ変わりらしいんだ、起きてたら一緒に話すつもりだったんだが……」
「……えっ? 待って……脳が処理を拒んでるんですけど」
「そんなにか? 最初と比べればそこまでの衝撃じゃないと思うんだが。まぁ、そう深く考えず、余り手のかからない子がもう一人居たってだけだから」
簡単に言ってくれるわね……。二度目でも十分に衝撃の事実でしょうがっ!
(……やめよう。これ以上は頭がパンクするわ)
私は色々と考えるのを諦める事にした。
「そ、そうね……。他にまだ何か話しておきたいことはある? そろそろアイさん達が帰ってくる頃だと思うのだけど」
(もう三人とも誰かの生まれ変わりだって言われても驚かないわ……)
「いや、今日はこの辺にしとくか。とにかく、一番に気にかけてやって欲しいのはエメだからよろしく」
「わかったわ」
言いたいことを言い終えると、アクアがそそくさと自分で歩いてソファーによじ登り、身体を丸める。
私はブランケットをそっとかけてあげた。ドッと疲れが押し寄せてきた。主に精神的な疲れが。でも今後を思うと、気持ちは軽くなったような気がする。一人じゃないのだから。
少しすると、玄関の方から物音が聞こえてきた。
「ただいまー」
ミヤコさんと協力関係を結びました。ルビーは寝てしまっていたので、アクアは結局一人で話す事にしたようです。