推しの子 Reboot~三原色の子達~   作:フロストランタン

4 / 25
今回は少しエメラルドにも焦点を当ててみました。


04 三つ子と母

 アイが復帰してから数ヵ月が過ぎた。

 

 俺達赤ん坊二人と、ミヤコさんの間で取り交わされた奇妙な協力関係は、最初こそ戸惑いや微妙なすれ違いもあったが、今ではすっかり慣れたものだ。

 

 ルビーは最初のうち大人ぶって我が儘一つ言わず手伝ってくれていたが、元はさりなちゃんだ。甘えたいのを我慢させたくはなかった。

 

 俺やミヤコさんにも少しくらい甘えてくれていいと話すと、それからは少しずつ甘えたりワガママを言ってくるようになった。アイの前では相変わらず赤ん坊としてベタベタに甘え倒しているが。

 

 そんなルビーを見ながら、俺の脳裏には()()()()が鮮明に甦ってきた。

 

 

 

 

 

 

【おぎゃばぶランド】

 

 

 

 

 

 

(案外十年以上経っても忘れねーモンだな。おぎゃばぶランド、語感強すぎる…)

 

 

 

 それはそうと、この数ヶ月を経た今では、エメは()()()()()()()()()だと結論付けることにした。微妙な言い方になってしまうのは、普通ではないと思える事がいくつかあり、しばらく同類かと疑っていたからだ。

 

 一つは、大きな声で泣かない事だ。普通の赤ん坊は大きな声でまさに火が着いたように泣く事が多い。だがエメは「蚊の鳴くような」とまでは言わないが、鳴き声がかなり小さかった。それどころか、そもそも泣くこと自体、本当に少なかった。

 

 さらに、育児あるあるとなっている『背中にセンサー』こと寝グズリ抱っこ地獄も滅多にない。

 

 余りにもおとなしい。育てやす過ぎる。そのため、やはり中身は転生した誰かで、周囲の状況を慎重に窺ってるんじゃないかと思えてきた。

 

 他にも、ルビーが試しに手をパチパチ叩いて大きな音を出しても、目をしばたいて反応を示すだけで、怖がって泣くようなことはなかった。

 

 次に笑い方だ。エメはきゃっきゃと大きな声をあげて笑わない。笑いはしても弾けるような笑顔ではなく、見せてくれるのはいつも微笑み程度の穏やかなものだった。

 

 これも「物静かな子」という一種の個性として捉えられないでもないが、やはり転生者では、という疑惑は、どうにも拭いきれなかった。

 

 だが、更に観察を続けているうちに、エメは言語を理解しているような素振りが全くない事が分かった。

 

 エメが一人でも座れるようになった頃には、ルビーは考えるのを止め、妹として可愛がり始めるようになった。見た目は可愛いし、彼女にとって初めての妹なのだから、嬉しかったのだろう。

 

 ルビーが何か話かけてはエメが頷くという、何とも微笑ましい光景をよく見るようになった。勿論まだアイには喋れる事は秘密にしているため、ミヤコさんと俺だけが知る光景だが、それを見ていて気付いた。エメはルビーが何を言ってもとりあえず頷く。

 

 何を言ってるかは分かっていないが、恐らく「話し掛けられた時に頷くと頭を撫でて貰える」ということを覚えたようで、頷いた後撫でて貰えるのを待っているようなフシがある。

 

 ルビーが面白がって時々わざと「エメは魔法使いなの?」とか「男の子よりも女の子が好き?」と頭のおかしな質問を混ぜても、何の迷いもなく真顔でコクリと頷くのを見て、まだ言語を理解できていないと確信した。それを以て疑惑は杞憂だったと結論付けた。

 

 ミヤコさんは精神的な負担が軽くなったことで余裕が生まれたお陰か、今ではエメを溺愛するまでに至っている。「ウチの子になってもいいのよ」とまで言い出し、アイに即刻却下されていたが。

 

 エメが初めて掴まり立ちを見せてくれた時なんかは、ウキウキ顔でアイに自慢して悔しがらせ、逆に先に「ママ」と呼ばれた時にはアイが勝ち誇った顔で自慢するなど張り合っていた。

 

 アイとミヤコさんの関係は悪いわけではなく、これは一緒に子供の成長を喜ぶ家族のような関係だ。

 

「そーだ、私が社長とミヤコさんの子供になれば、この子達も家族になれるよー」

 

「大きな娘……っていうかそれじゃエメちゃんは孫になっちゃうじゃない!」

 

「いいじゃん、『おばーちゃん』って呼んでもらえるよ?」

 

「こ、この歳でお婆ちゃんはちょっと……」

 

 俺達は普通に立って歩けるが、エメと時期を合わせるようにして、アイ達の前では「はいはい」「お座り」「掴まり立ち」と一緒にステップを踏み、三つ子として成長を見せていった。

 

 これは時間溯行前の時より、自然な姿を演じられたと思う。勿論アイは一つ一つの成長を大喜びしてくれた。

 

 

 

 

 

 アイが復帰したB小町はというと、それはもう快進撃を遂げている────と思いきや、案外そうでもなかった。

 

「……今月の給料20万……」

 

 ムムムっと給与明細とにらめっこしていたアイがミヤコさんに不満を洩らす。

 

「ねぇ、うちの事務所給料渋いよぉ。こないだ出したシングルオリコン3位だったよね。中抜きエグ過ぎない?」

 

 ミヤコさんはデスクでPCに向かいながら、冷静に現実を突きつける。

 

「どうしたの、今更? ウチは弱小芸プロなんだから、製造から流通まで手掛けてる大手とは違って、色んな所に業務依頼出さなきゃいけない、だからどうしたって利益が薄いのよ。それはアイも承知の上でしょ?」

 

「うん……。でも、世の中結局お金だって気付いたの」

 

「嫌な事に気付いちゃったね……」

 

「アイドルはやってて楽しいし、私一人なら今のままでも、別によかったんだけどさ?」

 

 塾や習い事など、子供達に将来の様々な選択肢を与えるには、自身がもっと稼がなければ。このままでは子供達を幸せに出来ない……。アイはエメを抱き上げながら、そんな悩みを打ち明けた。

 

(子供の将来を考えて思い悩む姿を見ると……)

 

 時間溯行前は、名前も呼び間違えれば色々隙も多いアイを、母親としてはかなりダメな部類だ、なんて思っていたものだが、改めてこういう姿を見ると思ってしまう。ちゃんと立派に母親してるじゃないか、と。

 

(今度こそ何があっても俺が守る。アイも、ルビーも。何一つ、失ってたまるか!)

 

 俺はそう強く心に誓い、次の策を行動に移し始める事にした。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。