推しの子 Reboot~三原色の子達~ 作:フロストランタン
「抽選でしか当たらないヤツぅ~」
「ルビー、はしゃぎ過ぎだぞ」
興奮するルビーを窘めつつ、俺も内心浮き立っていた。エメも会場がもの珍しいのか、キョロキョロと周りを見回している。
「分かってると思うけど……推さない、駆けない、騒がない!いいわね?」
「もちろんだよ!」
「ミヤコさんは俺達の事より、エメを気にしてやって」
アクアはミヤコさんに頼み込み、アイの促進イベントへと連れてきてもらっていた。勿論、ルビーとエメも一緒だ。
当然ながらミヤコは反対した。もし万一アイの子供だとバレるようなことがあれば、全てがおしまいだ。
俺は「髪色も違うし、大人しくしてれば目立たないからバレる心配はない」と説得した。ルビーも「悩んでいたママが心配なの」と必死に訴えたうえで、エメに同意を求めた。
例によってルビーの言葉にエメが条件反射の如く頷き、ミヤコはあえなく陥落。エメは対ミヤコ最終兵器だった。
三人乗りのベビーカーは縦に並んで座るタイプが多く、それではライブが見れない。そこで、横並びシートの二人乗りベビーカーに俺とルビーが乗り、抱っこ紐でエメを抱いてもらう事にした。
「ルビー、絶対にアイと俺達の関係を匂わせるようなことの無いようにな。大人しくおしゃぶりつけて座ってるんだぞ?」
「分かってる。私だって遊びに来たんじゃないの。ママが心配だから……」
俺は我慢して大人しくしておくつもりだが、ルビーは……無理だろうな。信用して連れてきてくれたミヤコさんには悪いが、アイの生ライブを前にルビーが大人しくしていられるはずがない。
(ルビーには悪いが、一人で頑張っ……!?)
「あっ来た!」
『B小町の皆さんでーす』
アナウンスと共にパフォーマンスが始まる。
「はーっ、はーっ……。二人とも話が違うじゃないっ! 何が「心配して来た」よっ!? 誰よりもエンジョイちゃってるじゃないの!」
「「つ、つい本能で……」」
会場をダッシュで逃げ出したミヤコさんが文句をぶつけてくる。結局俺もルビーと一緒になって必死にヲタ芸を打っていた。
本当のところ、俺がやってしまったのはヲタの本能のせいではない。五郎の思念だ。
『さりなちゃんに一人寂しい思いをさせるな。一緒にヲタ芸でも何でもやってやれよ』
そう迫ってきた。
(最近は大人しくていると思ったら急にこれか……)
改めてコイツは制御不能だという事を思い知らされた。いや、以前よりも更に厄介になっている気がする。戦慄を覚えながら額に手をやる。
「あぁ、帰ったら絶対怒られる~」
「悪かった。本当に……」
「ごめんなさい」
天を仰ぐミヤコさんに、俺達は二人して平謝りするのだった。
『双子の赤ちゃんがヲタ芸を打つという異常事態に、思わず個レスしてしまうアイドル』
案の定ツイッターニュースで取り上げられ、俺達のヲタ芸動画は21万リツイート、転載動画も200万再生というバズりを見せた。本当は三つ子なんだが、エメは大人しくミヤコさんに抱かれていただけなので、記事ではノータッチだ。しかし、当然ながらこれは社長の壱護も知るところとなった。
「ちょっとこい……」
哀れ、壱護に引き摺られていくミヤコさん。虚空を見つめる瞳が哀愁を誘う。
(ミヤコさんには悪いことをしたが、あれはもう不可抗力だ。諦めてくれ……)
コメント欄には「この赤ん坊から厄介ヲタの資質しか感じない」と失礼な事も書かれていたが、アイの笑顔も取り沙汰されていて「この子名前は?」とか「アイってこんな風に笑う子だっけ?印象変わった」など好評を博していた。元々地下アイドル界隈では熱かったが、このバズのお陰でアイはこれまでになかった層にも認知されたと言えるだろう。
「なるほど……これが
アイはアイで何かを掴んだようで、ツイッターの記事を見てニヤリと不敵な笑みを浮かべていた。
あれから一年が過ぎた。
俺達は立ったり喋ったりしても怪しまれない程度に大きくなり、ルビーはアイドルに赤ちゃんプレイを注文するヤバいファンを見事に体現していた。
「ママァー、よしよししてぇ~!」
「はーい、よしよーし」
アイのよしよしを堪能し、ルビーはご満悦だ。ちょっとヤバめな表情だが、それは見ないふりをする。
「ふふー、エメもおいでよー」
「…私もいいの?」
ルビーに呼ばれると、エメは少し迷った様子を見せてから近寄っていく。
「ほーら、おいで。よーしよしよし」
「……」
アイに撫でられると、エメは少し恥ずかしそうにはにかみながら、しかし嬉しそうに目を細めて頭を撫でられている。表情も感情表現も豊かなルビーとは違い、感情の起伏は少ないが、控え目でしおらしく、微笑ましい。
最初のうちはこうじゃなかった。喋れるようになる前から、エメはいつもアイの顔色を窺うような目を向けていた気がする。まるで愛情を向けられる事に戸惑っているようにも見えた。
「アクアもおいでよ」
「いや、僕は見てるだけで十分だよ……」
嘘ではない。本当に、嬉しそうにする二人を見ているだけで胸が一杯だ。それに、ただでさえ頭を撫でられるなんて照れ臭いのに、妹二人の前でとなると、絶対に恥ずかしさで悶絶する。
「もぉー、お兄ちゃんぶっちゃってー。ちょっとくらい甘えてくれてもいいんだよ?」
「うっ、そ、そのうちにね……」
どうにかアイの追及をやり過ごせたと思ったが、ふとエメと視線がぶつかった。
「……」
エメが無言のままじっと俺を見つめてくる。何となく視線を逸らせず、近付いてくるエメと近距離で目が合う。
(アイほど強烈なそれではないが、それでも……)
吸い寄せられるような引力を持つ瞳。髪色や性格はまるで違うが、こういう所はアイの遺伝子を色濃く受け継いでいると実感する。微笑みを浮かべながら、エメが口を開く。
「お兄ちゃんも、いっしょがいい」
「え?何が?」
「よしよしって。……わたしと一緒じゃ、イヤだった?」
「い、いや、そんなんじゃない、けど。……っ!」
目は口ほどにものを言う。エメの表情は変わらず笑みを浮かべている。それなのに、アクアを見つめるその瞳だけが、訴えくる。寂しさを。
「う……わ分かった。一緒によしよしされれば、いいんだな?」
「…!うん」
エメが頷き、その瞳に喜びが宿る。
「お兄ちゃんやっさしー」
「……兄として、妹の頼みは叶えてやりたいから」
(マジで照れ臭いけど……)
茶化して来るルビーに、顔が熱くなるのを感じながら答える。
「よーしよしよし~」
俺はニヨニヨとニヤつくルビーの視線を受け、内心羞恥に悶えながら、アイとエメが満足するまで頭を撫でられ続けるのだった。
エメちゃんもお喋りが随分上手になりました。兄弟がいると早いみたいですね。
アクアはもちろんルビーの事は大切に思っていますが、同時にエメの事もよく気にかけています。
ミヤコさんはもちろん、アイもエメを甘やかし、ルビーも何だかんだお姉ちゃんぶって甘やかす傾向にあります。
アクアも結局エメのかわいさにはやられ気味で、見事な迄に末っ子属性です。