推しの子 Reboot~三原色の子達~   作:フロストランタン

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有馬かな撃沈…


08 有馬かな

 

 カットがかかり、続いて監督のOKが出る。

 

「凄いね、お姉さんゾクッとしちゃった」

 

「あー、それはどうも……」

 

 主人公役の女優に少し苦笑いしながらお礼を返すアクア。今は目の前の大人よりも、アクアは有馬かなの動向が気になっていた。

 

 アクアが見せたのは前回同様、子供のフリではない素に近い自分。幼児の見た目をしているのに、話し方も立ち振舞いも完全に大人のそれだ。見る者に「子供の皮を被った大人」あるいは「何かが取り憑いている」と思わせるような強烈なギャップと異質感。それは共演した女優も思わず身震いするほどだった。

 

 有馬かなは天才子役の呼び名に相応しい演技をしたが、それでも子供であることに変わりない。及第点を大幅に越えるだけの気味の悪さは出ていたが、更に上が居たというだけだ。

 

「問題大有りよ!」

 

 金切り声が響き、周囲が何事かと驚いて手を止める。見れば有馬かなが監督の服を掴み、泣きながらリテイクを頼んでいた。余程彼女の中で納得できるものではなかったのだろう。天才子役の駄々っ子行動にただただ慌てる者、気持ちは分からないでもない、と心中を察する者、仕事が滞ると迷惑そうに冷めた目を向ける者、反応は様々だ。そんな皆の視線が集まる中、有馬かなは泣きじゃくりながら懇願する。

 

 しかし監督の答えは「ノー」だった。監督が現場の指揮権を握っている以上、その決定を覆す事は役者には出来ない。撮影スタッフも監督に従う。それが仕事だからだ。縋りつく彼女を最後には母親に引き剥がされて撮影の続きに移っていった。

 

 

 

 

 

 有馬はベンチに座り、まだ泣いていた。それをマネージャーと母親が付き添って慰めている。母親の戸惑ってる様子を見ると、普段はあんな風にわがままを言って泣きじゃくるなんてした事がないのだろう。

 

(結局こうなったか……)

 

 俺は離れたベンチでその様子を眺めながら、監督と話していた。有馬に悪い事をしたわけじゃない。だがそれでも有馬の泣く姿には少し胸の奥が痛んだ。

 

「役者にとって大事な要素は何だと思う?」

 

「コミュ力と芝居が好きなこと」

 

 俺が質問に答えると、監督が驚いた顔をした。

 

「え、何?」

 

「いや本当に末恐ろしいヤツだと思ってよ。どうやったらそんな達観できるんだ? 俺もコミュ力が大事だと思ってるが、芝居が好きときたか。ちなみにどうしてそう思った?」

 

「演技が上手くても売れない役者って結構いるでしょ? 役者の仕事だけじゃ生活できなくて、アルバイト掛け持ちしながら続けるとかザラだって聞くし。それだったら普通に会社で働いた方が多分もっと楽に儲かるのにさ。苦しくて辛くて、それでも続けるのは、好きじゃなきゃ無理だと思う。多分一流の役者で芝居好きじゃない人なんて居ないんじゃないかな?」

 

 才能とか運だけではどうにもならない部分もある。少なくとも星野アクアとして見てきた一流の役者達は皆、芝居が好きで仕方がない連中だった。

 

「なるほどなあ……」

 

「監督もそうじゃないの? 儲けよりも、本当に良い映画を作りたいって気持ちの方が強い。それで儲けを出したい人達とよく揉める。図星でしょ?」

 

「うっ…まぁ……そうだな。お前の言う通り、あの拝金主義者共とはソリが合ねぇ。っつーか本当にお前ガキか? 漫画みてーに「本当は大人で体が縮んじまった」とか言われても信じそうだぞ」

 

「はー、何言ってんの? あんなの、現実にあるわけないじゃん」

 

 そう言って呆れ顔で肩を竦めつつ、内心では少し焦りを感じていた。これ以上素に近い自分を出すのは、本当に怪しまれるかも知れない。

 

「んなこた分かってるよ! ただのたとえ話だっつーの。ったく本当かわいげがねーな」

 

「自覚はしてる。だから人前では気を遣って適度に猫被ってるよ。こんな素の態度見せれるのは家族以外じゃ監督くらい」

 

「ん、そ、そうか……。って俺にもちったぁ気ぃ遣えや!」

 

 監督にはわりと心を開いている。それは嘘じゃない。時間回帰前は監督の家には殆んど毎日通ってて、色々世話になって……言うなれば父親みたいな存在だった。本当に感謝している。

 

「んんっ……それはともかく、お前のような演技出来る役者は現場で重宝するぞ。細かい指示がなくても、台本にも書かれていない意図を読み取り、脚本の思い描いた通りの演技ができる。それこそコミュ力の為せるわざだ。お前の演技はまさに俺のイメージにピッタリの演技だった」

 

「そっか……ありがと」

 

 満足げな笑顔を浮かべる監督。

 

(今なら機嫌は悪くないし、空気も温まった。そろそろ()()()を切り出すか……)

 

 まずはエメの演技を見てどう思ったか質問し、内容によってはもう少し突っ込んだ事を聞いてみよう。そう考えていると、ミヤコさん達がこちらへ向かってくるのに気付いた。

 

(ミヤコさん? ルビーとエメも一緒だ……)

 

 ミヤコさんの表情が険しく見えるのは気のせいではないだろう。ルビー達も少し気まずそうな顔をしている。

 

(俺が控え室で有馬を泣かせた事と無関係じゃ無さそうだな……)

 

 一応和解はしたんだし、大人が出てくると会社間の話になってしまい、賠償だのなんだのと規模の大きな話になってしまう。だから出来れば「子供同士の喧嘩」で済ませて欲しかったが、ミヤコさんの判断は違ったようだ。事務所間で揉め事になる前に正式に謝罪を入れて誠意を見せておくべきという事だろう。俺はベンチから立ち上がる。

 

「監督、ちょっと行ってくるよ……」

 

「ん? 何処へ……あー、分かった。行ってこい」

 

 監督もミヤコさんの雰囲気から察したらしい。多くは聞かず、送り出してくれた。

 

 

 

 

 

「ご挨拶が遅くなり、申し訳ありません。苺プロダクションの斉藤と申します」

 

「ご丁寧にありがとうございます。こちらこそ、お伺い出来ませんで……」

 

 よく見る会社員同士の挨拶に始まり、いよいよ本題に入り、謝罪をする。

 

「ウチのアクアが有馬さんに大変ご無礼を働いたようで……私の監督不行き届きです。申し訳ございませんでした」

 

「申し訳ありませんでした!」

 

 俺はミヤコさんと一緒に頭を下げる。これで許して貰えればいいが……。

 

「えっと……どういう──」

 

「ちょっ、何やってんのっ!?」

 

 娘から何も聞いていなかったんだろう。有馬の母親が戸惑いながら事情を聞こうとしてきたのを、有馬が割って入ってきた。

 

「あ、()()()ならもういいから! 本人同士で解決してるからっ!」

 

「いや、でも……」

 

 有馬らしからぬ狼狽っぷりに驚きつつも、俺は大人の事情を理解しているため、有馬に同意は出来ない。

 

「弊社としましては、突然のキャスティング変更でご迷惑をお掛けしたうえ、更に続けてこのような事態まで引き起こしてしまった以上、筋を通さないわけには……」

 

「かなちゃん? 何があったの?」

 

「ママ? た、大した事ないよ? もうホントに! もういいですから! 許しますからぁっ!」

 

 涙目で羞恥に顔を赤く染め上げた有馬かなの叫びが、よく晴れた空に谺響した。

 

 

 

 

「もう、最悪……。ママにもマネージャーさんにも泣いたこと知られちゃって……恥ずかしいっ」

 

 熱くなった顔を両手で被い隠す。苺プロ側の謝罪を、うちの事務所は受け入れた。当人同士で解決済みということもあって、大事にはせず懐の深さを見せたということみたい。

 

「スマン……」

 

「とりあえず全部お兄ちゃんのせいって事だね」

 

「うっ……まぁ、概ね…………」

 

 アクアは妹に言われるまま、何も言い返せない。何よ、妹に甘々じゃない。本当シスコンなのね。

 

「ただ、俺達はそれで良くても、大人は礼儀をちゃんと通さないと、まずいことになるから」

 

「どういうこと…?」

 

 私の疑問に、アクアは丁寧に説明を始める。

 

「幼稚園とかじゃなくて、仕事の現場で起きた事だからな。そっちの事務所からしたら『ウチの子になにしてくれるんだ』って話だろ? これでウチが謝罪しなかったら『謝りもしない無礼なやつ等だ』って思われる。そうなったらウチみたいな弱小の事務所はあっという間に仕事が取れなくなる。信用は大事だからな」

 

「そうなんだ。あんたやけに詳しいじゃない」

 

「父親がその弱小事務所の社長だからな」

 

「へぇ……」

 

(社長の息子さんなんだ……それでコネ使ってこの映画に出たのね……)

 

 実力が確かなのは今では分かるけど、それならちゃんとオーディション受ければよかったのに。そしたら私だって、あんな言い方……。

 

「……あんたの演技、悔しいけど凄かったわ。アレどうやってるの?」

 

「あー、それは……」

 

 アクアは言いたくなさそうな感じね。確かに、会ったばかりの相手に簡単には自分の技術を教えたりしないか。

 

「あれは演技っていうか、ただいつものお兄ちゃんやっただけだよ?」

 

「へっ? いつもの? いつも……え?」

 

 妹があっけらかんと言った言葉に、頭がついていかなかった。いつもの? 

 

「……どういうこと?」

 

 意味がわからず聞き直してしまう。だって意味わかんない。

 

「だから、演技じゃなくてあれが普段通りのお兄ちゃん。言い換えれば、お兄ちゃんって普段から気味が悪いんだよね」

 

「うぐっ!? ル、ルビー?」

 

 なんかアクアが傷付いてるけど、更に誤爆? は続いた。

 

「お兄ちゃんって、前々から大人びてるっていうか、オッサン臭いとこあってさ~?」

 

「オ、オッサン……」

 

「こないだも写真撮るとき『はいチーズ』って言ってて~」

 

「ごふっ?」

 

 兄の事などお構いなしと言わんばかりに、妹は言いたい放題。人の心にグサグサと撃ち込んでくる。うん、容赦ないわ。

 

(何か恨まれるような事でもしたのかしらね?)

 

「で、結局何が言いたいかって言うと、いくら演技上手でも、本物の気味悪さには敵わないってこと」

 

「う、うん分かった。それは分かったけど……あんたのお兄ちゃん大丈夫? 魂抜けてどっか行っちゃってるみたいだけど?」

 

「え? ……あっ、アクアー? おーい」

 

(ホントに大丈夫かしら……)

 

 アクアは遠い目をして別世界へ旅立っていた。ルビーが目の前で手を振っても反応がない。

 

「あなた、妹に恨まれるような事でもしたの?」

 

「心当たりはないけど……」

 

「いや別にないよ? あっはは、ゴメンゴメン。今はもう馴れてるし、気味悪いなんて思ってないから」

 

「今は……は、はは……」

 

 死んだ魚のような目で、アクアは渇いた笑いをこぼした。まぁ、頑張んなさい、お兄ちゃん。

 

「あのー」

 

「ん、私? なに?」

 

 もう一人の妹が私に話し掛けてきた。今まで一緒に居たけど会話には入って来なかったのに。私に話しかけるタイミングを見計らっていたのかな。緊張しているみたいで、それを感じ取った私も、少し身構えてしまう。

 

「さ……」

 

「さ?」

 

「サイン……」

 

「えっ、サイン? もしかして、えっ、私の……?」

 

 私の問いに、妹その2が恥ずかしげにモジモジしながらコクンと頷く。

 

(なによこの子、私のファンだったの?)

 

 正直、意外過ぎてビックリだわ。でも嬉しい。驚きと嬉しさで固まっていると、妹ちゃんが困り眉で悲しそうな表情になる。

 

「ダメ?」

 

「あ、いや……」

 

「アクアが気味悪いから、妹の私はサイン貰えない?」

 

「……っ!」

 

 妹の言葉に傷付いた表情をしながらも、アクアが祈るような視線を向けてくる。シスコンキモいと思う一方、そのシスコンぶりにも納得がいく気がしてしまう。目の前の女の子はこんなにも愛らしく、いじらしい。自分が姉だったら間違いなく可愛いがるわ。そんな妙な確信をしてしまうくらいに。

 

「あ、あげるわよ、サインくらい」

 

「……ホントに? よ、よかったぁ……」

 

 目を少し大きくして驚いたあと、潤んだ瞳で安堵の表情を浮かべる。トクンっと鼓動が高鳴った。

 

「~~ッ!?」

 

「色紙貰ってくるね」

 

 そう言って離れていく妹ちゃんの背中を見つめる。

 

(なんなの? なんなのこの気持ち? これが妹……)

 

 後でママに妹が欲しいって言ってみようかな。弟でもいいかな。

 

(そういえばあの子名前なんていうんだろう? サイン書くときに聞いてみよっと)




これがきっかけで有馬かなに妹か弟が出来るかもしれません?
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