推しの子 Reboot~三原色の子達~   作:フロストランタン

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09 決戦前

 映画の撮影から1ヶ月が過ぎ、試写会が行われた。

 

 試写にはアイ、ミヤコさん、俺達三兄妹で参席した。俺やエメは最初から最後までしっかりと見ていたが、ルビーは途中から退屈してしまったようで、割とすぐに眠ってしまった。アイの出番だけは起こさないと後で文句言われるので、もうすぐ出番というところで起こしてやったりして鑑賞に集中しきれなかった。

 

 作品のジャンルとしてはジャパニーズホラーなので、ヒタヒタと忍び寄るような特有の緊迫感と恐怖が持ち味だ。子供なら泣いてしまいそうなシーンもあったのだが、エメは時折ビクッと反応していたものの、泣き出す事はなかったようで安心した。

 

「アクアの演技すごい気持ち悪かったね」

 

「子供に向けて言う感想じゃないって」

 

「それだけ凄い演技だったってことだよ。エメは可愛くて、でも不思議な感じで。なんだろう? 天使? とか妖精とか、きっとこんな感じかなーって思ったよ」

 

「なるほど、確かに」

 

 アイの言葉に俺も同意した。エメが演じた役をどう表現すべきかしっくりくる言葉が見付からなかったが、子供らしい辿々しさが薄く、可憐で淑やかな、それでいて幻想的な美しさを醸し出す雰囲気は、まさしく天使や妖精というイメージがピッタリ当てはまる気がした。

 

「天使とか妖精ってホントにいるの?」

 

「うーん、どうかな? ママは少なくとも、今までに会ったことはないし、そんなの居ないって言う人がほとんどだけど。でも、もし本当に居るならいつか会ってみたいよね」

 

 アイとエメの微笑ましい会話に耳を傾けつつ、俺は実在の可能性を考えていた。

 

(「人とは違う何か」を匂わせる存在は知っているし、転生なんて事象もあるくらいだ。もしかしたら、そんなのも実在してるのかも知れないな……)

 

 それでも流石に天使だの妖精だの、そんなのに出会うなんてことはまずないだろう。こんなことを真面目に考えるようになってしまった俺は、どうかしてるかも知れない。

 

「二人は将来役者さんかな? 三人とも大きくなったら間違いなく美男美女だし、全然ありえるよね」

 

 アイは楽しそうにそんなことを口にする。我が子の成長をそばで見ていたい。時間回帰前の世界では今際の際に口にするも、叶えられる事のなかった彼女の望み。

 

(今度は俺がそれを叶えてみせる。最高の形で。その為に俺は戻ってきたんだからな……!)

 

 この時の俺は強い使命感に燃えていたが、大切な事を見落としていた。分かっていなかった。

 

 

 

 

 映画「それが始まり」で、五反田監督は何かの監督賞にノミネートされた。俺とエメの演技は冴えていたと思うが、結局のところアイが全てを持っていった。まぁ、一度目の時もそうだったし、その結果に不満はない。

 

 やはりというべきか、これを契機として徐々にアイに個人の仕事が舞い込むようになってきた。雑誌モデルやバラエティ番組への露出も増え、今では絶賛売り出し中の人気アイドルと呼んで差し支えないまでに上り詰めてきている。

 

 ここからが正念場だ。ドーム公演当日、あの大学生の凶刃を止め、逮捕させる。そして証言を引き出し、カミキヒカルを表舞台へと引きずり出す。大まかな筋書きは決まっているものの、穴は多い。

 

 捕まえたところでカミキはまだ未成年。少年法に守られているため、殺人教唆だとしても、大人と同じように裁く事は出来ない。それでも保護観察程度なら付くだろう。ひとまず行動の自由を縛る鈴を付ける事が出来る。それで何かが変わり、凶行が今後なくなればよし。そうならなくても、少なくともこちらが力を蓄え、更に守りを固めるまでの時間稼ぎにはなる。雨宮五郎殺害の件も追加で罪を問えれば実刑も狙えるかも知れないが、過度な期待はしない方がいいだろう。

 

 だがもし、こちらの予想通りにあの大学生が現れなかったら。偶々最初の弛い策が通じただけで、大学生を差し向ける以外にも、何重にも罠を張り巡らせていたなら。アイは俺が身代わりになってでも守るつもりだが、まだ何か有るんじゃないか、足りないんじゃないか。そんな不安感が、いつまでも拭いきれない。

 

 最近の俺は寝付きが悪くなり、夜中に目を醒ます事も増えた。アイは夜一度寝入ると簡単には起きないので、この事に気付かれていないと思うが、ミヤコさんには気付かれていたようだ。目が覚めて水を飲み、ソファに腰掛けた俺の隣に座ってきた。

 

「最近余り寝れていないみたいだけど、何か悩みでもあるの?」

 

 ミヤコさんは俺を心配して、自分も忙しいというのに、こうして声をかけてきたのだった。だが、俺は本当の事を話せない。もし話してしまった事で、これから起こる未来が大きく変わってしまったらと思うと怖い。ドーム公演当日の朝。そのタイミングを逃したら、次がいつくるかは分からなくなる。だからそこで決着を着けなければいけない。

 

「アイが売れてきた事で色々と不安が出てきただけだよ。分母が増えれば、頭のおかしな輩が出てくる可能性も増すから」

 

「そうね。それは言えてる。でも、最近のあなたの様子を見ていると、とてもそれだけとは思えないわ」

 

 流石に鋭い。数年とはいえ自分の正体を晒した上で付き合ってきた相手だ。ちょっとした事でも気付いてしまうのだろう。だったら────

 

「マネージャーとして培った観察眼は伊達じゃないってことか。じゃあ……ちょっと昔話を聞いてくれるか?」

 

「もちろんよ」

 

「俺は前世の記憶があるって言っただろ? 前世で俺は子供の頃に、家族を……母親を殺されたんだ」

 

「……っ」

 

 ミヤコさんの表情が変わる。驚き、悲哀、同情……幾つもの感情が一瞬のうちに入り乱れ、その動揺を意思の力で押し込めて、また元の表情に戻す。そんな心の動きが見て取れた。

 

「歳は、ちょうど今くらいだったかな。犯人は犯行後すぐに自殺していたが、後になって、その裏で糸を引いてる奴の存在に気付いた。それからの俺は、その後の人生を、復讐に捧げて生きたんだ」

 

 誰であるか特定されないように詳細はぼかし、俺はその後の半生を語った。復讐に邁進し、その過程で、ただ一人残った妹さえ失ってしまった事も。最後には相手と刺し違えるようにして自分が死んだ事も。ミヤコさんは俺の話を、否定も肯定もせず黙ったまま聞いてくれた。

 

「俺がルビーとエメに過保護になるのも、アイが有名になっていくことに不安を覚えて、最近寝付きが悪いのも、そんな前世の記憶が原因だと思う」

 

「そう、だったのね」

 

 唇を震わせながら、ミヤコさんはただそう一言、溜め息を吐き出すように言った。そしてゆっくりと俺を抱き締めてきた。

 

「ありがとう、よく話してくれたわ。こんな小さな体で、一人で抱えて来たのね……。大丈夫。私もいるし、前世のようには成らない。あなた達の事を守れるように、出来るだけの事はするから。だからもう、一人で抱えないでちょうだい」

 

「……ありがとう」

 

 全てではないとはいえ、誰にも明かせず抱えていたものを吐き出せたからだろうか。ミヤコさんの腕の暖かさを感じながら、俺は微睡みに落ちていった。

 

 

 

 

 

「アイの人気に火が着き、B小町のスケジュールもかなり埋まってきた。最早B小町は地下アイドルではなく、一流の仲間入りを果たしたと言っても過言じゃない。地下から始まり、ここまで本当によく頑張ってきてくれた。だがここで浮かれて気を抜けば、やれスキャンダルだなんだと、あっという間に地下に逆戻り。最悪の場合は空中崩壊、グループ解散なんて事にもなりかねん。各々、今一度気を引き締めるように!」

 

「「「「「はい!」」」」」

 

 斉藤社長はライブ後に私達B小町メンバーを集め、熱弁を振るっていた。B小町の他の面々も、アイの活躍が大きいとはいえ、自分達が大手Gにも肉薄するほどに売れてきたという実感はある。皆真剣な顔つきで社長の話に耳を傾けていた。

 

「スキャンダルも厄介だが、最も危険で厄介なのは何だと思う?」

 

 社長が全員に問い質すようにメンバーを見渡す。

 

「それはファンだ。お前らを推し、ライブや握手会に足繁く通い、サイリウムを振り回しながら声を枯らして声援を送ってくれる、ファン達だ。多い少ないの違いはあっても、この中の誰にだってファンが必ず付いてる。彼ら彼女らは時に心強く声援をくれるが、時には失望や落胆から罵詈雑言も浴びせてくる。そういう存在だ」

 

 ごくり、と誰かが喉をならす。その緊張感に誰もが言葉も発せず黙して聞いていた。ただ一人を除いては。

 

「社長、話が長いよー。もっと手短にしてくんない? みんな疲れてんるんだからさー」

 

 アイはいつものあっけらかんとした態度で社長に話しかけた。私は「また始まった」と呆れた視線を向けつつ、傍観を決め込む。アイを止めたり、逆に肩を持って社長に楯突くメンバーは誰も居ない。いつかの誰かのように即刻アイドル廃業させられる事を恐れているからだ。

 

「おまっ! 言っとくが、お前が一番危なっかしいんだからなっ! 一番抜けてるやつがそんな緊張感無くてどうすんだっての!」

 

 案の定、アイは社長にカミナリを落とされた。もっとも、当のアイは少しも悪びれることなく「テヘッ」と舌を出しておどけているが。あいも変わらず、この天才アイドル様は無礼で、図太くて、無敵だ。

 

「はぁぁ~」

 

 暖簾に腕押し。額に手をやり大きく溜め息を吐く社長の姿に、そんな言葉が脳裏を過る。もちろんアイをあからさまに贔屓している事で、社長に対しても暗い感情を抱いてもいるので、苦労している社長へ僅かばかりの同情と、少しの「ざまぁ」と思うが入り雑じったような感情が胸を充たし、表情を崩さないように苦心する。他のメンバーも似たようなものだろう。

 

「それでだ……スキャンダル対策はもちろん、セキュリティ対策もしっかり取り組んで貰う」

 

「メンドクサイなー」

 

 まただ。またアイが何か出したぞ。ワザとか? もうこれはワザとだよね? 全員の心の声が密かに一致した気がする。

 

「安心しろ、アイ……」

 

「お?」

 

 社長の言葉を聞き、期待に目を輝かせるアイ。しかしこの流れでそんな甘い言葉が続くはずもなく。

 

「お前はこれからマネージャーのミヤコが! みっちりと! 防犯の基礎から叩き込んでくれるからな!」

 

「えぇー? 聞いてないよぉ~」

 

 困り眉で唇を尖らせるアイ。それすら可愛いと思ってしまう辺り、やっぱりアイは誰よりもアイドルで、私もまたそんなアイの信者だな、と思ってしまう。

 

 B小町がここまで売れたのはもちろんアイの存在が大きい。アイがいなければ、B小町は今でも地下界隈でそこそこの人気止まりだったはずだ。そこに感謝がないわけじゃない。それでも割り切れない。アイのバックダンサーような扱いを受ける屈辱を。嫉妬してしまう。昔から美しく、大人になっても幼さを残したアイの容姿に。

 

 この時は思ってもみなかった。

 

 あんなアイの姿を見ることになるなんて。

 

 正直、見たくなかった。

 

 見ていられなかった。

 

 あんなの、アイじゃない。

 

 だってアイは────




あぁ、投稿してしまった。
もう後戻りは出来ない。進むしかない……!
……まだ続き真っ白だけど(汗)
書けたら投稿するスタイルで、不定期に更新していきます。
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