【RTA】ソードアート・オンライン 全ネームド生還Any%   作:エニスマン

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その日は一万の…いや、もっとずっと多くの人生を変える日になった。


小説パート 1

ソードアート・オンラインの正式サービス開始

βテスト以来待ち望んでいたその時がやってきた、帆坂・カリーナ・朋──アルゴは逸る気持ちを抑えることもなく序盤のお気に入りの狩り場を目指していた。

 

(プリークワスプで軽く慣らしてから色々遊んで行こウ…)

 

そんなことを考えながら草原を駆けるアルゴの眼に一人のプレイヤーが映る

前方から走ってくるそのアバターは遠目からもはっきりと分かるほどに大きく、枯草色のフーデッドローブを目深に被った不気味な風体をしていた。

ふと、大柄なアバターがこちらに気づいたのか足をとめた後盾を持つ左手を掲げる

 

「こっちにはアクティブが多い」

「…そうか、ありがとウ!」

 

人は見かけによらないと言うことだろうか、簡潔だが目当てのmobの存在を確信させるに足る言葉に足を止めぬままに礼を返したアルゴは期待を胸に駆けていき──

そして───

 

「ウワアアァァ!!?」

見事に〈ダイアウルフ〉の群れから逃げ回ることとなった。

 

草原に点在する崖とも呼べぬ小さな段差を飛び降りたアルゴの耳に、唐突にソードスキルのサウンドエフェクトとポリゴンが砕ける音が飛び込んでくる。

振り返ると段差の影から立ち上がった先程の大男が段差越しにダイアウルフを仕留めていた

大男は技後硬直が解けるとすぐに盾を構え、自身にターゲットを移した残りのダイアウルフを次々と仕留めていく

同時に攻撃を仕掛けてくる灰色の狼達を棍棒の一振りで巻き込んで吹き飛ばし、盾での防御で隙を作ってはソードスキルで仕留める堅実な立ち回り

アルゴはほんの一瞬見とれていたもののすぐに状況を認識して慌てふためいた、これはMPK一歩手前のバッドマナー行為なのではと

 

「すまなイ!あと助かっタ!」

 

頭上から降り注ぐ(何やってんだこいつ)的な視線が痛い

 

「オレっち犬は苦手なんだヨ……」

「…狼だろう」

「犬っぽい顔してたダロ!あと狼も犬の仲間じゃないカ!!……βのときはこの辺りはワスプとコボルドの湧き場だったのにナ…」

「……製品版での仕様変更はよくあることだ…それにしても元βテスターか、奇遇だな」

 

アルゴはダイアウルフとのチェイスで完全に気勢をそがれてしまい、草原に点在する立木の影に座って休みつつ大柄なアバターと言葉をかわしていた。

(近くで見ると本当にデカいナ…2mかそれ以上…?)

現実よりは背丈を盛ったアバターですら見上げるほどの長身、腰を下ろしても自然と威圧感を感じるような体格に無口さと表情の見えない格好が合わさり少々恐ろしげに見える…が、たぶん悪い人ではないのだろう

 

「そういやまだ名乗ってなかったナ…オレっちはアルゴ、聞いてただろうケドβテスターダ!よろしくナ」

「俺はイスアクだ…アルゴ…βで聞いたことがあるな、”鼠のアルゴ”か…情報屋の」

「アー…そうダヨ」

 

当たり障りのない自己紹介、(初日からフレンドでも作れるかな)などとぼんやりと考えていたところで

 

あの鐘の音が響いた。

 

 

 

自発的ログアウトの無効化、ゲームオーバーと現実での死、ゲームクリアまでアインクラッドから出ることは叶わない……

茅場晶彦を名乗った真紅のアバターが〈はじまりの街〉中央広場に集められた全プレイヤーに向かって放った言葉の数々はあまりにも現実感が無く、しかしログアウトボタンの消えたメニュー画面は現実への帰還を冷酷に阻んでいた

 

演説の最後にストレージに配布された手鏡を見る、そこに映っていたのは見慣れた自分の顔…βから引き継いだアバターの顔ではなく、現実の自分と全く同じ顔だった。

 

息がうまくできない…地面や足からも現実感が抜け落ちたかのような感覚に襲われ、アルゴはその場にへたり込んでしまった

「いや…嘘ダロ…?だってそんな、まさカ…」

現実逃避の言葉だけが虚しくこぼれ落ちる、広場に広がる悲鳴と罵声がただただ鬱陶しい

アルゴが思わずうずくまったまま耳を塞ごうとしたとき

 

大きな手が、その腕を掴んだ。

 

「アルゴ、こっちだ」

 

見上げるほどの巨体に枯草色のフード、先程までとほとんど変わらない風体のイスアクがアルゴの手を取り広場から離れるように歩き出した

 

「ちょっ…!どこニ⁉」

「…あそこでは落ち着かんだろう」

 

数分ほど歩き、裏路地の適当な民家の軒先にアルゴを腰掛けさせたイスアクはそのままフードの中に左手を突っ込んで眉間を押さえたまま動かなくなった

 

「…これから、どうしたらいいんダヨ…!」

「………一旦、落ち着いて考えをまとめられる場所を作ったらどうだ」

 

部屋を取って閉じこもっていろ、ということだろう

アルゴにも当面の間、少なくとも状況の分からない間はそうするしかないとはわかったいた

だが…一人で部屋に閉じこもっていたら二度と立ち上がれなくなるような…孤独と不安に押しつぶされてしまうような予感もあった。

 

「…フレンド登録をするか?…この状況だ、安否確認の意義はある」

「…!いや、だけド……その、悪いが顔も分からない相手とハ…」

 

蜘蛛の糸のような正に望んでいた通りの提案が出される、しかし落ち着きを取り戻しつつあったアルゴの理性の一部がわずかに疑いの念を抱いた

縋るべき藁を自ら手放してしまいかねない一言を絞り出したアルゴにかけられたのは、しかし簡潔な肯定だった

 

「当然だな…これでいいか」

 

イスアクが膝を付き、アルゴの目線に頭を合わせてフードを取り払う

顕になったその中身にアルゴが小さく息を呑んだ

 

目付きの鋭い精悍な顔には左頬から目を通ってこめかみにかけて白く引きつった大きな傷痕があり、眉間に刻まれた深い皺と合わさってイスアクに老け込んだような印象を与えている。そして何より目立っているのが───

 

彼の彩の喪われた左目には、瞼が残っていなかった

 

「見苦しいものを見せた…信用して貰えるか?」

「あ、うん…悪イ、考え無しに踏み込んダ……ってどこにいくんダ?」

「ホルンカだ…またな」

「あっ………」

 

淡々とフレンド登録を済ませると、イスアクはすぐに立ち上がる

路地を駆け出した大きな背中に向かって伸ばされた手が、所在なさげに揺れた。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

どうしてこんなことになったのだろう

隠蔽スキルの甲斐なく数十体の〈リトルネペント〉に囲まれ、迫る蔦をどこか他人事のように眺めながらコペルは考えていた。

 

決まっている。”彼”を裏切り、見殺しにして自分だけ生き残ろうとした報いだ

叩きつけられる蔦の一本がクリティカルを叩き出し、吹き飛ばされたコペルが木に叩きつけられて硬直する

既にHPバーは四割を切り黄色に変色している…つまり、この絶望的な状況も長くは続かないことを残酷に示していた。

 

(あぁ、それでも…)

「死にたくないなぁ…!」

必死に身をよじって蔦を躱し、盾と剣で攻撃を防ぐ

あまりに劣勢、無意味な抵抗だったが…俄に救いがやってきた

 

コペルに群がっていたネペントのうち花付きの一体が吹き飛び、穴の空いた包囲に大きな影が飛び込んでくる

枯草色のフーデッドローブを目深に被った2mを優に超える巨体が、体格に似合わぬ正確な動作で蔦を防ぎながらコペルからネペント達を引きはがす。

 

「退路は開く、回復しろ」

「あ、ああ!助かっ……!」

 

コペルは突如現れたプレイヤーの言葉通りに駆け出そうとして…躊躇した

奇しくも彼が開いた退路は先程までコペルが…そして、キリトと名乗った少年がいた方向だった

戻ればキリトはまだ戦っているかもしれない、あるいは既に……どちらにせよ、先へ進んだならコペルは自らの罪と真っ向から向き合わなければならない。

 

だが、それでも生き延びなければ全て終わりだ

覚悟はすぐに決まった。

 

「ッ…キリト!さっきはすまなかった!!」

 

走りながらポーションを飲み干し、キリトに背後から接近していたネペントを単発水平斬りソードスキル〈ホリゾンタル〉で仕留める

 

「お前!戻って来たのか⁉」

 

コペルの呼びかけに振り返った少年の目には(どの面で)ではなく(どうして)(どうやって)という疑問の念ばかりが浮かんでいる

一方的な裏切りを責める気持ちがコペル自身の心を締め上げるが、それを一旦押し殺して剣を振るう

 

「…俺は君に謝らなきゃならないことがある。だから…」

「…わかってる、絶対に生き残るぞ!」

 

その時、キリトをカバーするように戦闘を再開したコペルを追って大柄なプレイヤーも合流してきた

流石にネペント系と相性の悪い棍棒では限界があったのか、そのHPは六割を下回り後もう少しでHPバーがイエローに変わりそうになっている

 

「ふぅ…手を貸す、だがダメージソースとしてはあまり期待するな」

「助かる!とにかく前の敵だけを排除して走り抜けるぞ!」

 

キリトを先頭に三人は駆け出し、行く手を塞ぐネペントに躍りかかった。

 

 

「はぁ、はぁ…なんとかヘイトは切れたか……」

 

数分の後──

リトルネペントの包囲を振り切った3人はホルンカの外れに辿り着いていた。

 

「…キリト、本当にさっきはすまなかった…!君を殺そうとしておいて、許してもらえるとは思ってない…!

だけど、俺のやったことの重大さに気づいて謝らなければいけないと…

本当に、ごめん……!!」

「…隠蔽(ハイディング)スキルは万能じゃない、視覚以外の感覚を持ってるモンスターには効果が薄いんだよ…MMOはリソースの奪い合いだ、他人を蹴落としても自分を強化するのも生き残って攻略を進めるためには必要かもしれない

…でも、殺すところまで行くのは間違ってる…!攻略を進めるには何より人手がいるし、何もかも見捨てていくのは得策じゃないだろ

……だから…もうこんなことはするなよ」

 

「…ところで、お前を助けたのって…」

「あ、ああ…そこにいる…」

 

一応の和解に至った二人は視線を動かし…黙々とメニュー画面を操作している大男を見た。

 

「…イスアクだ、色々あったようだが当事者間で解決したなら私から言うことはない」

「改めて、さっきは本当にありがとう。貴方は命の恩人だ…ところで、このタイミングでここに来たってことはやっぱり…」

 

「礼はいい、クエストのついでだ…そして予想通り、俺は元βテスターだ」

予想通りの返答、だがキリトは僅かな違和感を感じる

顎に手を当てて少し考え、イスアクに一つの質問を投げかけた。

 

「なあ、アンタ棍棒使いだろ?なんでアニールブレードのクエストを?」

「…一人100コルで教えよう、価値のある情報だ」

「金取んのかよ…でも少し気になるな、案外安いし買うか」

 

二人から金を受け取ったイスアクが語ったのは、クエスト完了によってホルンカに革職人が解放されハイグレードな装備品の作成が可能になるというものだった。

なるほど有益な情報だと二人が納得したところで三人は別れ、イスアクは村の中へと歩いて行った…

 

「…俺、しばらくはソロで鍛えることにするよ…これから自分はどうすべきなのか、考え直す必要がある」

「そうか…頑張れよ、また上では協力できたらいいな」

 

二人も薬を求めていたNPCの少女とその母親にクエスト完了の報告を済ませ、コペルはキリトに別れを告げてアインクラッドの夜の中に消えていった。

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