ビギナーズラック・オンライン   作:ももいっぷ

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まだNPCさえ知らない

1.ビギナーズフォレスト 入口

 

 

 目が覚めると見知らぬ森の中だった。

 景色よりも己の背格好の方が気になったが、シャツにズボンに果物ナイフという質素な情報しか表示されない。

 

 一体ここはどこで何をすればいいのかと、道往く人に声を掛けてみるも皆無視して過ぎ去っていく。困ったものだ。それともインターネットの世界……MMOとはどれも似た感じなのか。

 

 それを確かめる術はMMO初体験となる私には、もちろん無い。

 

「何か困ったことはありませんか?」

 

 不意にそんな声がする。

 私は必死に声の主を探し、道を少し進んだ先に観光ガイドのような格好をした女性を見つけた。

 

「何か困ったことはありませんか?」

 

 須らく他の冒険者に無視され続けてもにこやかに台詞を繰り返すさまに、私はいたく感動した。彼女ならきっと私の疑問に答えてくれるだろう。

 

「すまない。私はめちゃうまチキンという者だが」

 

 いざ自分の名を声に出すと恥ずかしいな。

 ゲームに誘ってくれた友人曰く、名前なんて本名でなければ何でも良いと教わった。それでもウンウン悩んでいたら、好きな食べ物の名でも付ければいい、そんなプレイヤーは沢山いるとも。

 

 だから、めちゃうまチキン。

 

「まずはお金を貯めて船のチケットを買いましょう!」

 

「ありがとう。それで、お金というのはどう貯めればいい?」

 

「何か困ったことはありませんか?」

 

 しかし彼女は繰り返し続けた。まるで壊れた機械のように。

 

「えっと……」

 

「何か困ったことはありませんか? まずはお金を貯めて船のチケットを買いましょう!」

 

 埒が明かない。残念だ。

 よく考えたら最初から彼女は誰の目も見ていない。後に知るのだが、これはNPCと言うらしい。

 

 その場はとりあえず礼をして去る。

 

 ……しかし、お金か。今の私に出来る事と言ったら一つしかないだろう。

 とりあえず服を脱ぐ。

 

「回復薬が欲しけりゃウチに寄ってきな」

 

「これと、これを買い取ってくれ」

 

「ありがとよ。……回復薬が欲しけりゃウチに寄ってきな」

 

 傍にあった小さな店に外せる装備品を全て売って、私は下着姿となった。手にした額は200コイン。

 しかし店の主人も相変わらず似たような台詞を繰り返すだけだった。流行ってるのか? この世界で。

 

 

 

2.旅立ちの港

 

  

 少しして、私は港町に着く。恥ずかしい話だが、左手のひらを前方に掲げると表示されるメニューにヘルプ項目があるのを見落としていた。

 それによると、初心者はまず森を抜け港町へ赴く必要があるのだという。だから来た。

 

 しかしその道は決して容易ではなかった。森には姿こそ可愛らしいが、触れただけで肉体が爆発四散する恐ろしいスライムが多数生息していたのだ。

 

 私以外のプレイヤーは彼らに体当たりされても何度か耐えて反撃していた辺り、防具扱いとなるシャツやズボン、加えてナイフを売り払ったのはマズかったかもしれない。

 

 後悔先に立たず。とりあえず、折角用意した資金で船のチケットを購入。

 しばしの航海後、前方に大きな大陸が見えたかと思うと、あっという間に船は【旅立ちの港】へと入った。

 

「この後はどうすればいい?」

 

 ヘルプに問いかけると、レベルを上げながら先にある緑の都市【スライズ】を目指しましょうとのことだった。

 レベルか……私は、まだ一つも上がっていない。

 

 指示通り旅立ちの港を出ると爽やかな平原に道が続いていた。

 

 よし。まずレベルを上げなくては……。

 試しにそこいらのスライムに殴り掛かる。弾けた。己が。

 

「う……」

 

 目が覚めるとまた【旅立ちの港】だった。さっきまでと違い力が入らない。

 ヘルプを呼び出すと、

 

 

【衰弱:しばらくの間体力自然回復無効】

 

 

 見慣れないアイコンが表示されていた。どうやら短時間の間に死に過ぎて付いたデバフらしい。

 体力が低いままだとこうも動き辛いのか。もちろん回復アイテムなんて持っている訳もなく、コインも装備品も手元に無い私は八方塞がりだった。

 

 仕方ない。あまりこういう事はしたくなかったけど……。

 

「すまない。何かアイテムを恵んでくれないか?」

 

 道行く人々に物を乞う。しかし、基本的に誰も見向きせず。偶に合う目はこちらを睨み付けていた。

 

 そんな折、一際目立つ格好の少女が通り掛かった。

 桃色のローブに魔女を思わせるとんがりハット。手には大きな……錫杖といったか。が握られている。

 

 彼女は最初こそ私に気付いていない様子で、所持品を整理するためかアイテムをいくつか道に棄て始めた。

 その中には液体の入った瓶が置かれている。きっと薬だ。

 

「すまないが、これを貰えるか? 何もかも失って困っていたんだ」

 

「……へっ? あ、どうぞ……」

 

 有難い。

 

「私の名前はめちゃうまチキン。この礼はいつか必ず返す」

 

「め、めちゃうま……?」

 

 無理もない反応だ。逆だったら私も困惑すると思う。

 とりあえず黒い液体の入った瓶――アイテム名【ヴォイドウォーター】を手に取り、それを一気に飲み干す。

 

「……あ! それ、飲んじゃ――」

 

 ん?

 しかし魔女の方の言葉を聞き終える前に、頭がぐわんと揺れた。

 死亡時とはまた違う気の失い方……視界が暗転する。

 

 

 

3.ヴォイド

 

 

 頭痛が収まりゆっくりと目を開けると――そこは港ではなく、薄暗く寂れた町の通り。

 先程の魔女の方はもちろん、他の冒険者の姿も無ければ波の音一つしない。異様な雰囲気に困惑する。

 

 

【実績解除:ラストダンジョン到達!】

 

 

 けたたましいラッパの音と共にそんな文字が表示された。が、何のことかサッパリ分からない……。

 何が起きたのかと必死で調べていると、アイテム使用履歴の項目。確認する。

 

 

【ヴォイドウォーター:飲むとヴォイドへとワープする】

 

 

 なるほど。薬じゃなくて移動用アイテムだったのか……。

 

 とりあえずヘルプを開くとほとんど文字化けしていて読めなかったが、かろうじて『石像に触れよ』との指示が見えた。次はこれに従うとしよう。

 

 そんな訳で町中をくまなく探索してみると、大きな招き猫の石像を発見した。

 これでいいのだろうか?

 とりあえず触ってみる。すると、招き猫が大口を開けて喋りだした。

 

『よく来たにゃ。ここに来た者にはそれぞれの職業にあった強力なスキルを習得させる事が出来る……が、お前は……ふーん』

 

 

【シークレット解放:なぜここに?】

 

【スキル取得:ビギナーズラック(真)】

 

 

 スキル? 私はまだ何の職業にも就いていないのだが、そんなもの貰っていいのだろうか?

 そんな疑問を口にする間も無く――直後に響くけたたましいラッパ音。それに招き猫が光りだしてとっても眩しい。

 思わず目を瞑ると、ふわり、と再度意識を持っていかれる感覚がした。

 

 

『おもしろそうだから、これは餞別にゃ。初心忘れるべからず――さすればこの力は、お前に永遠に富をもたらしてくれるにゃもね』

 

 

 最後に聞こえたのはそんな言葉だった……気がする。

 

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