ビギナーズラック・オンライン   作:ももいっぷ

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天使の誘い方

 

1.ヒンメル/商業通り

 

 

 白くもこもこした兎の様なもの、ちゃっぴー。彼は強かった……。

 

 やはり別大陸だからかエリアにいる魔物のレベルは高く、私一人では苦戦していただろう。

 

 しかしちゃっぴーは襲い来るモンスター【天使キノコ】をちぎっては投げちぎっては投げ、お陰で危なげもなく目的のエリアへと到着し、そして……。

 

「あんたたちのお陰で息子が帰って来たよ! 本当にありがとな! これは心ばかりの礼だ」

 

「あ、ああ」

 

 あっという間に捜索は終了した。武器屋の主人から報酬を受け取り、店を後にする。

 

「何というか、すごい戦闘力だったな。ちゃっぴー……」

 

「えへへ。だから言ったでしょう? ちゃっぴーはつよいんですっ」

 

「チピ」

 

 嬉しそうに話すフィンにどこか得意気なちゃっぴー。二人は本当に仲が良いようだ。

 しかしこの謎生物への興味は深まるばかり。

 

「フィンは一体、いつからちゃっぴーと一緒にいるんだ?」

 

「それはもちろん……えっと? あれ?」

 

 フィンは首を傾げる。

 

「どうしたのだ?」

 

「なんだか頭がぼんやりして……おもいだそうとすると霧が掛かったようになるんです」

 

 そう言ってうんうんと唸る。大丈夫か? 少し心配にになったが……あちこち走り回った影響で疲れているのかもしれない。

 

 あまり無理をさせてもいけないし、今日は一度休憩を取ることにしようか。

 

「どうだろう。また適当なカフェにでも――」

 

 言い掛けて止まる。隣を歩いているはずのフィンがおらず、振り返ると……後方で立ち止まり何かを眺めている彼女の姿が目に付いた。

 

「……フィン?」

 

「――あっ! は、はいっ」

 

 呼び掛けると我に返ったようにわたわたとする。何を見ていたのだろう? 私も同じ位置まで下がる。

 

「これは……」

 

 それは服屋の展示だった。

 

 この世界にも身を飾るだけの服はある。それは防御力としては心もとないが、防具の上に特殊なアイテムを使う事で『重ね着』として扱うことが出来るのだ。

 

「ち、ちがうんですっ! ちょっと目にはいっただけでっ」

 

 フィンが眺めていたのはそんな服屋にてマネキンが着用している様々な衣装。

 少しの間だったがそれを見ていたフィンの目がきらきらと輝いているのを私は見逃さなかった。

 

「入ってみるか?」

 

「いえ! そんなつもりじゃ、なくて……」

 

 彼女はいつものように遠慮する。何となく、何を考えているか分かるが……私にも考えがある。

 

「……今日はフィンの案内でたくさんのクエストをこなせた。お陰で私には山ほど報酬が入り、おいしい思いをさせてもらったものだ」

 

「!」

 

「だからこれはお返し――いや、フィンの正当な権利だ。どうだろう?」

 

 心優しき彼女は私に何か与えられる事をとても遠慮してしまうだろう。だから建前を立てるのだ。

 

 もっとも、今日これだけの依頼をこなせたのは本当に彼女のお陰だ。元々は薬の為でも、その過程で得られた報酬もきちんとある。

 

「うー……」

 

 フィンはそれでも遠慮がちにもじもじしていたが、ついに観念する。

 

「そ、それなら……ちょっとみるだけ……」

 

 

 

2.ヒンメル/服屋【天使のすみか】

 

 

「わぁ……!」

 

 服屋の中には外にあるよりよっぽど多くの商品が展示されている。その光景に感動したのかフィンは思わず感嘆の声を漏らした。

 

 ふむ。やはり女の子は服が好きなんだな。私は自身の服装について拘りは無いが。

 

「フィンはどんなものが好きなのだ?」

 

「ええと、これとか、これも……あとこういうのも、いいですよね」

 

 言いながら彼女が手に取るのは……白いワンピースやパーカー、スウェットにタイトスカート。色々な商品に目移りしているようだ。

 

 どれも似合いそうで困ってしまうな。

 

「せっかくだし色々試着してみようじゃないか」

 

「え!? い、いいんですか?」

 

「もちろんだ。皆そうしている」

 

 それからフィンには様々な服を試着させる。

 

 小柄な彼女には何でも似合っているが私は特にワンピース姿が良いと感じた。それを伝えると「フィンもです」と嬉しそうに笑う。

 

 それじゃあ会計を……となるともちろんフィンが引き留めてきた。

 

「いろいろ見れただけで満足ですから! これ以上おせわになれません……」

 

「ならこうしよう」

 

 もちろんこれも予測できている。私は財布からいくらかの金額を取り出し、フィンに渡した。

 

「え?」

 

「今日クエストで稼げた資金に、案内に対する私の謝礼。これは正当な報酬だ」

 

「でも」

 

「私たちはもう仲間だ。同じパーティメンバーなら報酬を分け合う……そうだろう? だから気にしないでほしい」

 

「仲間……」

 

 そう言うとフィンは「……ありがとうございます!」そう言って資金を受け取り、会計に向かった。

 

 作戦は成功だ。もっとも、当たり前のことをしたまでなのだが。

 

「さて……」

 

 実を言うと私も買い物をするつもりなのだ。といっても先程言ったように拘りが無いから適当なシャツとかで良いのだが。

 

 なぜならこの【雲の鎧】は一見すると不思議装備過ぎる。ここに来るずっと前から、すれ違う通行人に二度見され続けてきたのだ。

 

 さすがの私もこれには羞恥心を覚えた……。

 

 

「おまたせしましたっ」

 

 ……やがて会計を終え戻って来たフィンと共に、装い新たに私たちは店を出た。辺りはすっかり夕焼けに染まっている。

 

 そろそろ合流してもいい頃合いだろう。チャットで二人を呼びつけ、私たちも待ち合わせ場所まで並んで向かう。

 

「わたし、きょうのことずっと忘れません……ほんとうに、ありがとうございます」

 

 フィンはずっと隣でにこにことしていた。よっぽど嬉しかったのだろう……なにせスライズでの彼女は少し外に出ただけで注意されていたほどだ。こういったお店すら滅多に行けなかったに違いない。

 

 

 ――でも、それならなぜここまでヒンメルの地理に詳しかったのだ?

 

 

 私のうっすらとした疑問は夕陽が沈むと共に暗闇へと呑み込まれていくのだった……。

 

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