ビギナーズラック・オンライン   作:ももいっぷ

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彼女の行方

 

1.スライズ

 

 

 私たちは帰って来た。今朝、謎を残して消えてしまったフィンを探しに。

 

 彼女がオリシア大陸にいない確証はあった。乗船場の受付員は彼女が深夜の便で発ったことを教えてくれたのだ。

 

「フィン……」

 

 残された手紙にはこれまでの感謝と、それ以上に謝罪の言葉が書かれていた。

 何が何だか分からない。どうして急に消えてしまったのか、謝るのか、薬の材料を持ち出したのか……。

 

「きっと考えすぎです。初めて会ったところにいけば、しっかりといるですよ」

 

 スイちゃんの言葉。しかしそれは……叶わなかった。そもそも私が最初にあったのは彼女の兄だが、その姿が見当たらない。もちろん、フィン自身の姿も。

 

「彼女は薬の材料を持ち出した。もしかしたら病状が悪化して、急いで調合に向かったのかもしれない……」

 

「可能性はあります。スライズには腕のいい薬師がいると聞きましたから」

 

 私たちは急ぎ薬屋に駆け込むも――『閉店中』の文字。

 閉店? 今まで数多く街を訪れてきたが、お店が閉まっていたことは(深夜帯でさえ)ただの一度もない。

 

 しかし他にヒントも無い。私たちは長い間共に過ごしていたように感じたが、その実彼女の事を何も知らないままだった。

 

 

 そうやって立ち往生してると、通りすがりの冒険者が私たちを見て立ち止まった。

 

「そこ? なんかもう、ずっとやってないみたいだよ」

 

「ずっととは、どれくらいなのだ?」

 

「半年くらいかなあ。以前は腕の良い薬師の女の子が()()()いたんだけどね……」

 

 女の子……私は恐る恐る訪ねた。「その子、名前は?」。冒険者は少し悩んで、答えられなかった。

 いちNPCの名前をただの『薬師』以外で記録している冒険者は少ない。けれども。

 

「彼女は重い病気で、前はよく薬の素材集めクエストを依頼してきたよ。報酬がよくてね、それは人気だったのさ」

 

「……『前』は?」

 

「ああ、昔の話なんだ。あれだけ他のプレイヤーから薬を貰えたから、無事に完治したんだって。

 不思議だよなあ、NPCも病気とか治せるなんてさ」

 

「その薬とはもしかして――」

 

 私はこれまでに集めた薬の材料の名を明かす。

 

「ああ、そうだよ。君たち初心者じゃないの? よく知ってるね、こんな昔のクエストのこと。

 でも、同じころだったよなあ。彼女が【狼盗賊団】(ハンター)に絡まれ始めたのも……」

 

 その名前を聞いた途端、ミカンさんの表情が難しいものになる。

 

「【狼盗賊団】、ですか」

 

「何か知っているのか?」

 

「主に初心者を脅してPKを通し、そのアイテムを奪い去る窃盗ギルドです」

 

 私は絶句した。脅して奪う行為なんて……そんな勝手が許されていいのだろうか。

 そして、そんな相手に絡まれた薬師の少女。まだそれが決まったわけではないが、もし、フィンが関わっているとしたら。

 

「とにかく、うごくですね」

 

 私たちは手分けして情報を集める事にした。フィンやその兄の行方はもちろん、薬師の少女のこと……。

 調べていくうちに、ある一つの事実に辿り着く。

 

 

 私たちと同じ初心者のプレイヤーは同じようにフィンの兄を名乗る人物から依頼を受け、同じ様に材料を揃えたあとでアイテムを失っていたのだ。

 

 私たちと違うのは、オリシア大陸にてフィンらしき姿を見たものの行動を共にしたことは無いということ。

 

 そして、彼女の兄……を名乗る者の姿が一切見当たらなくなってしまったことだ。

 

 私はスイちゃんと合流してお互いの状況を確認し合う。

 

「今の状況は普通じゃない。少なくとも、兄がいないのはおかしいのだ……」

 

「もしあの子の病気が既によくなっているとして、どうして薬をあつめていた、です?」

 

「薬……」

 

 まだその話を信じたわけじゃない。しかし、仮定の話としてそうするならば。

 

 他に病気の子を助けたかった? いや、NPCに該当する人物は見当たらない。じゃあ、薬を売ってお金にしていた? それも、資金をまともに持っていなかったフィンには当てはまらない。

 

 

 ――狼盗賊団。

 

 

 頭を過ぎった嫌な想像を首を振って消す。フィンは……そんなことをすると思えない。

 でも、さっきの冒険者の話からするに関係無いとも言い切れない。そんなことを考える自分が嫌だった。

 

「チキンさん、スイさん!」

 

 息を切らして三人目の仲間、ミカンさんが走って来た。

 彼女が手にしているのは腕輪……スカイブルーの腕輪だ。嵌めているものと、もう一つ。

 

「町から出た林道の辺りにこれが落ちていたんです。それに、幼い子を見たって話も……!」

 

「っ!」

 

 話を最後まで聞く前に私は駆け出す。

 頭に残るわずかな可能性を必死に否定しながら、冷たい剣の感触を背中に感じた。

 

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