強殖装甲が斬る!   作:Yunnan

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第3話

タツミside

 「次はあの店に行くわよ!!」

 「お待ちくださいお嬢様!!」

 昨夜、アリアさんて素直な女の子に拾われた俺とイブキは、何か手伝いが出来ないかって聞くと、早々にアリアさんの護衛兼買い物に付添させられた。ってか尋常じゃない買い物袋だな! アレ全部持ち帰りかよ!?

 

 「次は俺たちが留守番のようだな……」

 俺の隣には護衛隊長のガウリさんがいる。イブキは今、他の従者と一緒にアリアさんの買い物に付き合っている。本人はスゲー嫌そうな表情を浮かべてたけど。

 

 「お嬢様の買い物って凄いんですね……もうなんか量が面白くなってますよ」

 「お嬢様に限らず女ってのは皆あんな感じだ」

 「そうスか? 俺の知り合いは服はすぐ選ぶんですけど……」

 村が辺境ってこともあるかも知れないけど、やっぱ帝都は何もかも違うな。

 

 「それより上を見てみろ……あれが帝都の中心。宮殿だ」

 「でっけぇ!! ……あれが国を動かす皇帝様のいる所ですか!?」 

 俺が聞き返すと、ガウリさんは周囲を見た後小声で話してきた。

 

 「少し違う……皇帝はいるが今は子供だ(・・・・・)。その皇帝を陰で動かす大臣こそがこの国を腐らせる元凶だ」

 なっ!!

 

 「大臣がッ!?」 

 「変な声を出すな。訊かれれば打ち首だ」

 俺の口を手で押さえ、周囲に訊かれていないか素早く伺う。幸いなことに誰にも訊かれてはいないようだ。

 

 「……じゃあ、俺の村が重税で苦しんでいるのもっ」

 「帝都の常識だ(・・・・・・)

 常識……。帝都に住んでる住人はこのこと知ってるっていうのかよ。

 

 「他にもあんな連中がいるぞ」

 ガウリさんが壁を指差すと、そこに手配書が何枚か貼られていた。

 

 「……ナイトレイド?」

 「帝都を震え上がらせている殺し屋集団だ。名前の通り標的に夜襲を仕掛けてきやがる……主に帝都の重役達や富裕層の人間が狙われている。一応覚悟はしておけよ」

 マジかよ。そんな危なっかしい奴らが帝都にいんのかよ。だからアリアさんや身分の偉い人たちには護衛が付き添っているんだな……?? ふと俺は一枚の手配書に目が留まる。この一枚手の配書、何で赤い×が。何か不気味な仮面つけてるし。

 

 「ガウリさん。この赤い×がついてる手配書は何ですか?」

 「ああ、こいつは鬼神だ」

 「鬼神?」

 ナイトレイドと同じ殺し屋なのか?

 

 「帝都史上最凶最悪と名が付いている恐ろしい暗殺者だ。一人で数多くの戦場を蹂躙し、敵は一人残らず皆殺しなど危険な噂が絶えない程だ……数年前、皇帝がそいつに莫大な賞金をかけ数多くの傭兵や民族を雇い討伐に向かったが、一夜あけると死体が帝都入り口に遺棄されていたんだ。数年程前までは帝都でも暗躍し殺人鬼とまで言われていた……正直ナイドレイドより危険な奴だが、3年前突如、行方をくらました」

 「どういうことですか?」

 「分からん。忽然と姿が消えたんだ。一部の奴らは何者かに殺された、帝都から消え去ったなどと言ってはいるが、本当のところは誰も事実を知らないんだ……そしてこれは噂なんだが、再び鬼神が戻ってきたと一部の人に広がっているらしい」

 「えぇ!? き、危険じゃないですか!!」

 「あぁ。だから雇い主も護衛の人数を増やしたのだろう。それにッ」

 「よう。怖い顔して何話してんだ?」

 ガウリさんと話していると、イブキ達が戻ってきたけど、大の男数人で持ち上げられそうな大きな荷物をイブキは片手で持っていた。

 

 「何やってんだよ!! 護衛が目立ったら駄目だろ!」

 「仕方ないだろ。こいつらがフラフラして危なっかしいもんだから代わりに持ってきたんだ」

 親指で自身の後ろを指さす。そこにはヘロヘロになりながらも荷物を運ぶ護衛の人。疲労感が顔から溢れている。

 

 「んで、何の話してたんだ?」

 馬車の近くに荷物を置き、訊いてくる。

 

 「丁度、帝都の状況と殺し屋のナイトレイド、それに鬼神について話してたんだ」

 「鬼神……あぁ。あの最凶最悪の殺人鬼って呼ばれてる奴? たしか3年前に帝都から消えたんだろう?」

 「でも、噂じゃ戻ってきたって話もあるらしぃぜ?」

 「マジか!! そりゃ危ねぇな。夜に出歩くのは危険すぎる」

 「ほら、次に行くわよ!!」

 途中、アリアさんが割って入ってきた。って、まだ買うのかよ!?

 俺は改めて帝都に住んでいる富裕そうな人たちの考えが違うって感じた瞬間だった。

 

 

 

 

 

イブキside

 昨夜は標的の家に泊まらせてもらった俺は、アリアの馬車の近くで待機している。視線の先には物を物色してアホじみた量を買い込んでくるアリアがいる。付き添いの従者もタツミを顔に疲労の色が滲み出ている。

 そういや手配書にはガイバーの姿じゃなく、蘭陵王のお面の方が描かれている。一階だけ素顔がバレた時、その人間を暗示(・・)で操作し蘭陵王の方が鬼神だと認識させ、それ以降手配書には蘭陵王が描かれている。まぁ俺の素顔がバレてなきゃどっちでも良いんだけど。

 

 「よくまぁ、あれだけ買い物するよまったく」

 隣にいる従者は疲れたのか立ったまま寝ちまってるし、超絶ヒマだ。

 ボケっと空を眺めていると……。

 

 「イブキ」

 声をかけられた。気配からして馬車の反対か……それにこの気配はアイツか。

 

 「何だケン」

 「情報だ。今夜、ナイトレイドがアリアを標的に今夜襲撃に来るらしい。十分気をつけろ……まぁ、言ったところで無駄か。じゃぁな」

 「情報提供ご苦労様。後で何か見繕っていくよ」

 「フン。期待しているぞ」

 それだけ言うと、一瞬で遠ざかって行った。

 あの男は情報屋のケン。主に帝都の裏やスラム、表で情報活動しているやつだ。コイツの情報は凄まじいほど正確で、俺が欲しい情報を難なく手に入れてくる凄腕だ。

 俺が帝都で暗殺してた時はケンの情報がかなり役立ってくれた。ちょっと斜に構えて掴み難い奴だが、根っから悪い奴じゃない。

 それにしてもナイトレイドが来るのか……調べたところ中々のくせ者の集まりらしい。元帝都暗殺者に帝国軍人に、将軍。あの金髪女以外にも複数。しかも全員が帝具持ち。おっかなさそうだけど、俺からしてみれば子供同然。

 

 「今夜はちょっと、遊んでみるか」

 果たしてどれほどの腕をお持ちなのか、楽しみだ。

 

 

 

 

 

 深夜。屋敷の通路の影に隠れある人物を待つ。無論、素顔はバレないよう蘭陵王のお面を装着している。タツミは既に就寝。だが護衛の奴らは少し殺気立っている。

 暇な間、俺は今夜襲撃に来るナイトレイドに関しての情報を確認する。

 ナイトレイド。帝都の富裕層を襲撃する殺し屋集団……だがこれは一般市民による噂。正体は反帝都勢力、革命軍の暗殺部隊。

 メンバーは、中々のくせ者の集まりだな……っと、来たか。

 顔を少し出すと、日記を手に持ちながら笑顔でどこかに行こうとするアリアの母親。そして気配を消しながらゆっくりと背後から迫る一人のチャイナ服を着た女。

 あれはシェーレか。帝具は万物両断エクスタス。この世のあらゆるもの全て切り裂く鋏型帝具。村雨に続き凶悪な帝具だな。

 

 「さぁて、今日も日記をつけようかしら……ふふっ、やめられないわね。この趣味は」

 平然と言い切るなサド女が。ま、それも今夜で終わりだがな。

 刹那、シェーレが尋常じゃない速さで母親を上下半分に切り裂いた。血飛沫が飛び散り、下半身が倒れ上半身がカーペットの上に落ちる。

 

 「え…………?」

 一瞬呆けた顔をしていたが、すぐに目から光が消える。

 鋏に付着した血を払う。

 

 「すいません」

 頭を下げ謝罪し屋敷を出ようとする。俺には気づかないのか。まだまだ未熟だな。

 

 「まだ一人残ってるぜ?」

 「!?」

 俺が声を出すとシャーレは驚愕の表情を浮かべた後、エクスタスを構え周囲を見渡す。

 

 「……誰ですか? 出てきてください」

 ここで素直に出ていく奴はバカ丸出しだが、出ていくか。ゆっくり姿を現すと、シャーレは再び驚愕した。

 

 「!! 鬼神!」

 「こんばんわ、ナイトレイドのシェーレ。あんなにも標的をあっさり斬り殺すなんて、さすがプロの殺し屋だ」

 パチパチパチと拍手を送るが何一つ動きを見せない。それより俺の動きにひどく警戒している。

 

 「……鬼神であるあなたもこの屋敷の人に雇われたのですか?」

 「それは誤解だ。俺は客人としてこの屋敷に泊まらせてもらっているだけだ。ただ強いて言えば……少し君たちと遊びたいと思っていてね」

 「!!」

 俺が活歩で距離を詰め、背後から声をかけると振り向きざまにエクスタスを振るってきた。             

 万物両断エクスタスはこの世の物全てを切断できるため、かなりの鉱石やオリハルコンが使われている。よって高い防御力も得ている。その為、刃でない部分で相手を殴打することもできる。当たれば一撃で骨を砕かれるだろう。だが……。

 ガシィ!!

 俺は難なく受け止める。

 

 「ふむ……細腕なのに中々の重い一撃だな。さすがに防がないと俺もヤバかったな」

 「エクスタスを素手で! クッ!」

 瞬時に離れる判断は、殺し屋としてかもしくは本能的に距離を取ったか。だが……。

 

 「遅い」

 「ッ!?」

 すばやく背後に回り手刀を食らわし意識を奪う。気絶したシェーレは糸が切れた人形のように倒れこむ。

 俺は夫人の血をエクスタスにつけ腕を切り落とし、その二つを適当な布に包む。これなら一応大丈夫かな? お。漸くタツミが起きたか。急いで部屋を、屋敷を出る。恐らくアリアの護衛に向かったんだろうな。

 俺は視線を窓に向ける。そこには糸の上に立っている数人の男女。ナイトレイドがいた。庭にはクソガキ……アリアが護衛人に引っ張られ逃走しようとする。

 それをみたナイトレイドの行動は早かった。

 アカメと鎧男、ブラートが地面に降り立ちレオーネが屋敷に侵入。銃を持った髪がピンク色のマインと、緑髪でコートを着て糸を使っているラバックが周囲を警戒している。

 そして一瞬のうちに、護衛が全滅。

 

 「あれがナイトレイドか。見た感じ強そうには見えないがな……少し手合せにいくか」

 ガシャアアァァン!!

 窓を体当たりでぶち破り、庭に下り立つとメンバー全員が驚愕する。

 

 「き、鬼神!?」

 「馬鹿な!? 何故、行方不明だった鬼神がこの屋敷にいる!!」

 「どうすんだよ! 鬼神がこの屋敷にいるなんて想定外だぜ! 俺たちであの鬼神を相手に出来んのかよ!?」

 「それはアンタが決めるんじゃなくて、アカメが決めることよ!! どうするアカメ?」

 様々な反応を見せるが、その中でも冷静なアカメがみんなに言い放つ。

 

 「私たちの標的はこの屋敷の親子及び護衛人だ。無益な殺しは好まない……だが。もし邪魔立てすれば、鬼神であろうと葬る」

 へぇ。俺を葬るか。

 

 「冗談にしては笑えないな……君たち格下殺し屋(・・・・・)が何を言っているんだか。嘘もほどほどにな」

 俺があえて挑発すると全員が敵意を募らせたが、マインだけ激高した。

 

 「格下ですって!? あたしたちの腕を知らないくせに偉そうなこと言わないで!」

 「ならそこから俺の脳天に弾を撃ち込んでみろ。ま、クソガキの腕に当たるほど馬鹿じゃないんでね」

 「ッ! 調子に乗らないでよ!!」

 激高したマインはパンプキンの銃口を俺に向け連射してくる。

 浪漫砲台パンプキン。所持者の精神をエネルギーへと衝撃波に変換し打ち出す銃型帝具。所持者がピンチに陥れば陥るほどその火力は上がる。しかも戦況に合わせ形状も変化する。今はそれをマシンガンのように放ってくる。

 しかし、全くの無意味。

 ギギギギギギギギギギギギギギギィン!!

 飛んでくる弾を俺は懐に入れていた短刀で全て斬り落とす。軌道さえ読めてみれば捌き又は躱すのは簡単だ。

 

 「嘘!? 全部捌かれたの!!」

 ずいぶんと驚いているな。達人クラスなら誰だってこんな簡単な事誰だって出来るぞ……?

 ふと俺は自分の体に違和感が生じた。いや、正確には身動きが取れない。

 

 「動くんじゃねぇよ。少しでも動けばお前の体がバラバラになるぜ?」

 そう言ってきたのはラバックだ。腕を少し動かすと俺の体が締めつけられる。俺の体に糸を巻きつけたのか。

 千変万化クローステール。たしか東海の雲に住んでいる超級危険種の体毛から作られてる糸だっけな。その強靭さ故切断や防御、他に足場やセンサーなど文字通り千変万化のように使い道がある。かなりキツク締め上がられているが、問題はない。

 

 「フッ」

 俺は金剛(・・)で筋肉を凝縮させ力を籠め糸を引っ張ると、ブチブチブチと音を立てて切れた。案外脆いもんだね。

 

 「あ、ありえねぇ!! 俺の糸を、素手で引き千切るなんて……!?」

 「いちいち自分の技が破られたからって驚く暇があんのかたわけ者。さっさと攻撃してきたらどうなんだ?」

 俺があえて挑発してみるが、全員引っかからなかった。と、ここで鎧男とレオーネの姿が見当たらなかった。

 俺は周囲を探すフリをして……背後から攻撃してくる拳と槍を振り返り受け止める。

 

 「「!!」」

 「残念だけど、俺に奇襲は通じない」

 攻撃してきたのは獣耳と尻尾を生やし獣化したレオーネと、消していた姿を現したブラートだ。

 百獣王化ライオネル。使用者を獣と化し身体能力を飛躍的に向上させる他、五感も強化される。罠を切り抜けたり危機感能力が高くなる。

 ブラートの帝具は悪鬼纏身インクルシオ。凶暴な超級危険種タイラントを素材として作られているため、下手に使用すれば死に至るほど負荷がかかるが様々な環境に適応できる汎用性と鉄壁の防御力を誇る。

 しかし……この二つの帝具は他の帝具と違い使用すれば使用者の肉体は浸食される危険性がある。

 

 「帝具で身体能力を向上させてるようだけど、その程度の腕じゃ俺には勝てないぜ?」

 二人を他のメンバーにぶん投げてみるが、空中で身をひねり着地した。

 う~ん。何か拍子抜けだな……なら、これで釣ってみるか。

 

 「お前ら、これなんだと思う?」

 俺はエクスタスを奴らの近くに投げる。怪訝な顔を浮かべるメンバーだが、布を解いた瞬間、息を呑んだ。

 

 「これは、シェーレのエクスタス!!」

 「それにこの腕……血が、あんた。まさか」

 「あんたらの想像の通りさ。そのシェーレって言う奴は、俺が殺した(・・・)……一瞬の出来事だから、何があったのかさえ分からず死んださ」

 ま。嘘だけどね。

 そう答えた瞬間、ナイトレイドの殺気が爆発的に上がった。

 

 「葬る!!」

 まずアカメが高速で突っ込んできた。その後をブラートとレオーネ。ラバックは手を動かしている。恐らく周囲に糸の結界でも作るのだろうな。

 その時、マインが持ってるパンプキンの銃口に光が集積している。

 

 「許さない! よくも、よくもシェーレを!!」

 引き金を引くと、火力が上がりビームとなって俺に迫る。半歩動き避けると、3人の怒濤の攻撃がくる。特に警戒すべきはアカメが持つ村雨だな。

 一撃必殺村雨。斬られると傷口から呪毒が入り、即座に死亡。ほんの掠り傷ですら呪毒が入る。ナイトレイドの持つ帝具の中で一番危険な代物だ。

 アカメの素早い剣戟に、レオーネとブラートの嵐のような拳と蹴りが繰り出される。どれも一発で命を絶てる威力を秘めているが……所詮、あたらなければ意味がない。だって嫌って程殺気が伝わってくるから攻撃が分かっちゃうんだもんね。そんな攻撃に当たりたいと思う? 否。あり得ない。

 俺はその攻撃を全てギリギリでかわし続ける。

 

 「どうした? 俺には掠りもしていないぞ。所詮3流風情の殺し屋の腕はこの程度か?」

 横なぎとストレートを、体を仰け反らせ躱しそのまま両手を地面に手を付け、カポエイラの要領で蹴り飛ばす。

 

 「クッ!」

 苦悶の声を出すアカメ。肩で息をし、その表情からは焦りが見えた。凄腕とは言えまだ10代だ。やはり経験がものを言うな。

 

 「このままじゃジリ貧だな……アカメ。ここは俺たちが請け負うから、お前は先に標的を殺れ」

 「そうだねぇ。ここはアタシ達に任せてさ、任務完了しちゃおうよ。それにさっきマインが放った攻撃が被害を出したらしくてね。周りがちょっと騒がしくなちゃってさ。遠くの方で警備隊の声がするんだ。今は標的を早く倒して、さっさと引き上げよう。アイツはあたしたちとは格が違う」

 槍の切っ先を俺に向けながら言うブラートに、レオーネが拳を構えながら続く。

 

 「ブラート。レオーネ……すまない。すぐに標的を葬り戻ってくる」

 二人の言葉にアカメはそう言い、アリアが逃げたほうへ向かおうとしたが。

 

 「アッハハハハ! 見てよアレ! あの殺し屋ナイトレイドが、たった一人に押されてるの! 最高じゃない!!」

 「お嬢様! あまり私から離れないでください」

 「あ、アリアさん! 危険だから下がって……って誰だアイツ?」

 向こうのほうからノコノコとやってきやがった。タツミと残った護衛も一緒に。こりゃ好都合だ。

 

 「アリア! 葬る!」

 アカメが標的に素早く近づく。

 

 「ヒッ!」

 「させぬ!」

 一人の護衛がアカメと対峙するが。

 ザシュッ! 

 横なぎ一閃で半分にされる。それを見たアリアが腰を抜かし、アカメが眼前に立ち刀を振りかぶり斬ろうとするが。

 

 「やめろ!」

 何も知らないタツミがアリアを守るようにたち剣を振るう。当然刃は当たりはしないが、アカメは距離をとる。

 

 「そこをどけ。お前は標的ではない」

 「ふざけんな! お前ら殺し屋は、大人だけじゃなくこんな小さい子でも殺すのかよ!?」

 「うん」

 「うん!? 軽く答えんな!! お前ら金目当てかなんかだろ?!この娘は見逃してくれよ! 戦場でもないのに!! 罪もない女の子を殺す気か(・・・・・・・・・・・・)!?」 

 冷静なアカメに対し、タツミは声を荒げる。そのまっすぐな性格は嫌いじゃないが、お前はまだ帝都の真実を知らねぇからそういうことが言える。

 仕方ねぇなまったく。

 俺がタツミに近づこうとした時。

 バン! 

 銃声が響き俺の眼前を通り過ぎる。

 

 「あたし達を無視しないでよね。アカメが標的を始末するまでアンタの相手はあたしたちよ。それに!」

 「仲間を殺されたからか敵討ちってわけか? 早とちりの奴だ。俺はお前らの仲間は殺していないぜ」

 「嘘言わないでよ!! アンタが持ってきたエクスタスにh「みなさ~ん! 遅れてすみませ~ん!!」ってシェーレ!?」

 屋敷のほうから走ってくるシェーレにメンバーは驚愕の表情を浮かべる。

 

 「ハァ、ハァ、ハァ。ようやく追いつきました」

 「ちょっとシェーレ! あんた大丈夫なの!? 腕はある!?」

 「はい? 腕はありますよマイン。ケガもしていません」

 「じゃ、じゃぁあの腕はっ」

 「あの腕はシェーレが殺した夫人の腕さ。お前らを少しばかりからかってやろうと思って斬り落としたのさ。それと……おいタツミ。アカメと殺り合うな。お前じゃ勝てねぇよ」

 俺は蘭稜王のお面を外し素顔をさらけ出す。

 

 「お前なんで俺の名前……ってイブキ!? ……まさかお前がっ!!」

 「そ! 俺が帝都で恐れられている最凶最悪な鬼神だよ!!」

 「あ――――! あんた昼間、少年と一緒にいた奴じゃん!!」

 レオーネが俺を指差し大声をあげる。

 

 「ちょっとレオーネ! 本当なの!?」

 「ホントだって! あたし昨日の昼間、あの少年とイブキって奴が地方からきた田舎者かなと思って接触したもん!」

 「まさかかの鬼神がこんな青年だとは……思いもよらなかった」

 「鬼神と殺りあった奴らは全員皆殺しにされたとか聞いた覚えがあったけど」

 「ん~……でも、私は殺されませんでしたよ? どうしてでしょう」

 「俺は無益な殺生はしないさ。お前らを殺す理由がねぇよ」

 そこまで言ったところで俺はアリアに近づき。

 

 「ね、ねぇ! 私を助けて!! お金ならいっぱいあげるから、だからっ!!」

 「……フン」

 ボキィ! 

 縋りつこうとしてくるアリアの足を俺は蹴り折る。俺に触れるなクズ外道が。

 

 「ギャアァァァ!? あ、足が、アタシの足がぁぁ!!」

 「何してんだよイブキ!! 何でアリアさんを攻撃するんだよ!?」

 俺の服を掴み抗議してくるタツミ。ほんっと、若いよなぁ。

 

 「なぁタツミ。本当にこのクソガキが可哀そうだと思うか?」

 「当たり前だろう!? アリアさんは殺し屋に殺される当てなんてないし、なにより俺たち助けられたじゃねぇか!!」

 「そうだな。こいつ等がもう少し来るのが遅れてたら、睡眠薬入りの食事で眠らせ、(・・・・・・・・・・・・・)拷問されるところだったけどな(・・・・・・・・・・・・・・)

 「!!」

 睡眠薬と言う言葉に僅かに動揺するアリア。俺が気づかないとでも思ったか。

 

 「何……言ってんだよ」

 俺の言ったことが信じられないのか、タツミは少しの間唖然としていた。俺は「着いてこい」と言いタツミを肩に担ぎアリアの腕を掴み引きずりながら林の向こう側へ向かう。

 当然、後ろからはナイトレイドの連中がついてくる。

 

 

 

 

 

 林を抜けると、そこには一つの倉庫があった。近づくと、入り口の隙間から微々たる血の匂いが漂ってくる。鼻の良い奴じゃなきゃ到底わからないほどだな。

 入り口前で俺はタツミを降ろし、アリアを放る。

 

 「……この倉庫になにがあるんだよ?」

 「タツミ。お前はそのクソガキを、罪のない女の子を殺すなと言った……だが。コレを見ても、まだそんなことが言えるか」

 ドガアァン! 

 鉄格子つきの扉を勢いよく蹴り飛ばすと、そこには想像絶する光景が広がっていた。

 

 「よく見とけタツミ。これが、帝都の真実とも呼べる闇の部分だ(・・・・・・・・・・・・・・・)

 首のない死体。臓物を引き摺り出された男。片胸を削ぎ落とされた女。薬品漬けにされた少女。壁に飾られた四肢。苦しげに唸る傷だらけの人々。

 まさに醜悪と言えるものだ。

 

 「何……だよ。何なんだよコレは!?」

 余りの光景にタツミは声を失う。その光景から目を離さず動けずにいる。

 

 「地方から来た身元不明の者達を甘い言葉で誘い込み、己の趣味である拷問にかけて死ぬまで弄ぶ……それがこの家の人間の本性だ」

 背後から近づいてきたレオーネが、タツミにこの家の人間のやった事を話す。

 

 「……サヨ?」

 そんな中、タツミが覚束ない足取りで縄で天井に吊らされている一人の少女に近づいていく。よく見れば全身傷だらけで、右足は大腿部から斬り落とされている。

 

 「サヨ? ……サヨ!」

 「無理だタツミ。彼女は既に死んでいる」

 名を呼ぶが少女は言葉を発しなかった。サヨと呼ばれる少女は既に死んでいた。

 

 「おっと。逃げようってのは虫が良すぎだぜ、嬢ちゃん」

 そういうレオーネは、片足で逃げようとするアリアの首根っこを掴んでいた。往生際が悪い。

 

 「この家の人間がやったんだよな?」

 「あぁ。正確には母親と娘だ。父親と護衛人はそれを知りながらも黙視していたから同罪だ」

 やはり……所詮クズはクズか。

 

 「う、ウソよ! 私はこんな場所があるなんて知らなかったわ! タツミは助けた私とコイツ等とどっちを信じるのよ!!?」

 アリアが悪あがきと言わんばかりに喚き、タツミに声をかけるが、タツミは微動だにしなかった。

 

 「タ……ツ……ミ」

 突然聞こえた男の声。名を呼ばれたタツミがゆっくりと声のした方へ顔を向ける。

 

 「タツミだろ、オレだっ」

 「い、イエヤス!!?」

 そこには、タツミと同い年の男のが鉄格子から手を伸ばしていた。無論、彼も既に死に体だ。全身に不気味な斑点が全身に現れていた。

 あの斑点は、ルボラ病の末期か。あれじゃ助からない。治す術がない。

 

 「俺とサヨはその女に声をかけられて……メシを食ったら意識が遠くなって気がついたらここにいたんだ」

 彼の眼は血走りながらも、アリアを憎悪の目で睨みつける。

 

 「そ、その女が……サヨをいじめ殺しやがった……!! う、ううっ!」

 その場で膝をつき、悔し涙を流す。

 

 「何が悪いって言うのよ!」

 悪事がバレた途端、アリアはレオーネの腕を乱暴に振りほどき、顔を醜悪に歪め発狂しだす。

 

 「お前達は何の役にも立てない地方の田舎者でしょ!? 家畜と同じ!! それをどう扱おうがアタシの勝手じゃない!! だいたいその女、家畜のくせに髪がサラサラで生意気すぎ!! 私がこんなにクセっ毛で悩んでるのに!! だから念入りに責めてあげたのよ!! むしろこんなに目をかけて貰って、感謝すべきだわ!!」

 それはまさしくクズ……いや。外道そのものだ。コイツ等に生きる価値はない。

 

 「善人の皮を被ったクズ家族が。生きる価値のない。邪魔して悪かったなナイトレイド。後はコイツを好きにしな」

 「イブキは殺らないのかい?」

 「別に俺が殺してもいいんだが、お前らの標的なんだろう? 俺には関係ない」

 そこまで言うと、「ならば、葬る」とアカメが刀を握りしめ前に出ようとしたが、それよりも早く動いた人物がいた。

 

 「待て」

 声をかけたのは親友2人を殺されたタツミだった。まさか庇うんじゃないかと思っていたが、身にまとう雰囲気からして大丈夫らしい。

 

 「そいつは……俺が斬る」

 一閃。見事な袈裟切りはアリアの体を綺麗に切り裂いた。それは躊躇いもない一撃。

 

 「へへ、さすがはタツミ。スカッとしたぜ……ッ! ゴフツ!?」

 笑顔を浮かべていたイエヤスだが、突如せき込み吐血する。

 

 「どうした、イエヤス!?」

 タツミは素早くイエヤスの鉄格子に近づき、鍵を壊し中からイエヤスを出し仰向けに寝かせる。

 イエヤスはタツミの声に反応せず、荒い呼吸を繰り返す。

 

 「ルボラ病の末期だ。ここの夫人は人間を薬づけにし、その様子を日記に書いて楽しむ趣向があった。残念だが、もうイエヤスは助からん」

 「ッ! チクショウゥ!!」

 悔しさに拳を強く握りしめ、涙を溜める。

 

 「タツミ」

 弱々しいイエヤスの声。タツミは懸命に涙をこらえイエヤスを背に腕を回し上半身を起き上がらせる。苦しいはずなのに、イエヤスは笑顔で話しかける。

 

 「サヨはさぁ。あのクソ女に最後まで屈しなかった……カッコ良かったぜ。だから、このイエヤス様も最期は……カッコ良く!」

 弱々しく拳を握るイエヤス。だが、そこで言葉が途切れた。イエヤスは笑みを浮かべたまま、タツミの腕の中で息絶えた。

 

 「もう気力だけで保ってる状態だったな」

 「どうなってるんだよ、帝都はっ」

 苦しげに声を出すタツミ。夢にまでみた帝都が、まさかこうもあろうとは思いもよるまい。

 アカメは一瞬だけ目を伏せたが、すぐに踵を返し他のメンバーの元に戻る。俺もここにもう、用はねぇし帰るか。でもタツミをどうすっかな……。

 俺が考え事をしていると。

 

 「んー。なあ、あの少年持って帰らないか?」

 「「ん?」」

 レオーネの予想外の提案に、俺とアカメの声がハモる。

 

 「アジトはいつだって人手不足だろ? あ、イブキもどうだい?」

 「俺もか?」

 まさかの勧誘に俺は戸惑いの声を上げる。今までそういうのを持ったことがないから何とも言えないが……。

 

 「まぁいいだろう。一応、ついて行ってやる。だが仲間になると決めたわけじゃない。いいな?」

 「オッケーオッケー! で、アカメ。この少年、運や度胸。才能もあると思わないか?」

 レオーネは倉庫から落ち込んでいるタツミの襟筋を掴み引きずりながらアカメと言葉を交わす。タツミは「放せ!」と喚いているが所詮、無駄な足掻きだ。

 

 「放せ!! 俺は二人の墓を!!」

 「ああ、遺体はあとで私がアジトまで運んでやるから安心しろ」

 「ハァ!?」

 正直、理不尽とも言えるレオーネの強引さに呆れつつ後ろからついて行く。既に残りのメンバーは先に戻り屋根の上で待機していた。

 

 「やっと戻ってきたか」

 「そろそろ引き上げないとまずいぜぇ」

 「遅い!何やってたのよ! ってソイツ!」

 ブラート、ラバック。マインと立て続けに言葉を発し、マインが俺に向かい指をさしてくる。

 

 「人を指でさすな。もうお前らと敵対することはねえよ」

 「そういうことだ♡」

 「いやどういうことよ……で、そっちのソレは?」

 ソレとはタツミのことだ。レオーネにお姫様抱っこされている姿は何とも言えないが。

 

 「仲間だ」

 「はぁ!?」

 「アレ? 言ってなかったっけ?」

 わざとらしい言い方だ。

 ドサ! 

 タツミが屋根に背中から落とされ、レオーネに言い渡される。

 

 「今日から君も私達の仲間だ!!! ナイトレイドに就職おめでとう!!」

 「???? なんでそうなるんだよ!」

 「諦めろ。レオーネは言い出したら聞かない」

 「さすが親友。分かってるねー」

 反論するタツミだが、レオーネはあまり気にしていない。

 

 「ブラっち、こいつヨロシク」

 名を愛称で呼ばれたブラートは鎧姿のまま、タツミを軽々と小脇に抱え上げる。

 

 「放せ! 俺は殺し屋になる気なんか……!」

 「大丈夫だ……すぐに良くなる」

 何がよくなるのかは意味がわからない。

 

 「作戦終了。帰還する!!」

 アカメの号令に皆一斉に闇夜に紛れ屋根上を疾走する。当然俺もついて行く。

 何だか妙な世界に転生させられたが、これはこれで面白味がある。

 

 「退屈しなさそうですみそうだな」

 「ん? 何か言ったかイブキ?」

 「別に。ただの独り言さ」

 

 

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