イブキside
河原から移動した俺達は会議室に移動し、ボズがアカメから前作戦の詳細を訊き出した。
「……成程。事情は全て理解した。タツミ……ナイトレイドに加わる気はないか?」
「……断ったらあの世行なんだろう?」
ボスに誘われたタツミは、渋い表情を浮かべ言う。
「それは無い。ただアジトを知られた以上、帰すわけにもいかないからな。我々の工房で作業員として働いてもらう事になる」
ふぅん。工房で働いていればタツミの安全はある意味保証されるし、万が一にも外部に知られることが無いってわけか。念には念を入れるねボス。
渋っているタツミだが、少しして言葉を放つ。
「俺は……帝都へ出て出世して、貧困に苦しむ
憤怒もらすタツミ。そりゃ今の帝都は
そこへブラートが声をかける。
「中央が腐ってるから地方が貧乏で辛いんだよ。その腐ってる根源を取っ払いたくはねぇか? 男として!」
熱く語るブラートの眼は真剣そのもの。
「ブラートは元々有能な帝国軍人だった……だが帝都の腐敗を知り我々の仲間になったんだ」
「俺たちの仕事は帝都の悪人を始末することだからな。腐った連中の元で働くよりずっと良い」
「……でも、悪い奴殺していったところで世の中大きく変わらないだろ? それじゃあ辺境にある俺の村みたいな所は結局救われねぇよ」
そりゃちまちま殺したところで何も変化は起きはしない……だがそういう小さな事も大事なんだぞ。
「そうでもないぞタツミ」
「? 何でなんだよ?」
ボスの言葉に訝しむタツミに、ボスが話し出す。
「帝都のはるか南に反帝国勢力である革命軍のアジトがある。初めは小さかった革命軍も今や大規模な組織に成長してきた。すると必然的に情報の収集や暗殺など日の当たらない仕事をこなす部隊が作られた。それが此処ナイトレイドだ。今は帝都のダニを退治しているが軍が決起の際は混乱に応じて腐敗の根源である大臣を……この手で討つ!!」
「ッッ、大臣を……討つ!?」
「そうだ。それが
ボスの革命軍の大臣を討つという目標に、言葉にタツミは度肝を抜かれたようで驚愕する。
「決起の時期については詳しいことは言えんが……
……言い切ったな。それだけの自信があるって事か。さて……この話を訊いたタツミは何か感じたかな。
「その新しい国は……ちゃんと民にも優しいんだろうな?」
「無論だ」
タツミの問いにボスは即答する。それを訊いたタツミは。
「成る程、スゲェ……じゃあ今の殺しも悪い奴を狙ってゴミ掃除してるだけで……いわゆる
……とある意味、如何にも虐げられた奴が言いそうな(そうでもないような)事を言い放った。
その発言にナイトレイドは暫し誰も口を開かず……そして。
「……クッ」
「「「「「「ハハハハハハハッ!!」」」」」」
限界まで膨らんだ風船が破裂するように、会議室が笑いで満たされる。唯一、アカメとボスは笑ってはいない。
「な……なんだよ? 何が可笑しいんだよ!!」
何故笑われているのか分からないタツミにレオーネが不穏な声音で告げる。
「タツミ。どんなお題目つけようが、やってる事は
「そこに正義なんてある訳ないんですよ」
「俺達全員、何時報いを受けて死んでもおかしくないんだぜ」
続くシェーレとブラートの言葉にも重みがある。他のメンバーは喋らないが、皆覚悟は出来てるってわけか……でも小言を言わせてもらうなら。
「でもタツミの正義ってのは
俺がそう言うと、やはりと言うか何でかマインが突っかかってくる。
「はあ? ちょっとどういう意味よそれ?」
「言葉通りの意味だ。確かに殺しは殺しだ。他人に胸張って言える所業じゃない。そもそもいつどの時代でも殺しは重罪だ。レオーネが言った通りどんなお題目や大義名分だろうと殺しは人として最低最悪な行いだ。
「「「「「「「!!」」」」」」」
俺の言葉に全員が言葉を失う。
「これが同業者や同じ仲間で殺しを正義だと口に出す者なら俺だって笑うさ。殺しの何処が正義なんだと。それならクズが自分の欲の為に弱者を殺し、嬲る事だって奴らの価値観で正義だと主張すれば正義……今の帝都は弱肉強食。
今の帝都は心底腐りきっている。始皇帝ならいざ知らず、現皇帝は幼いが故に側近の大臣の良いように使われている。時代が進めばそれだけ人間の価値観等は変化する。生まれが良いからと豪遊し、他者を見下し凌辱し殺す。己の快楽の為・ストレス発散……本当にくだらねぇ。
「ま。俺が言いたいのはそれだけだ。それでタツミ、お前はどうするんだ?」
「え?」
「
「……ッ」
「ボスは提示はしたが決めるのはお前だ。仮に殺し屋に入るのが嫌だったら俺がお前を別の国まで護衛するが」
俺が改めてタツミに訊くと……数秒程悩み。
「報酬は貰えるんだろうな?」
「しっかり働いて行けば故郷の一つは救えるだろう」
「だったらやる! 俺をナイトレイドに入れてくれ!! そういう大きな目的の為ならサヨもイエヤスもきっとそうしてる!」
決心がついたタツミはナイトレイドに入る事に決めたようだ。
「本当に良いのか? この道に入ったら最後。もう後戻り出来ねぇぞ?」
「分かってる。でももう決めたんだ」
「
「良いさ。それで村の皆が幸せになるなら」
俺に続きマインが声をかけるが、タツミの決心は変わらない。
「フン」
と鼻息一つ零し、顔を逸らす。
「タツミの決心は分かった……イブキはどうだ? かの最凶最悪と呼ばれた伝説の鬼神が我々の仲間になってくれれば非常にありがたいのだが」
今度は俺に訊いてくるボス。そういやタツミにしか訊かれていなかったな。
「別に俺はどっちでも良いんだけどさ……ただ入るなら俺が提示する条件を呑んで貰いたい」
「条件?」
その言葉にボスは視線を鋭くさせる。
「そ。その条件さえ吞んでくれたら入っても良いぜ」
「…………その条件による。話してみろ」
「まず一つは、俺が貰う報酬の半分を衣類や薬。食料品に変えて欲しい。スラム街にいる身寄りのない子供に食わせてやりたい。二つ目は帝具、神の御手パーフェクターを貰う。俺の友人……ってか知り合いが医者でね。そいつに貸してやりたい。無論、アンタら革命軍が貸して欲しいと言えば貸す。三つ目はその知り合いの加入も認める事。四つ目は俺は自由に行動させてもらう。顔バレしてないからね……今はこれ位かな?」
「ちょっとアンタ! いくら何でも図々しくない!?」
「殺しに関しては俺が先輩なんだぜ? 黙ってろ」
「ッ!!」
俺が微弱な殺氣を飛ばすと、マインの口が閉じる。一々口を挟むなクソガキ。
「で? どうなのボス? 結構良い条件だと思うんだけどねぇ?」
俺がボスに結果を訊くと、暫く考えタバコの煙を吐き……。
「……分かった。その条件を呑もう」
「ちょっ! 良いんですかナジェンダさん!! その条件を呑んでっ!」
「ラバック、お前の懸念も分かる。だがその条件だけで鬼神「イブキだ。その名前は戦場だけにしてくれ」……イブキが仲間になるんだ。これほど心強い戦力は無い」
「流石ボス。話が分かる人で」
「上に立つ者、見極めは必要だからな。ところでその知り合いとやらは強いのか?」
「強いぞ。何せ俺と
「っ……それは良い事だ。その知り合いは帝都の何処にいる?」
「
「今?」
怪訝な表情の浮かべたボスは部屋を見渡すが、ケンの姿は見当たらない。ナイトレイドやタツミも会議室を見渡すが、誰に目にもケンの姿を捉える事は出来ない。時間の無駄か。
「そろそろ
俺は会議室にいるが
「やれやれ。漸くか」
「なっ!?」
「「「「「「「!!!!」」」」」」」
突然、ボスのイスの後ろの壁際で声が上がる。
ボスは驚きで椅子から立ち上がり自身が座っていた椅子の後ろを振り返る。ナイトレイドもタツミも驚愕し声の方を凝視する。するとユラリと陽炎のように影が蠢き、やがて輪郭が人の姿を形成した。そこにいたのは全身黒ずくめの衣装を纏い、顔バレしないよう東にある島国のお面(今風で言う般若のお面)を付けている。情報屋のケンだ。
「まったく。氣殺すら見破れんとはな」
頭を横に振り、呆れているケン。
「……いつからこの会議室にいたのですか?」
「お前たちが前作戦の詳細を聞き出す前……そうだな。具体的にはイブキとそこの小僧。それに金髪女がアジトに入ると同時にだな」
静かに問いかけるシェーレにケンは答えた。
「あたしがイブキとタツミをアジトを案内する時に?」
「そうだ。その後は今に至るまでずっとここで気配を殺していたんだが……イブキに言われるまで気づかないとは。これでは先が思いやられる」
「そう言うなケン。こいつらに
「フン。殺し屋ならこの程度の
皮肉たっぷりのケン。相変わらずだな。
「って訳だ。ケンも入れてくれボス。ケンの情報はかなり有能だからな。情報料は高いが腕は立つぜ。殺しもな」
「…………フゥ。分かった、ケンの加入も認める。改めて修羅の道へようこそタツミ……そしてイブキとケン」
修羅の道か。地獄への片道でもあるんだがな…………ん? この気配。
「おいラバック」
「ん?」
「もうすぐお前の張った
「は?」
間抜けな言葉が出た瞬間。
キュルキュルキュルキュル!!
ラバックの付けている手袋の手甲部分にある、回転する装置? みたいなのから音が響く。
「!! 侵入者だナジェンダさん!!」
「「「「「!!」」」」」
「人数と場所は?」
「俺の結界の反応からすると恐らく8人! 全員アジト付近まで侵入しています!!」
糸の反応から人数まで割り出せるとはね……千変万化の名に相応しい帝具だな。
「手強いな、ここを嗅ぎつけてくるとは……恐らく異民族の傭兵だろう。仕方ない、緊急出動だ。全員生かして帰すな」
ボスが命を下すと、ナイトレイドの氣質が一瞬で切り替わる。
「行けっ!!」
同時に皆、会議室の窓や扉から外へ飛び出す。この動き方は殺し屋として及第点かな。そして唯一出遅れたタツミはどうしようか困惑している。
バシッ!
「初陣だ。タツミはブラートに着いていけ!!」
「え? あ、はい!」
ボスに背を叩かたタツミはブラートが駆け出した方へ急ぎ、後を追う。
「このアジトを嗅ぎつけるとは中々だな……大方、南方面の森林の奥に暮らす異民族の傭兵だろうな」
「だろうね。あの異民族は森林で暮らしてるからこのアジト付近に侵入するのは大分楽だったろうね……
「しかもその1人は女だ」
「ああ、まったく面倒だよ。全員同じ方面で逃げてくれりゃ追いかけんのも楽だってのにね」
「同感だな」
ケンとそんな会話を繰り広げていると。
「イブキにケン。お前たちには傭兵の場所が分かるのか?」
驚きを隠せないボスに聞かれた。
「気配でまるわかりだからな。これ位出来て当然だが」
「それにこの程度すぐに終わる。俺達は待たせてもらうぞ」
そう言いケンはイスに座る。俺も待たせてもらうかね。
…………でも残念だけど、さっきとは違う別の異民族の傭兵が今、別の離れた場所でナイトレイドの戦闘を見てるんだよなぁ。