山田の雑草探究記    作:蓼食う虫

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第一話 トリカブト

 

 

 

 

 ある春の日の昼下がり、僕は趣味の自然散策をしていると、酔狂且つ安直な手段自殺しようとしている少女を発見した。

 

「ま、待て!早まるな!えっと、若いんだから、生きていればいい事ある!」

 

 後から思うと、我ながら一ミリも自殺を止められる気のしない安っぽい言葉だったな。

 

「……?」

 

 ただ、その少女は僕の言葉に要領を得ないと言った感じに首を傾げている。

 

「トリカブト食って自殺なんて、野草好きとしても勘弁してくれ!」

 

 その言葉を聞いた瞬間、少女は顔を真っ青にしてトイレに駆け込んだ。

 

 ……あれ、コイツ自殺じゃなくてただ単に誤食してただけ?

 

 

 ▲

 

 

 その後、念のため救急車を呼び、検査やら何やらに付き添った。

 

 結果は異常なし、その前に食ってたのは幸運にも「ヨモギ」だった様だ。

 

 トリカブトとヨモギは非常によく似ており、ヨモギは草餅の材料になるほどよく食べられる野草である。最も彼女はどちらの名前も知らずに目についた草だからと食んでいたようだが。

 

 そしてトリカブトの毒性など、最早説明するまでも無いだろう。サスペンスでは定番の毒草である。

 

 そんな事はさておき僕は例の女に親御さんに連絡させようともしたが女は何故か頑なにそれを拒んだ。

 

 曰く、過保護すぎる親らしいのでこんな事がバレたら二度と自由に食事出来なくなるかもしれないとの事。

 

 家庭の事情は人それぞれなので下手に同情したり深く突っ込んだりせず、さらっと流す。世渡りのコツである。

 

「それで、友達が間違えて勝った六弦ベース?とやらを買い取って金が尽きたから野草食って餓えを凌ごうとしていたと。……それだけでもアホなのに、挙げ句の果てにはトリカブト食って召されそうになるとかダーウィン賞ものだぞ」

 

「……助かった、マジで」

 

「礼を言うくらいなら反省してくれ。野草やキノコ、……まぁ自然物全般だな、その類のもの知識も無い素人が手を出していい代物じゃない。今時小学生でも知ってるぞ」

 

 魚でも、フグやバラムツなんか食ったらそれはまぁ酷い事になるので安全な分野など存在しないと言っても過言では無い。

 

「そんな……じゃあ私は明日から何食べて生きていけばいいの?」

 

「文明人らしく、普通にコンビニかなんかで……あー金が無いのか。バイトとかはしてないのか?」

 

「やってる。でもお金借り過ぎて給料から天引きされている。無常」

 

 コイツ、もうダメだ。マジで死ぬか体売るしか無いとこまで来ている。多分、家が過保護云々って多分言葉の綾で信仰宗教とか毒親云々なので死ぬのとどっちがマシか(勘違い)。

 

「……ホレ、取り敢えず五万円だ。予め言っておくが僕からの施しはこれが最初で最後な。こういうのに同情し過ぎると身を滅ぼすのは世の常だ、悪く思わないでくれよ」

 

 世の中には不幸で可哀想な人間なんて掃いて捨てるほど溢れかえっている。いちいち同情していたら、心が疲れてしまうし何より不幸な人がいなくなる事は絶対に無いので救済に意味など無いのだ。

 

 ただ、目の前の悲劇を見て見ぬフリをする程、感情というものを理性で制する事は常人には無理難題というもので、五万という金はそんな理性と感情が引き合って出た金額である。

 

「まこと、かたじけない。……これだけあれば郁代の六弦ベース売っぱらったお金と合わせて欲しかったあのベースが……」

 

 1秒で施した事を後悔したが、渡してしまったものは渡してしまったのでしょうがない。まぁ、コイツが死んだときに罪悪感を感じない権利を買ったと思ったら安いものである。

 

 でも、野草で死なれるのは愛好家としては困る。彼女は未成年、そして社会は未成年の死に敏感だ。東京から面白い植物がこの屑のせいで根絶やしにされるかもしれないと考えると彼らがあまりにも浮かばれない。

 

「おい、クズ女。お前がどうなろうと知った事では無いが、野草で死なれるのは植物好きとしては勘弁してほしい。草食うなら、食う前に僕に写真で送ってくれ。毒の有無くらいなら恐らく見分けられる」

 

 そう言って、本当に渋々、僕はロインのQRコードを差し出した。

 

 こうして、クズ女こと山田リョウとの奇妙な関係が生まれてしまったのだ。

 

 

 ▲

 

 

 翌日、早速一枚の写真が送られてきた。

 

 紫陽花(アジサイ)の葉とカタツムリである。

 

 メッセージには「今日の一皿」とだけ書いてあった。

 

 本人的にはウケ狙い、というか小ボケのつもりなのだろうがこれは……

 

「紫陽花は毒草です、食べないで下さい」

 

 

 返信は無かった。

 

 南無三

 

 

 

 

 

 ……というのは冗談で、トリカブトと違い死ぬ程の毒は入っていない。ただ気持ち悪くなったり、腹痛になったりは避けられないだろうが。

 

 まぁ、彼女には自然の恐ろしさを知るいい薬になるだろう。

 

 毒と薬は表裏一体とはよく言ったものである。

 

「もう無理、草怖い。代わりに取って」

 

 1時間後、生存確認と共にそんな戯言が送られてきた。

 

 ……あまり大人を舐めるな

 

「たんぽぽでも食っとけ」

 

 無論、何の冗談でもない。その辺に生えてるセイヨウタンポポは明治時代に野菜として日本に入ってきた代物だ。何と全草(どの部位も全てという意味)が可食部位であるため空きっ腹の彼女にはうってつけだろう。……ブタナというタンポポによく似た毒草もあるにはあるが余程の間抜けじゃ無い限り、素人でも見た目で分かる。背丈が違い過ぎるのだ。

 

 この後、案の定レアタンポポと称してブタナとノボロギクが送られて来たので諦めて家を飛び出したのは僕と彼女の秘密である。

 

 彼女はある種の逆張り厨(ヤツに言わしてみればロック)なので、普通の草を食いたがらないのだ。絶望的に野草取るのに向いていない。

 

 

 ▲

 

 

 公園のベンチには餓えと毒への恐怖で疲れ果てた様子の山田がいた。

 

 積まれた紫陽花の葉とタンポポモドキがなんとも哀愁漂う風情を醸し出している。僕は爆笑した。

 

 とは言え、僕は彼女にお金を使って施さないと決めているのでその辺に生えているセイヨウタンポポを引っこ抜き水洗いした後に口に突っ込んだ。生のヨモギをいける彼女にアク抜きなどという贅沢は不要である。

 

 ……にしても、根からいったせいで口からたんぽぽが生えている構図になるのが何ともアホらしすぎて面白い図だな。写真撮っとこ。

 

「……不味い」

 

「残当だな。毒じゃないだけマジだろう」

 

 僕は別にコイツに野草の、植物の素晴らしさを知ってほしい訳ではないので、布教したい連中とは違いなんと思われようが特に思う所は無い。

 

「お兄さん、美味しい食べ方知ってるんじゃ無いの?」

 

「知っていたとしてもお前に施す事は無い。前に言っただろう」

 

「でもタンポポくれたじゃん」

 

「それは公園のものだ。東京都民のお前には食べる権利がある。……知らんけど」

 

 僕は法律には全く明るく無いので、全部適当である。まぁでも、公園のタンポポ食った人を訴えるような暇人がいるなら僕は是非とも会ってみたい。

 

「……次の草、とってきて」

 

「ほい、ぺんぺん草。一応春の七草だ」

 

 別名、ナズナ……というかぺんぺん草の方が別名か。兎に角それはアブラナ科の越年草でぺんぺん草という名前の由来は、一説によると種の形が三味線のバチの形に似ているから三味線の「ぺんぺん」という音になぞらえたものらしい。まぁ、ベーシストの彼女にはある種、丁度いいだろう。

 

 水洗いして雑に口に突っ込む。コイツも全草が可食部なのであまり深く考えなくて良いのが嬉しいところだ。

 

 ぺんぺん草の咀嚼音だけが響く空間のあまりのシュールさに俺は耐えきれなくなり僕は言葉を探し始める。

 

「お前、友達とかいないのか?」

 

 その末に絞り出されたのがこの問い。真っ当な人間関係を持っていれば、草食う前に誰かが助けるだろうと疑問に思い、そんな問いを投げかけたのだ、。

 

「幼馴染が一人、バンド仲間が二人、ファンが沢山」

 

「なんだ、僕より沢山いるじゃないか。そいつらに助けてもらえよ」

 

「その子達にお金借りてるから無理」

 

 ……ダメだこりゃ。

 

 

 

 

 





 作者は植物の専門家でも愛好家でもないので、多少のツッコミどころがあってもご容赦下さい。(作中知識はググって一番上に出てくるヤツばっか)
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