なんかちょっと違う   作:コーラル不思議

1 / 8
なんかちょっと違う朝

 計算ドリル、漢字ドリル、日記帳、雑巾、連絡帳。ランドセルに入っている物を一つ一つ取り出し、その名前を反芻する。

 

 春休みの前に先生から貰ったプリント、その持ち物欄に書かれた物、全てが揃っていることを確認した僕は、出した順番とは逆にしてランドセルへと戻していく。

 

 お母さんに言われた通り、明日の持ち物の用意も完全にこなした。僕は右手首を左手で掴み軽い伸びを行う。

 

 長いようで短かった、そんな春休みの最終日の夜だった。僕は部屋の時計を見て、時計の針が午後十時過ぎを指している事を確認する。

 

 早く寝ないとお母さんに叱られてしまうだろう。僕は座っている状態の足を伸ばし、立ち上がる。

 

 部屋を出て、階段の方へと向かう。一階に降りるとすぐにリビングに出る。テレビが何かの番組の様子を映しており、それを少し離れた台所からお皿洗いをしながら眺めているお母さん。

 

 僕が降りて来た事に気づいたのか目線をテレビから僕へと移す。

 

 「あら、ハルト、まだ起きてたの?明日は久々の学校なんだから早めに寝ておきなさいよ。」

 

 お母さんの口から出た言葉は概ね予想通りだった。

 

 「はーい。」

 

 僕は短く返事を返すと、リビングの奥にある部屋、洗面所まで歩いて進んだ。

 

 途中、テレビやっている番組が目に留まった。よくあるバラエティー番組で、右上に『もう一つの世界!?専門家に教わる衝撃の事実!』と言うテロップが出ていた。

 

 その番組では幅広いジャンルで専門家に対して芸人さんやアイドルの人達が質問を行ったりすると言う内容だった。お母さんが好きな番組であった。

 

 『今我々が住んでいるこの世界は、可能性の一つにしか過ぎないんですよ。』

 

 メガネを掛けた頭の良さそうな人がそう話すと、それを聞いていた芸人さん達が「おぉ!」と驚いたような声を上げる。

 

 『ぱられるわーるど』と言うヤツが今回のメインテーマらしい。僕はその言葉に春休み前にアオカくんが話してくれた内容を思い出す。

 

 アオカくんは僕の家の隣に住む、すっごく頭の良いハンサムな男の子だった。去年からクラスが一緒になって、それから仲良くなったのだ。

 

 アオカくんは頭が良く、僕が知らない事もたくさん知っているため、よく色々な話を教えてくれる。

 

 今テレビで流れているこの話もアオカくんから聞いた話の一つだった。

 

 『よくSFやファンタジーで登場する概念だけど、現段階では否定も肯定もどちらも可能な概念だと言えるね。そう、つまり謎さ。この世界にある未だ解決されない難事件の様なもの…少しばかり心がざわつくね。』

 

 楽しそうに話すアオカくんの姿を思い出した。その後を何とか論ではパラレルワールドは存在するとか、宇宙何とかの考えだと如何だとかの話を聞いたが、僕にはよく分からなかった。

 

 ただアオカくんが楽しそうだったから僕も満足だった。

 

 だけど、本当にそんな世界が存在するのだろうか。もしあったら、そう考えてみるがイマイチ想像が膨らまなかった。

 

 もう一つの現実があると言われても、それって今の世界とどう違うのだろう。未来の世界なら、すごく高性能なAIが開発されているとか、過去なら今より不便な生活が送られているとか、案外簡単に想像できる。

 

 でももう一つの現実があっても、それって今の世界と大して変わらないって事じゃないのだろうか。

 

 もう一人の僕がどこかに居たとしても、それがどのくらい今の僕と違うのか。考えてもうまく想像が出来なかった。

 

 「ハルト?どうしたの。何か考え事?」

 

 パラレルワールドに関して考えいると、後ろからお母さんの声が聞こえた。

 

 僕はテレビから目を離し、母さんの方へと振り向く。

 

 「何でもないよ。」

 

 僕はそう言ってから再び洗面所へと移動し、歯を磨くために歯ブラシを手に取った。

 

_______

 

 明日は春休み明けの、五年生としての初めての登校日だ。

 

 荷物の確認も済まして、歯も磨いて、お母さんにおやすみの挨拶もした。

 

 明日に向けてやるべき事は全部やったはずだ。僕は部屋の電気を消してからベッドへと身体を寄せる。

 

 仰向けになって眠るために目を閉じた僕の胸には、不思議な感覚があった。

 

 明日から新学期だからだろうか。今までにない程緊張とワクワクしている自分に気付きながら、僕は眠りに落ちた。

 

________

 

 瞼の裏の景色が、少しの赤みを帯びている事に気づいた。

 

 それと同時に、少しずつ目を開く。眠る前と違い、窓から差す光が朝の景色へと部屋を変えていた。

 

 遠くから聞こえる小さな鳥の鳴き声を聞きながら、僕はゆっくりとベットの上で上半身を起こす。

 

 朝はちょっとだけ苦手だ。まだ眠気が残る頭の中、寝ぼけて霞んでいる目を擦って欠伸をする。

 

 「おはようございます。ハルト様。」

 

 そんな僕に話しかけてくる声が聞こえた。僕は思わずびっくりして体をビクッと弾かせる。

 

 眠かった頭も、その衝撃で一気に目覚め始めた。

 

 誰の声だろうか。お母さんだったら扉を開けてから声を掛けてくるだろうし、第一声がいつも聞いてるお母さんの声と違う。

 

 だとしたら今僕に話しかけている声の人は僕の全く知らない人という事になる。

 

 僕は恐る恐る顔を声が聞こえた横へと向ける。

 

 「…?どうかなさいましたか?ハルト様。」

 

 目線を向け先には、見知らぬ綺麗な女の人が首を傾げて僕を見ている景色があった。

 

 女の人は銀色の髪の毛でまず僕の知っている人の中では見た事のない特徴だった。更にそんな知らない女の人は格好も変だった。

 

 白と黒の色だけが使われている、漫画やアニメで見るようなメイドさんの衣装だった。

 

 まるで本の中から現れたような、不自然な程ファンタジーな存在が、僕の部屋にいた。

 

 「わっ、わあっ!!」

 

 僕はびっくりして思わずベットの上から跳ねるように飛び出す。しかし変な姿勢で突然に動いたからか、うまく体が動かず、僕の体はベットの上から転げ落ちそうになる。

 

 床が段々と近づいてくる様子に、僕は衝撃に備えて目を閉じる。

 

 だけど僕の想像していた痛みは訪れなかった。衝突すると思っていた体は何かに支えられる様に浮いてるみたいだった。

 

 僕はもう一度ゆっくりと目を開いて、周りの様子を確認する。

 

 視線の先は部屋の床だったが、それでも距離があり、やはり僕の体は浮いてるみたいだった。

 

 そして支えられている何かの正体を見つけるために、僕は首を回して頭上を見上げる。

 

 そこには先ほど僕の目の前に現れたメイド姿の女の人の顔があった。

 

 「大丈夫ですか?お怪我はないでしょうか、ハルト様。」

 

 その表情は真剣そのもので、その剣幕に思わず僕は体の動きを止めてしまう。

 

 女の人の腕は僕より下に伸びていて、どうやら転げ落ちそうになった僕の体を支えてくれているのはこの人の腕らしい。

 

 僕は突然現れた女の人に助けられたようだ。

 

 「え、えっと…ありがとうございます?」

 

 とりあえずお礼を言っておく事にした。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。