なんかちょっと違う 作:コーラル不思議
春の暖かい風を肌に感じながら、僕は久しぶりの通学路を歩いていた。
僕の世界は朝から色々と変わり続けていた。そのため、外に出たら全く違う構造になった街があるんじゃ無いかと少し身構えていたけど、実際に歩いていても大した違和感は感じなかった。
ただ一つ、僕の通学に猛烈な違和感を与えている存在があるとしたら、それは僕の右隣にあった。
「それにしても、こうやってただ道を歩いているだけだと言うのに、久しぶりに君と歩いていると考えると不思議と陳腐なものには思えないね。」
長い黒い髪の女の子。アイリナさんと比べれば普通な印象を受ける女の子な訳だけど、そもそも女の子と言う情報が僕の頭の中を掻き回す。
僕は今も隣で意気揚々と歩いている女の子の事を知らない。今まで出会った記憶が無ければ、どうして今一緒に通学路を歩いているのかも分からない。
本来なら、僕はこの時間隣の家に住む友達のアオカくんと登校をしているはずなのだけど、どうしてか僕は今このアオカくんみたいな喋り方をする女の子と一緒に並んで歩いている。
疑問は尽きなかった。
どうしてアオカくんを呼んだはずなのに、門から出てきたのは知らない女の子だったのか。
それから何故僕は知らないはずの女の子と登校しているのか。
そもそも横を歩くこの子は誰なのか。
僕は朝からもう既に何時間もテストを解いた後みたいに疲れている頭を使って必死に考える。
もしかして、アオカくんの妹なのだろうか?今までアオカくんに兄妹がいる様な話は聞いた事は無かったけど、大きな家だし、一人くらい妹が居てもおかしくは無い。
今日はアオカくんの体調が優れないから代わりに妹ちゃんが来た…みたいな?
僕は必死になって仮説を立ててみるけど、いまいちピンと来なかった。
こう言う時こそアオカくんの助けが欲しかったが、そのアオカくんの行方が不明なのだから仕方が無い。
「って、さっきから話を聞いているのかい?」
僕が悩んでいると、横から妹ちゃん?が僕の顔を覗き込む様に僕の前を先回りしてきた。
「え、いやー…ちょっとお兄ちゃんの事が気になってて?」
僕は自分でも何を言っているのか分からなくなりながらも答えた。
「兄?君に兄妹が居たのか?ふむ…それは初耳だ。ボクの情報網に漏れがあったのか…?」
今度は僕の返事を受けた妹ちゃんが顎に手を当てて考え込む。その様子はどうもアオカくんと重なるみたいで、やっぱり妹や兄妹の様に思えた。
「いや、僕のお兄ちゃんじゃなくて君の。」
僕がそう訂正すると、妹ちゃんは首を傾げた。
「ボクの?いや、ボクには兄姉含めて兄妹は居ないはずだけど。」
その言葉が僕の頭の中に更に混乱を呼んだ。じゃあ君は誰なんだと。
アオカくんの妹じゃ無いなら従姉妹?だけど僕はアオカくんの従姉妹なんかと顔も合わせた事も無い。ここで一緒に歩いている理由には繋がらなかった。
他にも色々考えてみたけど、やっぱりスッキリした答えは出なかった。僕は思い切って目の前の女の子に聞いてみる事にした。
「えっと、じゃあアオカくんは今どこに居るの?」
僕がそう聞くと、女の子は今度は驚いたように顔を顰めて言った。
「…それは哲学的な問いかな?一応答えておくけど、今君の目の前に居るボクこそが正真正銘
目の前の女の子はそう言って僕の友達の名前を自分の名前として言った。
「え?」
僕は思わず変な声を出してしまう。だってそれは、僕の中の常識を塗り替える衝撃的な答えだったから。
目の前の女の子は、自分こそがアオカくんだと言った。そこに信憑性は何も無いけど、今朝から起きている出来事を考えると、「ありえない」という言葉を使えない気がした。
「…大丈夫かい?…熱があるなら今日は今からにでも帰って休んだ方が賢明だと思うけど。」
そう言ってアオカくんを名乗る女の子は心配するような表情を浮かべた後、僕のおでこに自分の手を当ててきた。
突然おでこを触られて動けなくなるのは、今日だけで二回目だった。
僕が動揺して立ち止まっていると、女の子はその手を離してから口を開いた。
「高熱では無さそうだけれど…無理はしない方が良いと思うね。どうかな?」
僕の体は万全だった。昨日から早く寝ていたし、体力もまだ余っていた。けれど、頭の方はパンク寸前だった。
「…アオカ、ちゃん?」
もしかして、そう思いながら僕は目の前の女の子に友達の名前で呼びかける。
すると女の子は表情を穏やかな笑顔に変えて言った。
「ふふっ、そうだよ、ボクは君のよく知っている唯一無二の君の友さ。」
どうやら、僕の知らない間にアオカくんはアオカちゃんになっていたらしい。
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衝撃的な真実を知った僕は、特に言及することが出来ずにそのまま通学路を歩いていた。
それから僕は遠回しに色々と聞いてみた。手始めに今は何年の何月か、これは僕の知っている年月と一緒だった。未来に来た訳じゃないみたい。
学校についても聞いてみた。今の世界は聞いた感じ漫画やゲームの設定が現実に溶け込んだみたいだったが、やっぱり学校にも色々変化があった。
一偏に覚えることはできなかったけど、今朝のニュースで見たみたいなエルフとか、あと吸血鬼、天使とか本当にゲームの中でしか聞かない存在が実際に学校に通ってるらしい。
衝撃的だったのが僕の家にいるメイドさん、アイリナさんの事だった。
「え?君の家にいるメイドについてだって?そんなの君の家で雇用してるアンドロイドだろう?」
アイリナさんは僕の家のメイドさんではなくアンドロイドだったと、アオカちゃんはそう言った。
僕は思わず開いた口が塞がらなくなりそうだった。つまり人間そのものの様に見えたアイリナさんは生き物でもなく、ロボットだったということなのか。
僕がそう尋ねるとアオカちゃんは少し思案する様に言った。
「ロボットか、難しい表現だね。少なくとも今の世界の合意としては彼女たちは生物だ。立派に自分の意思を持っているが、僕達が食欲によって食事を行うよう、アンドロイドには奉仕欲と言うものがある。…まぁ、ここに関しては未だ研究と議論の余地があるだろうね。」
どうやら僕の想像するロボットとは違うらしい。色々と僕の常識には難しい話だったが、そんな風に悩む僕に対してアオカちゃんはふっと息を漏らして話した。
「まぁ、雇用関係といっても明確な上下関係を築くかは本人達次第、普通に家族の様に接する家庭だって珍しくは無いよ。君の家でもそうなんじゃ無いのかな?」
その言葉に僕はアイリナさんの姿と顔を思い浮かべる。確かに映画に出てくるアンドロイドみたいに無表情で淡々としていたけど、僕がベットから落ちそうになったら心配してくれたし、お母さん曰く表情にも出るらしい。
しかし肝心の僕にはアイリナさんに対する記憶が無い。
この世界で生きていたであろう僕はどう接していたのだろうか。
そんな事に頭を悩ませていると時間は過ぎて、気付くと僕の通う小学校の姿が近づいてきていた。
周りを見渡してみると僕たちと同じようにランドセルを背負って歩く姿が見えた。
でもその中にも違和感を覚える部分があった。
僕の少し前を歩く二人組の女の子。二人の頭には僕とアオカちゃんと同様に通学帽を被っていたが、作りがちょっと違うのか、猫や犬みたいな耳が飛び出していた。
あれも人間とは違うシュゾクと言うものだろうか。狼男の女の子バージョンみたいな。
それからまた道を歩いていくと、更に同年代くらいの子たちが増えていく。中には僕と同じ尻尾も耳も生えてない子もいたが、四人に一人くらいは色々特徴のある人たちが見えた。
一ヶ月前にも来ていたはずの学校なのにまるで物語の舞台の上にいるみたいな感覚になる。
「どうしたんだい?早く行こう、自分のクラスを確認しないとだろう。」
異世界みたいな風景を前に立ち尽くす僕の手をアオカちゃんが取る。
「う、うん。」
そのまま僕はアオカちゃんに連れて行かれるように学校の中に踏み込んでいった。