なんかちょっと違う   作:コーラル不思議

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なんかちょっと違う新学期

 新学期になると、当たり前だけどクラスが変わる。その確認をするために僕とアオカちゃんは一階の職員室前の廊下に来ていた。

 

 廊下の真ん中、つまりクラス内訳の紙が貼っている掲示板の近くは僕たち以外にもたくさんの生徒がいた。

 

 近づかなきゃ見れないけど、中には当然僕の知らないシュゾクの人もいる訳で、中々声をかける勇気も近づく心意気にもなれなかった。

 

 「は?」

 

 そんな僕の横からとても怖い声が聞こえた。その物々しさにびっくりしながら横を見るけど、そこに居るのは当然僕と一緒にクラス分けを見に来たアオカちゃんだ。

 

 アオカちゃんは、と言うか僕の知る前の世界のアオカくんだけど、あまり声を荒げたりはしない。怒ることが少ないからだけど、クラスメイトにお気に入りのミステリー本を汚された時も大声で怒鳴ったりはしなかった。

 

 だけど、そのまま謝らないその子に向かってアオカくんは汚された本の価値と汚したクラスメイトの価値の違いを淡々と説いていた。

 

 そのまま十分近く言葉は止まらず、遂にはクラスメイトの子が半泣きで謝り出した。

 

 そんな事が一回だけ起きて、その様子を見て驚いたのを僕は覚えている。アオカくんは静かに怒るタイプなのだと、誰かが言っていた気がする。

 

 そして今のアオカちゃんはそんな過去の姿と重なって見えた。多分、怒ってる。

 

 何か怒らせるような事をした人が居たのだろうか。それとも僕が何かまずい事をしてしまったのか。

 

 目を見開いて一点を見つめる表情は、可愛い女の子になっても怖いままだった。

 

 「…どうしたの?アオカちゃん。」

 

 僕は意を決して隣に立つアオカちゃんに話しかけた。

 

 「……いや、なんでもないさ…はぁ…。そうか、忘れていたよ…。あまりに当たり前過ぎてボクとした事が懸念から外れていたよ…はぁ。」

 

 なんでもないと言うアオカちゃんだけど、さっきから三秒に一回くらいのペースでため息をついている。何か相当嫌な事でも起きたのだろうか。

 

 「…それじゃ、行こうか。今となっては貴重な君との時間さ…はぁ。」

 

 そう言ってアオカちゃんは再びため息をし、僕の腕を引っ張って連れて行こうとする。

 

 しかし僕はまだ自分のクラスを確認していないため先ずは掲示板を見なくてはいけない。

 

 「いや、まだ僕のクラス確認してないから。」

 

 僕がそういうと驚いたようにアオカちゃんは口を開いた。

 

 「あぁ、この距離じゃ君からは分からないか。君は二組、僕は五組さ。」

 

 どうやらアオカちゃんにはあの距離の掲示板の文字が見えるらしい。

 

 「すごい、あんなに遠いのによく分かったね。」

 

 僕がそう言うとアオカちゃんは大したことないように話した。

 

 「そうかな、確かに僕は基本的に五感は鍛えているから他と比べれば優れているが、ほら、周りにも遠くから認識している者はいるだろう?」

 

 そう言ってアオカちゃんは周りへと目線を向ける。僕もそれに倣って見てみると、確かに僕たち以上に遠くから掲示板を見ている人がいた。

 

 その内全員が動物のような耳や尻尾が生えていたりしていた。もしかしたら獣耳の人たちは目がいいのかもしれない。

 

 「じゃあ、今年は別々のクラスだね。」

 

 僕がそう言うとアオカちゃんはため息まじりに言った。

 

 「今年、一年かぁ…随分と長く感じるよ、あぁ、どうしようも無いと分かってても憂鬱だね。」

 

 明らかに表情を暗くするアオカちゃんだった。

 

 「そんなに悲しまなくても…。」

 

 僕は自分が悪い訳じゃないのになんだか申し訳なくなってきて、慰めるようにそう言った。

 

 「…君にとってはその程度かもしれないけれど…」

 

 そこまで言ってアオカちゃんは僕の方を見つめた。そこにはあまり見たことない、不安そうな顔をする姿があった。

 

 「そんなことないよ!僕も悲しいけど、ほら、休み時間とかに会えるから。」

 

 そこまで言うとアオカちゃんはポカンと口を開いた。珍しい少し間抜けな感じの表情だ。

 

 「…成程、休み時間にそのような使用用法があったとは…君に出会うまではその時間の全てを読書の時間に充てていたからその発想が無かったよ。」

 

 そこまで言うとアオカちゃんの表情は段々と明るくなる。

 

 「ふふ、そう考えるとそこまでの不運にも思えないね。元々授業中は話す事も少ない訳だし、これまでと接する時間は変わらない事になるね。」

 

 いつもの様な自信ありげな爽やかな笑顔でそう言うアオカちゃん。もしかして毎時間来るつもりなのだろうか?お昼休みだけ位だと思っていたんだけど…。

 

 流石に毎回休み時間の度に僕のクラスまで来るのは少しまずい気もする。

 

 「で、でも新しいクラスでも僕以上に仲の良い友達もできるかもだし、ね?ほら、アオカちゃん頼れるし、カッコいいし…あとほら、可愛いし!きっと沢山友達できるよ。」

 

 僕はそれとなくクラスの中でも友達を作るよう促す。話を聞いている限りアオカちゃんは僕以外に友達を作っていなそうだし、それはちょっと寂しい気もする。

 

 「……?おかしいな、どうして今僕の心は動揺して…いや、それ以上になんだこの感覚は…おかしい、普段からマインドコントロールは完璧なのに…。」

 

 しかしアオカちゃんは僕の話を聞いていないのか、よく分からない独り言を話し始めてしまった。

 

 この状態のアオカちゃんを僕は勝手に謎解きモードと言っている。あまり見る機会はないけど、何か難しい謎に直面した際に陥るモードだ。

 

 こうなったアオカちゃんは思考する以外の情報を切ってしまい、周りの様子が見えなくなってしまう。

 

 このままほっておく訳にもいかず、僕はアオカちゃんの隣で再起動を待つ。

 

 「ねぇ。」

 

 そんな僕に向かって後ろから声が聞こえる。

 

 声のする方に向かって振り返ると、そこには眉を顰めてこちらを見つめてくる女の子がいた。

 

 女の子はあまり見慣れない金色の髪で、外国の人みたいな綺麗な白い肌の色だった。だけど、そんな事より僕の目を奪ったのは背中であった。

 

 そこには肩幅よりやや大きい程度の黒い羽が生えていた。

 

 これもまた僕の知らないシュゾクの人だろうか。僕は想像もして無かった姿に少し動揺する。

 

 「え、えっと…。」

 

 瞳の色は夜の空に浮かぶ月の様で、月光の光が鋭く僕を差している様だった。

 

 「…分からないかしら、そこ、いられると邪魔なのだけど。」

 

 黒い翼の女の子は僕とアオカちゃんを指差してそう言った。

 

 「あ!えっと、ごめん。今動くよ。」

 

 僕は慌てて廊下の隅に寄る様に移動したが、アオカちゃんの方は動く様子が見られない。

 

 「……。」

 

 無言の圧力が、アオカちゃんでは無く僕に向けられる。僕はその視線に促される様にアオカちゃんの手を握り急いで廊下の隅に移動する。

 

 「……それだけよ。さようなら。」

 

 女の子はそう言ってスタスタと掲示板方へと歩いて行く。僕は後ろからでも存在感を放つその翼と後ろ姿を見ていた。

 

 名前はなんて言うんだろう。あの子はどんなシュゾクの子だったんだろうか。

 

 そんな風に考えている僕の横からアオカちゃんの声が聞こえる。

 

 「………すまない。少し思考に耽っていたみたいだ。」

 

 僕はその声に視線をアオカちゃんの方に移す。そこには平静を取り戻した様子のアオカちゃんが居た。

 

 「ううん。別に初めての事じゃないから。」

 

 僕はそう言って首を振ってから握っていた手を離す。

 

 「あ。」

 

 するとアオカちゃんの口から小さく声が漏れた。目線は自由になった自分の手に向けられていた。

 

 なんだか、不思議な、珍しい表情に思えた。

 

 僕はその光景に前の世界での出来事を思い出した。それは四年生の始まり辺りから男の子たちが段々と女の子と手を握るのを渋っていた様子だった。

 

 周りの男の子達に聞くとなんだか恥ずかしいから、らしい。僕はその時近所の年下の女の子ともよく遊んでいて、それこそ手を握る機会なんて多かった。

 

 だからか、あまりその感覚に共感は出来なかったけど、もしかしたら普通はもう女の子とは手を握らないものなのかもしれない。

 

 今更手を握る事に違和感は覚えない僕だったけど、それは僕だけの話だ。

 

 よくよく考えなくても今のアオカちゃんは女の子だ。今朝も何度か手を握られた気がするけど、いざその事を客観的に見ると恥ずかしいのかもしれない。

 

 なんだかアオカちゃんらしくない様に思えたけど、今は女の子としてのアオカちゃんなのだ。接し方も考え直さないといけないのかも知れない。

 

 「…じゃあ、行こっか。」

 

 僕はそんな事を考えながら廊下の先を歩く事でアオカちゃんに先を進む事を促す。

 

 「あ、うん。そろそろボク達も向かおうか。」

 

 それから数秒もしないで僕の知っている表情のアオカちゃんに戻る。どうやら本調子に戻ったみたいだ。

 

 僕は再びアオカちゃん並ぶようにして歩き出す。だけど手を握るのはやめてみた。

 

 この世界の普通は何なのだろうか。僕は変わってしまった日常にそう呼びかけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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