なんかちょっと違う 作:コーラル不思議
五年生の教室があるのは北校舎の三階だった。僕は三階まで階段を登ったあと、アオカちゃんと別れて自分の教室である二組に向かっていた。
あれから校舎の中を歩いてみて、おそらく他のシュゾクであろう人たちを見かけた。
中でも一番多く僕の目に映ったのが頭に角を生やした人たちだった。肌の色が薄紫だったり、少し青っぽかったり、髪の毛の色もカラフルだったりしていた。
掲示板の前で会った子のように翼が生えている子はあんまり見なかったけど、そんな特徴の子が多いように見えた。
次に多かったのが犬や猫のような耳や尻尾の生えている人たちだった。何だか感覚が鋭いのか、そういった人たちを見ていると僕の視線に気づいて振り返ってくることがあった。
僕は何だか気まずくなって目を逸らしたのだが、本人はあまり気にしていないのか目線を戻すともう僕の方は見ておらず、そのまま歩いて行った。
他にも耳がとんがっている、多分エルフ?の人とか、頭の光の輪っかを乗っけた人とか、他のシュゾクの人たちがいた。
でも不思議な事に一年生や二年生の教室が存在する一階ではそう言った人たちは見なかった。ほとんどが僕と同じ普通の人間だった。
それに全体で見てみても、やっぱり普通の人間の人の方が多い様に感じた。
気になってアオカちゃんにその事を聞いてみると。
「魔界と人間界だと色々環境が違いすぎるからね。ある程度理性と魔力のコントロールが出来るようにならないと
との事だった。魔界や人間界みたいなファンタジーな言葉が真面目に語られる事にやっぱりまだ慣れなかった。
この世界では魔法や魔力が存在してるらしい。その事実に僕は少しだけワクワクした。もしかしたら僕もゲームの中の主人公の様に魔法を扱えるんじゃないかと。
「ボク達が魔法を?うーん…まだ研究中らしいけど、一部の例外を除いて基本その傾向は見れないらしいよ。使えたら色々と捜査にも役立ちそうだけどね。」
どうやら難しい話らしい。僕は自分の中で上がってた期待が越えられず少しだけ残念に思った。でもそう言う理由ならさっきの低学年に他のシュゾクの人たちが居ない理由にも納得がいった。
自分たちが何も出来ない中、超能力みたいに炎や氷を操れるまだ小さな子供がいたら、確かに少し怖いかもしれない。あんまり想像しなかったけど、魔法が使えるのも良いことばかりじゃないのかもしれない。
そんな風に考えていると僕は目的地である五年二組の教室に辿り着いた。少しの不安と緊張をしながら、僕は教室の前の方の扉を開く。
既に何人かの子たちが教室には来ていて、各々自分の席や他の人の席に座ったり近くで立って話している様だった。
僕の想像した通りの景色が広がっていて、少し安心感を覚える。色々変わってしまったけど極度に変化している訳じゃないようだ。
「あ、コウタくん。」
僕はグルッと一通り教室を見渡してから、知っている友達がいる事を確認した。その子はコウタくんという二年生頃から校庭で遊んだり、話したりする僕の友達の一人だった。
僕はコウタくんのいる席へと歩いて近づく。
「んあ?お!ハルトじゃん!今年は同じクラスなんだな!」
コウタくんの方も僕の事に気づいたのか手を振って話しかけてくれた。僕も同じように手を振って返事をする。
「うん。今日から五年生で色々不安だったけど、知ってる友達がいて良かったよ。」
「へへ、俺も知らないやつらが多くてちょっとだけ不安だったから、安心したぜ!」
コウタくんはそう言って少し恥ずかしそうに笑った。僕はそんな普通のやり取りをして自分の中の不安が少しづつ溶けていくのを感じた。
コウタくんは僕の記憶の中の姿とあまり変わらなかった。最後に会ったのが四年生の春休み前だったけど、それから髪の長さや身長に多少の変化はあっても、急に女の子になっていたりはしなかった。
何も全員が前の世界と違うわけではないらしい。僕は随分久しく感じる普通のやり取りをコウタくんと交わす。
「いやぁ、それにしてもいざ同じクラスになるとさ、やっぱり緊張するよな。」
コウタくんが僕の後ろ、他のクラスメイト達を見てそう言った。
僕もその視線の先を追うように顔を向けると、そこには頭にツノの生えた女の子がいた。
「緊張?えっと、僕は確かにするけど…その、コウタくんも感じるものなの?」
僕は少し不思議に思ってそう返した。僕は確かに未だ慣れない世界の変貌に緊張しているけど、お母さんもアオカちゃんも特に他のシュゾクの人に驚いたりしている様子は無かった。
つまり僕以外の人からしたらツノが生えてたり、人間じゃない耳や尻尾が生えていてもそれは普通の事なんじゃないのか。
僕が疑問に思っていると、聞かれたコウタくんもまた不思議そうな顔を浮かべて言った。
「はぁ?そりゃ俺もするよ。俺の近所、イシュゾク共住地域無いし、同い年のインマとか獣族とかとも話した事も無いんだぜ?」
コウタくんのその言葉に僕は驚く。
僕はてっきり他のシュゾクとの会話なんて普通に行われているものかと思ったけど、実はそうでは無いのだろうか。
「え?コウタくん、話した事無いの?」
僕は深掘りするように尋ねた。
「無いな、ていうか普通あんまり無いんじゃねぇの?」
僕はその言葉を聞いた後、改めて教室の中を見渡す。
確かに教室の中には少し大袈裟なくらいの緊張感が漂っていて、ある程度集団で固まっている人たちも、同じシュゾク同士だった。
みんな僕と同じ様に初めての顔合わせなのだろうか、妙な緊張感の正体がわかった様な気がした。
「あ。」
そして僕が教室の様子を眺めていると、扉から直近で見覚えのある女の子の姿が見えた。
金色の髪に目、そして象徴的な黒い翼を背中に持つその子に緊張の色は見えなかった。
むしろ堂々としている様で、周りの様子など一切介さない様に黒板に貼られた席表の紙を見ていた。
その子の事に気づいたのは僕だけでは無いようで、遠くから眺めていたツノの生えた子たちのグループが何だか騒がしそうに声を上げる。
何を話しているのかは分からないけど、驚いた様な、意外なものを見たような表情だった。
「ハルト?お前、あの子の事知ってるのか?見たかんじインマ、だよな?」
席に座るコウタくんからそう言われるけど、僕はあの子が誰なのか知らないし、そもそもインマと言う言葉に聞き馴染みが無かった。
「ううん。朝ちょっと挨拶しただけ。」
僕はそう言って返したが、実際のところは挨拶なんてしてないし、一言二言のやり取りだけだった。
「へー、お前って、案外ガイコウ的なんだな!」
コウタくんがそう言ってくれるけど、そんな事はないと思う。
僕はそのまま先生が教室にやって来るまで教室の様子と、学校事についてコウタくんと話した。
________
「それじゃ、今日の号令は先生がします。はい、みんな立ってー。」
今年の担任の先生はタカハシ先生だった。去年は四年三組の担任だった、二年連続での担当だ。
教卓の前に立つ先生の声に、みんなは一斉に立ち上がる。
「じゃあ、このクラス初めての挨拶をしたいと思います!気をつけ!おはようございます!」
「「「おはようございます。」」」
先生の元気の良い声に続いて僕たちもそれぞれ声を上げる。初日の挨拶は不思議と一体感がある気がする。
それから先生の号令でみんなは着席して、先生の自己紹介が始まる。
僕やコウタくんからしたら三年生の時からこの学年担当のタカハシ先生だけど、今日に限ってはそうでない子も多かった。
「はい。そう言うことで今日からこの二組のみんなで仲良くして行きたいんだけど、もうみんな分かっていると思うけど今日から他の種族の子たちもこの学年に加わります!」
先生はそう言って白いチョークを持って黒板に『い種族』と書く。
「この中ではまだ異種族の子との関わりを不安に思っている子がほとんどだと思うが、安心して欲しい。」
タカハシ先生は『い種族』の文字の下に『みんな同じ!』と文字を続けて書いた。
「住む場所、育った場所が違うだけで、君たちはみんな同じ生物なんだ。少し難しい話かもしれないけど、要はみんな一緒ってことだ。」
先生はそう言ってニコリと笑って話す。
「色々不安や苦手もあるかもだけど、みんな仲良くやっていこう!それじゃ、早速出席確認も兼ねて軽い自己紹介をしよう。」
そう言って先生は右前の方に座る子に自己紹介を促した。
それからは自分の名前、好きな事、趣味などを話す自己紹介が順番に行われた。
僕は去年も同じ様な流れでクラスの新学期が始まったことを思い出した。多分、これはタカハシ先生の中でセオリーみたいなことなんだろう。
そんなセオリーを進めていくけど、その中で去年と異なる点があった。それは自己紹介の内容で、基本的な自己紹介に加えて自分のシュゾクを話すことだった。
僕だったら人間を、ツノの生えてる子たちはインマ、狼みたいな大きな耳を持つ子は獣族、推定エルフの子はやっぱりエルフを名乗った。
それから自己紹介の波は右前から左後ろへと流れていく。左の列に位置する僕は最後の方で、いよいよ僕の番まで後一人となった。
僕の前の子が立ち上がり、その背中の
偶然な事に僕の前の席は例の金色の髪に黒い翼の女の子であった。教室に入ってから一言も話さなかったその口が開かれる。
「セリシア・フォン・ディティカールです。皆さんと仲良くするつもりはありませんが、よろしくお願いします。」
目を閉じたままそう言い切ったセリシアちゃんはそれ以上の事を話そうとせず、そのまま座ってしまった。
なんやかんや自己紹介を通じて和やかになって来ていた教室の中に気まずい沈黙が降りる。いきなり友達になる気が無いなんて言い切られたらこうなるのも無理の無い話だった。
こうなってしまったら空気を再び修復をするのは先生の仕事だった。
「え、えっと〜セリシア?もうちょっとだけ、ほら、趣味とか、好きな事とか……。」
タカハシ先生はなんとかしようと硬い笑顔でそう呼びかけるが、セリシアちゃんは無言で先生を見つめるだけだった。
「……ありませんわ。」
数秒の沈黙を待ってから言い放たれたのはその言葉だった。これには最早先生もお手上げなのか、疲れた様な、悲しそうな表情で口を開く。
「そ、そっか…あー、じゃあ、せめて自分の種族くらいはどうだ?ほら、今はあんまり興味なくてもこれから仲良くなるためのきっかけ位には。」
先生が最後の望みを託すようにそう言うと、セリシアちゃんは片目だけ開いて気怠そうに話した。
「吸血鬼族ですわ。この意味。お分かりかしら、タカハシ先生?」
セリシアちゃんのその言葉に先生は面食らった様な表情になって固まる。この言葉に先生と同じように驚いた表情を浮かべるみんなと、段々と騒がしくなる教室の中だった。
どうやらこの事態を正しく飲み込めていないのは僕だけみたいだった。
「あ、あー、ありがとう、セリシア…次は…!ハルト!じゃ、じゃあ次、元気に!頼むぞ!」
先生は縋る様な声色でそう言うけど、僕は困惑するばかりであんまり元気に自己紹介が出来そうになかった。
僕はそれからおずおずと立ち上がる。セリシアちゃんの自己紹介が衝撃的だったからか、何だか次の僕にまで多めの注目が集まっている。
僕は多くの視線に晒されながらも口を開く。
「え、えっと
僕は思わぬキラーパスに自己紹介がぎこちなくなってしまう。それから少しの沈黙の後、小さく拍手が聞こえ始めてから、僕は席に座った。
若干恨めしく思って前の席のセリシアちゃんを見るけど、本人は全然気にしてない様で、後ろの子の自己紹介なんて気にも留めず前を向いていた。
後ろの席である僕からはどんな表情をしているか分からなかったけど、少なくとも笑顔では無いだろうな、と思った。
こうして僕の新しい世界での新しい学級での生活がスタートした。