高町家の浴槽が悟天によって破壊されてから数日が経過する、直るまでの期間は銭湯を利用する日々が続いていたのだ。
夕方が過ぎた夜中の時間帯に彼女達は日課のように銭湯を訪れていた。施設の内部へと足を踏み入れていけば受付係となのは、フェイトが会話を終えたところで。
「…じゃあ、そろそろ行こうか?」
「―――なのはさん、フェイトさん!」
「スバル!それにティアナも…?」
「アインハルトさん!?」
「……どうも。」
途中で呼び止められた声の本人に目を向ければ見慣れた顔を持つ人物が大勢いる。バルとティアナ、ノーヴェが其処に居たのだが彼女達よりも小さな子供はなのはとフェイトにとって面識が無かった。
ヴィヴィオは戸惑いを浮かべながらも新しく出会った翠銀色の髪を持つ少女を二人の母親に紹介する。
「え、えーーっと…こちらアインハルトさん。」
「はじめまして、ヴィヴィオの母…高町なのはです。娘がお世話になってます。」
「私はフェイト・T・ハラオウンです、ヴィヴィオの監察官をやっています。」
「アインハルト・ストラトスです。いえ、こちらこそ……。」
「ところでなのはさん、こっちの子は…?」
アインハルトはぎこちなく挨拶を交していた。何処かやりにくさを感じさせる彼女の表情にヴィヴィオは心配そうな視線で見守っている。
後に首を捻り、蒼紫色の髪を持つ女性は悟天へと穏やかな視線を向け、きょとんとした表情を見せる悟天にフェイトは微笑ましそうに彼を眺めていた。
「孫悟天、ちょっと色々あってなのはと面倒を見ているの。」
「そうだったんですか。あたし達と同じですね。」
「あー、お前が悟天か。あたしはノーヴェ・ナカジマ、よろしくな。」
「私はティアナ・ランスターよ。よろしくね、悟天くん。」
「うん!よろしくノーヴェさん!ティアナさん!」
悟天とティアナ達が互いに自己紹介をしていると、ヴィヴィオはその場には存在しない、最近出会ったばかりであろう少年の姿が見えない事に気づく。
「あれ?あの、トランクスくんはいないんですか?」
「あー、トランクスなら先に風呂に入っちまった。」
「スバルが一緒に入ろうっていうからよ。」
「え~~だって、家族なんだし。」
「……ホントだ!あっちにトランクスくんの気を感じる!!」
「あ、悟天!」
「悟天くん…ッ!?」
悟天は気が半滅したとはいえ、トランクスとの距離は近距離に値する。故に気を探る事は容易であり、彼は突然廊下を走り出してトランクスがいる風呂場へと足を進めていく。
唐突過ぎる行動にフェイトは彼の後を追いかけて行けばヴィヴィオもまた途方にくれた表情と共に後を追う。しかし悟天が脱衣所に入ってしまう諦めるかと思いきや、そのまま中まで入ろうとするフェイトに慌てて引き止めようとするが間に合わず自らも脱衣所に入ってしまう、その光景になのはとスバルは苦笑し、ノーヴェは呆れたように頭を抱えているのだった―――。
「トランクスくーーーーーーーーーーん!!!」
「えっ!? 悟天!なんでお前が…―――って危ないから走るな!!」
一方、悟天は脱衣室に突入すると同時に衣服を脱ぎ捨てながら疾走し続け扉を開け湯船に向かって勢いよく飛び込んでいく。突然の来訪者に湯船に浸かっていたトランクスは目を丸くしていた。
大声で会話のやり取りを風呂場で木霊した直後、悟天は途中から足を滑らせてしまい――――――
「へっ? わ、わわわああっ!?」
「こっちに来るなーーーーっ!!!」
「止まらないよおおおおぉぉぉぉぉーー!!?」
「うわあああぁっ!?」
風呂場の床を構成するタイルは湯によって塗れており、只でさえ床は滑りやすい状況である中、見事に悟天は足をトランクスの顔面へと衝突させていた。
―――数分間の時間が経過した頃、落ち着きを取り戻した二人は此処に至るまでの経過を二人で話し合い静寂的な雰囲気が場を包み込む。
「しっかし、まさか悟天がヴィヴィオちゃん家で世話になってたなんてなぁ。」
「えへへ、今度ヴィヴィオちゃんのお母さん達が魔法を見せてくれるんだよ。でも、ボク達は魔法が使えないんだって。」
「あー知ってるよ。魔法を使うには魔力を持ってなきゃダメなんだよな。それと、オレ達は次元漂流者ってやつらしいぜ。」
「じげんひょうりゅうしゃ?」
湯に浸かりながら悟天は目を丸くさせると同時にトランクスへと質問をぶつけた。彼等にとって聞き慣れない単語かつ、この世界にとっての専門用語に近い言葉の一つであった。
二人の居る世界以外―――他世界から、何らかの手法でこの世界へと入り込んだ人間の事を指す名称である。トランクスは悟天にわかるように次元漂流者の意味を述べていく。
「そういうわけだから、オレ達の世界が見つかるまではこの世界にいることになったんだ。」
「え!? じゃあボク達帰れないの?そんなのイヤだよ~。」
「仕方ないだろ、スバルさん達も元の世界に帰る方法を探してくれるって言ってるんだ。それまで待ってようぜ。」
あれからスバル達との生活は続いており、その中で仕入れた情報をトランクスは次々と教えていくのだが、途中から悟天は首を捻り始めて。
「待つってどのくらい?」
「ど、どのくらいって……そんなのオレがわかるわけないだろ。とにかく待ってればいいの!」
「イヤだ!ボク早く帰りたい。兄ちゃんやお父さん達に会いたい!!」
悟天の脳裏には悟飯の姿、悟空の姿が次々と映像的な演出で流れ出していくのだが彼等には元の世界へ帰る方法は残されていない。
途方も無く行き当たりばったりに行った行動に対して悟天は寂しさが胸に積もりトランクスに次々と吐き出すが、本人は途方にくれた表情を浮かべるしかなかった。
「ワガママ言うなよ!オレだってパパやママに会いたいさ。けど、今は待つしかないんだ…。」
「うう…トランクスくんが悪いんだ!トランクスくんが魔法の世界に行きたいって言ったから。」
「なんだよ!! 悟天だって乗り気だったじゃないか!オレ一人の所為にするなよな!」
湯船から立ち上がった悟天とトランクスは口論を行いながら互いを睨み付けていた。
男湯で激しい口論が展開される最中、女湯では既に湯に浸かり男湯とは違った静寂な雰囲気で包まれていた。
真夜中という時間的に他の人間が室内に入る事は無く、なのは達だけで湯船を独占する事ができている。
「誰もいないね……。」
「そうだね、普段は誰かが利用してるんだけど…。」
「なのはさん達はお風呂が壊れて以来、ずっと此処を利用しているのですか?」
「うん、そうだよ。ちょっと事情が今一よくわからないんだけど悟天くんがお風呂を壊したとか……。」
彼女の話だけでは完璧な把握は非常に難しい。なのははフェイトの浴槽が壊れるまでの経過を聞いたつもりだがそれでも彼女にとっては理解しづらい物であった。
フェイトは言葉を返す訳もなく、困ったように苦笑いを浮かべているだけでその事情に対して口を挟む行為は取らない。湯気が風呂場を包み込む中で、彼女達の肌は透き通るように濡れていた。
「そういえば、他の姉妹はどうしたの?」
「他の姉妹は買い物をしています、本当は一緒に銭湯に来る予定だったんですが…。」
「そうだったんだ…はやてちゃんも誘って今度は皆で来たいね。」
なのはは不意に脳裏に浮かんだのだ、ノーヴェを囲むように存在していた姉妹達の事を。ティアナは淡々と湯船の熱に頬を薄く赤くさせながらも返答を投げた。
「……あの、フェイトさん。悟天くんはどんな感じですか?」
「えっと、純粋で甘えん坊な子だけど、急にどうしたのスバル…?」
「あはは…トランクスくんの友達はどんな子なのかってちょっと気になって……。」
「ちょっとだけ話しましたけど、トランクスくんと違って悟天くんは素直な子ですね。」
苦笑い気味にスバルとティアナはトランクスについて話し始めたのだ、トランクスが来てからの生活の日々を耳にすればフェイトも暖かさを感じさせる微笑を向けていた。途中からノーヴェもその輪に加わり彼等についての話題を並べていく。
―――そんな中、アインハルトとヴィヴィオの間には気まずい空気だけが場を包み込んでいたのだ。
耳にするのはトランクスと悟天の話題、女性的なソプラノ音声が視界を悪くさせる湯気の中で反響し合う。だが二人の声は反響する事も無ければ一切言葉を発さずにいる。
(ど、どうしよう…なんとかして、アインハルトさんと話をしたいんだけど……。)
「……。」
(けど、声をかけたとしても何を話せばいいんだろう…?)
「…………。」
(家族の話は聞きづらいし…トランクスくんの話題とか?ストライクアーツとか……。)
「…………………。」
「あ、あの!アインハルトさ―――!」
「うわああああああぁぁぁぁーーっ!!!!」
漸く、ヴィヴィオは遂に声を発すると同時にアインハルトの虹彩異色の瞳がヴィヴィオを映し出す。が、唐突に広がるのは壁が倒壊する破壊音。
この場には有り得ない程の衝撃音が反響し合い、余計に耳を五月蝿く音が叩きつける。気分を害するには充分過ぎるほどの邪魔な存在である事に変わりはない。
分厚い壁に空穴のような破壊行動を行った小さな張本人に、全員の視線は収束していく…だが本人はその事に気づく余裕を持ち合わせていなかった。
「わ……っ!? 悟天…?」
「フェ、フェイトちゃん大丈夫…!?」
突然壁を突き抜けて出現すると同時に脱衣室まで聞こえる程の叫び声を上げながら、悟天は湯気が立ち込む空中を宙を舞うと湯船へと滑空―――その際、フェイトの豊富な胸部へ背中が密着する形でクッション代わりと化したのだ。
フェイト自身は悟天が子供故に気にする事はない。しかし、ノーヴェはその光景を見てわなわなと拳を握り震え出しており、頬は紅色に染め上がっていたのだ。
「ありがとうフェイトさん!」
「あ、悟天ッ!」
悟天は体制を整えるとフェイトに礼を述べて迎え撃つ為に高く飛翔する。穴の先からはトランクスの姿が見られ、彼は自身に迫り来るトランクスへと向かっていけば舞台を女湯に変えて再び乱闘を繰り広げる。
「でやああああっ!」
「だあああああっ!」
「おい、此処で戦うのかよっ!?」
「…え、えっと、すごいね、アインハルトさん……。」
「そう、ですね………。」
二人の空中戦闘は僅かな時間で終結したが、濡れた床に足が接触した途端―――間合いを秒間的に詰めた接近戦を始める始末なのだ。
言葉を失う女性陣にお構い無しに戦闘を続ける中でアインハルトとヴィヴィオは純粋に彼等の圧倒的な力量による戦闘に魅入られていた。
「すごく強いって事はわかるんだけど……。」
「ちょっとやり過ぎだね……。」
なのはとフェイトは静観の態度を崩さない、目視すら許さない人間を遥かに凌駕した格闘戦に桶や石鹸が何処の方向へと投げ飛ばされていく光景には目を丸くさせるだろう。
桶は壁に衝突した直後にヒビが入り粉々に塵となっていく姿にノーヴェは更に怒りを積もらせていた、鏡は破壊され破片が飛び取る衝撃音が室内で飛び交う。
(これで人がいたら不味い事になってたわねぇ……。)
「悟天くん、落ち着いて……!」
「それに此処で戦ったら危ないよ…っ!」
「はぁ…トランクスくーん!止め……きゃっ!?」
悟天に対してはフェイトとなのはが止めに入り、トランクスにはスバルとティアナ、それぞれの保護者が呼び掛けるが一切止まる事のない二人は戦闘が激化の一方を辿るのみである。
散乱する桶や石鹸などが空中移動する中で偶然的にティアナへと桶や石鹸が投げ込まれるが彼女は上手く避け切り、怪我する事は回避された。
その事実に気付いていない二人は雄叫びのようにかけ声を叫びながら接近戦で行われる打撃攻撃に歯止めが掛かる事はなく、遂にノーヴェは怒りの限界にまで達した瞬間――――。
「…………いい加減にしやがれ、てめえらぁぁぁーーーッッ!!!!」
最大限の激怒が込められた叫びが破壊音や衝撃音よりも木霊した、それに驚いてようやく二人は制止するのだった。
悟天には保護者であるなのはとフェイト、トランクスには保護者のスバルとティアナが交互の説教タイムを行っており、アインハルトとヴィヴィオ、ノーヴェはその場で彼等を見守っている。
「あのね、此処は沢山の人が利用する所だから戦闘したり物を壊したりしたら駄目なの…。」
「大勢の人に迷惑が掛かるんだよ……わかるよね?」
「ごめんなさい…。」
頭の上がらない悟天は謝罪の一言を口にしていた。女湯や男湯共々、二人の戦闘によって桶や石鹸等が飛び交い散乱している状況なのだ。
「トランクスくんも、次から絶対にしないように!」
「それで、どうして喧嘩していたの?」
淡い水色の瞳が覗き込むようにトランクスを捉える、スバルも同様の行為を行うと同時になのはやフェイトを始めとした女性陣の視線が悟天とトランクスへと向けられていた。
「悟天が帰れなくなったのはオレの所為だって言ったんだよ。」
「だって本当のことじゃないか!ドラゴンボールで魔法の世界に行こうって言ったのもトランクスくんだし。」
「だから、それはお前も賛成してただろ!いい加減自分にも原因があることを認めろよな。」
再び言い争いを始める二人に対してスバルはため息を吐く、ヴィヴィオやアインハルトは一切喧嘩を起こさない事を比べれば二人は非常に幼い印象を覚えてしまう。
同年代である事に間違いは無い、だが精神的に幼く感じる女性陣は男と女の違いなのかと疑問が脳裏で展開されていた。
「トランクスくんのバカ!!」
「悟天のわからずや!!」
「あー、おい。わかったからこの続きは四日後にしろ、だから此処でまた暴れんなって。」
頭に血が上り、両者に戦闘の構えを見せた途端にノーヴェはそれを見計らって牽制の言葉を口にすれば二人はキョトン、とした表情を浮かべんがら戦闘体制を崩す。
“四日後”という具体的な言葉が引っ掛かったヴィヴィオはその意味を求めて頭は回転する―――、暫くの間ヴィヴィオは険しい表情を浮かべていたが表情を崩し何かに気が付いたような顔色を突然露にさせながら口にした。
「四日後って…アインハルトさんと戦う日になるよね?」
「……確かにそうですね。」
「ああ…。だからお前等はその時に決着をつけろ、いいな?」
「四日後か……オレはいいぜ。悟天、お前が負けたら自分の非を認めろよな。」
「いいよ。でもボクが勝ったらトランクスくんが大事にしてるおもちゃを貰うからね。」
「ああ、構わないぜ。どれでも好きなのをやるよ。男の約束だ!」
ノーヴェの一言で一段落が付いた頃に悟天とトランクスは振り返って後ろに位置するヴィヴィオ達へと目を向ける。
「よーし!帰ったら修行するぞー!ヴィヴィオちゃん、一緒に頑張ろうね!!」
「悟天なんかに負けるもんか。アインハルトちゃん、オレ達も一緒に修行しよう!」
「「………………。」」
だが二人から放たれる視線は全身を凍り付かせる程、冷却的な視線を二人に浴びせていたのだ。彼女達の意図を理解できず首を捻る二人に苦笑いを浮かべる女性陣。
無理も無い、彼等は何も衣服を着ていない状態。数分前の展開から気づく事は無かったが静寂な雰囲気に包まれた直後、改めて彼等の体が目に映る。
しかも先程振り返った時に腰に巻いてあったタオルが床に落ちて、二人は素っ裸の姿を公に晒していたのだ。
「あ………。」
「……ん?」
その事に気が付いたとばかりにトランクスは全身を紅色に染まり上げて体が凍り付くが、悟天は意味が理解出来ない様子のまま不思議そうに首を傾げて場の雰囲気を見守っていた。
「いやあああああぁぁぁーーーっっ!!!」
「ッッッ~~~~~!!!」
「「――――わああああああぁぁぁぁっ!!!」」
直後、ヴィヴィオとアインハルトの高威力を誇る拳が二人の顔面へと殴りつけた挙句に男湯にまで悲鳴と共に吹き飛ばす、風呂場は少年少女達の悲鳴だけが混ざり合い木霊している。これには大人組も苦笑を浮かべるしかなかった。
なにはともあれ四日後の勝負に向けて彼等の修行の日々が始まるのであった……。
悟空「オッス!オラ悟空!! 悟天とトランクスのヤツ派手に暴れたな~~。」
ヤムチャ「女湯かあ。あいつらが羨ましいぜ…。」
天津飯「ヤムチャ。お前は何を言ってるんだ?」
ピッコロ「理由はくだらんが、修行をすることは良い心掛けだ。」
ベジータ「トランクス、カカロットのガキに負けたら許さんぞ。」
悟空「次回DragonballVivid「迫る日に向けて、悟天とトランクスの猛特訓!」」
悟飯「普段から真面目に修行すればいいのに……。」