「くっそー!まだこれくらいしか浮かべないのかよ~~。」
悟天への勝利に向けて修行の日々を積み重ねるトランクスは舞空術の訓練を行っていた。
この世界に訪れて以来、気の半滅が原因で上手く自身の実力を出し切れずにいる――前回の戦いはそれを象徴させるかのような結果なのだ。
元々トランクス自身の性格も重なっているが恐らく本来の実力を発揮出来れば性格によるマイナス要因をカバー要素としては充分すぎる。
「でも、昨日よりほんの少しだけ気のコントロールができるようになったし、このまま修行を続けてれば元の状態まで戻れるかもしれないぞ!」
確実に彼の実力は本領を取り戻しつつあるのだ、本格的な戦闘が可能になる日は近い。その時は悟天も本領を取り戻している可能性はあるが。
「…空を飛ぶ術自体が高度な技だと思いますが。」
「そう? それにしてもアインハルトちゃんの部屋ってトレーニング道具がいっぱいあるね。」
現在、トランクスはアインハルトの自宅でトレーニングを行っていたのだ。だがトランクスは当初アインハルトの部屋に訪れて驚いた事が一つ。
それはトレーニング道具が大量に置かれていた事、ごく普通の女子部屋とはかけ離れた大量のトレーニング道具は女性らしさを感じさせないのだ。
アインハルトにとって格闘とは趣味でも無く遊びでも無い、生きる意味と同意義。それをある種の形として表現した結果ではあるのだが――。
「…いけませんか?」
「いや、そういうわけじゃないけど…女の子なんだからぬいぐるみとか置いてあってもいいんじゃないかなって…。」
「……私には必要ありません。」
女子部屋の定番とも呼べるぬいぐるみの存在は無い、本人が必要としていないからこその結果なのだろう。元々ぬいぐるみが無くても生活するうえでは問題ない。
だがトランクスは腑に落ちずアインハルトの回答に不満を感じていた、言葉に言い表しにくい感情に対してどう言えばいいのかと言葉に迷う。
「え、え~と…あ、そうだ!修行に便利なアイテムを持ってるんだけど、アインハルトちゃんにも見せてあげよっか?」
「便利なアイテム…? ……そうですね、興味はあります。」
気まずい空気が流れている事に気付いたトランクスはすぐに話題を変える言葉を振る。ごく普通の言葉ではアインハルトは吊られない、これは彼女と生活する日々を重ねた上で知った事だ。
格闘に関連しない物に対してはあまりにも無関心すぎる。ぬいぐるみもその一部であり、少々窮屈な思考であるとトランクスは感じていた。
「オッケー! じゃあ、先に外に出て待ってて。」
「……わかりました。」
自宅から玄関へ、靴を履けば外に足を踏み入れるアインハルト。内心では外に出てほしいという言葉に動揺を覚えていた。
何故なら殆どのトレーニング道具は自宅に用意してしまっているのだ。修行に関るトレーニング道具などアインハルトにとっては今更な気がしてならない。
――――だが彼が用意するトレーニング道具は画期的だった。
「お待たせー!じゃ、ちょっと離れててね。それっ!」
「…っ!? これは……。」
自宅の庭に出たアインハルトが目の当たりにしたのは長方形型の装置。これだけなら驚くに値しないがアインハルトが驚いた要因として一つ。
トランクスはこの装置を設置する前に小型カプセルを投げているのだ、親指と人差し指だけで持てる程のカプセルから装置は唐突に出現した。
「じゃじゃーん、ママが作ってくれた小型版重力発生装置だよ。それで、ここをポチッと押せば…。」
「重力発生装置…!? ぐ、ぅっ……!!」
名称を察するに惑星全体に例外なく作用する重量に対して何らかの効果があるのだろう、それは明白だ。
だがトランクスが遊び半分で押したボタンでアインハルトは地に這い蹲らせる結果を生み出す事となる。急激な圧力がアインハルトとトランクスに圧し掛かったのだ。
それは奥深く水の中に潜れば誰もが必ず感じる圧力。それと似た感覚が二人の全身へと押し付けられアインハルトは立てる事が出来ずに体を地面に激痛と共に叩き付けられてしまう。
「ここから数メートルの範囲なら重力を自由に発生できる…ってアインハルトちゃん!?」
「っ、これが重力ですか……ッ。」
アインハルトは眼前で平然と立ち尽くす相手に驚きを隠せず、動揺を露にしていた。同時に重力発生装置に対しても、話には聞いていたが異文化の技術は侮れない事を叩き付けられる事になってしまう。
数秒だけアインハルトの状態に気付いていないトランクスは彼女の状態を直視して初めて効力を切る。その事によって今まで全身に掛けられていた異常な圧力は瞬時に消え伏せてしまう。
―――そして彼女は理解した事が一つ、あの装置を自身の自宅で使用すれば間違いなく部屋が崩壊してしまうだろう。トレーニング道具やベッド、ガラスが押し潰されるのは目に見える。
「ご、ごめん……大丈夫?」
「……はい、問題ありません。」
トランクス自身に悪気は無い、アインハルトの反応は予想外だったのだ。彼は幾度と無く当たり前のように重力装置を使って訓練を繰り返していた為に彼女へと配慮が欠ける結果となってしまった。
罪悪感に苛まれながら手を差し出し彼女はその手を掴む。生暖かい感触が伝わってくると同時に立ち上がればトランクスは謝罪する。
「よかった、本当にごめんね。すぐに片付けるから…。」
「いえ…その必要はありません。」
「えっ!? それってどういうこと?」
片付けようと伸ばす筈の手は伸びる事は無く、否定の言葉に動揺を表す。
「トランクスさんと私の実力の差が縮まらないのは修行のやり方が違う事も関係していると思います。
恐らくあの強力な圧力に浴びているだけで体は鍛えられる筈…少なくとも立てるぐらいにはなれるかと。……暫く貸してもらえませんか?」
「……わかった、その代わりそれを使うときはオレがいる時だけだからね。アインハルトちゃんは女の子なんだし、無茶してカラダ壊したら元も子もないから。」
「わかりました。…そんなことはないと思いますが、ありがとうございます。」
完璧に納得したわけではない、アインハルトは内心腑に落ちないが承諾故に回答を口にする。
―――こうして二人は決闘に向けての修行の日々を確実に進めているのであった。
その頃、ヴィヴィオと悟天はアインハルト達との対決に向けて同じように特訓を繰り返しており修行の毎日を重ねている。
ヴィヴィオの自宅周辺に広がる庭が彼等の修行場となっており、今も修行を続けているのであった。
悟天は気が半滅した事による影響でトランクス同様に実力を発揮できる訓練、ヴィヴィオは今の実力よりも更に上の実力を身に付けるため。それぞれ目的に応じた練習を行っている。
「ヴィヴィオちゃん、ちょっと手伝ってーー!!」
「どうしたの悟天くん?」
だが唐突にヴィヴィオを呼びかける声によって修行は一時中断、悟天の方へと振り返った彼女の瞳は点となっていた。
「ここからボクに石を投げてよ。」
「い、石……?」
発言はヴィヴィオの予想斜め上、きょとんとした唖然の表情を浮かべるヴィヴィオの真意を悟天が理解する事は難しい。
彼の言う通りに周りに置かれた小さな石を片手で掴み取ったヴィヴィオは悟天へと狙いを定める―――。
「ええいっ!」
ヴィヴィオは何処か遠慮がちに投げていた、理由がわからない悟天への発言からくる戸惑いが彼女の力を弱めているのだ。
だがそれでも体に命中すれば怪我を負う事は間違いない。彼女が遠慮がちに投げた小石は手加減が入っていても充分な速度と威力を持つ。
「ヴィヴィオちゃん、もっと速く投げてくれないと修行にならないよ…。」
「えっ、そ、そうなの……?」
余計に増した戸惑いに満ちた声を漏らすヴィヴィオ、だがよく考えてみれば彼は自身より実力は明らかに上。それは温泉時の事件によって一通りの戦闘力を目にしている。
悟天は投げられた石を片手で容易に受け止め不満を口に出す。恐らくヴィヴィオが本気で小石程度を投げてもビクともしないだろう。それは安易に思い付く取るに足らない誰でも理解出来る思考、単純に明快に彼の方が強い。
そしてもう一度、小さな兎のぬいぐるみが取った小石を受け取るヴィヴィオの手には加減など一切入らない。彼女本来の実力を出した高速の一発が飛来する――!
「よっと!」
再び軽々と小石を受け止める悟天、ヴィヴィオは未だに彼の真意を見抜く事は出来ない。修行という言葉が彼の行動を理解するヒントであったとしても理解する事は出来ずにいる。
「これがヴィヴィオちゃんの本気なの? それならこの辺から投げてよ。」
「うう~……!」
ヴィヴィオ自身、こうなる結果は見据えていた。だがそれでも不満を抱かずにはいられない、悟天の悪意のない挑発的発言は火に油を注ぐ行為に等しいのだ。
指摘した位置は悟天とは近距離に値する位置であって同時に其処から小石を投げ付ければ必ず命中するであろう位置、馬鹿にされたと感じるヴィヴィオは内心腹を立てていた。
「だったら………。」
故に彼女は愛用のぬいぐるみを手に取る。発生するのは巨大な発光体―――。
「わたしの本当の実力を見せてあげる!セイクリッド・ハート…セーットアーップ!!」
「え…?」
少女に纏わり付く発光体は姿を消す、同時に変わり果てたヴィヴィオの姿を悟天は目視する。あどけなさが残る幼い顔立ちから一変した凛々しく逞しい姿。
彼女の面影が残された金色の髪とオッドアイの瞳を持つ大人の姿。右サイドに束ねられた金色の髪と先程までの衣装とは違う戦闘防護服(バリアジャケット)。
「うわあっ!? ヴィヴィオちゃんが大きくなっちゃった…。」
「あ……そういえば悟天くんにこの姿を見せるの初めてだっけ…?」
負けず嫌いな面から来る感情と苛立ち、様々な物が綯い交ぜとなり複雑な心境を抱くヴィヴィオ。だが実は悟天にこの姿を見せるのは初めてだ。
何処か拍子抜けな声を漏らしながらヴィヴィオは自身の姿をどう説明しようか言葉に迷いながら思考する。
「その、これには色々事情があって……えっと魔法を使ったら大人になるの!」
「そうなの? いいな~ボクも大人になってみたいなぁ。」
「けど、悟天くんには魔力がないから……。」
「あ、そっか…。魔力は気と違うんだっけ。」
「気がどんな物かわからないけど、多分違うと思うよ…?」
「えっ!? ヴィヴィオちゃん、気を知らないの?」
かくんと首を傾げるヴィヴィオに不思議そうに見据える悟天、やがて話の論点がズレていく事に気付いたヴィヴィオは腰を屈めて。
「そ、それより修行に戻ろうよ。まずはわたしからだっけ…えいっ!!」
話題を変える為、ヴィヴィオは付近の石を拾い取り再び悟天へと投げ付ける。その速度は先程の物と比べ物にならない程に速い。一般人の肉眼では目視する事すら難しいだろう。
何より変身前のヴィヴィオと変身後の彼女との違いは衣装もあるが大人になった事が一番に大きい。子供と大人の差、筋力等が変身前と比べて格段にパワーアップしているのだ。
「わああぁぁっ!?」
「すごいっ!この距離で避けるなんて……それなら!」
それを象徴させたかのような一撃が近距離で叫び声を上げる悟天へと投げられた、距離上の問題から避ける事すら困難だが悟天はなんとか危機一髪の回避に成功する。
だが次に悟天が目視したのは「小石」。更に続けて視界に入り込む石、石石石、僅かな時間の間にありえない速度で移動する石を次々と悟天は避け続けていく。
「わっ!?ストップ! ストップしてヴィヴィオちゃん!!」
「すごいすごい!それじゃあ、どんどん行くねー!!」
ヴィヴィオは強い者と戦う行為を好む傾向がある、その強い者が悟天に当てはまってしまっていたのだ―――周りが見えずにいるヴィヴィオは次から次へと石を投げ続ける。
「わわわっ!?(投げる石のスピードが速くなってきている…。)」
一般人でもなければこの世界の住人でもない悟天は、幾度となくヴィヴィオからの石の猛攻を避け続けていく。
しかし近距離からの連続攻撃は悟天を徐々に追い込んでいた。悟天の体の動き…即ち避けるパターン、手順が彼女の脳内に記憶され攻撃に反映されていったのだった。
「…修行まだ続けてるみたいだね、ヴィヴィオも結構本気を出してるみたいだけど……。」
「う、うん…そうだね。」
ヴィヴィオと悟天との戦闘を窓際から静観し続ける二人、なのはとフェイトは手を出す事もなくそのまま見守り続けていたが――ヴィヴィオの行動がエスカレートしていき彼女達は目を凝らす。。
「なんだかちょっとヴィヴィオがやりすぎかな…。」
「そうだね、あのままじゃ悟天が怪我をするかもしれないから……止めてくる!」
「えっ、フェイトちゃんまって…!!」
走り出す、金色の髪を風に乗せてフェイトは突然足を動かした。唐突な行動故に一歩出遅れた反応と共になのはも先のフェイトを追いかける。
なのはとフェイトの目からして二人の修行は非常に危ない物であると互いが共通して感じつつあった。目標付近で石を何度も投げる行為は目に余る光景なのだ。
「ヴィヴィオ!少しやりすぎだよ。」
「悟天くん、怪我はない?」
「わっ、フェイトママ……!?」
「助かった~…ボクは大丈夫だよ。」
悟天を遮るように乱入するフェイトを目視で捉えると同時にヴィヴィオの手は静止する、未だに石を掴んだまま驚きの表情を浮かべていた。
一方でなのははゆっくりと相手に近付いていけば悟天の様子を確認して口を動かす。一安心付いたような落ち着いた顔色である。
「特訓のつもりかもしれないけど…今みたいに本気でやってたら悟天が怪我をするよ。」
「そ、そっか……ごめんね悟天くん。」
「気にしないで。それより、組手やろうよ。」
「組手……?うん、やる!」
思いもよらぬ言葉を発する相手に小首を曲げるフェイトは会話の内容が理解出来ない。故にこれからの展開もまた予想する事が彼女にはできなかった。それは同様になのはにも言える事だろう。
「フェイトちゃん、どうする?」
「組手で怪我をするかもしれないから…私は二人を見張ってるかな。」
「にゃはは…そうだね、わたしも二人を見ておくよ。」
「「はああっ!!!」」
やがて始まる戦闘、ヴィヴィオと悟天がぶつかりあう瞬間を二人は目を凝らして傍観し続ける事となる。修行の成果を発揮する為に、それぞれの決闘が刻々と近付いていた。
悟空「オッス!オラ悟空!! 二人とも真面目に修業してるみてえだな。会う時が楽しみだぞ。」
ピッコロ「流石に今回はふざけたりはしないだろう。」
ベジータ「ふん、トランクスめ…。勝手にカプセルを持ち出した事はブルマに黙っておいてやる。」
悟空「次回DragonballVivid「本気の勝負だ! 悟天、ヴィヴィオVSトランクス、アインハルト」」
悟飯「あの二人が本気で戦ったら、ただじゃすまないだろうなぁ。」