~きつねうどんVSマトンカレー~女体化転生ダークエルフは巻き込まないで欲しい 作:氷水メルク
わたしは忘れていた。
エルフが攻めてくることを。
相手が群であることを。
頭のどこかであっちから攻めてくることを懸念していた。
ミリアが数歩後ずさる。
「ターメリック……マトン……カリー……」
「めっちゃ美味そうな名前してんなぁ! はっ? つーか何? それあいつの本名?」
「私の名を呼ぶな。穢れる」
「マジで本名なの? カレー好きってレベルじゃねぇだろおい!」
ハルナのツッコミは置いておくとして。
心底嫌そうな顔で吐き捨てるターメリック。
メンマがわたしとミリアの腕を掴んで下がらせる。
自分もある程度エルフから距離を取ると、竹槍を取り出し矛先をターメリックに向けた。
「あいつ、どんなエルフなのでありますか!!」
ミリアはターメリックから後ずさりしながら答えた。
「エルフの副族長よ。目の前でマトンカレー以外のカレーを食べようとしたエルフを粛清したって噂があるわ」
「なんでだよ! ターメリックなのかマトンなのかはっきりしろよ!」
ターメリックが手を振り下ろすのを合図に始まる銃撃戦。
ダークエルフの反応速度はエルフを優に超えている。
わたしたちは誰ひとりとして欠けることなく木の裏に隠れた。
銃弾飛び交う場所だというのに、あのターメリックはそのど真ん中で演説する。
「世の中マトンカレーこそが正義だ。ビーフもチキンも邪道。マトンカレー以外を食べる奴は私がこの手で何度も処刑してきた」
「それただ単にお前の心の狭さ主張してるだけだからな! 拘りアピールでも何でもないからな!?」
「さっきからうるさいぞ、心無き屍風情にこの思いが分かるものか!」
「分かって溜まるかよ! この世界中探してそれ分かんのお前だけだわ!」
どれほど心苦しかったのかを訴えるかのように、ターメリックの頬に涙の線が走っていった。
ターメリックは握りしめた拳をぶるぶると震わせて、大気を震わすほどの声量で叫ぶ。
「だがお前はそれですらないライス! その行い、神やガーリックが許しても私だけは絶対に許さない!! 万死に値する!」
「んな心強く言い放つ台詞じゃねぇから! それもっと憎き宿敵に言う言葉だから!」
理解できなくても理解する。
例え自分に何ひとつ非が無くても謝罪しないといけない時がある。
これらと同じ、社会の常識よ。
受け容れにくくても、社会のために受け入れなきゃいけないのよ。
つまりターメリックの言っていることは、エルフにとっての常識なのよ。
なおもターメリックは叫び続ける。。
「出てこいミリア! さもなくばダークエルフを巻き込むことだけは許してやろう」
「説得力ねぇよ既に!」
森が荒れる。双方の銃弾で。ダークエルフの手榴弾で。自然が壊れていく。
そのたびにエルフとダークエルフは互いに苦し気な表情を晒していた。
高校男児くらいのエルフを鎮圧させたメンマが筆頭に叫ぶ。
「ふざけるなであります!! ダークエルフの領地に踏み込み、危害まで加えた!! そんな要求が通るわけ無いであります!!」
「そうだ! ミリアちゃんはエルフなのに俺たちの輪に馴染もうとした!」
「最初こそ嫌なエルフだと思っていたけど、ミリアちゃんは変わったんだ!」
ダークエルフたちの士気が高まっていく。
今のミリアはダークエルフの仲間だと認定されているらしい。
最初こそ不意を突かれたけど地の利はこちらにある。
しかしなおも、ターメリックは両手を振り上げて盛大に宣言する。
「……ならば、最大の幸福を与えてやろう!」
空間が軋む。地鳴りが轟く。ターメリックの背後に波紋が広がる。
これは魔力。
ターメリックは魔力のみで地球とこの世界を繋げている。
理論上できなくはない。
同じような現象が起きて、こちらの世界にも銃が流れ着く。
けれどこれを一個人で。
十門のゲート。
ターメリックの背後に開かれているのを現す言葉があるとすればそれである。
しかし驚くのはそれだけじゃない。
ゲートからこちらを覗く見覚えのある衣装を着た存在がいた。
ひとつとして例外は無く、みな一斉に窓からこちらに向かって手を振りかざしている。
「フハハハハ! これが私の力、ゲート・オープン・ナンスロー!」
投げられた物体。
それは平べったい布団叩きのような形をしていて。
蒸気機関車の如き湯気が出るほど熱々で。
若干の焼き跡が残る黄土色の島。
見間違うはずもない。
それは正しく。
「ナンじゃねぇーか!」
ハルナが真っ先に叫んでいた。
ナンの直球ストレート。ナンの急速カーブ。ナンのスライダー。
幾重にも球種が変化する魔球ナン。
しかもインド風のおっちゃんがゲートからひょっこり顔を出してナンを投げてくる。
「クッソ、こいつナンだと。なんつー武器を!」
「ダークエルフの弱点を突いてくる武器を持ちだすとはなんたる下劣であります!!」
「もう絶対に許さない!! ナンを飛ばしてくるなんて! あんた本当に最低よっ! ダークエルフをなんだと思ってるの!!」
「お前らこそ何なんだよ! 何ちょっと毒ガス兵器持ち込んできたよこいつらみたいな反応してんの!? どこまでいってもそれナンでしかないからな!」
銃弾が飛び交い、ナンの駆け抜ける戦場。
ハルナの痛烈なツッコミが木霊していた。
普通にかき消されていたけど。
ターメリックは両腕を広げて高らかに宣告する。
「戦いというのはノリの良い方が勝つのだ!」
「そっち行ったであります!!」
メンマの言葉でハッと我に返ったわたしは、飛んできたナンをナイフで両断する。
勢いの落ちたナンが偶然にも近くにいたダークエルフに当たってしまう。
するとナンを当てられたダークエルフは苦しそうにお腹を押さえて蹲った。
「フハハハハ!! 我がゲート・オープン・ナンスローから放たれた数千度にも達するナンは、当てられた者の胃へ強制的に転移する! 貴様らは強制的にナンを身体に入れる破目となるのだ!」
「無駄に凶悪だなおい! 消化する前に死ぬだろそこまで行くと!」
「クッ、なんたる屈辱! ナンを身体に入れるくらいなら!」
「くっそ、こっちに来るな下賎なダークエルフ共が! こっちにまでナンが」
「ターメリック様おやめください! 味方まで巻き込むつもりですか――」
なんでか知らないけどあのナン味方すら巻き込んでいるわ。
恐らくあれね。本人は強いから全部ひとりで片づけられると思い込んでいるタイプね。
あれと一緒の村に居たというなら、ミリアが社交性の無い子に育ったのも頷けるかも。
ミリアがダークエルフたちにターメリックの武器の解説してくれる。
「あいつの攻撃はかなり凶悪よ。その見た目から一時期何でナン? とか言われていたわ。けどそのすべてを、あいつはナンで黙らせてきた」
「いや黙るなよ! どこまで凶悪でもナンであることに変わりねぇだろうが! 疑問を呈し続けろよ!」
「これも全てナンへの愛が為せるわざ。憎きライスに天誅を下す技だ!」
「愛が為した結果ナン投げ捨ててんじゃねぇか!」
この緊迫とした中、良くハルナはツッコミに徹することができるわね。
少しは手伝ってくれないのかしら。
ハルナってば、ほとんと動いていないのにナンを避けているのどうかしているわ。
ともあれ先に取り巻きを片付けるのが先決ね。
わたしは足に力を込める。エルフの集団まで飛ぶために。
狙いを定める。
一足で飛ぼうとして、
「お前のその神装には気を付けろと、ガーリック様は仰っている。簡単に部下たちをやらせはしない!」
わたし目掛けて大量のナンが飛来する。
「お前らさ、職人のプライドとかさ。なんか無いわけ?」
「無駄だ。こちらの言語があちらの世界に通じるものか。それに、投げたナンの数によって私から給金が出る! 分かるか? 当てた数ではなく投げた数だ!」
「……羨ましいわ」
「職人それで良いのかよ! そしてキリシマ、お前は羨ましがるな!」
結果が出ずとも過程で賃金を得られるのよ?
羨ましい以外なにものでもないじゃない。
わたしはカグツチの炎を槍上にしてターメリック目掛けて投げ放つ。
しかしターメリックの放ったナンはカグツチの炎を吸収して飛んでくる。
「神装の力を引き出せていない状態で、私のナンに敵うものか!」
「今更少年漫画風の台詞吐いても遅いだろ! ってかこいつ、神装知ってんのかよ。……となるとやっぱりあいつ」
ミリアはわたしとターメリックが繰りなす攻防を縫うように撃ってくる。
ミリアへと向けられるゲート。
それよりも先に。
わたしはターメリックに斬りかかる。
やだ、このナン縮地してくるわ。見えない!
ターメリックが嘲笑う。
「エルフがダークエルフの文化に馴染めるわけないだろうに」
ナンが一斉にミリアへと向かって行く。
傘は閉じたまま。あれでは防ぐことができない。
着弾まで残り数秒。
けれどわたしを含めてみんなも間に合わない。
その瞬間、ナンの着弾する音が辺りに響いていった。
ターメリックが驚愕に目を引ん剝いた。
「私は自由になるのよ。そのためなら馴染んでやるわ!」
「あづっっっ!! いぐっっ!! お腹が!! お腹が!! や、焼けるように痛いであります!! し、しかし、美少女エルフに盾にされた思いと攻撃された感動が合わさって!! 不肖メンマ!! 感激で――」
「「メンマぁぁぁぁ!!」」
わたしとハルナが同時に叫んだ。
多分、お互いに頭にあること違うと思うけど。
ミリアがメンマを盾にしていた。
その光景にお腹を押さえて地面に転がるダークエルフたちが感激の言葉を漏らす。
「確かにあいつならすぐピンピンする! 考えたな!」
「メンマを盾にできるほど、エルフはダークエルフに歩み寄れるのか」
「いいぞぉメンマ! その調子で食いつくしてやれ!!」
「それで良いのかメンマの扱い!?」
良いと思うわ。
当然のように公然猥褻している子だもの。
それに神の炎、カグツチを受けてすぐにピンピンしている子よ?
たかが数千度の熱を持つナン程度にやられるほど柔じゃないわ。
メンマは投げ捨てられると同時に、その場に崩れ落ちた。
「知らないでしょうけどね。ダークエルフってみんな、明るくて、優しくて、エルフの私も受け入れてくれたわ。見ず知らずなのにも関わらず!」
「メンマ盾にしながら言う台詞じゃねぇーよ!」
……もしかして多様性を受け止められないわたしって社会不適合者なのかしら。
もう一度、我が身を見直さなくちゃ。
ミリアの手にあるのは極限まで魔力を溜めた和傘。
わたしとの修行の時に見せた、虹色の燐光。
「少しの違いも受け入れてくれないエルフとは大違いよ!」
ミリアの収束された破壊光線は何重にも連なったナンを貫き、ターメリックへと突き進む。
ターメリックも負けじと砲門を向けた。
「せめて醜く、そして美しく死ねっ! はっ、今日は店じまい? 待て待て! 金なら払うから投げろ! 業務用でも良いから! はっ? 職人のプライドだと!?」
「散々投げ捨てていた奴らが職人のプライドを語るなよ……」
ターメリックは虹の光線に包まれた。
反対にミリアの腕から力が抜けていく。
それと。
わたしはターメリックが飛ばされた方に目線をやる。
そこでは未だ健在で必死に起き上がろうとするターメリックの姿があった。
「わたしとしては降伏をお勧めしたいのだけど」
「舐めるなよ! 私はまだ!」
インド風のおっちゃんがナンを作るときに使用する道具をわたしに投げてきた。
飛んでくる道具。
わたしは思わず目を開く。
「遅いわね」
ぺしっとわたしは飛んできた道具を叩いて落とした。
木を背にするターメリックが目を逸らす。
「ど、どうやら私の攻撃はナンにしか効果が無いらしい」
「そうね」
「まっ、待てッ! 話せば分か――」
わたしはナイフでターメリックの意識を狩る。
無念の表情でその場に崩れ落ちるターメリック。
残念だけどターメリック。
話せば分かるって言って死んだ人、二人くらい地球にいるのよ。
空間の綻びは元に戻っていく。
ゲートが自然に閉じていく。
わたしはターメリックを縄で縛り付け、ダークエルフみんなの治療に走る。
ただ汗を搔いた様子もないハルナだけが、空を仰いで呟いた。
「……何でナン」
「言ってないで手伝ってくれないかしら?」
誰だよ! エルフの中ボスの武器に熱々のナンを指定してきたの!
ほんとはダークファンタジー張りに血で血を洗うような、緊張感が場を支配するような戦闘にしたかったのに、絵面で台無しだよ!
ターメリック・マトン・カリー
種族:エルフ
性別:女
何度も書くが女性です。
マトンカレーをこよなく愛しており、目の前で別のカレーを食べようものならマトンカレーで粛清されます。
夢はマトンカレーの風呂に入ること。
どこかのCV子安な黄色いカエルかな?
ノベルAIで参考までに描いてみました。
もうどこの種族なのか分かんねぇな、これ。
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