「ひなちゃんはどうしてうちの高校に入ったの?」
「え!?」
少しばかりドタバタしてしまった昼食も無事に終わり、食後の紅茶を淹れながらまゆちゃんが私に質問してくる。まさかこのタイミングで来るとは思わず、声を漏らして驚いてしまった。くーちゃんも興味があるのか、ジッとこちらを見ている。
(どうしよう、どこから説明したら……)
「え、えっと……田舎でかかしをしていた時に――」
「――え、かかし!? かかしってあの畑に立ってるお人形のこと!?」
「かかしってどんなことするんですか!?」
「え、あ、そ、の……」
とにかく最初から説明しようと田舎でかかしをすることになったきっかけを話そうと思ったのだが、『かかし』という単語が予想外だったのか、二人は怒濤の勢いで問いかけてくる。グイグイと迫ってくる二人の勢いに押され、出かかっていた言葉を飲みこんでしまい、いつものオーバーヒートを起こしてしまった。
「……」
「あ、固まっちゃいましたね」
「本当にかかしみたい」
『ほら、ひな子。二人が困っているぞ』
「はっ」
彼の声が聞こえ、停止していた思考が再起動する。気づけばくーちゃんもまゆちゃんも心配そうに私を見つめていた。
「あ、ご、ごめん……この通り、あがり症ですぐにかかしみたいに固まっちゃうの」
ため息混じりにそう告げるとポンポンと右肩を誰かに叩かれる。そちらを見れば昼食だから遠慮して離れていた小鳥――鳥太郎が慰めるように肩に留まっていた。ありがとう、鳥太郎。ほら、定位置の頭の上に移動していいよ。
「でも、学校見学で藤宮高の演劇部の劇を観て、堂々とした役者さんの演技に感動したんです」
今でも思い出す。スポットライトを浴びて私と違って恥ずかしがることもせず、胸を張って演技をする役者さんたちの姿。それを見て私は――。
「――それで、
「おぉ、素敵です! それってどんな劇なんですか? 私も知ってる話ですかね?」
「ううん、知らないよ」
くーちゃんの言葉に私は即座に首を横に振った。くーちゃんが今までどんな物語を読んだのか知らないけど、これだけは断言できる。
「くーちゃん、たくさん本を読んでるけど……」
「それでも絶対に知らないの。だって、私が見る……夢のお話だから」
知らないと即答した私にまゆちゃんは少しばかり訝しげな表情を浮かべながら食い下がるが、それでも私は言い切った。たとえ、彼が何か言いたげにしていたとしてもこれだけは譲れない、私の叶えたい夢。
「ひなちゃんの夢の話……とっても気になります! どんな夢なんですか?」
――それでも……俺は、間違えてなどいなかった。
「……正義の味方に憧れる男の子の話、かな」
「つまり、ヒーロー物! これは劇で戦闘シーンがあると盛り上がりそうですね!」
「そうだね」
ワクワクした様子で知らない物語に思いを馳せるくーちゃんに私は笑みを浮かべて頷いた。
ちゃんと笑えているだろうか。
声は震えていなかっただろうか。
『ヒーロー物』と呼ぶにはあまりに救いのない彼の結末を思い出す度、私の胸は張り裂けそうになる。
でも、だからこそ、私は遺しておきたかった。
たとえ、
『遺しておくほどのものではないのだがね』
今まで何度か止めようとした彼は私の顔を見てため息交じりに呟く。そして、そのまま気配が遠くなっていった。周辺の散策にでも出かけたのだろう。
「でも、ロマンチックよね。夢に出てきた男の子の話を劇でやるなんて」
「そもそも夢ってすぐに忘れてしまいますけど、覚えてるものなんですか?」
「うん、何度も見てるから」
「おぉー」
何故か、くーちゃんとまゆちゃんは目をキラキラさせて私を見つめている。くーちゃんは本の虫みたいなので物語と聞いて興味津々で、まゆちゃんはお姫様に憧れているらしいのでロマンチックなことに弱いのかもしれない。
「だから、まずは演劇ってどんなものかやってみたいなって」
「じゃあ、ひなちゃんは演劇部に入るんだね。うちの高校は名門だし」
「うん! 演劇のことを勉強して、ついでってわけじゃないんだけど人前で演技ができるようになればこのあがり症も直せそうだし」
そして、あわよくば友達とかもたくさん作りたい。私にとって叶えたい夢を実現させる方法が演劇だったのだ。
「頑張ってください! 応援します!」
「あ、ありがとう! 私、頑張るね!」
「はい! まぁ……演劇部は去年で廃部になりましたけど」
「……へ?」
私の両手を掴んで応援してくれたくーちゃんの漏らした現実に私は声を漏らしてしまう。
(演劇部が、廃部? じゃあ、私は何のためにここに?)
夢を叶えるために上京してきたが、その始まりは決して順調というわけにはいかないようだ。