「うわぁ……」
くーちゃんとまゆちゃんの案内で辿り着いた公園は想像以上に大きくて自然が豊かなところだった。春とはいえ、まだ肌寒く、まゆちゃんはメイド服を着ているので防寒具としてアウターケープを羽織っている。因みにアウターケープを見るのは初めてだったのでアーチャーさんに念話でこっそり教えてもらった。
「この角を曲がって……って、くーちゃん、そっちじゃない!」
公園の案内をしている途中でくーちゃんがふらふらと焼き芋屋さんに引き寄せられてしまう。まゆちゃんは慌てて呼び止めるけど、聞こえていないようでくーちゃんはそのまま行ってしまった。
「もー、すぐ迷子になろうとするー」
「ふふっ、まゆちゃん、お姉さんみたいだね」
仕方なさそうにくーちゃんを見つめるまゆちゃんがお姉さんっぽかったので思わず笑ってしまった。きっと、これまでも同じようなことがあったのだろう。その度にああやって世話を焼いている姿が目に浮かぶ。
「お姉さん……ま、まったく! くーちゃんは私がいないとダメなんだから! 待ってて、
私の言葉に目をキラキラさせたまゆちゃんはニコニコ笑いながら焼き芋屋さんに向かっていく。くーちゃんもくーちゃんだが、まゆちゃんもまゆちゃんである。
『君も大概だがな』
『アーチャーさん!! 焼き芋あげないよ!』
『きっと、私の分も隣でヨダレを垂らしている狼が食べてしまうだろうさ』
足をプルプルさせながら背伸びしつつ、焼き芋を買っているまゆちゃんを見ているとアーチャーさんが意地悪を言ってきたので言い返したが簡単にやり過ごされてしまう。確かにくーちゃんは何でも食べてしまいそうである。実際、本も食べていたし。
「はい、どうぞ!」
(可愛いなぁ……)
おまけもしてもらったのか、嬉しそうに焼き芋を差し出すまゆちゃんに自然と頬が緩んでしまう。頭の上にいる鳥太郎も同意するように小さく『ピッ』と鳴いた。
焼き芋を食べ終わり、私たちは公園の散策を本会的に開始する。道はきちんと塗装させており、犬を散歩させている人や部活帰りなのか制服姿で楽しそうに笑っている学生たちが思い思いに過ごしていた。
「カモ見てもいいですか?」
「え、カモ?」
そんな人たちを観察しながら公園を歩いていると不意にくーちゃんが池を指さしながら立ち止まる。そのままくーちゃんと一緒に池を覗き込むと数羽のカモが気持ちよさそうに池を泳いでいた。
「可愛いねー。くーちゃんはカモ好きなの?」
「はい! 特に水を切る時がステルス戦闘機みたいで恰好いいです!」
「すて?」
『ステルス戦闘機。レーダーに探知されにくい機体のことだ。実際にはレーダーに捕らえられているが電波の反射が少なすぎて飛行機と認識されない戦闘機なのだが、機体の形を――』
『ふーん』
たまに変なところで火のついてしまうアーチャーさんの解説を適当に聞き流しながら私はくーちゃんから離れ、近くのベンチに座っているまゆちゃんのところまで移動する。私が近づいてきていることに気づいた彼女はポンポンとベンチを叩き、隣に座るように誘導してくれた。
「どう? いいところでしょ?」
「うん、緑が多くて田舎の森を思い出したよ」
お言葉に甘えて隣に座るとまゆちゃんは楽しそうに聞いてきたので頷く。都会にもこんな場所があるとは思わなかったのでいい意味で驚いた。
「少し落ち込んでたんだけど元気になったよ! ありがとう!」
「よかった、ホームシックは治ったみたいだね?」
「え? ホームシック?」
『どうやら、彼女たちはホームシックで落ち込んでいる君を元気づけようとここに連れてきてくれたようだな』
いつの間にかステルス戦闘機の解説を終えていたアーチャーさんの言葉にハッとする。やっぱり、くーちゃんもまゆちゃんもとってもいい子たちである。最初、下宿先に他の人たちが住んでいると聞いた時、不安だったが二人が一緒に住んでくれるのならむしろ大歓迎だ。
「あれ、あの人たちは?」
その時、池の近くで薄い本を持った人たちがわいわいと何かやっているのに気づく。一言二言言葉を交わした後、集まってその薄い本を指さしながらうんうんと頷き合っている。
「演劇のお稽古みたいだね。この辺りは小劇団が多いから役者の卵とか劇団員の人がよく来るんだ」
「へぇ……」
じゃあ、あの薄い本は台本なのだろうか。演劇をやると決めてアーチャーさんに手伝ってもらいながら色々調べたが、実際に稽古をしているところを見るのは初めてだ。
「かっこいいよね。夢に向かって一直線って感じで」
「……」
隣で笑うまゆちゃんの声が遠くなる。
私の目の前で何度も同じ台詞を言う劇団員の人たち。その姿はまゆちゃんの言う通り、恰好よかった。
(……やっぱり、演劇、やりたい)
確かに私の夢は『
でも、その中で私が選んだのは演劇だった。それは、きっと彼の物語を遺したいという想いと共に演劇に対する憧れがあったことに他ならない。
なら、私は諦めたくない。諦めてはならない。きっと、私が憧れるあの人はこんなことで挫けたりしないのだから。
「あれ、あそこで練習してるのあきちゃんだ」
「へ?」
拳を握りしめ、決意を固めたところで突然、まゆちゃんが立ち上がった。彼女の視線の先にはジャージ姿の女の子がいる。体のラインが出にくいジャージ姿でもわかるほどのスタイルの良さに少し驚いてしまう。
まゆちゃんの声に気づいた彼女はタオルで汗を拭いた後、こちらへ歩いてくる。まゆちゃんの知り合いなので悪い人ではないだろうけれど、やっぱり初めましての人は緊張してしまう。
「こんなところで会うなんて偶然! 何してたの?」
「発声練習……」
まゆちゃんの言葉にその人は短く答えた。あまり表情は動かず、言葉数も少なそう。まゆちゃんの友達ならもう少し社交的だと思ったが、どんな経緯で仲良くなったのだろうか。
「あ、ひなちゃん。こちら、私の同級生で――私たちの家の大家さんです」
「初めまして……ひととせ荘の大家の千秋といいます」
「……えっ」
紹介されたのはまゆちゃんの友達兼私たちの大家さんでした。