見てくださってる方達、お気に入り登録してくださってる方ありがとうございます。これからも頑張るのでよろしくお願いします。
やっぱスパナチュは初期の方のロードムービーみたいな形式が一番面白いな。
黒いコンフォートが、山道を走っていた。
夜霧が濃い。
ヘッドライトに照らされた白い霧が、フロントガラスの向こうでゆっくり流れていく。
木庵は片手でハンドルを握りながら、タバコを咥えていた。
車内へ薄く紫煙が漂い、開いた窓から外へ流れていく。
木庵は灰皿へ灰を落とす。
そして、助手席に置いた資料を一瞥する。
【対象:旧倉橋総合病院】
【怪異等級:下級】
【怪異名称:闇病】
下級怪異だが閉鎖空間で長年放置された廃病院。
そして近年頻発していた、不法侵入による事故。
怪異は“見られる”事で強くなるタイプもいる。
特に闇病はその傾向が強い。
だから本来なら、とっくに祓われていてもおかしくない案件だった。
だが、優先順位の問題で後回しになっていた。
そして今日。営業側から正式に祓いの依頼が来た。
木庵は煙を吐きながらぼやく。
「……面倒くせぇ」
小さく漏らした時だった。
山道を抜けた先。霧の向こうに、廃病院のシルエットが見え始める。
割れた窓に崩れた外壁。黒ずんだ建物。
そして駐車場へ停まっている、一台のワゴン車。
木庵の目が細くなる。知らない車だった。
車を見た瞬間、木庵の額へ青筋が浮いた。
「クソッタレが」
木庵は乱暴にスマホを掴み、即座に電話をかけ始めた。
ーーーーーーーーーーーーーー
同時刻。
中央怪異対策機関・営業部。
デスク上へ並んだモニターの光が、室内を白く照らしていた。
電話の音にPCのキーボードを叩く音が響く。
営業部は夜でも静かに忙しい。
その中央。
白石は報告書へ目を通したまま、小さく眉を下げた。
「……霊感持ちですか」
向かい側では、新人営業が青い顔で立ち尽くしている。
「すみません……人払い結界の張り方が甘くて霊感持ちまで考慮してませんでした…」
声が震えていた。
それを聞いて困ったように息を吐く。
「可能性を考慮しなかった私のミスでもあります」
柔らかい声だった。
それが逆に新人の肩を縮ませる。
「申し訳ありません……」
その時だった。
営業部の扉が勢いよく開く。
「白石部長!」
別の営業部員が、息を切らせながら入ってきた。
「ヤバいです!アイツら生配信始めました!」
「⁉︎ モニターに出して!」
営業の男がPCを操作して、画面を表示した。
白石はそれを見つめたまま、静かに眉を寄せていた。
モニターへ映っているのは、SNSの配信アプリ。
『ガチで幽霊が出る廃病院へ凸してみたwww』
コメント欄は異様な速度で流れている。
営業部員達も、完全に空気が重かった。
「白石部長……」
「これはマズイぞ…」
このままの状態で怪異と遭遇すれば一般人が死ぬ。
しかも最悪なのは、“生配信中”という事だった。
記録が残る。拡散される。切り抜かれる。
営業側からすれば最悪だった。
そして、もう一つの嫌な予感が胸を過ぎる。
「映像処理班へ連絡お願いします。転載、ミラー、保存含めて追って下さい」
「はい!」
「警察側にも根回し。最悪、事故処理になります」
指示を受けた営業部が一斉に動き始めた。
白石のスマホが震える。画面に表示されていたのは、
ー木庵 琉洲ー
最悪のタイミングだった。白石は静かに目を閉じた。
間違いなくキレている。長年の経験で分かる。
「……はい」
『おい白石、どうなってんだ』
怒鳴り散らしたりは無いが、確実に向こうの温度が伝わる。
白石は即座に頭を下げた。
「申し訳ございません」
『知らねぇ車が停まってんぞ』
「……はい」
『どういう事だ』
白石は小さく息を吐く。言い訳は出来ない。
「…こちらのミスで人払いの結界内に一般人が侵入しました」
『白石テメェ…』
「そして、中で生配信をしています…」
木庵の目が細くなる。
『おい冗談だろ?』
「本当に申し訳ございません」
相手は下級怪異。
だが、今回は条件が悪かった。
彼等の恐怖心。
そして、“視線”。運悪く生配信をしている所為で更に多くの人の目に晒される。
闇病は、それらを餌に自身の格を上げていくタイプだ。
『どうなっても知らねーぞ』
「分かっています…」
白石の声は静かだった。
『営業側で後処理は全て行います』
だが、その声の奥には責任感があった。
『ですので、彼らの事をお願いします…』
木庵はしばらく黙る。
それから、小さく舌打ちした。
『まぁいい。祓いはキッチリやってやる』
「よろしくお願いします…」
そう言って木庵は電話を切る。
ーーーーーーーーーーーーー
「――はいどうもぉ!!」
ライトが、暗闇を白く照らした。
「“オカルト探索ch”でぇす!!シンジと!ユウイチにそして」
「ミユキに!」
「ナナでーす!」
茶髪の男――シンジが、カメラへ向かって笑う。
その後ろには、巨大な廃病院。
コメント欄が流れる。
『病院きたwww』
『また心スポかよw』
『今日ガチっぽくね?』
シンジは笑いながら病院へライトを向けた。
「今日はマジでヤバい場所来ました」
後ろでミユキとナナが笑う。
「普通に雰囲気ヤバくない?」
「今日バズれそうじゃん」
コメント欄も盛り上がっている。
『死亡フラグで草』
『絶対やらせ』
『後ろ誰かいた?』
その中で最後尾のユウイチは、一人だけ笑えていなかった。
嫌な汗が止まらない。この病院を見ていると、呼吸が浅くなる。
静かすぎる。山の中なのに風もない。それに虫も鳴いていない。
まるでこの病院だけが、世界から切り離されているみたいだった。
「……なぁ」
ユウイチが小さく言う。
「今日やっぱやめね?」
シンジが笑う。
「ん?何言ってんだ?」
「いや……ここマジでヤバいって」
『ビビってて草』
『前フリうまw』
『じゃあ帰れ帰れw』
シンジはわざとらしく肩を竦めた。
「まぁ本当に幽霊出たら神回確定だろ」
そう言って廃病院の入口へ、足を踏み入れた。
廃病院の中は、外よりずっと寒い。入口を潜った瞬間、空気が変わる。
湿っている。
古い薬品みたいな臭いと、カビ臭さが混ざり合い、喉の奥へじっとり張り付いてくる。
シンジはスマホを構えたまま笑った。
「うわ、普通に雰囲気えぐ」
ライトが暗い受付を照らす。
ひび割れた床。倒れた車椅子。
受付カウンターの奥には、書類が腐って黒く変色していた。
コメント欄が流れる。
『作り込みすげぇ』
『ここガチ感ある』
『後ろの車椅子動いてね?』
「やめてよwwマジ怖いじゃん」
ミユキが笑いながら言う。だが声は少し引き攣っていた。
自分達の声だけが、やけに響く。
ユウイチは入口を何度も振り返っていた。
嫌な感じが消えない。入った瞬間から、ずっと背中が重い。
誰かに見られている。
そんな感覚だけが消えなかった。
「なぁ、もう帰らね?」
再びポツリと漏らす。
シンジが呆れた顔をする。
「だから何怖がってんだよ」
「いや、マジで――」
その時だった。廊下の奥。
カタン、と音がした。
全員が止まる。音のした方向にライトが揺れる。
暗い廊下のその奥。何かがいた気がした。
ミユキが笑いながら言う。
「今の絶対シンジでしょ」
「いや俺じゃねぇって」
『うしろ誰かいたぞ』
『白衣いた』
『ガチで映った』
コメント欄がざわつく。
シンジは笑いながら廊下へライトを向けた。
「やめろってマジで」
白い光が、暗い廊下を照らす。
誰もいない。
……はずだった。
廊下の突き当たり。
一瞬だけ。
白い何かが見えた。
長い髪に白衣を来た俯いてる女。
だが、ライトが当たった瞬間、消える。
空気が止まる。
「……え」
ナナが小さく声を漏らす。
シンジも笑顔が止まっていた。
コメント欄だけが加速する。
『今いた』
『白衣の女いたぞ』
『え、怖』
『やらせならクオリティ高すぎ』
それを見たユウイチの顔色は完全に死んでいた。
呼吸が浅い。喉が締まる。
病院の奥から、何かがこっちを見ている。
そうとしか思えなかった。
「……帰ろう」
今度は本気の声だった。
だがシンジは、逆に興奮していた。
再生数。コメント。同接。
全部が伸びている。
「いや待って、これマジで神回じゃね?」
その時だった。
パチッ。
ライトが一瞬暗くなった。それを見た全員が固まる。
「……は?」
シンジがライトを叩く。幸いにもすぐ戻る。
だが廊下の奥が、何故かさっきより暗い。光が届いていない。
いや。
届いているのに、“見えない”。そこだけ、異様に暗い。
ユウイチが後退る。
「おい……」
喉が震えている。
「なんかいるって」
『奥なんかおる』
『ライト届いてなくね?』
『暗すぎる』
コメント欄がざわつく。
その暗闇がゆっくりと動いた。
ぐちゃり。
湿った音。
壁から、黒い影が剥がれるみたいだった。
細長い腕。異様に長い首。赤黒く濡れた身体。
人間じゃない。
ソレが、廊下の暗闇から這い出してくる。
悲鳴が響いた。
「なにあれッ!!?」
「ヤバいヤバいヤバいヤバい!」
シンジのライトが激しく揺れ、影が動く。
その影が勢いよく、四つ這いで天井を走る。
コメント欄が爆発的に流れ始める。
『え?』
『こっっわ』
『CG!?』
『AIだろ』
『待って無理無理無理』
ユウイチが無意識に後ろへ下がる。
だが、何故かぶつかった。
「……え?」
全員の顔から血の気が引く。入口がない。
さっき通ってきたはずの場所が、壁になっていた。
シンジが笑いながら言う。
「……いやいや、待って待って」
だがその声は震えている。
ミユキが泣き始めた。
「帰れないってどういう事!?」
「歩いてる時に別の場所に来ただけだろ!?」
「でもそのドア、ここに入る時に見たヤツじゃん!」
有り得ない、そんな状況が続きパニックになる。
病院全体の照明が、一瞬だけ点いた。
バチバチッ!!
白い蛍光灯。廊下が照らされる。
そして。
“ソレ”が見えた。
廊下の天井。壁。床。
そこら中に。
黒い人影がいた。何十体も。全員、顔がない。
白い目だけが、光っていた。
再び照明が落ちる。
辺り一面を包む闇。
女の笑い声みたいな音が響いた。
ユウイチの膝が崩れる。
「……ぁ」
息が出来ない。空気が重い。
瘴気。
だが一般人の彼らに、そんな言葉は分からない。
ただ、ジワジワと蝕む感覚だけは身体を通して分かる。
そして廊下の暗闇が、ゆっくりこちらへ近付いてきた。
思わずライトを向ける。
照らしてる筈なのに真っ暗のままだ。光が届いていないんじゃない。
違う。
ライトの光そのものが、飲み込まれている。
シンジの手元でLEDライトが激しく明滅する。
パチ、パチッ、と不安定な音を立てながら、白い光がどんどん弱くなっていく。
「お、おい……」
「ねぇ、どうすんのコレ!」
シンジの声が引き攣る。
隣では、ミユキが半泣きでスマホを握り締めていた。
「なにこれ……なにこれぇ……」
ナナは、完全に呼吸が乱れている。
肩を震わせながら、何度も後ろを振り返っていた。
「帰ろ……もう帰ろって……」
「泣くなよ!入口がねぇんだって!」
出口がない。さっきまであったはずの入口は、灰色の壁へ変わっていた。
窓も開かない。
ガラスの向こうは真っ黒だった。
まるで病院全体が、巨大な箱へ変わってしまったみたいだった。
コメント欄だけが流れ続けている。
『演出やばw』
『クオリティ高すぎ』
『怖すぎて逆に笑う』
『え、これガチ?』
誰も信じていない。
画面の向こう側では、全部“配信”での"演出"扱いだった。
その時だった。
ぐちゃり。
湿った音に全員の視線が止まる。
廊下の壁。
そこから、“何か”が這い出していた。
赤黒い塊は人の形をしているのに、人間じゃない。
顔の半分が潰れた患者。首が折れた看護師。
白衣を着た女。
それらが壁の中から、ゆっくり滲み出るみたいに現れる。
ナナが悲鳴を上げた。
「いやぁぁぁッ!!」
シンジがライトを向ける。
光が当たった瞬間、怪異達が一斉に顔を上げた。
白い目。
そこだけが異様に光っている。
ユウイチの全身から嫌な汗が吹き出す。
「見るな……」
無意識に呟いていた。
「目ぇ合わせるな……」
そして病院の奥で暗闇の中、“何か”が動く。
ぐにゃり、と。
空間そのものが歪むみたいだった。
そして。
廊下の奥から、黒い闇が流れてくる。
液体みたいに光の届かない場所そのものが、這い寄ってくる。
ミユキが泣きながら叫ぶ。
「無理無理無理無理ッ!!」
シンジも完全に顔色を失っていた。
さっきまでの余裕は消えている。
再生数も。コメントも。全部どうでもよかった。
本能だけが叫んでいた。
逃げろ。
ここにいてはいけない。
そう思い、シンジは配信を終了しようと停止ボタンをタップするが何故か反応しない。
何度も何度も試したが配信が終了にならず画面はそのままだ。なのにスマホを自身の正面に向ける。
「いつまで配信なんかしてんの!?早く切ってよ!」
「分かってる!でも、終了押しても反応しねぇんだよ!」
「スマホ向けて何言ってんだよ!」
「知らねぇよ!俺がやってるんじゃねぇって!なんか手が勝手に!」
「意味わかんない!」
空気が更に重くなる。
肺へ泥を流し込まれているみたいだった。
ユウイチが壁へ手を付く。
吐き気がする。頭痛。耳鳴り。
視界の端で、白衣女が笑った気がした。
コメント欄が急加速する。
『おい後ろ後ろ後ろ』
『天井』
『待ってなんかいる』
『今絶対映った』
シンジが震えながらカメラを上へ向ける。
その瞬間。
全員の悲鳴が重なった。
天井に黒い影が張り付いていた。
細長い腕に裂けた口。人間の倍以上はある頭部。
ソレが、逆さまのままこちらを見下ろしている。
ぽたっ。
黒い液体が落ちた。そして続けてベチャッ!と怪異が目の前に落ちてきた。
「うわぁぁぁぁッ!!」
シンジが転ぶ。
ライトが床を転がる。光がぐるぐる回っていく。
その白い光の中で、怪異の姿だけが不自然に伸び縮みして見えた。
ユウイチが咄嗟にシンジを引っ張る。
その直後。
怪異の腕が振り下ろされ、コンクリートの床が割れた。
普通の人間じゃない。
そんな事、もう誰の目にも明らかだった。
ミホが泣き叫びながら走り出す。
「いやぁぁッ!!」
「待ってミユキ!!」
ナナが叫ぶ。
だが遅かった。
廊下の奥の光の届かない暗闇。
そこへミユキが踏み込んだ瞬間だった。
暗闇そのものが、“口”みたいに開く。
ミユキの身体が止まる。
「……え?」
闇の中から、真っ黒な無数の腕が伸びた。
それがミユキの全身へ絡み付く。
「たすけ――」
ミユキの身体が、暗闇の中へ引きずり込まれた。
ぐちゃり。
湿った音だけが辺りに響く。
シンジの喉が引き攣る。
ナナは腰を抜かしていた。
ユウイチは完全に顔面蒼白だった。
コメント欄だけは無情にも流れ続けるが、演出の一環だと思っているらしい。
『演技うますぎ』
『怖すぎて鳥肌』
『神回じゃん』
闇の中で、ナナの嗚咽だけが響いていた。
「み、ミユキ…?」
返事はない。
廊下の奥は真っ黒だった。ライトを向けても、光が途中で沈む。
まるで暗闇そのものが、そこに溜まっているみたいだった。
シンジは床へ尻餅をついたまま動けない。
スマホだけが、まだ配信を続けていた。
コメント欄が流れている。
『え、今の何?』
『怖すぎるって』
『演技じゃない?』
誰も、本気で信じていない。
ユウイチだけが、荒い呼吸を繰り返していた。
今のは演出じゃない。アレは幽霊じゃない。もっとヤバい存在。
“触れちゃいけない何か”だ。
近くで再びぐちゃり、と湿った音が響く。
全員の身体が跳ねる。
暗闇の中で白い目だけが、ゆっくり浮かび上がってきた。
ナナが悲鳴を上げた。
「いやぁぁぁッ!!」
シンジが震えながらライトを向ける。
そして暗闇の中から、細長い腕が何本も伸びた。
壁。床。天井。
そこら中から黒い影が滲み出してくる。
ユウイチが後退る。
喉の奥が焼けるみたいに苦しい。
息が出来ない。視界が暗い。
一般人の身体はもう限界に近い。
その時だった。
――パァンッ!!
乾いた音が廊下へ響く。
次の瞬間、先頭の怪異の顔面へ何かが突き刺さった。
札だった。白い紙が燃える。
化け物の顔が、内側から焼けるみたいに爛れていく。
黒い肉が泡立ちながら溶ける。
「……え?」
シンジは呆然とする。
暗い廊下の奥。誰かが歩いてくる。
カツ、カツ、と硬い足音。
色褪せたトレンチコートに気怠そうな目。
片手には、細長い鉄杭みたいな呪具。
男は近付いてきながら、廊下を塞ぐ怪異を無造作に殴り飛ばした。
ゴキッ、と嫌な音。
殴られた怪異の首が、あり得ない方向へ折れる。
そのまま鉄杭を振るう。
ガァンッ!!
鈍い音と共に、化け物の頭部が壁へ叩き付けられた。
そして絶叫しながら崩れていく。
シンジ達は、ただ呆然と見ていた。
タバコを咥えたまま、低い声で言う。
「……おい」
その声だけで空気が張る。
「何してんだテメェら」
シンジの喉が引き攣る。
「え……」
男は怪異を踏み潰し、ゆっくり振り返った。
その目に、苛立ちが滲んでいる。
怪異の悲鳴が、まだ廊下へ残響していた。
その中で、男はゆっくり煙を吐く。
「マジで死にてぇのか」
ナナが震えながら言う。
「だ、誰……」
男は答えず、廊下奥を見た。
暗闇。
そこに、“何か”がいる。病院全体へ染み付いた黒い気配。
まだ本体は奥にいる。
男――木庵は小さく舌打ちした。
「面倒事増やすんじゃねぇよクソッタレ。おい立て」
シンジ達がビクッと肩を震わせる。
「……え」
「そこにいると死ぬぞ」
逆らえる空気じゃなかった。
ナナは涙目のまま立ち上がる。
ユウイチも壁へ手を付きながら身体を起こした。
木庵は3人を引き連れ近くの診察室へ向かう。
ドアノブを回して開けようとするが、錆び付いているのか固着して開かない。
すると木庵はドア目掛けて、蹴りを放つ。
蝶番が軋み古い扉が鈍い音を立てて開いた。
「入れ」
全員が慌てて中へ入る。
最後に木庵が入り、扉へ札を叩き付けた。
バチッ、と青い閃光。
空気が少し軽くなる。廊下側の気配が遠ざかった。
重い空気の中、誰も喋らない。
ミユキが消えた。
それを、3人はまだ理解し切れていなかった。
ナナは泣いている。
ユウイチは顔面蒼白のまま肩で呼吸していた。
その中で。
シンジだけが、まだスマホを握っていた。
配信は続いている。
コメント欄が流れる。
『この男誰?』
『急に映画みたいになってて草』
『演技うま』
『怖すぎる』
木庵の目が、ふとスマホの画面を見る。
数秒の沈黙。
次の瞬間だった。
ゴッ!!
鈍い音と共に木庵の拳が、シンジの顔面へめり込んだ。
「がッ!?」
シンジの身体が吹っ飛ぶ。
そのまま診察室の床へ叩き付けられた。
ナナが悲鳴を上げる。
ユウイチも固まる。
だが木庵は止まらない。倒れ込んだシンジを尻目にそのままユウイチの胸倉を掴む。
「っ――」
ゴンッ!!
壁へ叩き付けた。
肺の空気が一気に抜ける。
ユウイチの足が浮く。
「テメェら」
低い声。
「自分達が何してるか分かってんのか」
床へ転がったシンジが顔を押さえながら怒鳴る。
「っ……んだよテメェ!!」
立ち上がろうとするも木庵がゆっくり振り返った。
シンジの動きが止まる。
木庵の纏う空気が変わったように感じた。
怒声こそ無いが一目でこの男はキレていると分かる雰囲気。
木庵は一歩近付く。だがその顔は無表情だった。
それが余計に怖い。
「……遊び半分で、あんなモンに近付いたのか」
シンジが何か言い返そうとするが声が出ない。
木庵の目。
その目を見た瞬間、本能が理解していた。
逆らったらマズい。この男、本気で怒ってる。
下手な事を言えば、殺されるかもしれない。
「っ…」
木庵はユウイチを放り捨てるように放し、今度はシンジの胸倉を掴み、そのまま壁へ叩き付ける。
ゴンッ!!
「ぐッ……!」
「テメェら、自分がどこに入ったか理解してねぇだろ。コンジアムって映画見た事あるか?」
「なんなんだよいきなり…!」
「あ、あぁ…見たよ」
「それと同じ展開がお前らに起きてる」
「意味分からねぇよ…!あれはフィクションだろうが!」
突然の木庵の問いにユウイチが答えるが、その作品を知っていた2人の顔から血の気が消える。
木庵は続ける。
「さっき消えた女、もう戻ってこねぇぞ」
ナナの嗚咽が漏れる。
ユウイチは完全に震えていた。
コメント欄だけはまだ流れている。
『え、ガチ?』
『空気やばくね?』
『演技じゃない感じしてきた』
『この人怖すぎる』
木庵はシンジが手にしていたスマホを見下ろす。
「早くこのクソみたいなの止めろ」
「何度やってもなんでか止めれないんだよ!スマホも手から離れねぇし!なんなんだよコレ!」
そう言うシンジを木庵が睨む。
確かに彼が言うように別の力が働いているのが分かる。
「(怪異に操られてるのか。なるほど、資料の通りだな。手首切り落として、無理矢理スマホを奪うか?)」
どうするべきか木庵は一巡する。
すると診察室の外。
ぐちゃり、と湿った音が響く。
3人の身体が強張る。扉の向こう。
何かがいる。
札が、ジジッと嫌な音を立て始めていた。
貼り付けた札が黒く焦げ始めている。
ナナが怯えた声を漏らす。
「な、なに……?」
木庵は扉を睨んだまま、腰のポーチに手を突っ込み道具の有無を確認する。
「移動するぞ」
シンジが顔を押さえながら叫ぶ。
「はぁ!?どこにだよ!!」
「ここ以外だ」
その声には半泣きの苛立ちが混ざっていた。
恐怖で頭がおかしくなり始めている。
木庵はゆっくりシンジを見る。
「今この病院は、“向こう側”に半分沈んでんだよ」
ナナの顔色が青くなる。
ユウイチだけは、何となく理解していた。
入口が消えた時点で、普通じゃない。
木庵は続ける。
「あの化け物を殺せばここから出れる」
診察室の空気が静まる。
その時だった。
バンッ!!
扉が大きく揺れた。ナナが悲鳴を上げる。
札が黒く焼け出す。
外側から、ぐちゃぐちゃと何かが這い回る音。
木庵は気怠そうに鉄杭を握り直した。
「行くぞ」
扉を乱暴に開け放つ。
ライトの白い光が、周囲だけを辛うじて照らしていた。
その外側は、真っ黒だった。
“暗闇”がそこにいる。
シンジ達は木庵へ張り付くように移動する。
だが数歩進んだ時点で、もうナナの呼吸が限界だった。
「む、無理……」
涙声で足が震えている。
ユウイチも顔面蒼白のまま壁へ手を付いていた。
瘴気が身体を削っている。
一般人には毒と同じだ。木庵は舌打ちした。
「おい」
木庵はユウイチを見る。
「お前、霊感あるだろ」
ユウイチがビクッと肩を震わせる。
「……え」
「あるな?」
ユウイチが小さく頷く。
「……少しだけ」
木庵はタバコを咥え直す。
「なら話が早ぇ」
腰からライトを投げ渡し、ユウイチが慌てて受け取る。
「この怪異は光を嫌う」
「た、ただのライトじゃん」
「俺のは特殊なヤツだ使え。ガタガタ言うな」
木庵は廊下奥を睨む。暗闇の中で白い目が幾つも浮いている。
「死にたくなきゃ、絶対に光を切らすなよ」
ユウイチの喉が鳴る。木庵は続けて言う。
「いいか、自分の身は自分で守れ」
「え……」
「た、助けに来たんじゃないの!?」
「俺はお前らを助けに来た訳じゃねぇ。元々はあの化け物を殺しに来た」
空気が張る。シンジが顔を歪める。
「っ……じゃあ何なんだよテメェ!!」
木庵の足が止まる。振り返ってシンジの方を向く。
「さっきも言ったろ。あの化け物を殺したら、お前らは出れる。だから邪魔すんな」
シンジの背筋へ寒気が走る。木庵の目の奥底は冷たいほど感情が無い。
「邪魔したらーー」
「 殺すぞ 」
ナナの嗚咽が止まる。ユウイチも息を呑んだ。
脅しじゃない。この男、本当にやる。
そう思わせる威圧感を木庵は漂わせていた。
少し道を歩くと廊下の暗闇が、濁流みたいに押し寄せてきた。
灯具の白い光が、ジジッと嫌な音を立てる。
光の外側。
そこでは無数の白い目が揺れていた。使い魔達が、一斉に動き始めている。
ユウイチの喉が震える。
「……っ」
本能が逃げろと叫んでいる。
だが足が動かない。
奥から見える、輪郭の曖昧な黒い人型。
光が届いているはずなのに、そこだけが暗い。
視界が歪む。
見ているだけで頭痛がした。
コメント欄が流れる。
『え、なにあれ』
『CGじゃなくね?』
『怖すぎる』
『コメント欄寒くなってきたんだけど』
闇病の身体が、ぐにゃりと揺れる。
次の瞬間。
暗闇が一気に広がった。灯具の光が削られる。
「来たか」
木庵が前へ出る。鉄杭を床へ突き立てた。
ガァンッ!!
火花が散り、陣のようなものが浮かび上がった。
廊下へ白い線が走る。
押し寄せてきた闇が、一瞬だけ止まった。
だがズズズ……と、黒い闇が結界を侵食している。
木庵の眉が寄る。
「チッ……」
思った以上に育っている。長引けばまずい。
その時だった。
ナナの悲鳴。
「いやっ!!」
天井。
そこから、首の折れた看護師の使い魔が落ちてきた。
ナナの真上で完全に死角。
木庵が動こうとするも僅かに遠い。
間に合うか否かの距離感。
その瞬間だった。
「やめろ!!」
シンジが飛び出し、ナナを突き飛ばす。
その勢いのまま2人は床を転がる。
直後。
怪異の腕が、シンジの肩を深く裂いた。
「いてぇぇぇぇぇぇ!!ッ…ああああああああああ!!」
裂かれた肩から鮮血が迸り、シンジの絶叫が響く。
ナナが呆然とする。
「……え」
シンジ自身も、自分が何したのか理解出来ていない顔だった。
せめての贖罪なのだろうか、無意識に彼の身体が勝手に動いていた。
コメント欄が爆発的に流れる。
『待って待って』
『え?』
『ガチじゃん』
『血出てる!?』
『これマジでヤバいやつ?』
使い魔がシンジへ覆い被さろうとする。
グシャッ!!
木庵の鉄杭が、怪異の顔面を横から叩き潰した。
それを見ていた、闇病が動き出す。
暗闇そのものが?一気に伸びる。
黒い腕。
それが床を這いながらシンジへ向かう。
ユウイチの顔色が変わる。
「あッ……!」
シンジは肩を押さえながら動けない。
恐怖と痛みで身体が完全に固まっていた。
『化け物来てる!!』
『逃げろ!!』
『おいおいおい!!』
『ヤバいヤバいヤバい』
その瞬間。
ナナが泣きながらシンジの腕を掴んだ。
「立ってよ!!」
シンジの目に光が戻る。
闇が目前まで来ていたが、木庵が前へ踏み込むようにして立ち塞がった。
鉄杭を振るい、白い火花が散る。
闇の一部が裂けた。
そして、闇病本体が、ゆっくりこちらを見た。
顔のない黒い輪郭。
そこへ、白い目だけが浮かんでいる。
その視線が、木庵へ向いた。
空気が変わる。
病院全体が軋んだ。
ズズズ……と。
壁の染みが広がり、天井の暗闇が脈打つ。
木庵の目が細くなる。
「本気出す気か」
辺り一面の白い目が、一斉に開いた。
闇が、ゆっくり蠢いていた。
黒い人型――闇病が、暗闇の中心で揺れている。
その周囲では、壁や天井から使い魔達が滲み出るみたいに現れ続けていた。
白衣を来た医者。首の折れた患者。
黒く濡れた影。
病院全体が腐った水みたいな瘴気で満ちている。
ユウイチはライトを握る手を震わせながら光を向ける。
木庵が行ったように光が苦手なのか使い魔が退く。
だが、また別の暗闇から更に湧いてくる。
終わりがない。
ナナは泣きながらシンジの肩を押さえていた。
「血止まらないよ…どうしよう!?」
「見せてみろ」
シンジの肩口は、黒く変色していた。
怪異に裂かれた部分から、じわじわと黒い筋が皮膚の下を広がっている。
シンジ自身も、呼吸がおかしい。
肩で息をしており額には脂汗。
目の焦点も少しずつ合わなくなっていた。
木庵はその傷口を一瞥する。
それだけで十分だった。
「(コイツはもう無理だな)」
シンジが掠れた声を漏らす。
「……なんだよ…これ
木庵は答えない代わりに廊下奥を見る。
闇病はまだ動かない。
ただ、見ている。
病院そのものを使って、ゆっくり侵食してくる。
「面倒くせぇな」
そう木庵が呟いたと同時に天井から使い魔が落ちてきた。
何事も無かったかのように体を逸らし、返す一撃を使い魔に浴びせる。
バキッ!!
メリケンサックを装備した拳が、使い魔の顔面を叩き込まれた。
怪異の身体が壁へ吹き飛び、砂のように崩れていく怪異を横目に、木庵はもう次を見ていた。
床を這ってきた患者の怪異の頭部を踏み付け、今度は鉄杭を振り下ろす。
グシャッ!!
鈍い音と共に怪異の頭部が砕ける。今度は複数体の怪異が木庵目掛けて飛び掛かるが、その中でも木庵は慌てる事は無く、一体一体叩き潰していく。
病院の暗闇が一瞬だけ揺れた。
コメント欄だけは未だに流れ続けている。
『何これ』
『怖すぎる』
『演技じゃないだろ』
『この男マジで何者?』
シンジが壁へ手を付く。視界が揺れていた。
暗闇の奥で、何かが呼んでいる。
『――こっち』
『――楽になるよ』
『――暗い方が落ち着くだろ』
シンジの呼吸が早くなる。
ナナが不安そうに顔を覗き込む。
「シンジ……?」
シンジはぼんやりと闇病を見ていた。
瘴気が脳まで回り始めている。
シンジの足が、一歩前へ出た。ユウイチがその様子に気付く。
「お、おい」
シンジは吸い寄せられるみたいに暗闇を見つめている。
「……なんか」
掠れた声。
「向こうが…落ち着くって…」
ナナの顔から血の気が消える。
「何言って――」
シンジが暗闇に向かって夢遊病の患者のようにフラフラと歩き出す。
闇病の暗闇が、歓迎するかのようにゆっくり揺れた。
ナナが慌てて腕を掴む。
「待って!!」
その瞬間だけシンジの目に、少し正気が戻った。
が。
「――ッ」
苦痛で顔が歪み、闇が一気に伸びた。
黒い腕が何本もシンジの全身へ絡み付く。
ユウイチが叫ぶ。
「シンジ!!」
シンジの身体が、暗闇へ引きずられていく。
その顔には、恐怖が戻っていた。
「ま、待――」
言葉は最後まで続かなかった。
ぐちゃり。
湿った音と共に闇が閉じる。
骨の折れる音と肉の裂ける音だけが響く。彼がいた場所にはスマホだけが残されていた。木庵はそのスマホを拾い上げポケットに仕舞う。
ナナが崩れ落ちる。
無情にもコメント欄だけが流れていた。
『え?』
『待って』
『無理無理無理』
『これ消されるだろ』
『見えなくなったぞ』
『誰かカメラ』
木庵は数秒暗闇を見ていた。ただ、小さく息を吐く。
「間に合わなかったか」
新しいタバコを咥え、火を付ける。木庵は灯具を拾い上げた。
白い光が、黒い廊下を照らす。
闇病が揺れていた。嫌がっている。
木庵はゆっくりと歩き出した。怪異達が飛び出してくる。
グシャッ!!
鉄杭の一撃で怪異の頭部が砕けて、砂となり消滅していく。
真横に来ていた怪異に拳を浴びせ、仰け反ったところを蹴り飛ばす。
木庵は闇病の本体の真正面まで踏み込む。
黒い腕が伸びて、肩を掠める。
血が飛び散るがそれでも止まらない。
木庵は鉄杭を握り直した。
「下級の癖に育ち過ぎだ。終わりだクソッタレ」
鉄杭が、闇病の中心へ突き刺さった。
青い閃光が迸り、病院全体が震える。
闇病が絶叫した。
壁の染み。天井の暗闇。全部が暴れ出す。
更に木庵は鉄杭を押し込む。
青い浄火の炎が、闇病の身体を内側から裂いていく。
黒い闇が崩れだし病院中の怪異達が、一斉に絶叫した。
そして最後に、白い目だけがゆっくり崩れて消えていった。
その瞬間。
病院へ満ちていた重苦しい空気が、一気に抜けた。
外の風が、割れた窓から吹き込んでくる。
異界が、静かに崩壊していた。
山の風が、壊れた窓から吹き込んでくる。
さっきまで病院を満たしていた重苦しい空気はもうない。
壁の黒い染みも消え始めている。
残ったのは、ただの古びた廃病院だけだった。
ナナは床へ座り込んだまま、泣き続けていた。
ユウイチも壁へ寄り掛かりながら、青い顔で呼吸を整えている。
2人とも、まだ現実感がない。
シンジとミユキが死んだ。
それだけは理解している。
だが頭が追い付いていなかった。
木庵は少し離れた場所でタバコへ火を点けていた。
紫煙が、暗い廊下へゆっくり流れていく。
ユウイチが震える声で言う。
「……なんで」
そのの目には涙が浮かんでいた。
「なんで助けてくれなかったんだよ……!」
ナナも嗚咽混じりに叫ぶ。
「助けられたじゃん……!!」
木庵は煙を吐く。静かな沈黙。
それから、ゆっくり2人を見る。
「勘違いすんなよ。お前らの所為だろうが」
2人の顔が引き攣る。
木庵はお構いなしに続ける。
「配信だかなんだか知らねぇけどな」
タバコを咥えたまま、病院の奥を見る。
「遊び半分で入っちゃいけねぇ場所に入った。アイツらが死んだのは、運が悪かっただけだ」
ユウイチが歯を食い縛る。
「じゃあ俺達はなんなんだよ……!」
木庵は小さく煙を吐く。
「運が良かっただけだろ」
それだけだった。
あまりにも淡々として、その言葉が逆に重かった。
ナナの嗚咽だけが響く。
木庵は壁へ寄り掛かったまま続ける。
「もう忘れろ」
ユウイチが顔を上げる。
木庵は感情のない目で二人を見ていた。
「お前らじゃ抱えきれねぇ」
病院の奥。
闇病が消えた場所には、もう何もない。ただ暗闇だけが残っていた。
木庵はタバコを床へ落とし、靴底で踏み潰した。
そして。
腰のポーチから、小さな札を2枚取り出す。
それを見たユウイチの顔色が変わる。
「……なんだよそれ」
木庵は答えない代わりに札を2人の額へ貼る。
淡い光を発した後、ナナの視界が滲む。ユウイチの意識も遠のく。
最後に見えたのはタバコの煙の向こうで、木庵が面倒臭そうに立っている姿だった。
病院の外。
夜明け前の空は薄暗い。
救急車の赤色灯が、遠くでぼんやり回っていた。
警察に営業部の後処理班の車もこの場所に向かっているのが見えた。
全員、事故処理として動いていた。
今回の出来事は全て"ただの事故だ"。
木庵は病院の外階段へ腰掛けたまま、シンジスマホを見ていた。
配信画面。
まだ終わっていなかった。
コメント欄は相変わらずだった。
『お、やっとカメラ映ったぞ』
『さっきのオッサンが今持ってるのかよww』
『CG乙』
『映画みたいで草』
『演技うますぎ』
『これAIだろ』
『結局オチ分からんw』
誰も信じていない。それでいい。いやそれでなければならない。
本物を見ても偽物で片付ける。人間なんてそんなものだった。
木庵は小さく鼻で笑う。
「クソ共が」
そのままスマホを地面へ落とした。
無造作に何度も踏み砕く。
画面が割れ、配信が途切れた。
木庵はタバコへ火を点ける。
自身のスマホを取り出し一本の電話をかけた。
『……はい、白石です』
木庵は煙を吐く。
「終わったぞ」
『承知してます。一通りの動きは先手を打ってます」
「あぁ、だからもう連中が来てんのか」
『はい』
木庵は病院を見上げる。
夜明けが近い。
「映像も全部潰しとけよ」
『既に動いています』
「拡散したバカ共は?」
白石が静かに答える。
『順次、営業側で対応します』
木庵は小さく鼻を鳴らした。
「見せしめに何人か脅しとけ」
『分かっています』
「じゃ、後の事頼んだぞ。俺は帰る」
そう言い放ち、通話を切る。
山の朝風が吹く。病院はもう、ただの廃墟だった。
まるで最初から、何もいなかったみたいに。
to be continued…
9話目終わりました。次もまた怪異を祓う話になります。
にしても文字数多いな…削ったと思ったのに…
まだ削れるか次回試してみます。
ここまで見てくださった方達、ありがとうございました。
暇潰しになれば幸いです。