中央怪異対策機関   作:ざつざっつ

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12話目完成しました。

UA1000超えました。めっちゃビックリ。だって他の人気作に比べて真逆の道を進んでいるのに、ここまで見てくださった方がいるのがホンマに有難いです。ありがとうございます。

これからも頑張ります。今回は日常回にしました。


FILE No.12「束の間の休息」

 

 

 

 

放課後の教室で、怜は窓際から差し込む夕陽を眺めていた。

 

西日に染まった教室は橙色に包まれ、開け放たれた窓から吹き込む風がカーテンを揺らす。

校庭からは運動部の掛け声や吹奏楽部の音が聞こえていた。

 

そんな当たり前の景色を見ていると、不意に自分の身体の奥へ意識を向けた。

 

机の上で右手を握る。何かが起きる訳ではない。

 

それでも洸太との訓練以来、自分の中にいる怪異の存在を改めて意識せずにはいられなかった。

 

自分の知らないものが身体の内側にいるという事実は、考えれば考えるほど不気味だった。

もし制御できなくなったら。もし誰かを傷付けたら。そんな想像が頭をよぎるたび、胸の奥が冷たくなる。

 

だが、不思議な事に逃げたいとは思わない。

本来なら目を背けるべきもののはずなのに、怜はあの時感じた感覚を忘れられなかった。

 

怪異に触れた瞬間、自分の世界が少しだけ広がった気がしたのだ。

当たり前だと思っていた日常の向こう側に、まだ知らない何かがある。

その恐ろしさと同時に、どうしようもなく惹かれるものがあった。

 

知りたい。

自分の中にいるものの正体も、この世界に潜む怪異のことも。

怖いからこそ、確かめたい。

 

逃げてしまえば楽なのかもしれないが、それではきっと後悔する気がした。

あの時の力をほんの少しだけだが、制御出来た感覚を忘れたくなかった。怜は小さく息を吐き、席を立つ。

 

向かう先は自然と決まっていた。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

中央怪異対策機関の本部へ着いた頃には、空はまだ夕暮れだった。

静かな廊下を進み木庵の部屋へ近付くと中から声が聞こえてくる。

 

「だからお前、自分の部屋戻れって」

「やだ」

 

由香の声だった。

 

「だって私の部屋より居心地良いんだもん」

「知らねぇよ」

「アンタの部屋の方が落ち着く」

「知らねぇよ。帰れ」

「やだ」

 

怜は苦笑しながらノックをして扉を開いた。

 

「……なんか大学生の部屋みたいですね」

 

部屋内の木庵のデスクにはジャンクフードの包み紙が散らばり、壁のモニターではサブスクのアプリの画面が映し出されていた。

 

中央のソファには由香が陣取り、ローテーブルにはスタンドで立てたタブレットを筆頭にネイル道具や化粧品を広げていた。

ご丁寧に自身の私物であろうクッションとブランケットまで用意して。

 

「お、怜ちゃん。学校終わり?」

「はい」

「お疲れー、ほら見ろ木庵。怜ちゃんはしっかりしてる」

「急に何の話だ」

「アンタよりは立派って話」

「知るか」

 

木庵はホットドッグを齧り、由香はニヤニヤと笑う。

怜が空いていた椅子に腰掛けると、モニターの映像が目に入った。

それはある映画だった。

 

「木庵さん」

「なんだ」

「それ見てるんですか」

「知ってんのか」

「好きです」

 

木庵の眉が上がる。

 

「そうか」

「ラスト良いですよね」

「あぁ」

「最後、変に盛り上げないのが好きです」

「ハッピーエンドじゃないのもいい」

「ですよね」

 

木庵が少しだけ笑う。

 

「分かってるな」

「あと、あれ怪物の映画じゃないですよね」

「家族の映画だ」

 

普段、木庵と怪異の話をする時より会話が噛み合っている。

耐え切れなくなった由香が口を挟んだ。

 

「待て待て待て」

 

二人が同時に振り返る。

 

「何ですか?」

「どうした」

「2人共、怪異の時より話通じてない?特に木庵」

 

木庵が煙を吐き出しながら言う。

 

「そうか?」

「そうだって」

 

由香は呆れたように笑う。

 

「ていうかアンタ、映画だと急に喋るな」

「映画だからな」

「便利な言葉みたいに使うな」

「事実だ」

 

由香は今度は怜を見る。

 

「怜ちゃんも結構喋るじゃん。ちょっとイメージ変わった」

 

怜は少しだけ照れ臭そうに笑った。

 

「好きな話なので」

「なるほどね」

 

由香はネイルをしていた手を思わず止めた。

この二人を放っておくと、たぶん延々と映画の話をする気がする。

 

そして、その予感は見事に当たる事になる。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

由香の予感はその後、僅か10分で確信へ変わった。

最初のうちはまだ良かったのだ。

好きな映画の話をしているだけなら理解できる。

 

誰しも趣味はあるし、熱く語りたくなる時くらいある。

由香だってピアスやネイルの話なら平気で何時間も喋れる自覚はあった。

 

問題は、その二人の話がどんどん深い場所へ潜り始めた事だった。

 

「あの監督、これ以外にも色々撮ってて」

 

怜がそう言うと、木庵はホットドッグを片手に頷く。

 

「あぁ、今回のはパニック映画だが家族の話だ」

「ですよね」

「怪物は舞台装置だ」

「分かります」

「分かるか」

「分かります」

 

何が分かるんだ。

 

由香は心の中で呟く。

二人とも当たり前みたいな顔をしているが、話の内容が全く入ってこない。

 

そもそも舞台装置って何だ。映画のセットか何かなのか。

由香がそんな事を考えている間にも会話は進んでいく。

 

「でもあれ、最初は怪物の方に目が行きますよね」

「あぁ」

「私も最初そうでした」

「大体そうだ」

「見終わったら印象変わりました。なんか怪物倒した!やった!みたいな感じにならないというか」

「そうだな」

「ですよね」

 

だから何がそうだな、なんだ。

由香はネイルペンを握ったまま二人を見る。

 

息が合い過ぎている。

普段、木庵と由香で怪異の討伐計画を立てている時ですら、ここまで噛み合ってた記憶がない。

ただ、何となくお互いがどう動くか分かっているから自然と物事が進む。

 

怜とは過去2回組んだが真面目だ。

そして木庵は普段から気怠い態度を1mmも隠そうとしない。

 

なのに映画になると何故か波長が一致する。

まるで長年の映画仲間みたいな空気になっている。

 

「なぁ待って」

 

由香が口を挟む。

二人が同時に振り返った。

 

「何ですか?」

「何だ?」

「その同時に振り向くのやめろ」

「何がだ」

「なんかムカつく」

 

木庵が鼻で笑う。

怜も少しだけ口元を緩めた。由香はそれを見て指を差す。

 

「怜ちゃんまで笑ってんじゃん」

「すみません。つい…」

「正直だな」

 

怜が思わず笑う。それにつられて由香も笑った。

だが話は止まらない。

 

由香はクッションへ身体を預けながら天井を見上げる。

何なんだこの会話。

何故、急にこんなに盛り上がれるのか本気で理解できない。

 

やがて話題は監督から脚本へ。脚本から演出へ。演出から小ネタへ。

完全に知らない世界だった。

途中から由香は聞く事を諦め、再びネイルへ戻ろうとしたのだが。

 

「由香」

 

木庵が急に呼ぶ。

嫌な予感しかしない。

 

「なに」

「お前も見ろよ」

「やだ」

 

即答だった。

木庵が信じられないと言いたげな顔をする。

 

「即答か」

「だって絶対暗いじゃん」

「暗くねぇよ」

「怪物の映画なんだろ」

「あぁそうだな」

「人が食われて死ぬんだろ?」

「死ぬな」

 

由香は指を差した。

 

「それホラー映画じゃねぇか!」

「ちなみにホラーってよりかは、ジャンル的にはパニック映画だと思います」

 

怜は笑いかけるが即座に訂正した。木庵は真顔だった。

 

「篠山も言ってたろ、ホラーじゃない」

「いやホラーだろ」

「家族映画だ」

「ややこしくなる言い方やめろ」

 

今度は怜も耐え切れなかったらしく、肩を震わせながら笑っている。

由香は助けを求めるようにそちらを見る。

 

「怜ちゃん!」

「はい」

「言ってやれ!」

 

怜は少し考えた。

本当に少し考えてから答える。

 

「……ホラー…パニック映画です」

「怜ちゃん!?」

「ただ家族映画です」

「裏切ったな!?」

「でも面白いですよ」

「いや、私は見ないからいいよ!」

 

部屋の中に怜の笑い声が広がる。

木庵は呆れたように由香を見ながらホットドッグを齧った。

 

由香はクッションを抱き締めたまま抗議を続ける。

 

怜はそんな二人を見ながら、ふと気付く。

本部へ来た時に胸の奥へ張り付いていた重苦しさが、いつの間にか少しだけ薄れている事に。

 

訓練の時に感じた恐怖や自分の中にいる怪異への不安も消えた訳ではないし、忘れた訳でもない。

だが今だけはその事ばかり考えなくて済んでいた。

 

木庵の部屋に漂うジャンクフードの匂いとタバコの煙。

由香の賑やかな声。

そんな何でもない時間が、不思議なくらい心地良かった。

だから怜は、自分でも気付かない内に笑っていた。

 

 

「じゃあ、最初から見るか」

「いいですね。見ましょう」

 

木庵がそう言った時、由香はまだ少しだけ抵抗する気持ちを残していた。

 

本当に少しだけだ。

だが、その抵抗も長くは続かなかった。

 

数分後には木庵が画面を操作し始め、怜が椅子をモニターの方へ向け、二人とも完全に鑑賞モードへ移行していたからだ。

 

画面に表示されたサムネイルの文字を見て、由香は眉をひそめる。

 

「グエムル?」

「韓国の映画だ」

 

木庵が答える。

 

「家族映画ですね」

「いや、もう分かったから」

 

怜も補足する。

その時点で由香は嫌な予感しかしなかった。

さっきの話は恐らくこの作品だろう。

 

二人してあんな熱の籠った会話をしていた。

それはいいと思う。だが、語るだけは足りずに今この場で上映をする?語るだけではないのか。意味が分からない。

 

「さっきも言ったけど私はいいや」

「なんでだ」

「今日のアンタ過去一面倒くさいな」

「ヒデー言いようだな」

「事実だろ」

 

怜が小さく笑う。

そのやり取りを最後に、映画が始まった。

 

オープニングと共に流れ出した川辺のざわめきや遠くの車の音が、静かな部屋の空気へじわりと染み込んでいく。

 

低く響く劇伴が床を伝うように広がり、由香は数分だけチラチラと画面を見ていた。

本当に数分だけだが、理解した。

ただの上映会ではない、恐らく再び、2人による映画談義が始まるやつだ。

 

作品が悪い訳ではない。むしろ普通に面白そうだった。

漢江の風景や雑多な街並み、人々の生活感が妙に生々しく映し出され、画面の向こうの湿った空気まで伝わってくるようだった。

 

ただ問題は横にいる二人だった。

 

開始10分。

まだ映画は序盤だというのに、既に木庵と怜のスイッチは入っていた。

 

「この導入好きなんですよね」

 

怜が呟いた。

木庵も視線を画面へ向けたまま頷く。

「あぁ怪物が出る前から不穏な空気を作ってる」

「ですよね」

「普通ならもっと引っ張る」

「でもこれ、家族描写を先に見せるから後が効くんですよね」

「分かってんな」

「好きなので」

「ちなみにいつだったか、コイツに似た怪異を祓った事がある」

「本当ですか?私も見てみたかったです」

 

何を言っているか由香には分からないが、この映画に出てくる怪物に似ている怪異は由香にも心当たりがあった。多分、2年前の案件だ。

 

しばらく後。

 

画面の中では不穏な気配が少しずつ積み重なり、観客の神経を逆撫でるような雰囲気が流れている。

 

「ここが好きなんだよな」

「良いですね」

 

モニターから怪物が出現したであろう混乱と悲鳴が部屋に響く。

 

「この父親、駄目な人なんだけど嫌いになれないんですよ」

「こうはなりたくないがな」

 

大丈夫、よく分からないがダメ男の木庵にも似たような素質はある。と由香は内心思っていた。

 

30分後。

 

緊張感のある場面が続き、由香の耳にも自然と映画の音が入り込んでくる。

 

「この演出、後の伏線ですよね」

「そうだな」

 

由香はネイルペンを持ったまま固まった。

何なんだコイツら。映画を見ているというより、ただの副音声付きのコメンタリーだ。しかも内容が妙に濃い。

 

怪物が出た。すごい。怖い。最早そういう話ではない。

演出だの伏線だのと。

観客席にいる側なのに何故か講義か何かが始まっている。

 

由香はしばらく聞いていたが、やはり理解が追いつかない。

 

無理だ。

理解しようとするだけ無駄だった。

 

そもそも映画を見ながら映画について語り合うという文化がよく分からない。見たいなら見ればいい。感想は終わってから言えばいい。

 

そう思うのだが、この二人には違うらしい。

 

「この辺から怪物映画じゃなくなるんですよね」

「あぁ」

「結局この映画って怪物の話じゃないというか、風刺というか」

 

また始まった。

由香はクッションへ顔を埋める。

怪物の話を見てるのに怪物の話じゃない。

どういう事だ。全く意味が分からない。

 

「もう好きにしろ……」

 

誰へ言うでもなく呟いた。

 

そのまま2人を無視して、ネイルの続きを始める。

タブレットの動画を見ながら爪へ色を乗せる。

たまに映画の音声が聞こえる。

 

緊迫した足音や遠くで響くサイレン、登場人物たちの怒鳴り声や叫び声が断片的に耳へ届く。

 

その横では木庵と怜が何やら盛り上がっている。

 

不思議な光景だった。怪異を祓う祓い屋と見習いの女子高校生。

その二人が、休日の映画サークルみたいなテンションで語り合っている。

 

木庵に至っては、普段の倍は喋っている気がする。

画面が切り替わるたびに目を細め、好きな場面ではアレがいいだのコレがいいだのと言っている。

 

現場での木庵しか知らない人間が見たら、同一人物だと信じないかもしれない。

 

由香はネイルを塗りながら横目で二人を見る。

怜の表情も普段と違った。

 

訓練中や実戦の時の緊張した顔でもない。

怪異の話をしている時の真面目な顔でもない。

好きなものについて話している、ただの普通の女の子の顔だった。

 

それを見ている内に、由香は少しだけ安心する。

 

ここ最近の怜は頑張り過ぎていた。

怪異との戦い。暴走。力の制御。

まだ高校生なのに背負うものが多すぎる。

 

だから今みたいに笑っている方が歳相応に見えた。

由香は爪へ最後の色を乗せながら、小さく息を吐く。

 

「ま、たまにはいいか」

 

どうせ今この部屋で映画談義を止められる人間はいない。

なら諦めるしかなかった。

 

由香は完全に降参した。

 

映画の音声。雰囲気に合った劇伴。登場人物たちの叫び声。

二人の考察。由香が流しているネイル動画。

 

この部屋は全部が混ざった妙な空間だった。

 

それでも不思議と居心地は悪くない。

映画の緊張感と、二人の楽しそうな会話と、のんびりした休日の空気が奇妙なバランスで共存している。

 

だから由香は再びクッションへ身体を預ける。

横では木庵と怜が、内容について語り合っていた。

 

――やっぱりコイツら、映画見てるんじゃなくて映画の事を語っているな。まぁ、この様子なら映画もキチンと見ているだろう。

 

そんな事を思いながら、由香は静かにネイル作業へ戻る。

 

別に興味が無い訳ではない。

木庵と怜がそこまで盛り上がるなら、それなりに面白い作品なのだろうとは思う。

ただ、その興味は長く続かなかった。

 

理由は単純だ。

横にいる二人が、思っていた以上に面倒臭い映画オタクだったからである。

 

「やっぱり家族はいいですね」

 

怜が画面を見たまま呟く。

独り言みたいな小さな声だったが木庵には十分通じたらしい。

 

「あぁ」

 

短く返す。

それだけなのに、何故か会話が成立している。

 

「後はコメディみたいな要素もいいんだな」

「分かります」

 

由香はネイルペンを持ったまま固まった。

 

分かりますじゃない。分からない。何一つ分からない。

普通はもっとこう、怪物が出てきた。怖かった。面白かった。

 

感想とはそういうものじゃないのか。

だが、この2人にとっては違うらしい。

 

由香は頑張って理解しようとはして、少しだけ考え結論を出した。

理解しようとするのをやめよう。

 

無理だ。

 

そもそも木庵がここまで喋っている時点でかなり珍しいのである。

普段の木庵を知っているからこそ分かる。

 

現場では必要な事は言うし、くだらないやり取りもしょっちゅうするし、互いに憎まれ口もよく言い合うがそれだけだ。

 

こんな風に映画の話なんてしないし、したとしても続かない。

そして、興味の無い話題なら適当な相槌だけだ。

 

そんな男が今はホットドッグ片手に映画について語っている。

表情こそはいつもと同じだが、それでも楽しいという雰囲気は伝わってきた。

 

由香はクッションを抱え直した。

視線の先では、怜が身を乗り出すように画面を見ている。

その姿を見ているうちに、ふと学校帰りに部屋へ入ってきた時の顔を思い出した。

 

怜は自分の感情を隠すのが上手い子だと思う。

だから余計に分かる。今日は何か考え込んでいた。

 

修行の時に開花させた、力の事だろう。

あの子は真面目だから、一人で抱え込む。

 

木庵みたいに放り投げる事も出来ないし、自分みたいに「まあ何とかなるか」と開き直る事も出来ない。

 

だがら本部へ来た時も、どこか肩に力が入っていたが今は違う。

恐らくリラックスしているのだろうか。今まではただの怖がりな女の子のイメージだったが、今の怜を見ているとこの感じが彼女本来の性格なのだろう。

 

怜本来の性格の一端が見れただけでも良かった。

由香はそう思いながら、タブレットに視線を戻す。

 

怪異相手に命懸けで戦っている木庵が、オフだと映画の考察で盛り上がっている。

 

そのギャップが妙におかしかった。

由香は小さく笑い、再びネイル道具へ手を伸ばした。

 

それでも耳には二人の声が入ってくる。

 

「米軍だけが悪いみたいな感じですけど、ちゃんと勇敢なキャラもいてバランス取れてると思います」

「そうだな」

 

また始まった。

 

由香はネイルを塗りながら苦笑する。

だが、もうツッコむ気力もない。

 

好きにすればいい。

そう思った。

 

窓の外では日が落ち始めていた。

 

モニターから映画の音声が静かに流れる。

ジャンクフードの匂いとネイル用品の微かな薬品臭。

時折聞こえる木庵と怜の声。

 

誰かが見れば、ここが怪異を相手にする組織の一室だとは思わないだろう。

 

だが由香は、この空気が嫌いではなかった。

少なくとも今は、誰も死なない。

 

怪異も出ない。悲鳴も聞こえない。

 

ただのんびりとしているだけだ。

そんな当たり前の時間が、この仕事をしていると貴重だった。

 

だから由香は何も言わない。

 

映画の考察に花を咲かせる二人を横目に見ながら、動画を眺めながら今度は違うネイルを試している。

 

だがその顔には、どこか穏やかな笑みが浮かんでいた。

 

 

 

 

to be continued…




前書きでも書いたけど、今回は日常回です。
見返してみて思ったけど、コメディというか日常回まったくないと思ったので今回の話は軽い分にしました。

次回は祓いパートになると思います。

ここまで見てくださった方ありがとうございます〜
これからも頑張るんでよろしくお願いします。
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