中央怪異対策機関   作:ざつざっつ

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2話目も見てくださった方ありがとうございます。
仕事が忙しすぎて執筆出来てなかったです。
お待たせしました。長くなったので前後編に分けました。

まさかのUA200超え、スゲー嬉しいです。
後、お気に入りに登録してくれた方ありがとうございます。めっちゃ励みになります。

タイトルでお察しと思いますが今回はネットで有名なあの話を取り扱う話になります。中学生時代この話見て自分がもし猿夢を見たらどうなるんだろ?って思いつつ、その疑問の答えになればと今回のストーリーに組み込んでみました。

3話目もよろしくお願いします。


FILE No.3「猿夢」前編

ある女性が夢を見ていた。

何故だか今、夢を見ているんだと自覚する事が出来た。

 

彼女は薄暗い無人駅にポツンと1人居た。

 

夢にしては随分と陰気臭く暗い夢だ。

すると急に駅に機械的な感情の無い声でアナウンスが流れだす。

 

それは『まもなく、電車が来ます。その電車に乗るとあなたは恐い目に遇いますよ~』

と完全に意味不明なものだった。とはいえ夢だからこんなモノかと妙に納得した。まもなく駅に電車が入って来る。

 

それは電車というより、よく遊園地などにある子供向けで猿をイメージしたような電車で中には数人の顔色の悪い男女が一列に座っていた。

 

「え、なんか不気味…」

 

どうも変な夢だなと思いつつも、彼女は自分の夢がどれだけ自分自身に恐怖心を与えられるか試してみたくなりその電車に乗る事に決めた。

 

 

「本当に怖くて堪らないなら目を覚ませばいいか」

 

そう思うと気が楽になった。

 

「とりあえずここでいいかな それにしても雰囲気が凄いリアル…」

 

電車の後ろから3番目の席に座る。車内には生温かい空気が流れていて、

本当に夢なのかと疑うぐらいリアルな臨場感があった。

 

『出発します~』と再び例のアナウンスが流れ、電車は動き始める。

 

彼女はこれから何が起こるのだろうと不安と期待でドキドキしていた。

電車はホームを出るとすぐにトンネルに入る。紫色を中心とした照明がトンネルの中を怪しく照らしていた。

 

「あ、これってもしかして…」

 

彼女はふと思い出した。このトンネルの景色は子供の頃に遊園地で乗った、スリラーカーの景色だ。

 

この電車もそれに似た色合いの電車なので、彼女の過去の記憶にある映像を持ってきているだけかと思った。

 

とその時、またアナウンスが流れる。『 次は活けづくり~活けづくりです』

 

「え、活けづくり?こんなとこで?」

 

などと彼女は考えていると、急に後ろから耳をつん裂くような悲鳴が聞こえてきた。

 

バッと振り向くと、電車の一番後ろに座っていた男性の周りに四人のボロい布切れのような物を纏った猿の面をした小人が群がっていた。

 

「ぎゃあああああああああああああああ‼︎」

 

男は刃物で体を裂かれ、本当に魚の活けづくりの様になっていた。

 

強烈な血の匂いが車内を包み、耳が痛くなる程の大声で男は悲鳴を上げ続ける。

男の体からは次々と内臓がとり出され血まみれの臓器が座席の周りに散らばっていく。

 

「うわ、ヤバ… 夢じゃなかったら絶対吐く…そう思いますよね?」

 

人が解体されていく異常な状況でも夢だからと妙に納得してしまう。

後ろの乗客に話しかけるも返答はない。

 

彼女のすぐ後ろには髪の長い、顔色の悪い女性が座っていたがすぐ後で大騒ぎしているのにも関わらず黙って前を向いたまま気にもとめていない様子だった。

 

叫び声が止み、気が付くと一番後ろの席の男はいつの間にか居なかった。

 

しかし赤黒い、血と肉の固まりのようなものは残っていた。

さっきの出来事が現実であったように。

 

後ろの女性は相変わらず、無表情に一点を見つめていた。

 

『 次はえぐり出し~えぐり出しです』とアナウンスが流れる。

 

「えっ」

 

驚く間もなく、今度は二人の小人が現れ、先端が三叉のスプーンの様な物で後ろの女性の目をえぐり出し始めた。

 

「あああああああああああああああああああああああああああ!!!」

 

さっきまで無表情だった彼女の顔は、痛みの為ものすごい形相に変わり、

彼女のすぐ後ろで鼓膜が破れるぐらいの大きな声で悲鳴をあげた。

 

眼から眼球が飛び出していた。強烈な血の匂いが鼻の中に充満する。

 

「嘘でしょ…これヤバいって…おぇ…」

 

彼女は恐くなり震えながら、前を向き体を屈めていた。ここらが潮時だと判断した。

 

「無理…ここまでにしとこ…次、私の番だし…」

 

しかも、順番からいくと次は3番目に座っている彼女の番となる。

 

「でも、私の時はどうなるんだろう…次で目を覚まそう…」

 

彼女は夢から覚めようとしたが、自分には一体どんなアナウンスが流れるのだろうと思い、それを確認してからその場から逃げる事にした。

 

『次は挽肉~挽肉です~』とアナウンスが流れた。

 

「は?ちょっと待って…」

 

聞き間違いでなければ挽肉と言った。どうなるか、容易に想像が出来たので神経を集中させ、夢から覚めようとした。

 

「覚めて覚めて覚めて早く覚めてよ…!」

 

必死に強く念じて目を覚まそうとする。すると急にウイーンという機械の音が聞こえてきた。今度は小人が彼女の膝に乗り、座席程の大きな変な機械みたいな物を押し付けようとしていた。

 

「やだ…やめて…!」

 

自分をミンチにする道具だと思うと恐くなり、一刻も早く目覚めるようにと目を固くつぶり一生懸命に念じた。

 

無慈悲なヴィィィィン!という音と共に機械の刃が回転しだし、だんだんと音が大きくなってきた。顔に回転する刃の風圧を感じ、もうだめだと思った瞬間に静かになった。

 

再び目を覚ますとベッドの中にいた。ベッドから飛び起き、周りを見渡せばいつもの見慣れた風景の自分の部屋。

 

「よかった…夢から覚めたんだ…」

 

彼女はなんとか、悪夢から抜け出す事が出来た。全身汗でびしょびしょになっていて、目からは涙が溢れて止まらない。

 

「うっ…ぉ…」

 

すぐさまその足でトイレに駆け込み、胃の中の物を吐き出す。

 

ひとしきり吐いた後、台所に向かい水を大量に飲んだところで、やっと落ち着いた。

 

「あんなの夢だって、ただの夢…」

 

恐ろしくリアルだったが所詮は夢だったのだからと自分に言い聞かせる。

 

携帯の時間を見ると時刻はまだ午前3時。起きて活動するにはまだかなり早い。だが、あんな事があった後ではとても眠る気にはなれない。

 

「コンビニ行ってモンスター買ってこよ…」

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

「ホントなんだって…夢だけど凄いリアルだったの…」

「でも、夢なんでしょー?」

「そうなんだけど、感触とか夢じゃないみたいで…」

 

次の日、彼女は学校の友達にこの夢の話をした。だが彼女の友達はその話を聞いて面白がるだけだ。何故なら所詮は夢だからだ。

 

やがて、授業開始を知らせるベルが鳴る。

 

「(あー…眠た…ダメだ…限界…)」

 

彼女は講義の間、必死に眠気と闘っていた。深夜からずっと起きっぱなしでカフェインを大量に摂取し、気を張り続けてきたが緊張のし過ぎで遂に眠気に限界が来た。瞼が徐々に重くなる。意識が遠のいていく。

 

「(一瞬だけならいいよね…)」

 

遂に彼女は眠気に勝てなかった。

 

 

『次はえぐり出し~えぐり出しです』

 

「嘘よ…あの夢じゃん…」

 

彼女は前回見た夢だとすぐに思い出した。

そして前回と全く同じで二人の小人があの女性の眼球をえぐり出していく。

 

「前と一緒なら次は私じゃん… お願い早く覚めてよ…」

 

彼女はまた、目が覚めるようにと強く念じる。

 

だが、今回は前回と違い中々目が覚めない。

 

『次は挽肉~挽肉です~』

 

「ヤバいって… 覚めて覚めて覚めて、早く目覚めてってば!」

 

彼女の願い虚しく、ヴィィィン!と無慈悲に回転する刃が近付いてくる。

刃の風圧で髪が靡く。更に顔に近付いてくる。

 

もう、ダメだと思った時ふっと静かになった。

 

「よかった、やっと目が覚める…」

 

どうやら何とか逃げられたと思い、目をあけようとしたその時だった。

 

『また逃げるんですか~次に来た時は最後ですよ~』とあのアナウンスの声がはっきりと聞こえた。

「ーーーば ーーーし?」

「あれ?、私…」

「やっと起きた。講義終わったってば」

 

目を開けるともう夢からは完全に覚めており、いつの間にか抗議は終わっていた。

 

「いやだ…」

「え、何が?」

「もう眠りたくない…」

「アンタ大丈夫?」

 

最後に聞いたアナウンスは絶対に夢ではないと断言出来た。現実の世界で確かに聞いた。『次が最後ですよ〜』文字通り次に寝れば彼女は死ぬだろう。

 

「ごめん…今日早退する…」

「え、ちょっと単位は?」

「どうにかする…」

「ねぇ、志保ってば!」

 

彼女は友達の静止も聞かず、手早く筆記用具と参考書を仕舞い足早に教室を出て行った。

 

その足で薬局に向かい大量のカフェイン錠とコーヒー、エナジードリンクの類を購入して家路に着く。

 

志保は家に帰るなり適当な紙を取り、裏に自身に起きた出来事を書いた。

精神状態がマトモでない為、書くというよりは書き殴る方が正しい。

 

文字が震え、バランスや綺麗さなんてモノはない。本当に走り書きのようなモノ。それだけ志保の精神は限界に達していた。

 

家の中にあるカフェインが含まれる物全てを摂取したが、それでも不安が残る。そして大量のカフェインを摂取した事により副作用が酷くなった。

 

興奮、不安、震え等の副作用が一度に来た為、思考が纏まらず頭がボーっとする。

 

そんな状態が続いた結果、いつの間にか幸か不幸か1限目の講義の後から時間は経ち、午前3時を回ったが微塵も眠たくなかった。

だがその間、恐怖と不安により精神状態は悪化していく一方だった。

 

やがて、極度の精神状態に達したら志保は一つの結論を出した。

 

「ひきにくにされるくらいなら、てくびきっててしねばかいけつできる」

 

そう思いたった志保は覚束ない足取りで台所に向かう。中から包丁を取り出して、手首を切ろうとした瞬間だった。

 

 

 

『次は挽肉〜挽肉です』

 

突然あのアナウンスが何処からともなく聞こえてきた。

 

「なんで⁉︎私寝てないじゃん⁉︎ 寝てないのになんでここにいるのおおおおおおおやだああああああああああ!!」

 

前回同様、座席くらいの大きさの機械を小人達が志保を押さえつけ近づけようとしている。

 

唯一違うのは前回は頭からだったが今回は足を掴まれ機械の中に入れられようとしている事くらいか。

 

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!せめて頭から!頭からにしてよ!痛いのは嫌!やだやだやだやだやだやだ!」

 

身を捩り、必死に抵抗をするが小人達の方が力が強く抵抗虚しく足が機械の中に巻き込まれる。

 

「あああああああああああああああああああああああああ!!!!」

 

やがて巨大な回転する刃が肉を裂き、骨を砕く音が志保の叫びと共に車内に響き渡る。

 

両足を磨り潰されバラバラにされるも小人達は更に機械の中に押し込もうとする。次々と体を足から切り刻まれ、腰の辺りまで砕けた骨に肉が纏わりついてるような状態にされる。

 

動体をその巨大な刃が切り刻んでいると、機械の回転が鈍くなる。彼女の腹から腸が飛び出して刃の根元に絡まったからだ。

 

小人達は絡まった腸を引き千切り、再び機械が動き出す。

 

 

しばらくの間、絶叫が響き渡りやがて聞こえなくなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今井さーん、大家です。深夜の騒音について他の方からの苦情についてのお話があります」

「今井さーん!若いから騒ぎたいのは分かりますけど節度守ってもらわないと困るんだよ!」

 

何度かインターホンを鳴らして呼びかけても反応はない。

志保の部屋の前にいるのは大家と隣人だ。深夜に突然叫びだしたり激しい物音がするからどうにかしてくれと他の部屋の住人からも苦情が来ていた。

 

「ていうか、夜中になにしたんだ生臭いな。なんだこの匂い」

「あら、茂木さんもそう思います?」

 

部屋の中から、強烈な生臭い匂いが漏れ出していた。

 

「今井さん、ごめんなさい、ちょっと開けますよー」

 

鍵を取り出し、ドアを開けた。

 

「今井さん、部屋に入りますよー… あああああああああああああああああああ‼︎」

 

中で凄い叫び声がした為、隣人も思わず部屋を覗き込む。

 

「あ…あ、あああああああああああああああああああ‼︎」

 

 

目に飛び込んできたのは部屋の主の志保は下半身から胸まで擦り潰され、原型を留めていなかった。

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

「それにしても最近、異常な事件増えましたよね〜」

「お前、そういう変死事件にあまり首突っ込むなよ」

「え、なんか知ってるんですか?」

「まだ、入ったばっかだろうから知らねーだろがな そういうn」

 

 

 

喫煙所で初老の男と若い男が話し込んでいた時だった。

 

 

ある一本の電話が室内に響く。

 

 

「はい、大山… 何⁉︎場所は⁉︎ あぁ、分かった今行く!おい、行くぞ!」

「え、ちょ、大さん!行くってどこに⁉︎」

「馬鹿野郎!事件だ、事件!」

 

火を付けたタバコを慌てて消し、喫煙所を飛び出す。

 

 

車を走らせ、事件現場に辿り着く。現場には何台ものパトカーと警官、野次馬が集まっていた。

 

「はい、警察ですー通してくださーい。おい俺だ、通してくれやー」

「大山さん!こちらへどうぞ!」

 

 

野次馬をかき分け、テープを潜り抜ける。

 

ブルーシートの中に入り、被害者の部屋の前に着いた。側にいた刑事が簡単に状況を説明してくる。

 

「大さん、お疲れ様です!現場エグいですよ… 多分、例のアレ案件になると思います…」

「そうか…なら今回俺達の出番はないな。ガイシャはどんなだ?」

「挽肉にされたみたいに下半身がぐちゃぐちゃで…」

「大さん、待ってくださいよ! うっ…オェェ…」

「おいおい、頼むぞ新人」

 

中に入り、遺体を確認する。後から若い刑事も入ってくるが遺体を見るなりあまりにも凄惨な現場に思わず嘔吐する。

 

現場内を鑑識や他の刑事が色々調べている時、1人の男が入って来る。

メガネにオールバック姿の"如何にも"なサラリーマン風の男だ。

だが如何にもなのは外見だけで纏う雰囲気はサラリーマンのソレではない。

 

「皆さん、お疲れ様です。後は我々が引き継ぎますので任せていただいて

大丈夫です。現場検証ありがとうございました」

 

現場を見るなり、その男は刑事達に引き上げるように言い切る。

 

「"中央"の人ですか 報道機関はどうします?」

「その辺はあなた方の方がお詳しいでしょうからお任せします」

「分かりました。では、通常の殺人事件として扱います」

「よろしくお願いします。遺体の方は私がこれから確認しますので終わり次第回収をお願いします」

 

突然現れた男が現場を仕切り出すが、誰一人として何も言わず慣れた様子で撤収作業を始める。ただ、視線だけは「おいでなすった」と言わんばかりの視線だが。

警察とのやり取りもこの男にとっては当たり前なのだろう。淀みなく進む。

 

「おい新人、俺達の管轄外だ。帰るぞ」

「え、でも…まだ…」

「いいから行くぞ」

 

初老の刑事が嘔吐していた若い刑事を連れて行く。

 

外にいる人払い用の警官だけを残して、部屋にいた刑事達は引き上げていった。

 

そして男は携帯を取り出し、どこかに連絡をし始める。

何コールかしたのち電話相手に繋がる。

 

「お疲れ様です。"営業"の白石です。本部長への取り継ぎお願いします」

『あ、白石さん!お疲れ様です!分かりました!ちょっと待ってくださいね!』

 

保留音のメロディの後、本部長と呼ばれる男に繋がる。

 

「本部長今回の件、やはり我々の案件ですね。遺体はこれから調べますが

下半身を何かで擦り潰したように…刃の跡があるので怪異が力任せに殺害した感じではないです」

『そうか、現場の方はどうなった?』

「手順通りにしています。遺体及び現場はこれから調査をしますので、終わり次第報告書を提出します」

『分かった、ご苦労だった。必要な物があれば言ってくれ手配する』

「お願いします。それでは失礼します」

 

電話を終えた男、白石 真広は"中央怪異対策機関"に所属する祓い屋の仕事を生業とする男である。"中央"での所属は通称"営業"と呼ばれており、簡単に言えば裏方専門の祓い屋である。

 

基本的には"営業"の祓い屋は裏方担当なだけあって、木庵や由香のように怪異と直接戦う事はほぼない。祓い屋達が活動しやすいように怪異が事件を起こした現場では先程のように警察に指示を出し、調査をしてその情報を祓い屋達に届けるのが仕事である。

 

一応は祓い屋であるので簡単な式神術から始まり、術式に武器や術具の扱いはこなせるようにはしてあるが白石曰く気休め程度だという。

 

「戸締まりもしっかりしてあるし、物が壊されていたりする様子もない…

となると術式を使う怪異…」

 

白石は事件現場と遺体の状況から見て、物理メインの怪異ではなく術式を行使するタイプの怪異だと判断した。

 

「これは…」

 

白石の目に留まったのは被害者が書き残した物と思われるメモが、酷く錯乱した状態で書いたのか字の震えが目立つ。文字は辛うじて読める。

 

[わたしはまもなく死にます ゆめで殺される眠りたくないねたらころされる なんでわたしがこんな目に誰かたすけてください しにかたはひきにくだそうです(後半は文字が潰れて見えない…)]

 

「なるほど、夢の中で術にかけてから殺すのか…ありがとうございます貴女のお陰で情報が分かりました。安らかにお眠りください」

 

白石は被害者の書き殴ったメモを拾い上げ、遺体に向かって合掌した。

 

「私は霊視が使えないので貴方の痛みは分かりかねますが、さぞ痛かった事でしょう。さぞ怖かった事でしょう。必ず我々が貴方の無念を晴らします」

 

被害者が遺したメモのお陰でどうにか情報は掴めた。

本来ならここから怪異の詳細や術式の解析を調べて行くのだが、いかんせんこれ以上の手掛かりは夢の中だ。状況が特殊な為、必要最低限の情報しかないが、白石は何も言わず被害者である美保に感謝すると同時に追悼の意を示した。

 

現場検証が終わり外に居た刑事に後を任せて白石は事件現場から立ち去った。

 

 

野次馬から離れた場所にある車に戻り携帯を取り出して、電話をかけはじめた。

 

「白石です。現場検証終わりました。今から戻ります」

 

そう伝え、白石は車を発進させ報告書を作成する為機関に戻る事にした。

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

「ん…」

 

携帯のアラームで目が覚めた怜は手だけ動かしながら携帯を探り、鳴り響く音を止めた。

 

「やっぱり夢じゃないよね…」

 

昨日の出来事を思い返してみても、未だ悪い夢のような感覚。

机に置いてある木庵の名刺。去り際に貰ったそれの存在が紛れもなく昨日体験した事は全て真実だと否応なしに語りかけてくる。

 

親友の死、それを引き起こした"怪異"という存在、ソレを祓う木庵達の存在、そして責任を取る為に降霊術で呼び出した"ナニカ" 、更に20年後には自分は死ぬ。何処にでもいる女子高生が背負うには余りにも非現実的で重い現実。

 

だが、怜の心情は死にたくないでもなく只々、親友である沙耶に対する

申し訳なさでいっぱいだった。あの時、止めていればとずっと後悔している。そんな親友に対して唯一出来る償いといえばと考えた結果が自分の命を代価に後始末を付ける事くらいだった。例え、自分が死のうと構わない。それで少しでも償いになれば。そんな気持ちで怜はいっぱいだった。

 

あの事件の後、家に帰るなり叔母に心配されたが帰る前に一応連絡はしていたので夜遊びしすぎるなよーの一言くらいで済んだ。

 

「行ってきまーす」

 

叔母は既に仕事に行っていたので家には怜1人だったが、感謝の意を込めて大きな声で告げた。

 

 

学校に着いた怜は昨日の事件後、あれだけの事があったのでどんな事になっているか不安だったが、どこにも異常などないいつもと同じ学校を見て少し安心した。

 

何事もなかったかのように、あっという間に授業は終わり放課後になった。

 

学校を後にした怜は昨日、木庵にもらった名刺に書かれている番号に連絡してみる事にした。

 

10コール鳴らしても未だ、木庵が電話に出る事はなかった。

やがて、『お繋ぎした電話をお呼びしましたがお出になりませんでした』とアナウンスが流れる。

 

「忙しいのかな?」

 

再び、電話をかけてみる。

 

再度鳴らしても木庵が電話に出る事はなかった。

 

 

「…」

 

それでももう一度鳴電話をかけてみた。

これでダメなら夜にでもかけようと思っていた時だった。

 

何コールかした後、電話が遂に繋がった。

 

「あ、もしもし すみません、昨日の件で電話した篠山 怜です。こちらに連絡するよう言われたので電話しました」

 

とりあえずは木庵が電話に出たので少しホッとした。怪我をしていたので

もしかしたら入院してるのでは心配をしたが、それは杞憂に終わる事になる。

 

『ーーーーあ? そーーーーば 電ーーろってーーーな』

「あの?もしもし木庵さんですか?なんか全然声が聞こえないです」

 

木庵に電話が繋がったのはいいが、やたらと周りの音がうるさく全然声が聞こえない。

 

「え、どこにいるんですか?クラブみたいになんかうるさいな…」

『ーーちーーと、ーーーろー』

「すみません、全然聞こえないです。もしもし?」

 

『ーーーちょーー、待ーーーてろ‼︎』

「あ、木庵さん⁉︎もしもし⁉︎」

 

プツッ ツーツー…

 

そう言い残し、そのまま電話が切れてしまった。

 

最後までよく聞こえなかったが、聴き間違いでなければ「ちょっと待ってろ」と言ったように聞こえた。

 

木庵に待つように言われたが、20分経っても未だ折り返しの電話がなかった。

 

「全然連絡ないじゃん…」

 

再度、電話をかけようとした時だった。

 

「あ、電話来た。もしもし」

 

漸く、木庵から折り返しの電話がかかってくる。

 

『悪いな、外せない用事があったからな』

「え、それ大丈夫なんですか?」

『あぁ、大丈夫だ。もう終わったからよ』

 

木庵が外せない程の用事、職業柄色々あるのだろうと怜は特に聞く事はなかった。まぁ、最も木庵の事をよる人間からすれば分かりきった理由だが怜も理由を聞けば恐らく携帯を地面に叩き付けていたかもしれないが。

 

『今から迎えに行くがどこにいる?』

「じゃあ、学校の近くのあの公園に来てもらっていいですか?」

『公園?あ、昨日のアレか。分かった、また後でな』

「あ、はい」

 

木庵はそう一言告げると電話が切れた。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

約20分後、木庵の乗る車が怜の下に到着した。

 

「待たせたな、乗れや」

「タバ… いえ、なんでもないです…」

 

木庵はタバコをふかしながら車の窓を開け、そう言った。

煙で顔を顰めながらも怜は車に乗り込む。

 

「これから本部に行くぞ」

「確か私の処遇とかそういう話をするんでしたっけ?」

「あぁ、そうだ。どうなるかは分からないがな」

「どうなるかってもしかしたら死ぬかもって事ですか?」

「多分大丈夫だと思うが100%とは言い切れねぇ。巻き込む形になったとはいえお前はその体に怪異を宿してんだ。その場で処刑される事だってあり得る」

 

木庵はあっさりと死ぬかもしれないと言い切った。

もしかしたらこれから死ぬかもと言われた怜は流石に冷や汗が流れるが、木庵はお構いなしにそのまま続けた。

 

「さっきも言ったがどうなるかは俺も分からん」

「そう…ですか…」

 

その一言を最後に車内に沈黙が訪れた。

 

車を走らせる事15分後、とあるビルの地下の駐車場に入りだした。

高さは地下を入れて6階建て程。大きさは普通の6階建てのビルより小さめだ。そのまま適当な空きスペースに車を停めるとエンジンを切った。

 

「はい、到着」

「え、着いたんですか?」

「あぁ、このビルだ」

「入るぞー」

「あ、ちょっと待ってくださいよ!」

 

車から降りた木庵はタバコに火を付けるとそのまま中に入って行った。

怜は慌てて後ろをついて行く。

 

中に入った怜は辺りをキョロキョロと見渡す。

そんな怜の挙動不審さを見た木庵は声をかける。

 

「なんだ?そんな周りを見渡して」

「いや、その… こう機関て言うからにはなんか秘密基地みたいなのを想像してたので…」

 

怜がそう思うのも無理はない。機関を名乗るくらいだから秘密基地感に溢れる内装と思うだろう。実際ビルの外観はなんの変哲もないただの古いオフィスビルにしか見えない。

 

木庵はそんな怜を見てハイ出たと言いたげな表情を浮かべる。

 

「そんな如何にもな雰囲気な訳ねーだろ。基本、俺達の存在は秘匿だ。ビル全体に結界張って、人払いと認識阻害の術式を施してるから同業者以外近づこうとする意思すら起きねぇよ」

「あ、だからか」

「あん?」

「このビルの地下に入る時に変だなって思ったんです。大きい建物なのに

違和感というか誰一人、鳥ですらそこに何もないみたい感じで避けるというか、そういう空気は感じてました」

 

木庵からビルの仕組みを聞いた怜は納得した。ビル自体に通行人が近付く事も視線をやらない事もなんら不思議ではない。昨今の時代、皆一様にスマホを眺めながら歩いている。一々、古いビルに視線すら送らない事は

ごく自然だ。だが、動物はどうだ。鳥や猫ですらそこに何もないように避けてそこを通る。怜がその様子を見て、違和感を感じていた。

 

「お前、案外勘が鋭いな」

「よく、言われます」

「だがいい事だ。そういう勘は大事だ」

 

怜自身、幼少期からそういう観察眼や勘はやたらと働いた。

理由は不明だが怜は特に気にも留めなかった。勘の良さを褒められたのは木庵を入れて3人目だ。

 

木庵達はエレベーターに乗り込むと1階のボタンを押した。

やがて1階に着くと、木庵は受付の方まで歩いていく。

見るからに今風な感じの茶髪にセミロングの受付にいた1人の女性が木庵に声を掛ける。

 

「あ、木庵さん!お疲れ様です!」

「お疲れさん彩陽、本部長に例の件だと伝えてくれ」

 

柔らかい笑顔を浮かべながら彩陽と呼ばれた女性は本部長と呼ばれた人物に内線の電話を繋げた。

 

「もしもし、桧口ですー。あ、本部長!木庵さんが着きました!ハイ、ではこれからそちらの方に伺いますのでー!はい、失礼しまーす!」

 

先程のやり取りを見ていた怜はますます、普通の会社みたいだと思った。

 

「本部長なんだって?」

「これから来てくれって言ってましたー!あ、それと木庵さん、社内禁煙って言ってましたよ!せめて、自分の部屋で吸うようにと!」

「…相変わらずよく見てんなぁ」

 

先程、地下から入った際に既にタバコを咥えていて、流石に吸い殻は携帯灰皿に捨てたのだがどうもお見通しだったらしい。

 

「おい、こっから長丁場だ。本部長に会う前に俺の部屋行くぞ」

「あ、ちょっと待ってください!」

 

木庵は怜の返事を聞く前にそのままエレベーターの方に歩き出していく。

再び、エレベーターに乗り込んだ2人は木庵の作業場兼自室に行く為、4階まで上がる。エレベーターを降りた木庵は部屋の鍵を開けた瞬間、タバコに火を付け、煙を思いっきり吸い込んだ後噛み締めるように煙を吐き出す。

 

「色々聞きてぇ事があるだろうが簡単に言うと俺の部屋だ。見るだけにしとけ。何も触るな聞くな」

「…なにもしませんよ」

 

怜が気になるのも無理はない。部屋の中はタバコと芳香剤の匂いが充満しており、棚には銃火器や武器の類が陳列してある。別の棚には得体の知れない中身が入った瓶や変な形のキーホルダーや古めかしい置物に埃を被った箱があり、そして机の上には散らばった書類の山にパソコン、山積みになったタバコの灰皿、更に作業用の机には工具や作りかけの何かが置かれていた。

 

ゴミ箱を用意するのも面倒だったのかゴミが詰め込まれた袋に、周りにはエナジードリンクの空き缶が重なっている。恐らく仮眠用だろうかソファには枕と毛布が置いてあった。

 

どこを見てもつい目に入ってしまう光景に怜は「この人片づけダメな人だ」と認識した。

 

「お前、俺が片付け出来ねぇと思ってんだろ」

「…思ってません」

「視線が物語ってんだよ視線が。いいんだよ、この方がどこに何があるか把握出来るから」

「それ片付け出来ない人のテンプレですよ」

「そうとも言うかもな」

「そうとしか言わないです」

 

タバコを吸い終えた木庵は吸い殻を灰皿に押し込み、2本目に火を付けようとした時だった。

 

「あ?電話か はい、木庵でs… スンマセン…すぐ行きまーす」

 

木庵の電話が部屋に鳴り響く。電話を出た途端、木庵は面倒くさそうな顔をした。

木庵はタバコを吸うのを諦めて代わりにガムを噛み出した。

 

「ほら何してんだ、行くぞ」

「あ、はい…(私もなんもしてないけど…)」

 

部屋を後にした木庵達はエレベーターに乗り込み、5階に上がる。

5階に着いた2人は本部長の待つ部屋に辿り着いた。

 

「本部長ー、木庵ですー」

 

ドアをノックと言うより、ガンガンと叩く。普通なら失礼極まりないが、

生憎と木庵は普通でない上に皆、慣れっこだったので何も言わなかった。

 

「入れ」

「はいー」

 

ドアを開けた木庵達は中に入る。中には筋骨隆々の190cmを超える長身に眼帯をした隻眼に髭面の大男がいた。初老を迎えるくらいの見た目だが、精悍な顔付きで体格の大きさもあって見る者を圧倒してしまう。

 

 

「本部長、横にいるのが例の… お前、名前なんだっけ…?」

「…昨日、自己紹介したじゃないですか… は、はじめまして私の名前は篠山 怜です」

「君が例の少女だな。木庵から話は聞いている。私の名前は皚々向嶽(かいがい こうがく)だ。ここ中央怪異対策機関の本部長をしている者だ。よろしく頼む」

「こ、こちらこそよろしくお願いします!」

 

皚々の見た目の放つ威圧感に怜は思わず体が強張ってしまう。

 

「早速で悪いが、応接室に来てくれ。これからの君の処遇を考えねばならない」

「は、はい!」

 

皚々はそう言うと席から立ち上がり、応接室の方に移動した。その後を怜もついていく。

 

「んじゃ、俺は待ってるんで」

「木庵、分かってると思うがここは禁煙だぞ。吸うなら外か自室でな」

「…分かってますよ」

 

木庵がコートのポケットに手を入れたのを見てすぐさま皚々はすぐさま釘を刺した。流石の木庵もそう言われて思わず手を止める。

 

「…タバコ吸いてぇから部屋戻るか。どうせ、すぐ終わらねーし」

 

1人残された木庵はタバコを吸う為に自室に戻る事にした。

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

「座ってくれ、そんなに緊張しなくてもいい」

「とは言いましても…」

 

 

 

別室に移動した皚々と怜は互いに向き合うように座る。

皚々から楽にするように言われたが、威圧感でそれどころではなかった。

 

「さて、君に起きた出来事は木庵から大体は聞いているが、君自身の口から直接聞きたい。何が起きたか話してくれ」

「分かりました… 事の始まりは私と友達が降霊術を始めようとしたんです。本当にただの暇つぶしで…」

 

そこから怜は全てを話しだした。自身に何が起きたか、何が起こったのか

を。軽はずみな行為で霊を呼び出し、その結果親友を死なせ、そして自分を代償に降霊術の効力を無効にして、更に強力な"ナニカ"を呼び出した。

 

その"ナニカ"はあっさりと元凶の怪異を斬り伏せ、代償に20年後に怜の命を貰うと死の契約を交わした。だが、怜はその結果になってしまった事を

後悔はしていない事も言った。

 

事の顛末を話し終えた怜は、皚々の反応を待つ。

 

やがてしばらくの沈黙の後、皚々は口を開いた。

 

「君の事情はよく分かった。とりあえず君の中にいる怪異を霊視で視てみる。話を聞く限りかなり強力な怪異だ」

 

皚々は左目の眼帯をズラすと塞がれていた目を開いた。

目が怪しく光り出し、右目を閉じて怜をじっと見つめた。怜は見られている間、全てを見透かされた感覚に陥る。

 

皚々の眼球には事故で呪いを受けた際に失明し、全てを見通す代わりにいずれは呪いが全身に回り死に至るモノだが、強力な封じ込めの術式を組み込み、更に同じように術式を組み込んだ眼帯で制御したお陰で呪いの進行を抑えつつその効力を使えていた。

 

 

「あ… ぁ… はぁ…はぁ…」

 

怜は呼吸が苦しくなり始めた。それと同時に内から湧き上がる負の感情が

高まっていくのを直感的に感じ取れた。

ある種の魔眼とでも言うべき、皚々の眼に怜の中の怪異が反応しだした。

 

怜の中の負の感情が胃液のように更に迫り上がる。

 

「ここまでにしておこう。君の中の怪異が私の眼に反応してきた。これ以上刺激を与えて余計な被害は出さないようにしないとな」

 

「なにか分かったんですか?」

 

霊視を終えた皚々は左目を閉じて再び眼帯をした皚々はそう告げた。

 

「君の中にいる怪異の正体までは判断出来なかったがある程度は絞り込めた。とても古い存在の怪異だ。力の強さ、格、どれを見てもそれこそ平安時代にまで遡るだろう。なるほど、木庵が別次元と言い切るだけの事はあるな」

 

怜の中に憑いている怪異は皚々程の祓い屋を以てしても全貌を掴む事の出来ない存在だった。

 

 

「仮の名前で呼ぶならば、[甲冑の男]そう呼べば言霊にも乗らないから まだマシだろう。どうもソイツは正体を隠そうとしているからな」

「甲冑の男ですか…」

 

身も蓋もない名前だがそうとしか呼称出来ない為、怜も特に何も言わなかった。

 

「今、君には2つの道がある。1つは記憶を消して死の恐怖に怯える事なく20年の寿命を迎えるか、2つ目は…」

「2つ目は…?」

 

怜は聞き返し、皚々の次の言葉を待つ。

 

「もう一つの道は君がその強大な力を制御し、我々と共に怪異と戦い君に憑いた怪異を祓う道だ」

「私が怪異と戦う…ですか」

 

皚々から告げられたのは怜が怪異と戦い自らに憑いた怪異を祓うというものだった。

 

「君が困惑するのも無理はない。だが、君に残された道はその2つの内

いずれかだけだ。そして、どの選択肢を選んでも根っこには被害が出れば君を処刑するという考えがあるのだけは理解して欲しい」

 

困惑する怜だが、皚々は言葉を続ける。

 

「君の人生を左右する選択だ、すぐにとは言わない。だが、必ずどちらか決めてもらう」

「どちらかだけ…ですが…」

 

怜は思わず、口を噤む。償いをしたいとは思っていたが実際にどうすればいいかまだ答えを出せないでいた。

 

 

 

 

 

「だったら私は…」

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

怜が皚々と話しだしてから1時間、木庵は自室で椅子の背もたれに体を預けながら、タバコを吹かしていた。かなりの本数を吸ったのだろうか、部屋の中は煙で白くなっていた。

 

そんな木庵の部屋を1人の人物が訪れる。

 

「相変わらずこの部屋は煙てぇなオイ」

 

その人物はいきなりドアを開け中に入るなり、開口一番に木庵の部屋の煙たさに文句を言う。

 

「入れー、って言ってから入れよ。マナー0お前は」

 

木庵も負けじと不躾に入ってきた人物に文句を垂れる。

 

「ん?俺は今、どこだろうとタバコ吸う奴にマナーを問われたのか?」

「お前は特に女関係がだらしねぇだろが。で、上級術師サマの斎蔵院 宗近(さいぞういん むねちか)サンがこんなとこに何の用だ?」

「そりゃあ、お前が連れてきたJKがどんな逸材かなって思ってな。万年中級止まりの木庵琉州クン」

 

斎蔵院 宗近。代々、僧侶を生業とする一家の生まれで起源は平安時代に遡る。先祖は陰陽師や武士と共に怪異を祓ってきた、祓い屋一門の中でもかなりのエリート一族である。

宗近は斎蔵院家の次男であり長男が跡を継ぎ、他の兄弟は祓い屋やそれに準じた職に就くのが是とされていた。そんな家庭ながら宗近は割と自由な振る舞いで38年間生きてきて、外見もミディアムパーマに顎髭を生やし格好が僧侶でなければ、ただのチャラい男にしか見えない。おまけに木庵がウンザリする程に女関係がとことん緩かった。

 

だが、腐っても斎蔵院の血を引く者。生まれながら才能に恵まれ、木庵と同期で中央の機関に所属したが木庵より先に上級術師に昇格した。

 

互いに憎まれ口を叩く仲だが、木庵は家柄等を良く言えば気にせず、悪く言えば何も考えてないので宗近も中央所属の他の祓い屋達も気兼ねなく接しくれるので割と中央で居心地の良さを感じていた。

 

「つーかよ木庵、なんであの時JKを始末しなかった?怪異に魅入られた者は被害を出す前に処刑がセオリーだろ」

「それには理由がある。恐らく今頃、本部長に祓い屋になるか、記憶を消してタイムリミットが来るまで静かに暮らすかとか言われてる頃だろうよ」

 

そう、怜本人には害が無いとはいえ怜の中にいる怪異はそうはいかない。

20年の命という代価に親友の仇の怪異を祓った。

今は大人しくしているが、いつ暴れ出して被害を出すか分からない為あくまで怜の処刑は保留のままである。

 

「お前は知らねーだろがアイツの中にいる怪異はヤバい。上級の怪異ってカテゴリさえ怪しい。ソイツの力をこっちで上手い事利用すればこっちの勢力は一気に上がる。多分、アイツは予想じゃ祓い屋になる。責任感の強さは尋常じゃなかったからな、そこを利用させてもらう」

 

「お前…とことん使い潰す気じゃねーか」

「それで化けて祓い屋として大成するも良し、途中で死んだらそれまでだ。どっちに転んでもアイツの中の怪異はこっち側に付かざるを得ない」

「いたいけな女子高生をなんだと思ってんだ怖い怖い」

 

木庵は完全に怜を利用するつもりでいた。木庵達が所属する機関は勢力的には弱くは無いが、他の怪異対策機関や京都の陰陽衆、北海道のアイヌ連、沖縄のシャーマン等の祓い屋達は対等の力関係だが、互いに基本的に不可侵かつ関係だが怜の中に存在する怪異の力は、祓い屋としてのキャリアが長い木庵を持ってして別次元と言い切るくらいの強さだ。

 

この業界だと価値観の違いから祓い屋同士の小競り合いもあったりするので、例の怪異をこちら側に取り込めたら、各祓い屋達に対して抑止力を持てるからだ。

 

「アイツは友達を死なせた怪異を祓う為に自分の命を対価にする奴だ。絶対に祓い屋になる。読みが外れたら禁煙してもいい」

「へぇ、ヘビースモーカーのお前がそこまで言うならそれはマジなんだな」

 

宗近は適当に転がっていた椅子を引っ張り出し、座り込む。そのまま懐からタバコを取り出して火をつけた。

 

「おい人にタバコのマナー云々言う奴がここで吸うんじゃねーよ」

「こんなヤニ臭い部屋で吸おうが吸わまいが一緒だろうが」

 

そのまま2人でタバコを吹かしながら、ボーッとしていた時だった。

 

「お、きたきた」

 

木庵の携帯に着信が来た。着信相手は皚々からだ。

 

「へい、木庵です。分かりましたー、行きまーす」

「本部長か?」

「あぁ、面談が終わった。行くとするか」

「じゃあ、俺も仕事行くかな。後でそのjk、俺にも紹介しろよ」

「うるせぇな、その辺の女引っ掛けろ」

 

自室を後にした木庵は皚々の部屋に向かった。

 

 

「本部長ー、俺です入りまーす」

 

木庵は部屋の扉を開けて、中に入る。

中には皚々と怜がいた。

 

「で、どうなったんすかね?」

「篠山怜は本日付けで中央所属の祓い屋となった。以後、彼女には祓い屋として我々と共に戦ってもらう」

 

木庵の問いに皚々が答えた。

 

「そんじゃ、そういう方向で決まったんすね」

「あぁ、だが彼女の処刑は保留のままという事は忘れるなよ」

「へいへい、分かってますよ。つー訳で篠山、よろしくな」

「は、はい!よろしくお願いします!」

 

木庵は座ったままの怜を見下ろした。緊張しながら返事をした怜の目には確かな決意があった。

 

「とりあえず中を軽く案内するから行くぞ」

 

そう言って木庵は怜を連れて行き、部屋を後にする。

 

 

下の階に降りる為、エレベーターを呼びしばらく待った。

 

「お前、後悔してないんだな?命が軽いこんな異常な世界に来て」

「確かに怖いですよ。でも、私なんかで誰かの命を救えるなら私は戦います」

「そうかい、精々頑張りな」

 

木庵の読みは当たった。怜は必ず祓い屋になると信じていたがこうも上手く行くとは思ってもみなかった。

 

やがてエレベーターが到着し、2人は木庵の部屋に向かった。

部屋に着くなり、木庵は即座にタバコを取り出し火を付ける。そのままソファにだらしなく座り、煙を吐き出す。

 

「まぁ、飲めよ」

「ありがとうございます(なんでレッドブル…)」

 

そう言って木庵は怜に缶飲料を放る。

 

怜は放られた缶を受け取り、その辺にある椅子に座り込む。

 

「今日からお前は俺達の仲間だ。とりあえずはしばらくは基本的な事は俺が叩き込んでやる。ちなみに座ってお勉強なんて事はしねぇ」

 

「…どういう事ですか?」

 

木庵が言った事がイマイチ理解出来ず怜は思わず聞き返した。

 

「俺達祓い屋は知識も必要だが、知識だけ学んで実戦でビビって動けないようならソイツはすぐ死ぬ。1番必要なのは度胸と決断力だ。それがあれば想定外の出来事だろうが死にかけても死にはしない」

 

「それは…確かにそうですけど…」

 

木庵は今まで沢山の祓い屋達が呆気なく死んでいくの見てきた。人の命が玩具のように簡単に消えるこんな異常な世界で今まで生き延びてきたのは強さや知識も勿論必要ではあるが、想定外の事でも動じない度胸といざという時の決断力だ。

 

木庵なりの不器用ながらの的を得た発言に怜は押し黙る。

 

「まぁ、その点お前は度胸と決断力はある方だ。そこは誇っていい。で、さっき言ったように俺は勉強とかその類は全然ダメだからな。俺なりの方法で教える」

 

書類を眺めながらだった木庵はタバコの煙を吐き出し、書類を放り投げると怜に向き直り、一言告げた。

 

「どうするんですか?」

「現場に出て、研修だ」

 

 

to.be.continued…




読んでくださってる方ありがとうございます。
励みになりますので、遅いペースですが頑張っていきます。

後編でバトルパートになります。長らくお待たせしました。
読んでもらえたら幸いです。
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