中央怪異対策機関   作:ざつざっつ

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長らくお待たせしました、3話目後編となります。
私生活でバタついたり仕事が忙しかったりで中々活動出来なかったです。
ごめんなさい

見てくださってる人がいるのが嬉しいです。後半パートなります。

見る人によっては不愉快に思う描写もあると思うのでご了承ください。
ポンコツ文章で申し訳ないですが、ポンコツなりに頑張ります。

後編もよろしくお願いします。


FILE No.3「猿夢」後編

「現場研修?」

「あぁ、そうだ。その方が手っ取り早いからな」

 

木庵は当たり前だろと言いたげな態度でタバコの煙を吐き出す。

怜は木庵のその言葉に思わず顔を顰める。煙たいのもあるが1番はいきなりの事で何を言ってるんだこの人はという割合が大きい。

 

「でも、私何も知らないんですけど」

「だから、あれこれ教えるより現場に出て学ぶ方がいいじゃねぇか」

「ごめんなさい全く分かりません」

 

怜の疑問も尤もだ。警察学校に入学した警察志望の新人にいきなり殺人鬼を捕まえろと言ってるようなモノで、しかも今回は異形の存在である怪異を祓えなのだから、どう考えても無理である。

 

「さっきも言ったが、俺は勉強が死ぬ程嫌いでな。教科書なんて眺めてたら10分もしないでおねんねだ。そんな俺がお前をどうやって鍛える?現場で教えていくしかないだろうが」

「他の人に変わってもらっていいですか?」

「却下だ(コイツの監視の意味合いもあるしな)」

「…」

 

怜の不安や疑問は木庵の一言で遮られた。

木庵に色々言いたい事や聞きたい事がまだまだあるが、新たなタバコに火を付けだしたのを見て怜は考える事を完全に諦めた。

 

「で、どうすればいいんですか?」

 

怜は思考を切り替えて木庵に尋ねる。

 

「RPGと一緒でまずは武器からだ。大丈夫だ[ひのきの棒]よりいいのがあるから」

「武器ですか…」

「あぁ。という訳で開発課に行くぞ」

「あ、ちょっと待ってくださいよ!」

 

怜の返事も聞かず、木庵はひとしきりタバコを吸い終わると灰皿代わりにした空き缶に吸い殻を突っ込み、そのまま立ち上がり部屋を出て行く。慌てて怜もその後を追いかけ2人は部屋を後にした。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

「開発課なんてあるんですね」

「そりゃそうだ。俺達の武器は誰が作ってる?って話になるだろ」

 

 

 

2人はエレベーターに乗り込み3階に着いた。怜は辺りを見渡しながら歩いてる為、自然と歩幅が遅れてしまう。そんな怜をお構いなしに木庵は自分のペースで歩いて行く。

 

しばらく廊下を歩いた2人は右の角にある部屋の前で立ち止まった。

怜がふと上を見上げると鉄製の扉の上にプレートがあり、そこには[開発課]と書いてあった。

 

「これが開発課…ですか」

「あぁ、中に入ってもその辺のモンに勝手に触るなよ」

「さ、触らないですよ…」

 

そう言うと木庵は扉を引いた。扉を開けると、中から熱気と機械と油の匂いが怜の鼻を擽ぐる。

 

中には30人程の作業員がそれぞれ機械を用いて加工したり、恐らく新しい武具だろうか仕上がった刀を軽く振り、その様子を見て納得したように作業員の1人が頷いている。

 

別の作業員は銃を分解してパーツを付け替えたり、銃弾の弾頭に退魔の術式を慣れた手付きで刻み込みんでいく。木庵や由香が使用した銃弾も元はここで作られたモノである。

 

ここで保管してある銃火器や銃弾、パーツ類は日本では流通してないモノが殆どで海外から基本仕入れている為、事情を知らない警察に見つかれば当然、銃刀法に引っ掛かるが機関所属の祓い屋達は表向きには非公式の存在だが一応公安所属扱いの組織なので最終的には無罪放免となる。だが、基本は見つからないに越した事はない。

木庵ですら車のトランクを二重底にして誤魔化しているくらいだ。

 

 

各々が自分達の世界に入り、様々な武器を道具を作成し加工していく。その様子に怜は思わず圧倒されてしまう。木庵は1人の作業員に近付き声をかけた。

 

「鉄火場のおっさんはいるか?」

「おやっさんならあっちにいると思います!」

「あいよ、ありがとさん。邪魔して悪いな」

 

木庵は慣れた足取りで教えられた方角に向かうが、怜は何度も躓きそうになりながらも着いていく。

声をかけられた1人の作業員が指を差した方向には、熊と見間違う程の巨漢がいた。

 

「おっさん、今いいか?」

「あぁ?何の用だ?こっちは新しい子の調整してんだ。ギャンブルの話なら明日以降にしな」

 

髭面の巨漢の男はぶっきらぼうにそう告げて木庵に背を向けると、再度武器の調整を始めた。

木庵も自分が使うかもしれない新しい武器とあって気になったのか机を覗き込む。

 

「こりゃまたスゲーの作ったな」

 

木庵のその一言を聞いた瞬間、巨漢の男はバッ!と勢いよく振り返り堰を切ったように次々と喋り出した。

 

「だよな⁉︎お前なら分かってくれると思ってたぜオイ!見てくれ!この重厚感溢れる無骨なボディ!初期のスペックなら毎分6,000発だが、あまりにも速すぎて弾薬の消費が激しいし動作不良が多すぎるからよ!発射速度が下げられたワケよ!でもよ?やっぱり俺は技術屋でなぁ、そこでこの俺が全力で情熱を注ぎ込んで初期スペックに近い毎分5000発になるよう再調整した!そして驚くなよ?更に!そんなハイスペックなコイツにもう2セット!つまり計3門、合計18の銃身で毎分15000発を一度にブッ放せる用に取り付けたってワケだ!堪んねぇよな!80年代のシュワちゃんやハリウッド映画でお馴染みのこの武器の凄さを!俺は開発課にいれて心底幸せモンだ!」

 

男が木庵に披露したのはハリウッド映画で常連のM134であるが、作業台にあるのはお馴染みのガトリングガン通称[ミニガン]ではなく、銃身を三角形から為る形でそれぞれ3門の砲身、合計18の銃身が取り付けられたSF映画に出てくるような原型からかけ離れたバカバカしい兵器。普通のミニガンの重量ですら色々な装備込みで100kgくらいだが、この3連式M134とでも呼ぶべき代物は軽く400kgは超える。

 

ひとしきり喋り終えた男はそのままタバコに火を付けはじめた。

タバコを吸って落ち着いたのか、一旦作業する手を止めた。

 

「で、何の用だ?さっきも言ったが今はギャンブルしねーぞ」

「ギャンブルはさておき、今日来たのは新人がいるから武器を見繕いに来た」

「あぁ、例の新人か?使えんのか?」

「知らね。ただ、根性と度胸はあるがそれ次第だな」

 

 

男は木庵が開発課に来た理由をギャンブル目的と思っていたが、本来の目的は祓い屋となった怜の武器を調達する為だ。

 

「し、篠山怜です!よろしくお願いします!」

「おう、俺ァ開発課で課長やってる鉄火場辰雄[てっかばたつお]ってんだ」

 

鉄火場は咥えていたタバコを消し、作業用の手袋を外して手を怜に向けて差し出した。

怜は差し出された手の意図を理解して手を握る。

 

「(近くで見るとマ・ドンソクより身長高いなこの人…)」

 

怜は握手している鉄火場の手をまじまじと眺めながらふとそんな事を思っていた。

 

「とりあえず近接武器は論外だな。となるとお前さんでも扱える武器は銃がいいだろう」

「え、でも私銃なんか撃った事ないですよ⁉︎無理無理無理!」

 

怜は鉄火場に自身の武器に銃を薦められて思わず驚く。

 

「仕方ねぇだろ。お前刀持って攻撃避けながらあのバケモン斬れるか?銃を使うにはちゃんとメリットがある。まず、お前みたいな素人でも多少訓練すれば簡単に撃てるし、怪異から物理的に距離が取れる事で接触するリスクも軽減出来る。だから素人はまずは銃で慣れろ」

「でも、そうは言っても…」

 

怜の慌てる様子を見ながら木庵がそう答えた。

だが、木庵の言う事は尤もだ。全ての祓い屋が銃を使う訳ではない。

 

術式、武具を使用するが全て本人の努力、経験、卓越した技量やセンス等があってこそ最大限の力を発揮出来る。

 

怜は祓い屋とは言っても先程なったばかりで術式は勿論無い。そして怜の中にいる怪異もまだどういう存在か分かっていない。そんな状態でも可能な限りのリスクを回避しながら使える武器といえば銃が1番最適解だろう。

 

「おっさん、どの銃がコイツ向きかは全部アンタに任せる」

「任せとけ!俺がオススメすんのはだな… そうだな、そんじゃまずはコイツだ」

 

鉄火場はそう言うと、大量の銃火器を飾っている棚の中から1丁を取り出し、机の上に置いた。

 

「やっぱり、怪異を相手にすんなら威力は大事だ。威力ならコイツの右に出るヤツぁいねぇだろ。マグナム44だ。あのダーティー・ハリーも使ってた銃だ」

「おっさん、話聞いてたか?素人が使うって言ってんだろ。こんなモン小枝みたいに華奢なソイツが撃ったら反動で吹っ飛んじまうだろうが」

「あぁん⁉︎ お前さん、俺に任せるって言ったじゃねかぇか」

「あぁ、確かそう言ったけど常識で考えろよ。どう考えても無理だろ」

「…そりゃそうか、確かにリプリーみたいな女じゃねぇと無理だわな…仕方ねぇ。じゃ、お次はコレだ」

 

鉄火場はしぶしぶ先程出した銃を棚に仕舞い、別の銃を取り出し机の上に置いた。

 

「ベレッタか」

「あぁ、拡張性もあるし物足りなきゃパーツを付け替えて最適化も出来る。コイツならお嬢ちゃんにも扱えるだろ」

「なるほどな。おい、コレ持ってみろ」

 

木庵はそう言って怜に銃を渡す。怜は手渡された銃を恐る恐る手に取った。

 

「 (重たい…)」

 

怜が映画でよく見るお馴染みの拳銃。重量約1kg程だがフィクションとは違うホンモノの"重み"を改めて体感した。

 

「よし、武器は決まったなお嬢ちゃん。これで悪い子の仲間入りだな。次は実際に撃ってみるか。ついてきな」

「はい…分かりました」

 

歩きだした鉄火場の後ろを木庵と怜はついていく。部屋を横切り、別の扉を開ける。中には幅1mくらいのスペースがいくつもあり、同じ数だけ仕切りもある。その先には人型の射撃用がターゲットが設置されており内装は至ってシンプルな作りだ。よく映画で見るようなザ・射撃場をイメージすれば分かりやすいだろう。

 

 

「ここは射撃場だ。ゴチャゴチャ説明しなくても理解出来るな?物は試しよ。一発撃ってみな」

「は、はい!」

「おし、あそこのブースまで行ってこい。そんで必ず耳当てしろよ」

「えっと…構えとかは」

「いいか篠山、構え云々とか姿勢がどうとかは後で教える。まずは撃ってみろ」 

 

怜は不安げに後ろを振り返るが、木庵にあっさり言われてしまう。

 

「(構えなんか知らないし、撃ち方も知らない… でも散々映画で見てきた光景でしょ… 確か…)」

 

記憶を辿り、なんとか見様見真似で銃を構えてみた。深く息を吸うとそのまま息を止める。そして引き金を引いた。

 

「ッ‼︎」

 

乾いた音と共に薬莢が床に転がり落ちた。反動を抑えきれず両腕が跳ね上がる。

 

「こ、これが本物…」

「よし、まずはこんなモンだ」

 

初めて銃を撃った反動、手に伝わる振動が手だけでなく全身に衝撃がきたような錯覚に陥る。

呆然とする怜にニヤけた笑みを浮かべながら木庵が肩を叩く。

 

「銃を初めて撃った感想はどうよ?」

「…そんなの分かりませんよ」

「そりゃそうだ、楽しいとか言うならそれはちょっと引くな」

 

怜はブースの後ろにあるベンチに座りながらそう言った。離れたベンチに木庵も座りタバコに火を付けだす。

 

「そんじゃ、俺は作業場に戻るぞ。必要なモンがあるならまた来な」

「助かった、礼代わりに今度カートン買ってくる」

「あ、ありがとうございました!」

 

今までの様子を見ていた鉄火場はそう言い残すと、自分の仕事は終わったとばかりにその場を去って行った。

 

「篠山、銃がどんなモンか分かったろ?ちゃんと構えないとさっきみたいに腕が跳ねたり最悪、反動で体勢も崩れちまう。実戦でそんな隙を作れば一瞬で死ぬ。だからちゃんと撃てるように基礎は教えてやる。慣れだしたら好きな撃ち方でいい、それで怪異を殺せるなら問題ねぇ。ここは警察でも軍隊でもねぇからな、型式通りのお上品な事はしなくていい。ただ…」

「…ただ?」

「俺の元で研修中の時はキチっとやれ。知識、動作全部覚えろ。基礎をしっかりやればとりあえず死にはしねぇ。逆に基礎が出来てない奴はどんな強い祓い屋だろうが俺からすれば雑魚だ。お前はそんな有象無象の雑魚になるなよ」

 

「は、はい…」

 

先程までニヤニヤしながら怜に声をかけてきた時とは雰囲気の違う木庵に怜は表情を引き締める。

 

「その緊張感を忘れんな。このまま射撃訓練だ。銃の撃ち方、構えと動作を軽くだが叩き込む」

「頑張ります!」

 

それから3時間程、怜は銃の基礎をひたすらみっちり叩き込まれた。

安全装置の有無、照準の合わせ方、構え、姿勢に動作、更にマガジンの弾込めから装填時のスライドの確認を主に重点的に教えられた。

 

基本的に映画からの引用が多く、あまり教えるのが上手ではない感覚的な説明の木庵の教え方だが、怜も映画好きだったのが幸いして木庵が鍛えた由香よりか話が通じていた。

 

それがいい方向に作用したお陰で怜は3時間程で明確に動きがよくなってはいた。

あくまで、他の一般人に比べたらだが。

 

今まで銃を触った事のない少女が少し訓練しただけで銃が撃ててしまう普通なら異常な状況だがこれが"この道"を選んだ人間にはやがて"ソレ"が常識に変わっていく。

 

「今日はこんなモンでいいだろ。あんまり遅いと保護者が心配するだろうしな。訓練は終わりだ、もう帰れ」

 

その言葉を聞いた瞬間、怜は緊張の糸が切れてその場に崩れるように座り込む。

 

「え、もう帰っていいんですか?」

 

現場研修と聞いていたので早速怪異を祓いに行くと思っていた怜は驚く。

 

「あぁ、また明日学校が終わったらここに来い。お前の情報を登録したから問題なく本部に入れる筈だ。場所は分かるな?」

「えっと大丈夫です」

「じゃあ、そういう事だ帰れ。明日は実戦だ、しっかり休んで明日に備えろ。保護者には泊まるとかそんな理由で伝えとけよ」

「わ、分かりました」

 

 

射撃場を出た怜は木庵に見送られてビルを後にする。

外に出た時にはすっかり日が暮れ、家路に着く人で通りは溢れていた。

そんな状態でも人々は本部のビルは勿論、そこから出てきた怜には目もくれず通り過ぎていく。怜も家に帰る為、駅の方に向けて歩いて行った。

 

 

 

 

 

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翌日、授業を終え放課後になった後、怜は機関の本部に到着した。木庵の言ったように本部には問題なく入れた。叔母である紗代子には1人でボーっとしたいから夜の街でぶらぶらすると伝えてある。心配はされたが、怜の友人が亡くなった背景を考慮して「気をつけて」と言われそれ以上は追及されなかった。

 

「ごめんね紗代子さん、ありがとう」

 

本当は心配で止めたかっただろうに何も言わずにいた叔母には感謝してもしきれないなと怜は想う。

 

「とりあえず木庵さんの部屋に行こうかな」

 

本部の場所は分かったが流石に勝手に中をウロウロするのは不味いと思い木庵に連絡しようとした時だった。

 

「「あ」」

 

エレベーターが1階に止まり中からタイミングよく木庵が出てきたのだが

なにか様子がおかしい。怜は丁度いいと思い木庵に近付くが当の本人は

え?なんでお前いるの?と言いたげな顔だった。

 

「アレ?木庵さんどこか出かけるんですか?」

 

木庵の手に車のキーが握られていたのを見た怜はどこかコンビニにでも行くのだろうかと思い声をかけた。

 

「あー…」

「?」

 

妙にソワソワしているというか面倒そうな雰囲気の木庵の視線が泳ぐ。

 

「木ぃぃぃぃ庵んんんんんんんん‼︎」

 

怜はしばらく木庵の様子を伺っていると、遠くから階段を駆け降りる音と共に怒号がホールに響き渡る。

 

「あ、やべ」

「オルァ!」

 

怒号の主は階段を駆け降りた勢いのまま、木庵目掛けて飛び掛かり腕を首に回し固定した後、そのまま自由落下で顔から床に叩き付ける。

マトモに受け身を取れない体勢の木庵は大理石の床と豪快なキスを交わした。

更にうつ伏せで倒れた木庵の両足を、それぞれの脇の下に挟み込み、そのまま相手の身体を跨ぐようにして背中を反らせて背中と腰を極めた。

 

「いっつあああああ!スマン由香悪かったギブギブギブギブ」

 

ノーリアクションで一連の技を受けた木庵も流石に限界が来たようで悲痛な叫びを上げる。

 

「あぁん⁉︎何が悪かったんだァ⁉︎言ってみろやあああああ‼︎ 祓いの指令来てんのにどーこ行こうとしてたのかなァ⁉︎」

「仕事前の気晴らしに外の空気吸いに出ようとしただけだってばあぁ⁉︎」

「お前がそんなおセンチな野郎か!どうせ玉転がしに行くだけだろうが!

結局その後、私に見つかって〆られるのがパターンなんだよぉぉぉ‼︎」

 

由香と呼ばれた声の主の怒りは収まらず、更に木庵の背中を反らせた。

背中を極められた木庵は何か思い付いたように怜に視線を向ける。

目が合った怜は微妙な雰囲気から即座に目を逸らした。

 

 

「いや違うんだ本当は新人が来るから迎えに来たんだっての」

「新人〜? あ…」

 

由香は怜の方に視線をやるとなんとも言えない微妙な表情の怜を見るや否やパッと木庵から離れた。

 

「新人さんなんだね〜!私は由香!よろしく!」

「えぇっ⁉︎ は、はい!私は篠山 怜です!よろしくお願いします!由香さん!」

 

紫と白のツートンカラーの派手な髪色にパンクな服装の見た目からしてヤバめの雰囲気の女性が、先程まで顔に青筋を浮かべながらキレていた人物とは思えないくらいニコニコしながら手を握ってくるが怜はリアクションに困り果てるも向こうがフレンドリーに接してきたので勢いに任せてそれに乗っかった。

 

その光景を見ていた木庵は由香の猫被りに呆れた表情で眺めていた。

あまりの豹変振りにあえて効果音を付けるなら、きゅるるるん♡と言わんばかりの変わり身だった。

 

 

 

なんとなくエントランスで話し続ける雰囲気ではなくなったので3人は木庵の自室に向かう事にした。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

「お前ら鉄火場のオッサンに用があるから待ってろ。篠山、オッサンから銃預かってる。今渡しとくぞ」

 

 

昨日怜が選んだ銃を渡した後、木庵は部屋を出て行った。

由香と2人きりになった怜はどうしようかと思っていたが、由香が部屋の中の冷蔵庫からエナジードリンクを取り出した後、椅子に遠慮なく座ったのを見て怜もそれに続いた。

 

椅子に座るなり、由香はタバコに火を付けようとしたが怜の姿を見て思い留まった。

 

「あ、タバコ吸うなら木庵さんで慣れてるから私は平気ですよ」

「いやいい、気にしないで。普通は未成年いるなら配慮するけどね。普通は」

 

未成年の前だろうがタバコを吸う木庵に由香は思わずイラッとした。

 

「君の事はある程度あのバカから聞いてるよ。大変だったね。この業界にいる人間は半分以上がワケアリの人多いから、ある意味では君と同じような人達ばっかだから安心してよ」

「半分?何か意味があるんですか?」

「単純に残り半分は家系とか素質アリとかそんな感じかなー」

「じゃあ、木庵さんもワケアリって事ですか?」

「アイツ全然話さないから詳細は知らないけど多分ね」

「あの適当さからはそうは見えないですね…」

 

先程、由香が言ったように祓い屋界隈は昔はともかく最近では大なり小なりのワケアリの祓い屋が多くなってきていた。勿論、由香もその1人である。怜は適当極まりない木庵もワケアリかもしれないと聞いた事で少し親近感が湧いた。

 

「そういや、木庵からなんか銃の事教わったりした?」

「基礎は少し…でも、まだ的にちゃんと当てれなくて…5発撃って1回当たればいい方です」

「今まで銃撃った事ないんだからそれは仕方ないって。むしろ、アイツの感覚的な教え方にも問題あると思うかな」

「そうですか?確かに木庵さんの教え方はフワッとした部分も多いですが私は分かりました」

「へー、アイツのあの教え方で通じる子初めて見た。あ、そうだアイツどうせまだ戻って来ないし射撃訓練見てあげる」

「え!いいんですか⁉︎お願いします!」

 

由香は木庵の映画の引用ばっかりのあの感覚的な教え方に随分苦労したなとしみじみ思っていた。

そんな中で怜は珍しい部類だった。あの教え方で理解はしているのだから。

 

「じゃあ、また射撃場に行くんですか?」

「いや、動くの面倒いからココでいいよ。ちょっと待ってて」

「大丈夫なんですか…?」

「大丈V。どうせ散らかってるしアイツもよくここで撃ったりしてるから今更だよ。適当な癖に防弾加工とか防音してたし、発砲音もこの部屋なら大して皆気にしないしさ」

 

由香は椅子から立ち上がると机の上にあったPC等の貴重品の類を適当にどかして先程飲んでいたエナジードリンクの空き缶を机に置いた。

 

「じゃあ、木庵に教えてもらった通りにしてみて。自分のタイミングでやればいいから」

 

怜は由香の言った事に不安になるが、当の本人はどうやら本気のようだ。

諦めて机に置いてある銃を手に取り、木庵に教えられたように動作確認をしていく。そして、空き缶目掛けて引き金を引いた。

だが、放たれた弾は空き缶から大きく逸れて壁に当たった。

 

「よしよし動作確認と構えは問題無さげかな。流石あの教えを理解しただけはあるね。じゃあ、お遊びはこの辺で次は絶対当ててみようか」

 

由香はそう言うと空き缶の隣側に移動した。

 

「これなら絶対に外せないし、撃ってみて」

「何してるんですか⁉︎ 外れたら怪我じゃ済まないですよ⁉︎」

「大丈夫大丈夫。絶対当てればいいだけだから」

 

由香の正気とは思えない行動に怜は焦る。

無理もない。一歩間違えれば死んでしまうからだ。そして由香の生死は今この場では怜次第。

 

「焦る気持ちもよく分かる。とりあえず目を瞑ってイメージしてみよっか。そうだな、今狙ってる目標は君の仇とも言える怪異。そいつが今まさに誰かを殺そうとしている。さぁ、どうする?」

 

パニックになる怜に由香は諭すように言う。

まず、怜は言われたように目を閉じてみた。そして、そこから深く息を吸い込む。由香の言う通りにイメージしてみた。

 

「(沙耶ちゃんを殺した怪異が憎い。沙耶ちゃんを守れなかった私も憎い)」

 

今、自身が狙っているのは自分の親友を殺した憎い怪異。元凶は木庵が祓ってしまったが、怜はあの頃に戻れるならとあの場にいて仇を取れるなら迷わず引き金を引く自信がある。

自身の奥底から"憎い"という感情が小さな炎のようにチラつく。

 

やがて、怜はもう一度深く息を吸い込んだ。そして銃を構え、発砲した。

その表情には迷いが無かった。先程とは違い、目標の空き缶を撃ち抜いた。

 

「やるじゃん。これなら実戦に出てもすぐには死なないと思うよ。よしよし無理言ってごめんね。よく頑張ったねぇ偉い偉い」

 

そう言って由香は怜の頭をわしゃわしゃと撫で回す。

 

「さっきは本当に焦ったんですから…もう、あんな事やめてくださいよ…」

 

とは言いつつも単純に褒められた事が嬉しい怜だった。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

2人と別れた木庵はある用事を済まし携帯を取り出すと、1人の人物に電話をかけだした。

4コールで相手が電話に出る。

 

 

『お疲れ様です木庵さん。どうされました?』

「白石、次の指令こっちでやるから詳細教えてくれ」

『え、中央の祓い屋の方達に詳細をPCと携帯の両方にメールしたのですがご覧になってませんか?』

「何?もっと早くに連絡してくれよ」

『いえ、2日前には連絡をしているのですが…』

「…細かいとこは置いといて、とりあえず俺がこの案件担当するから。

後、俺が使いそうなアレあるか?」

『えぇ、一応色々な方達に要望に対応出来るようある程度は準備してます』

「助かる。ならもう用はねぇ。じゃあな」

『え、あっちょ木a』

 

一方的にそう告げると白石の返事を待たずに木庵は電話を切った。

自分の都合極まりない態度だが、昔からこうなので言っても無駄である事を知っている中央の人間達は慣れっ子だった。

 

木庵は携帯のメールの受信BOXを確認する。

 

「(確かにメール来てるな…)」

 

 

[都内の女子大生が殺害された事件について]

 

[ お疲れ様です。営業の白石です。]

 

[◯月◯日水曜日、被害者宅からの騒音の苦情を言う為に第一発見者の大家と隣人が部屋内にて被害者が殺害されているのを発見。その後、警察に通報。遺体は下半身の損傷が激しく何かで擦り潰されていた模様。残穢と現場状況から術式を行使する怪異と思われる。術式の詳細については確定ではないが術式効果は恐らく精神に干渉、またはそれに準ずるものと思われる。

 

霊視と現地調査の結果、被害者の乗っていた電車に怪異の術式発動の引金があると思われるが、術式発動条件までは不明。現地にて確認するしかないのが現状である。鉄道会社には該当車両のメンテナンス及び部品交換の理由で現在運行を中止し、車庫にて管理。今回は上記の名目にて怪異を祓うものとする。また、本案件は怪異の術式の詳細が不明な為、中級以上が望ましい。

 

皆さん、よろしくお願い致します。]

 

「(とりあえず業者用の社員証探すか…いや、新しいの貰う方が早いな。篠山の分もいるし)」

 

木庵は散らかっている自室から探し物をする事を考えただけで面倒になったので怜のダミー会社用の社員証も貰いに行く必要もあり、営業課に向けて歩き出した。

 

 

 

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「つーかあのアホ何してんの、もう1時間も経ってるし」

「確かに中々戻ってこないですよね」

 

怜と由香の2人は部屋で中々戻ってこない木庵を待っていた。

痺れを切らした由香が電話しようとしたら時だった。

 

「わりーわりー待たせたな。いるモン用意してたら時間かかった」

 

ドアが開かれ当の本人が帰ってきた。そして部屋に入るなり、タバコを吸いながらソファーに座り込む。

 

「おっせーよ。時間かかるなら早く言えっつーの」

「仕方ねぇだろ、篠山のダミー用の社員証貰いに行ってたんだから」

「ダミー用?」

「そーそー、だから遅くなったんだよ。おい、篠山コレ」

 

由香の文句を流しつつ、木庵は怜に紐が付いたプラカードを投げる。

 

「何ですかコレ?」

「業者用の社員証。お前未成年だけど中卒で働く人間はいるし大丈夫だろ。そんで俺達は基本存在しない組織に属してる。ある時は警察、ある時は役所の人間ってな感じでその場に応じた身分を名乗る。なんでだか分かるか?」

「えっと、分からないです」

「私達は所属不明の怪異の専門家でーすって大っぴらに言えないから、怪しまれないようにするのにこうした手順踏む訳よ」

「大体、そんな感じだな。一応補足すると警察と自衛隊、政府と一部の協力者は怪異の存在を認知してるが公には絶対してない。怪異による死亡事故は全て通常の事故扱いで片付けるのが昔からのルールだ」

 

木庵が言うように[中央]だけでなく各地にある対怪異の組織の発端は平安時代ではあるが、堂々と怪異を祓っていた時代は時を経るにつれ細分化し、人々が怪異の存在を忘れ始めるも怪異の脅威は止まる事を知らずになっていった結果、対策機関は怪異の存在を秘匿にした。

 

そうして秘密裏に陰から怪異を祓ってきた。長年怪異の存在を秘匿にし続けた今日、無闇に存在を国民のパニックを避ける為、公表すべきでないとなった。

そこで対策機関は政府と提携し、各機関と協力体制を取る事にした。

そのお陰でスムーズに怪異を祓えるようになり、祓う際に警察を動かし周辺の封鎖や人払いが出来るようになったからだ。 

 

だが、問題もあった。いくら怪異の存在に箝口令を敷いても末端の人間までは止める事は出来ずに存在が漏洩した事もあったが、その際見せしめとして秘密裏に機関によって処理された。この経緯があった為、今では存在を認知しても誰一人怪異の事を話す関係者はいなくなった。

 

「なるほど…そんな経緯があったんですね」

「必要に応じて、他所の身分名乗るならまた色々用意してやる。今日はそれ持ってろ」

 

怜は渡された社員証を眺めながらそう答える。社名は[OO電鉄中央営業所(株)]と書かれていた。

 

「下に車を回してある。行くぞ」

「さーてサクッと終わらせますかね」

 

タバコを吸い終えた木庵は火を消すとその行動を合図に3人は部屋を後にした。

 

 

 

 

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「今日お世話になるハイエース君だ。中に必要なモンは詰めてある。あ、そうだ。これ着とけ」

 

そう言って木庵は目の前の白いハイエースの中から作業着の上着を2人に投げる。由香は慣れた様子で上着を羽織る。怜もそれに続く。

 

「(見た目はただのハイエースだけどこれも祓い屋的な何かがあるのかな…アレ?見間違いかなさっきのもしかして…)」

 

車に乗り込んだ怜は車内を見渡した。見た目はなんの変哲もないただの車。後部座席部分には工具や道具が積み込まれているが、怜は隅の方に隠されてはいたがホルスターに納められていた銃を見つけてしまいやっぱりただの車ではないと再認識した。

車のエンジンをかけた木庵はタバコに火を付け、走り出した。

 

 

 

 

そのまま車で走る事15分、目的地の鉄道会社に着いたのか木庵は車を止めた。

 

「おい、着いたぞ。手続きするからついてこい」

 

車を降りた木庵達は中に入る手続きをする為、入り口に向かって歩いて行く。

 

「すいませーん、お世話になってますー[OO電鉄中央営業所]のモンです。本日、車両の部品交換で伺ったのですが担当の志村さんはおられますかー?」

「あ、志村ですね。社内にいますので少々お待ちください」

 

受付の事務員はチラッと3人を見渡す。気怠いオーラ全開の木庵はともかく、紫と白のツートンカラーの由香に未成年の怜を見て訝しげな表情をするが最近は多様性だからそういうものなんだろうと思い担当を呼び出した。

 

「間もなく来ますのでお掛けになってお待ちください」

「スンマセン、お手数かけますー」

 

言われたように3人は受付近くの椅子に座って待つ事にした。

 

「…なんかアレですね違和感が凄いというか、木庵さんでもマシな話し方出来るんだなと」

「分かるわー、普段の態度見てるとマトモな対応1番しそうにないから余計に違和感が凄い」

「うるせぇ黙ってろ」

 

一連の様子を見ていた怜は内心思っていた事を漏らす。

 

「コイツがマトモな対応するのこういう時か本部長と後は…」

「おい、俺の事はいいんだよ」

 

「お待たせしました、志村です」

「あ、どうもーOO電鉄の木庵です。本日はよろしくお願いしますー」

 

木庵と由香が睨み合っていると、担当の志村という人物が来た。

声をかけられた木庵は立ち上がり挨拶をする。

木庵の畏まる姿を見て2人は笑いそうになる。木庵もそんな2人の状態を分かってるのか、志村に見えないように後ろで中指を立てた。

 

「本日は車両のメンテナンスと部品交換と伺っているのですがなにか問題がありましたでしょうか?」

「使用している部品が経年劣化しやすいんですよ。普段メンテされてる会社さんも言ってたと思うんですが、ちょっと今回は予定が合わないいう事で我々が担当させていただきますんで」

「分かりました、それではこちらで書類作成をして頂きますのでご案内します」

 

志村は先程の事務員と同じようにちょっと浮き気味というか大分浮いてる由香と怜をチラッと横目で見た。

一通りの作成を終えた木庵達は会社を後にし、車に向けて歩き出した。

 

「由香、うんお前やっぱり浮くわ」

「うるせぇ黙ってろ。私はこの髪色が好きなんだよ」

「はいはい、分かった分かった」

「(あ、やっぱり由香さんイライラしてたんだ)」

 

由香は自分の好きな髪色が世間では浮くと視線を通して感じていた為、段々イライラしだていた。それでも周りに不機嫌オーラを振り撒かず木庵だけに突っ掛かるのも木庵が気にせずスルーするからだった。

 

「まぁまあ、タバコでも吸って落ち着けよ」

「アンタが吸いたいだけだろーが。怜ちゃんいるし私はやめとく」

「いいのかぁ?そんな事言って?次いつ吸えるか分からないのにー?」

「あ?」

 

由香の顔に青筋が浮かび上がる。

 

「あああああやっぱりタバコ最高だな」

 

木庵はしみじみとした表情でこれ見よがしにタバコの煙を思いっ切り吐き出す。その表情を見て、由香の顔に更に青筋が浮かび上がった。

 

「あの由香さん、私の事は気にせずに吸っちゃってください」

 

その光景を見ていた怜はなんだか由香が可哀想になり、一言告げた。

 

「由香ちゃんは優しいねぇ…そして木庵テメーはマジでクソ」

 

その一言を聞いた由香は怜が微笑みの天使に見え、車の反対側にバッと周り、やがてタバコに火を付ける音の後静かになった。

わざわざ少しでも離れてタバコを吸いに行ったのは由香の最後の良心が働いたのだろうと思いたい。

 

そして、怜は悟った。

 

 

「(由香さんはストレス耐性が木庵さんより高いけど限界が来たらドカンとなる人なんだなぁ…)」

 

「アイツも素直に今、わたしめっちゃイライラしてるからタバコ吸いたーい♡って言えば可愛げがあるのになぁ」

 

木庵はニヤニヤしながらタバコの煙を吐き出していたら、反対側から車をドン!と叩かれた。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

3人を乗せた車はゲートを抜け、車両の横に付けた。

 

 

「おっしゃ、やるか」

 

車から降りた木庵は車両に人払いの効果がある札を事件の原因となった車両に貼り付けた。

 

「篠山、今のは人払い用の札だ。これで何かあっても誰にも気付かれる事はない。理由は分かるな?」

「銃声とかがしてもいいようにですか?」

「ビンゴ、篠山怜に5pt」

 

ここに来る前に車内に銃があったのでもしやと思ったらまさかの正解に怜はなんでかちょっと嬉しくなった。

そして何故か木庵が突然のptを言い出したので気になった怜は尋ねた。

 

「ちなみにptって言ってたけど貯まったら何かあるんですか?」

「いや、なにもねーけど」

「あ…そーですか…」

「コイツのノリを本気にしてたら疲れるだけだからスルーも大事だよー」

 

怜はなんだかアホらしくなり、木庵に聞いたのが間違いだったと悟る。

 

「おい由香、そういや鉄火場のオッサンから預かってるの忘れてた」

「? 預かり物ォ?」

「愛しのライフルちゃんじゃーん!整備から帰ってきたんだねぇお帰りちゃんとメンテしてもらってきた?前より綺麗になってるねぇ」

 

車内に武器一式を運び込むと木庵は由香に布に包まれた筒のような物を渡した。由香は布を取り払うと目を輝かせながら"ソレ"を愛おしそうに抱える。

 

「お前の無茶な扱いにも耐えれる用にはある程度は調整してあるが、銃剣は最終手段にしとけよ。前みたく頻繁に使ってるとすぐガタがくるぞ…って話聞いてる?」

 

木庵の注意も知らん顔で由香は愛用のライフルを手に取り、自分の世界に入ってしまった。

 

「…まぁ、このバカは放置しといて話を進めるぞ。篠山、まずおさらいだ」

 

そう言うと木庵は今回の案件の要点を怜に説明する。

ある被害者が怪異に殺害された。怪異は術式を使うタイプで術式の詳細不明。

調査の結果、被害者が乗っていた電車に術式発動の引き金があるのでは?と目星を付けたがあくまで推測の域を出ず、術式を行使する怪異な為中級以上が望ましいと判断されたので、中級の祓い屋である木庵が本件を担当する事になった。

 

説明するのが面倒な木庵だったがそれらの要点を可能な限り簡潔に怜に話した。

 

「なるほど…それで今回の仕事を私の研修も兼ねて来たんですね」

「そういう事だ。可能な限り俺と由香でカバーもするし守ってやるが、この仕事に絶対なんて言葉はねぇからな。油断すると簡単に死んじまう。今回お前は怪異を祓わなくてもいい。とりあえず慣れろ。そんで死ぬな。それさえ実践してくれたらいい」

 

相変わらず無表情の木庵だが、言葉には強く想いが込められていた。

それを聞いた怜はゆっくりとだが、しっかりと頷いた。

 

「じゃあ篠山、最初の仕事だ。お前は銃に弾込めろ。やり方は覚えてるか?」

「まだ覚えてます」

「じゃ、任せた」

 

そう言うと木庵は大きめのケースから銃火器を何丁か取り出し、怜の前に置いていく。

 

「それぞれ、拳銃に散弾銃がメインだ。他の銃火器もあるが触るのはまたの機会だ」

「これ以外にも色々使うんですね」

「怪異を祓う為ならなんでも使うからな」

 

怜は木庵に言われた通り、銃に弾を込めだす。手付きはまだまだ拙いが、特に何も言わずいつまでもライフルと自分の世界に入っている由香のわき腹を強めに突く。

 

「いつまでやってんだバカ。こっち来い」

「いってーな、はいはい分かってる分かってる。待っててねーライフルちゃんすぐ出番来るからねー」

 

由香は名残惜しそうにライフルを撫でるが、漸くスイッチを切り替える。

 

「で?術式使う怪異らしいけど発動条件は分かってんの?」

「いや、全く不明だが俺流でやる」

「つまりいつものゴリ押しって事ね」

 

今回の祓いのネックとなっているのは怪異の術式の発動条件だ。怪異が憑いていると思われる該当車両に立ち入るのが引き金なら3人が入った時点で怪異に襲われている筈だ。

 

だが、今襲われていないという事は別の発動条件があると木庵は判断していた。本来なら発動条件を調査して、対策を立てるのが最善ではあるが、面倒くさがりな木庵は別の手立てを用意していた。

 

「"コイツ"を使う」

「何それ?」

 

木庵は保冷用の箱から何重にもビニールで包んだ物体を取り出す。

得体の知れない赤黒い物体だが、木庵はソレを床に置くと手を合わせた。

 

「まさかソレって…」

「あぁ、被害者の肉片だ」

 

由香は木庵が何をしようとしているのか察しが付いたのか眉を顰めた。

そう、今回木庵が用意していたのは予め営業の白石が調達していた被害者である遺体の肉片だった。

 

「まだ篠山には言うなよ。説明が面倒くせぇ」

「いやまだ言わないけどさ、アンタ流で教えるならいつか言わないと」

「あぁ、だが今はまだいい」

 

木庵は隅の方で銃に弾を込めている怜をチラッと見るとまだ言うには早い

+単純に説明が面倒くさいからまた今度でいいだろうと判断する。

 

「あっそ。で、そういうの使うって事は"釣る"気?」

「そうだ。わざわざ手間がかかる殺し方でやってるからには獲物に執着する筈だ」

 

木庵の推測はこうだ。被害者の遺体は下半身が擦り潰されていた。

 

普通の怪異なら力任せに引き裂いたり、喰い殺したり等色々だが今回の怪異は獲物を執拗に嬲るように感じた。

そんな怪異が相手ならば、取り憑いてる場所で被害者の一部を餌にする事により匂いに釣られて顕現するのでは?と判断したのだ。

 

「弾込めと動作確認出来ました」

「ナイスタイミングだ。これからこの一帯がこの前の学校みたいになる。気ィ引き締めていけ」

「つ、ついにやるんですね…」

 

木庵は怜が合流したのを契機に、術式の陣が描かれた紙に肉片を置き人差し指で陣を擦る。

 

車内を静寂が包む。紙を中心に辺り一面に波紋のようなモノが広がる。

波紋は一定のリズムを刻んでいた。怜はまるで自分の心臓の鼓動と連動しているかのような錯覚に陥る。

 

すると、一定のリズムから少しずつだが早くなってきた。

ドクン、ドクン、ドクン。徐々にリズムが早くなってくる。

 

更に波紋の広がりの感覚が短くなってきた。

 

 

 

ドクンドクンドクンドクンドクンドクンッ…!

 

 

 

一瞬の静寂の後、波紋が止んだと同時にキィィィン…!と耳鳴りがした。

 

「はい釣れた」

 

木庵のその一言の直後、紙が捲れていくように車内中の塗装が剥がれていく。剥き出しになった箇所から血と錆が混じったような金属が露出する。

辺りは真っ暗な筈なのに色素の薄い夕暮れのような光景と化す。

なのに少し離れた先は一切の光が差さない漆黒だった。

 

車庫の一部や地面が崩壊を始め、落ちていった瓦礫は底が見えない真っ暗な穴に吸い込まれていくように消えていった。

様変わりした辺り一面は誰かが想像するような悪夢のようだ、と形容するしかないような光景が目の前に広がる。

 

「なんか気分が…」

 

そして怜に訪れる強烈な負の感情。次々と死にたい、死んで楽になりたい。そんな思いが怜の頭の中を塗り潰していく。段々と呼吸が荒くなってくる。

 

「篠山しっかりしろ。前と同じようにこれ羽織ってろ」

 

木庵は蹲る怜に学校の時にも使った坊主の袈裟を頭から被せた。

 

「これで楽になるだろ」

「ありがとうございます…」

「由香、篠山と一緒にいろ。異界化してるのに本命の気配がねぇからちょいと見回りしてくる」

「あいよー、じゃまた後で」

 

そう言いながら木庵はバッグに弾丸と道具を適当に詰め込み、車内から出て行った。

 

「さてと、私も異界の瘴気苦手だし袈裟羽織っとくかな」

「あれ?木庵さん何も羽織らずに出て行っちゃいましたけど大丈夫なんですか?」

「あー、ほっといても大丈夫。私達より瘴気慣れてるし。私達はアイツが戻ってくるまでの間に出来る事しようか。とりあえず、そこの青い鞄に呪符入ってるから、四隅に貼ってくれる?」

「あ、分かりました」

 

 

由香は怜に指示を出しながら袈裟を羽織り、自身もライフルに手をかけた。

 

「(何気に新人と組んで仕事するの初めてなんだよなー。ちょっと不安)」

 

 

怜が指示通り、呪符を貼りながら準備をしていた時だった。

遠くからだが微かに何か音が聞こえてきた。

 

「あの由香さん、何か聞こえません?」

「ん?何か聞こえた?」

 

少しずつだが音はこちらに近付いてきている。場所はハッキリとしないが

怜が聞いた時より確実に接近している。何かを一定のリズムで小刻みに叩くような音だ。

 

「あ、ホントだ。聞こえるね。この音何処かで聞いた事あるような…」

 

怜だけでなく由香にも聞こえだしたこの音。由香は聞き覚えがあるのかこめかみに指を当てて思い出そうとしていた。そして怜も何となくだが聞き覚えのあるこの音を由香と共に記憶を辿る。

 

「うーん、なんだったかなこの音」

「あ、もしかしてこの音って楽器を叩く玩具の猿じゃないですか?」

 

そう、2人が聞き覚えのあったこの音。幼少期の頃、おもちゃ屋で聞いた猿のぬいぐるみがシンバルを一定のリズムで叩く見る人によっては少し不気味な玩具。

 

その音が今まさにこんな似つかわしくない場所で音を出しながら徐々にだが近付いてきていた。素人の怜ですら流石におかしいと思えるこの状況でだ。

 

 

「来たかな。後方待機、念の為いつでも撃てるようにだけしといて」

 

怜は言われた通り車両後部に這うように動いた後、緊張した動作で拳銃の撃鉄を起こす。

由香は素早い動きで車両の出入り口付近に移動した。そして後ろ膝を床につけ、前膝に肘を固定してライフルを構え音のする方角に銃口を向けた。

 

「でも、真っ暗なのに見えるんですか?」

「大体200m先かな。大丈夫よーく見えてるよ」

「由香さん⁉︎ 目がなんか…」

 

そう言うと由香は一瞬目を閉じた。そしてその様子を見た怜は驚く。

開かれた由香の目には大きな円の模様の中に小さい円。それらを四方から囲む模様のようなモノが瞳に映し出されていた。

 

「あー、大丈夫大丈夫。これ私の術式だから」

 

由香の術式は魔眼の一種で、中央の本部長である皚々の魔眼は過去を覗く種類だが、彼女の魔眼は視力に特化した魔眼だ。

 

通常人間の視野は正常で片目につき上方60° 下方 70° 鼻側 60° 耳側 100°の範囲を見る事が出来る。

しかし、その範囲が全て鮮明に見えている訳ではなく、見ている点は最も感度が高いため、はっきりと見えているが周辺に向かうにつれ感度は低下していく。しかし、由香の場合は違う。

 

常に最適な感度、鮮明さに加え遮蔽物があろうと熱探知、暗視効果、そしてそれらの術式効果は範囲限界は3kmだが、由香が視認可能な範囲全てに及ぶ。また一度魔眼で目標をマーキングし、かつ特殊な銃弾を用いれば理論上、遮蔽物を関係無く術式範囲を超えて狙撃可能となる。

 

照準を絞り、由香はライフルの引き金を引いた。銃声と共に銃口から飛び出していった7.62mm弾は目標を確実に撃ち抜いた。

 

着弾の様子を確認した由香は遊底を操作して、薬莢の排出を行い次弾を装填する。

 

「(どうせ今の使い魔みたいなのでしょ。大体、雑魚は群れるからなぁ。次はどうくるか)」

 

思考を重ねながら相手の動きを探る。由香が言ったように基本、怪異が使役する使い魔は単独で行動をする事は基本的に無い。だが、木庵と組んで色々な経験を積んだ由香はある程度の予測はついた。

 

すると先程の玩具の猿を撃ち抜いた方角から、今度は別の5体の猿のぬいぐるみがそれぞれ手に錆びた刃物や鈍器を手にしながら、こちらに駆けだしてくる様子をスコープ越しに由香は覗いていた。

 

「やっぱ読み通り複数で来るか。しかも一直線、単純すぎ」

 

由香の用いるライフルはボルトアクション方式の為、1発毎に薬莢を排出して、再び構えてから発砲までのラグがあるにも拘らず由香は手慣れた様子で次々と使い魔を正確に撃ち抜いていく。

 

 

「(…さっきまでの緩い雰囲気が嘘みたい)」

「無理しなくていいよ、その行動に移しただけでも嬉しいから」

 

 

怜はその光景を目の当たりにして、何か自分も役に立たなければと銃を構えようとするが構えた時には、最後の使い魔を由香が始末したところだった。銃声が鳴り止み、硝煙と静寂が2人の周辺を包む。

 

「(小出しが終わったから次は本体かな)」

 

そう言いながら由香は射撃体勢のままスコープから目線を逸らす。

そして、周囲の警戒は怠らずに魔眼で暗闇を凝視する。

 

 

 その時――。

ここでは動いてる筈のない電車が、暗闇から滑り込んできた。

 

車体は歪み、窓は赤黒く染まっている。複数人影が見えるが、その顔は苦悶に歪み、口を開けて何かを叫んでいる。だが声は聞こえない。

 

「ッ……あれが……!」

 

怜が呟いた瞬間、車両から奇妙なアナウンスが響いた。

 

――次は拷問、拷問。拷問です。

 

その言葉に、怜の視界がぐらりと歪む。暗闇の中で、鎖の音、血の匂い、鉄の冷たさが襲いかかる。

 

由香が即座に怜の肩を掴み、背中に符を叩きつけた。

 

バチリと火花が散り、怜は感覚が現実に引き戻される。

 

「落ち着いて、心の隙は怪異にとって格好の的だよ」

 

怜は荒い息を吐きながら頷く。

 

「……はいッ」

 

やがて、電車は完全に停止すると先頭部分が口のように裂けた。

入れという事なのだろうか。怜はどうしようかと由香の顔を見る。不安一杯の怜を尻目に由香は脚のホルスターの拳銃を確認し、ライフルを担ぎ直すと一歩踏み出した。

 

怜もそれに倣おうと足を踏み出そうとするも足が動かない。

さっきまでは自身も戦おうとそう思っていたのにいざ、死を撒き散らす超常を超えた人ならざる存在。

ソレと再び真正面に向き合って、恐怖心で怜は体が動かなくなる。

 

 

 

「(動いてよ…、なんで動かないの… 動いて、動けッ…)」

 

 

「怖いんだよね怜ちゃん。分かるよ、私も最初はそうだった。確かにこの中は罠かもしれないし更に危険な目に遭うかもしれない。でも、それでビビって誰かが傷付くのが嫌だから私は前に進む」

「あ、厳しい事も言うよ。ここで踏み出せずにいると、今は私や木庵がいるけどいつか、自分だけで対応しないといけない日が必ず来る。その時に絶対死ぬよ」

 

「大丈夫、1人で歩けないなら一緒に行くから。強引だと思うけど本当に嫌ならそもそもこの場にいないし、祓い屋になってないんだから」

 

 

由香は歩みを止め、肩越しに怜に語りかけた。その言葉から偽りや虚勢は全く感じられなかった。そして、由香は怜の手を優しく握るとその手を引いて共に歩き出した。

 

 

車内は暗く、赤い照明が断続的に明滅していた。空調など効いて無い筈のなのに車内はまるで凍えるような冷たさ。

床には錆と血痕、座席には猿の面を被った小さい猿達が並んでいる。

だが、猿達は何もしてこない。ただじっと2人を見つめているだけだ。

 

 

「私達は袈裟の効果でこういう下っ端は手を出せない筈だけど油断しないで。次の車両からかなり、"濃く"なると思う」

 

由香の言葉に怜の額に汗が浮かび上がる。

 

 

 

そして、扉を開いたその先の光景はあまりにも目を覆いたくなるような残酷な光景だった。

 

座席に座らされているのは被害者達だろうか、猿の面をした怪異達に次々と拷問されいく様が怜の視界一杯に広がる。ある者は目玉をスプーンでくり抜かれ、ある者は刃物でバラバラにされ、ある者は下半身を機械に突っ込まれて擦り潰されていた。そして被害者が力尽きると遺体は消え、再び同じ人間が現れて生前死ぬ前にされた拷問が繰り返される。この怪異が祓われるまで死後も成仏出来ないまま、ずっと永遠に。

 

そして車内中に響き渡る悲鳴と咽せ返るような夥しい血の匂い。

乗客達は助けを求めて叫び出す。怜の耳に被害者の悲鳴が突き刺さるかのように木霊する。

 

 

「うっ…うぉ…ぉえ…」

 

その光景に怜はその場に蹲り、嘔吐してしまう。

 

色々と慣れている由香ですら思わず眉を顰める程の凄惨さ。

だが、由香の中を駆け巡る感情は違う。

 

「アンタらさ、死人にずっとこんな事をしてんのか」

 

怒りだ。死後も被害者の魂が成仏せず、ただ悪戯に魂を弄ばれる。その行為を目の当たりにした由香は言うが否か、即座に脚のホルスターから拳銃を抜き1番近くに居た拷問者とも言うべき猿の面の胸に2発、頭に1発と銃弾を叩き込む。

 

パタリとその場に倒れこんだ拷問者は黒い砂となり霧散した。

 

 

そして、車内にアナウンスが流れる。

 

――只今、車内に不審者が現れました。乗組員の方達は乗客への拷問を中止し、不審者の対応をよろしくお願いします。

 

その言葉を皮切りに拷問を行なっていた、猿の面達は一斉に由香の方に振り向き、由香目掛けて殺到する。座席や他の猿の面達に引っ掛かって体勢が崩れようとお構いなしにそれぞれに凶器を振り上げる。

 

由香は冷静に拳銃を構え、引き金を引いた。

4発、5発と次々に迫り来る猿の面を的確に撃ち抜いていく。

やがて、マガジン内の弾を撃ち尽くし銃のスライドがロックされると怜の眼前に弾切れの銃を放る。そして由香は叫んだ。

 

「怜ちゃん、弾!装填して!」

「は、はい!」

 

その言葉に今まで固まっていた、怜は慌てながらもバッグの中から由香が使用していた拳銃のマガジンを交換し始めた。

 

そして、使用していた拳銃の弾が切れた由香は、素早い動きでライフルを構え猿の面の頭部を吹き飛ばす。

遊底を操作し次弾を装填する間もなく、猿の面は刃物を振り下ろそうとするも由香はライフルに取り付けた銃剣で刃物ごと腕を切り落とした。

仰け反った猿面目掛けてライフルの銃床で殴り付け、体勢が崩れたところ目掛けて右のハイキックを放つ。一連の攻撃を受けた猿面は耐え切れず吹き飛んだ。

 

 

「由香さん!出来ました!」

「ありがとちゃん!」

 

遊底を操作し終え、次弾を装填したタイミングで怜は拳銃を由香に渡した。

 

 

一仕事終えた怜に別の猿面が迫り来る。由香もそれに気付いて、怜の方に銃を向けようとするも邪魔が入り、照準を合わせられない。

 

「クッッソ!そこの邪魔なヤツ邪魔!」

 

その間にも猿面は怜に近付いていく。怜も咄嗟に銃を構えるが向こうの方が早かった。振り下ろされた刃物を怜はなんとかギリギリで避ける。

再び、怜を凶刃にかけようと猿面は振り向こうとするが、今度は先に体勢を整えた怜の方が早かった。

 

「っああああああああああああ!!」

 

怜はただ、拳銃の引き金を弾き続けた。

 

「(今、何発当てるとか的確に急所を撃つとか関係ない…!こんだけ近いなら外しようがないでしょ!)」

 

怜の考えは正しかった。弾を当てる程の技量が無いなら外しようがない状況で撃つなら関係が無かった。

怜の考えた通り、掠めた弾もあるものの全弾撃ち尽くし終えた後、猿面は崩れ去った。

 

「やるじゃん!いい感じ!」

 

その様子を見ていた由香は焦りながらも目の前の敵に対処する。

 

マガジンを交換する為、怜はバッグから取り出そうとするが最初に入って来た車両から別の猿面達が迫って来ていた。

 

「(嘘…次は別のが来た…弾を装填して…ダメだ、目の前のヤツを倒せてもまだ後ろから来るヤツに追い付けない…どうしよう…)」

 

 

「怜ちゃん!逃げてッ!」

 

 

再度訪れたピンチに今度ばかりは間に合わないと思い、怜は顔を背けた時だった。

 

 

 

 

ドッ…ゥン… ドッ…ゥン…

 

鈍く低い銃声だ。

 

ドッッ…ゥン…! ドッ…ゥン!

 

怜の後方、つまり最初の車両の方から銃声が近付いてくる。

近くなる銃声と共に猿面達が複数体纏めて黒い液体を撒き散らしながら吹き飛ばされいく。

 

ドゥンッッ‼︎ ドゥンッッ‼︎

 

 

「ワリーワリー危なかったな、大丈夫か?」

 

銃声と硝煙、そしてタバコの煙と共に現れたのはしばらく前に別行動を取っていた木庵だった。

 

 

「テメー木庵この野郎!ふざけんなタバコ吹かしてねーでこっち手伝え!」

 

さっきまでの焦りを吹き飛ばす由香の木庵に対する安心感とこんな状況で暢気な事を言っている怒りで声を荒げる。

 

「まぁ待てって、今行く」

 

木庵はタバコを吸いながら、散弾銃のレバーを引き薬莢を排出した。

猿面の生き残りが木庵の足を掴もうとするが、逆に木庵に頭を踏みつけられ固定される。

 

「くたばれ、死に損ないが」

 

猿面に銃を突きつけ、引き金を引いた。

火花と共に頭部が弾け、最初の車両にいた猿面は全滅した。

 

「ここは任せた!一旦下がる!」

 

弾が切れたライフルのマガジンを交換する為、由香はバックステップで怜と木庵のいる方に下がる。

 

「さてと、新型ちゃんお預けしてワリーな。たっぷりブッ放してやる」

 

そう言うと木庵は先程使用していた散弾銃を仕舞い、今度はバッグから更に大振りな散弾銃を取り出した。

銃本体にドラム式マガジンをセットし、腰溜めに構える。

そして引き金を引いた。一度火を吹き始めるとフルオートでソレから弾が吐き出される。往来の散弾銃には無い連射速度と制圧力で車内に残っていた猿面達の残りは次々と黒い液体を撒き散らしながら肉塊に変わり、霧散していく。

 

 

「コイツはいいな、やっぱブッ放すならショットガンに限る」

 

ここに来る前に木庵が開発課の鉄火場から貰った新しい銃火器。

[AA-12] 性能は至ってシンプル。フルオートで大量の散弾を一度に叩き込める、ただそれだけだが往来の火器と違いポンプアクションを必要としない為、制圧力が段違いとなる。そして今、マガジンに装填されているタイプは32連式のドラムマガジンで更なる高火力を可能としていた。

 

弾を撃ち尽くしたAA-12は銃口から満足気に硝煙を吐き出す。

銃声が止み、車内を静寂が包む。

 

猿面達が車内から消えたのと連動して、被害者である乗客達もいつの間にかいなくなっていた。

 

 

 

ーやっぱり大人は僕から奪おうとするんだね。

 

次の瞬間、車両の奥から声が響く。先程の車掌のアナウンスの事務的な声と違い、子供の声。

 

電車の中央に、影が凝固するように現れる。その中から人間の形をしたモノが現れた。

9〜10歳くらいの背丈だが異様に痩せ細り、体に残る傷跡、顔は猿の面を付けた人間の子供で、その背後からは影が吹き出し目から血涙を流していた。

 

「やっと本体のお出ましってワケか」

「この子供が猿夢の本体…?」

「ガキの皮被ったバケモンだぞコイツ。油断すんなよ」

 

 

遂に現れた猿夢の本体とも言うべき怪異。その表情には怒りの感情が顔にこびり付いたかのようなドス黒い表情。

 

「こっからは俺と由香で対処するからお前は動くなよ」

 

猿夢が腕を伸ばす。背中を突き破り複数の触手が木庵達を絡め取ろうと迫る。木庵は眼前に迫った触手を難なく躱し、お返しと言わんばかりに腰のポーチから取り出したお気に入りの散弾銃でその内の一本を吹き飛ばした。由香も返す刀でライフルの銃剣で触手を切り落とし、残りも撃ち抜いていく。

 

ーいたいいたいいたい!大人はいつもそうだ!そういう怖い事ばっかりしてくるんだ!

 

猿夢は背中から血を流しながらその場に倒れ込む。

 

ーだから大人は嫌いだ!死んじゃえええええ!

 

「(なにこの感じ、物凄く寒くなったような…いや、違う!本当に車内が寒いんだ!)」

 

 

口々に悪態を突くが、声は幼い。だがその響きは寒気を伴い、車内の温度が急激に下がったような感覚になる。木庵達の様子を見ていた怜は自身の口から白い息が出た事から錯覚ではなく、実際に温度が下がったのを実感した。

 

そしてその寒さは怜の意識を夢の淵に引き込もうとする。

 

 

怜の視界が揺れ、気づけば遊園地の電車のアトラクションに座らされていた。

 

「っ……これは夢…?」

 

観覧車、メリーゴーランド、ジェットコースター、子供たちの笑い声。

だが、全てが歪んでいる。電車の座席で隣に座った人影が、ぐちゃぐちゃに捻じれた顔でこちらを見ていた。

 

「苦しいよね? でも、僕も苦しかったんだ。だから、他の人も苦しんでもいいよね?」

 

猿夢はそう言いながら怜に近付いてくる。その手には包丁が握られていた。

 

「(これが術式ってヤツ…⁉︎ う、動けない…!」

 

怜は初めて目の当たりにする怪異の術式に対処が分からず、動けずにいた。一歩、また一歩と猿夢は徐々に距離を詰めてくる。

遂に猿夢は怜の目の前に立ち止まり、包丁を振り下ろした。

 

 

バチィッ!

 

が、振り下ろされた刃は怜を貫く事は無く、閃光を伴い猿夢の手が弾かれる。

 

「(何で今、私無事だっ…あ、袈裟の効果って事⁉︎)」

 

幸いにも木庵から渡された袈裟のお陰で、怪異の術式による物理攻撃は避ける事が出来た。

 

「(いくら怪異とはいえ、見た目は子供…流石に撃ちたく無い…だったら!)」

 

 

怜はある仮説を立てた。怜に触れようとした猿夢は袈裟の力で弾かれた。

ならば、盾として使えるその力を攻撃手段として使う事も出来る筈だと。

 

そう思い立った怜は猿夢に対して駆け出した。そしてそのままの勢いで猿夢目掛けて抱え込むように突進した。

 

 

ーあああああああああいたいいいいいいいなんでこんなことするんだよおおおおおおお‼︎

 

突進を受けた猿夢の全身から閃光が迸る。痛みから逃れようと猿夢は体を捩り踠く。怜は抱き締めている腕を更に強くし逃さないようにしていく。

 

「これでどう⁉︎ちょっとは効くんじゃない⁉︎」

 

猿夢の術式効果が弱まったのか、空に亀裂が走り周りの風景も砂になっていく。風景の崩壊は治らずどんどん広がっていった。

 

『ごめんなさい!だから叩かないで!』

『言う事聞くまで外で反省してろ!』

 

「(何、今の…何か見えたような…)」

 

 

崩壊の最中、怜の頭の中に一瞬ノイズ混じりに映像が流れ込んできた。

そして、猿夢のダメージと連動するようにノイズ混じりの映像は鮮明さを増していく。やがて怜の意識は映像内に引き込まれていった。

 

 

 

 

 

 

「あ…」

 

 

 

 

 

それは、古びた団地の一室だった。

照明は薄暗く、埃っぽい。冷たい床の上に、一人の少年がうずくまっている。

 

「ごめんなさい……ごめんなさい……」

 

少年の声は震えていた。頬には青紫、腕には火傷の痕。痩せ細った体は小さく蹲っていた。

台所から荒々しい足音と共にタバコの匂いを振り撒きながら近寄ってくる。

 

 

「お前の所為でこうなったのに、何でお前だけがのうのうと生きてんだ!」

 

 

男の怒声。続けざまに拳が飛ぶ。小さな体は壁に叩きつけられ、乾いた音が響いた。

 

少年は蚊のようにか細く、ただ「ごめんなさい」と繰り返す。

 

母親の声も聞こえた。

 

「アンタ、加減しなよ…学校で言われるじゃん」

 

だが止める様子はなく、むしろ冷ややかに言葉を継ぐ。

 

「アンタが悪いんだよ。アンタさえ居なければ」

 

そう吐き捨てる声は冷たく、少年の心を抉った。

 

父親と母親、守られるべき存在から浴びせられるのは罵倒と暴力だけだった。

 

 

 

 

 

やがて冬。

 

雪がちらつく真夜中、少年は冬に似つかわしくない格好のまま玄関先に立たされていた。

 

「反省するまで入れねぇぞ。声出すな、近所に迷惑だ」

 

鍵が閉まる音。氷のような空気が肌を突き刺す。少年は両腕で自分を抱きしめ、歯を鳴らしながら耐えた。

 

凍える意識の中で、ふと脳裏に浮かんだのは――かつて連れて行ってもらった遊園地の記憶。

色鮮やかな観覧車、そして、小さな電車の遊具に笑顔で乗った自分。

 

車掌の真似をして「しゅっぱーつ!」と声を上げると、両親も笑ってくれた。

その時は、ほんのひとときだけは、自分は“普通の子供”だった。

 

 

 

少年には幼い弟がいた。常に少年について回り、疎ましく思いながらも大切な存在だった。

 

ある日、学校から帰宅した少年は母親と入れ替わりで買い物から帰ってくるまでの間、弟と隠れんぼをして遊んでいた。少年が鬼となり、弟は隠れ場所を探していた。

数を数える為、目を離した時だった。ベランダの縁に鳩が止まっているのを見つけた弟はベランダに出てしまい、室外機からフェンスによじ登ってしまう。数え終わった少年はその光景を目撃してしまった。

 

「おい!危ないぞ!何してんだよ!」

 

それを見かけた少年は咄嗟に叫ぶが、逆にそれが引き金となり驚いた弟はそのまま転落してしまった。

 

それからの少年の記憶は何も覚えていない。唯一、覚えているのは両親の怒声に暴力、そして冷ややかな目付きだけだった。

 

 

 

 

「……また、遊園地行きたいな。また家族皆で過ごしたいな…ちゃんとアイツにも謝るんだ…」

 

 

白い息を吐きながら、少年はぽつりと呟いた。

涙はもう凍って流れなかった。

 

 

 

夜は深まり、雪は更に強くなる。少年は壁に背を預け、ゆっくりと目を閉じた。

 

寒さに震える体が、やがて動かなくなっていく。

意識が薄れていく中で、頭の中にはあの電車の光景が浮かんでいた。

 

――カタン、カタン。

――笑い声。

――きらきら光る遊園地。

 

「……もう一度、乗りたい……」

 

それが、彼の最後の言葉だった。

しかしその願いは、吐息と共に凍りつき、夜の闇に溶けた。

 

翌朝。

誰にも気づかれぬまま、少年は冷たくなっていた。

凍りついた小さな亡骸を見下ろし、両親はただ立ち尽くすだけだった。

1972年12月。一人の子供の命は、僅か9歳という天に召されるには余りにも早く、冷たい冬の空に消えていった。

 

 

 

だが、死後少年の魂は救われる事は無かった。理不尽に晒され続けた結果

少年の中にある感情が芽生えていた。

 

「痛かった…寒かった。どうして僕がこんな目に遭わないといけないんだ。なんで僕なんだ…!なんでだ…!なんでなんでなんでなんでなんでなんで…!」

 

 

強すぎる「生きたい」「遊びたかった」という執念と、そして、全てを憎む怨念を悪霊が取り込み――少年の魂はやがて概念として存在していた「猿夢」という怪異へと変貌するのだった。

 

 

 

 

 

全てを見してしまった怜は思わず猿夢から離れてしまう。涙が止まらない。

 

「そんな…こんなの…あんまりだよこんな事…」

 

 

ーーーま!ーーーーしろ!

 

怜の脳内に声が響く。

 

「しっかりしろ篠山!惑わされるな!」

「ッ!」

「お前、アイツの生前の記憶でも見たんだろ」

「なんで分かるんですか…」

「そんなツラ見てたら嫌でも分かる」

 

木庵のその言葉に怜は意識を呼び覚ました。そして怜を一瞥するとその様子で何があったのかを察した。

 

 

「痩せっぽちのあの体型見たら、何があったかは大体察しが付く」

「やっぱりか…」

 

隣にいた由香も薄々勘づいてはいたものの信じたくなかったと言わんばかりに眉を顰めた。

 

 

「いいか篠山、怪異に同情するな。事情があったにせよ、アイツが今やっているのはただの大量殺人だ」

 

木庵の眼差しは冷酷だが、その奥に僅かな哀惜が滲んでいた。  

 

 

突如、猿夢の姿が暴走するように膨れ上がった。

猿の頭部と歪んだ子供の体、悲鳴と笑い声が混ざり合い、電車の中を地獄のような空間に変えていく。

 

怜は胸を抉られるような思いで見つめていた。

 

「(あの子は…ただ、生きたかっただけなのに……)」

 

猿夢は絶叫する。

 

ー寒いのはいやだ!叩かれるのはいやだ!痛いのはいやだ!なんで僕なんだ!だから、みんな同じ目に遭えばいいんだ!

 

「……これが怪異の成れの果てだ。悲劇に同情しても、放置すれば犠牲は増える一方だぞ」

 

木庵の声は低く、しかしどこか哀しげだった。

 

ーみんな死んじゃうええええええええ

 

猿夢が叫ぶと同時に、電車は急加速し、窓の外に闇が流れ去る。

座席の影から触手が伸び、怜の足を絡め取った。

 

「っく……!」

 

由香がライフルを構え、触手を吹き飛ばす。

 

「怜ちゃん!確かに気持ちは分かる!でも、弔いは後!」

「すみません…だって、こんなのあんまりじゃないですか…」

 

怜は唇を噛みしめた。両親のいない怜にはとても辛い現実だった。

 

印を結び、結果術式を構築する。

 

「成仏は叶わずともせめて、ここで終わらせてやる」

 

結界の中心に術式が浮かび上がり、猿夢の動きを封じる。

木庵はタバコに火を付け、煙を吐き出し一呼吸置いた。

そして、散弾銃を腰のホルスターから取り出し猿夢に向けた。

 

ーいやだやめていやだやめていやだやめていやだいやだいやだ

 

 

鈍い発砲音が車内に響き渡る。

 

 

 

ーいやだ、まだ生きていたかっただけなのに…やりたい事もあるんだ。皆と仲直りしたいんだ…

 

猿夢の姿は、生前少年のへと変わり、窓の外へ手を伸ばした。

だが、その手は届かず、黒い砂と共に崩れて消えた。

 

元凶の怪異を祓った事により、異界の光景が元に戻り始めた。

そして、電車は何事も無かったかのように普通の車両に戻る。

 

だが怜の耳には、まだあの叫びが残っていた。

 

(ただ生きていたかっただけなのに)

 

 

怜は俯き、拳を震わせる。

 

「……助けられなかった……ただ、殺しただけじゃないですか」

 

由香も怜に掛ける言葉が見つからず、俯く。

 

木庵は静かに告げた。

 

「祓い屋とは、そういうものだ。人を救う事もあれば、救えない存在を切り捨てる」

 

「じゃあ……私達のしている事は何なんですか……意味があるんですか…?」

 

怜の声はかすれていた。

 

木庵はしばし黙り込み、窓の外の暗闇に目をやる。

 

「そうだな……せめて、記憶してやれ。あの子がどう生き、どう死んだのか。それが、せめてもの弔いで救いになるかもしれない」

 

電車のドアを開き、外から冷たい夜風が吹き込む。

その風の中に、かすかに――幼い笑い声が混ざっていた。

だが、それが幻聴かどうかは、誰にも分からなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

 

祓いの仕事が終わり、片付けを終えて事務所に作業報告をした。

そして、木庵達は鉄道会社を後にした。

 

帰りの車内は静かだった。車内にはラジオから流れる音と木庵のタバコの

匂いだけだ。

 

 

「いいか篠山、この先似たような事が沢山あるだろう。その中でどう線引きをするかだ。ただでさえこの仕事はその境界線が曖昧になる」

「…」

「別にすぐに切り替えろなんて事は言わねぇ。ただ、お前みたいに甘い考えのヤツは嫌いじゃない」

 

駅に怜を送り届け、車内から出ようとする彼女に木庵は静かにそう告げた。

 

「覚える事はまだまだ沢山あるぞ。そうだな、初の実戦を採点してやろうか。100点中−50点だ」

「なんですか…それ」

「冗談だ」

 

木庵の冗談に怜は少し笑みを浮かべる。

 

「じゃあな、気をつけて帰れよ。2〜3日してからまた本部に来い」

「またね怜ちゃん、今日はお疲れ様!」

「ありがとうございました」

 

車を降りた怜は2人に頭を下げ、走り去る車のテールランプを見つめていた。そして視界からいなくなったのを確認して怜は駅に向けて歩き出す。

 

 

 

 

「今日は珍しくおセンチだったじゃん」

「お前…俺だってそういう時くらいあるっての。俺をなんだと思ってんだ?」

「ヤニカスパチンコ野郎かな」

 

木庵はタバコを取り出し、火を付けようとするがライターのオイルが切れかかっているのか中々火が付かない。

すると、横から由香のライターが木庵のタバコに火を付ける。

由香はそのままの状態で自身のタバコにも火を付けた。

 

2人は思いっ切りタバコの煙を吸い込み、噛み締めるように煙を吐き出した。

 

「まぁ、でも私も今日はちょっとキツかったかな。なんか酒飲んで酔いたい気分」

「奇遇だな、実は俺もそんな気分だ」

「じゃあ、ちょうどいいじゃん。どっか飲みに行こ。勿論、アンタの奢りで」

「しょうがねぇな、そん代わりいい店連れてけよ」

 

 

2人はニヤリと笑うと夜の街に消えて行った。

 

 

 

 

to be continued...

 

 

 




後編終わりました。年跨ぐまでには書きたいと思ってましたが、全然進まず漸く完成しました。見てくれていた方申し訳ないです。
仕事が落ち着けばまた続き書きますので、気長にお待ちいただければと思います。

投稿頻度低いですが、続きあるわくらいで見てもらえたら有難いです。

ここまで見てくれた方、マジで感謝してます。
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