戦え! 超強化生命体傭兵レイヴンちゃん!【本編完結】 作:ゼフィガルド
話は数日前に遡る。惑星封鎖機構とアーキバスが手を組んでから、残ったヴェスパー部隊長には新たな機体が配備されていた。
V.Ⅰには『IB-02』を。そして、オキーフには『エクドロモイ』が充てがわれていた。処置が施されているか定かでないフロイトがいかなる手段を用いて短期間で乗りこなせるようになったかは謎のままであったが、強化人間であるオキーフが機種転換にはさほどの習熟訓練も必要としなかった。
「エクドロモイは要らないだと?」
V.Ⅲオキーフは上層部に申し出ていた。もしも、これがペイターなら突っぱねられていたが、アレだけ組織に従順だったV.Ⅲが申し出たなら話も聞かざるを得なかった。
「あまりにも挙動が違い過ぎる。瞬発力はエクドロモイの方が上だが、俺の戦い方には合わない」
「そうか。……まぁ、そう言うことなら構わんが」
「だが、思い悩んでいることも確かだ」
空中戦で徐々に追い詰めていくのを得手としているが、今後戦うであろう猟犬部隊やベイラムの連中。あるいは、彼が雌雄を決するべきだと考えているオールマインド陣営などに対しても通じるか。ということに関しては懸念を抱いていた。
猟犬部隊。特にレイヴンに関しては攻撃を命中させるのが至難であり、ベイラムの者達に関しても実弾に対する防御力が高く。『MA-J-200 RANSETSU-RF』や『BML-G1/P29CNT』等の実弾武器がイマイチ成果を上げ辛くなっていた。
「現在の戦場が実弾に対して逆風と言うのもきついのだろうな。だったら、こう言うのはどうだ?」
申し出を受けた上層部の男は少し悩んだ末、手元のコンソールを操作した。そこには、先日、シュナイダー社に監査を入れた時に押収したパーツが映し出されていた。まだ、流通にも乗せていない品だった。
「『PFAU/66D』パルスミサイル、だと?」
「プラズマミサイルも使いこなせているのだろう? 挙動は少し特殊だが、使いこなせなくはないはずだ」
空中戦において、誘導性を持ちつつばら撒けるミサイル武器と言うのは相手の選択肢を刈り取って行く上では非常に重要な意味を持つ武器である。
以前まではスタッガーを取る為に『MA-J-200 RANSETSU-RF』を用いていたが、エネルギー武器のミサイルを使えると言うのなら歓迎する所だった。
「こちらの『LAMMERGEIER/40F』と言うコアパーツは?」
「軽量化の技術実証用の品だ。安全性は度外視されているが、同社の『40E』よりも更に軽く、なおかつジェネレーターの出力を引き上げることにも成功している。エネルギー武器を多用している貴様にはピッタリだと思うが」
安全性の度外視と言うのが気になるが、それを言えばバレンフラワーに使用されている『NACHTREIHER/40E』も相当に紙装甲だ。なおかつ、ジェネレーター出力の低さから諦めざるを得なかったEN武器も多かったが。
「使わせて欲しい。そうなると、肩の武器も選択肢が生まれる」
「それに関してだが、こっちはアーキバス先進開発局から提案がある」
次にモニタに表示されたのは『VE-60LCB』と言う武装だった。
既に開発・生産されている『VE-60LCA』と比べれば、重量とEN負荷は抑えつつも、レーザーキャノンとしてのコンセプトを体現していた。直ぐに、オキーフはこれらの機体を組み合わせたアセンブルをシミュレートした。負荷はきついが、出撃は出来なくはない。
「こちらの方も採用させて欲しい。本来、この武装はV.Ⅱ辺りに回す物だったのでは?」
「そうだ。まさか、奴が感情を制御できないとは思わなかった。正直言って失望している。フロイトもまるで忠義が見当たらない、我々アーキバスはお前にしか期待していない」
実際、言葉だけではなくこれらの品々を融通される。ということは相応に期待されていると考えても良かった。
アーキバスがやって来たことは決して褒められることではないが、自身の脳に焼き付けられたコーラルを中和し、働き口を用意してくれたのは事実だった。だとしたら、その恩義に報いる位はするべきだと考えていた。
「分かった。応えて見せよう」
「期待している。今言った武装を配備しよう。その代わり――」
~~
「まずは貴様らを討ち取る!!」
『PFAU/66D』から放たれたパルスミサイルが、エンタングルに肉薄する。見たこともない武装の挙動に咄嗟に反応できたのは、スッラの技量がなせる技であったが、既にオキーフはチャージを終えた『Vvc-760PR』を放っていた。
回避挙動の隙を取られたスッラの機体にプラズマ弾と爆破が襲い掛かるが、それで足を止める様な真似はしない。
「スッラ。オキーフの機体には我々にも知り得ないパーツが使われています。流通にも乗せていない新規の物でしょう」
「見れば分かる。だが、俺には合わなさそうだ。お前が作った物の方が性に合う」
「当然です。あなた専用にオーダーメイドしてカスタムしたものですから」
共に軽口を叩きながら、スッラは両肩部の兵装『45-091 JVLN BETA』を発射した。通過軌道で起きた爆発が、パルスミサイルの進行を阻む。
その間に、チャージされた『44-143 HMMR』が投擲され、ばら撒かれた機雷からプラズマ爆破が巻き起こる。2種類の爆炎がエンタングルを覆い隠すが、オキーフは慌てたりはしなかった。
肩部兵装の『VE-60LCB』レーザーキャノンのチャージを終えようとする寸前、2種の爆炎の中から出て来たエンタングルからブーストキックを受けた。と同時に、チャージを終えた一撃が放たれた
「ぐっ!?」
カウンター気味に放たれた攻撃を直撃させなかっただけでも凄いが、避け切れなかった左腕部と左肩の背部兵装が消し飛んだ。
だが、スッラは直ぐに冷静さを取り戻して、右手に握られていた『44-141 JVLN ALPHA』の砲撃を食らわせた。
「うぉっ」
コアへの直撃は不味いと、咄嗟に『VE-46A』の右腕部で防御行動をとった。ショルダー部分のパーツが吹っ飛んだが、全損までには至らない。
このまま追撃を駆けようとしたが、エンタングルの姿が消え去っていた。見ればバズーカと肩部兵装がパージされていた。
そして、上空には変形した状態の『SOL 644』にしがみつき、共に去っていくスッラ達の姿があった。今から追撃を掛けようにも、いかなる伏兵が待ち構えているかもしれない。オキーフは通信を入れる。
「各員、被害状況を報告しろ」
『はい! LC部隊の30%ほどが大破。その他にも中破・小破も多数。パイロット達は全員脱出できています。恐らく、止めを刺す余裕が無かったのでしょう』
機体の損失はあったが、それ以上に拠点を制圧し機体を回収できた功績は大きい。オールマインド達を仕留められなかったのは心残りではあるが、確かな結果を見てオキーフは頷いていた。
「(エクドロモイより、やはり俺にはバレンフラワーの方が合うな)」
『オキーフ隊長?』
「もうじき強襲艦も来る。機体の回収作業に移れる者は、そのまま作業を手伝え。俺は拠点に何か手掛かりが無いか引き続き調査をする」
『はい!』
通信を切り、オキーフは拠点へと向かった。少しでも、コーラルリリースやオールマインド達の目論見を知るために。……しかし、機体達が造反したりする様子も見せなかったことから、既に掌握されているだろうことは察していた。
都合の悪い情報は握りつぶされているかもしれないが、それでも可能性の見落としを防ぐべく、彼は内部まで赴いた。
~~
先に戦線を離脱したドルマヤンはザイレムへと向かっていた。ルビコン中のことは知り尽くしており、今の自分が何処にいるかと言う把握も容易いことだった。
「(思ったよりもザイレムからは離れておらんのだな)」
何かあった時に駆け付けられることを考えれば、近くに備えておくと言うのは合理的ではあった。おかげで、こうやって拠点へと帰ることが出来る。
囚われの日々を思い出す。かつては袂を分かったが、久々の逢瀬は半世紀ぶりの恋慕を満たすのに十分すぎた。
「(私との日々で満たせば、彼女も思い直してくれるかと思ったが、とんだ邪魔が入った物だ)」
遊んでいる様に見えて、彼なりにセリアの懐柔を測っていたのだ。実際、オールマインドやスッラもそっちのけで楽しんでいたのだから、成功していると言っても過言では無かっただろう。
そう言うことにしておけば、皆と合流した時にも言い訳が出来る。と言う、年よりらしい保身を浮かべていると、ゴゥ。と何かが上空を通過して……ゆっくりと降りて来た。まさに、今話題にしていたセリアが乗った『SOL 644』だった。
「ほぉおお!?」
『サム。どうして、通信類を切っているの? 何か位置を知られた都合が悪いことが?』
通信機を介さないで、変波形特有の脳内送り込み会話をされてドルマヤンは動転していた。横には半壊したエンタングルがいる。
「何もおかしなことはないだろう。追手を避ける為では?」
「そうだ。その通りだ」
決して、スッラは擁護する為に言った訳ではなく、最もあり得る可能性を話したに過ぎなかった。ただ、やはりセリアとしても色々と引っ掛かっていたらしい。
『そうなの。それじゃあ、一緒に新しい拠点に向かいましょう。オールマインド、拠点は幾つも用意しているのよね?』
「……大変、申し訳ありませんが。惑星封鎖機構とアーキバスの手は想像以上に早く、予備の拠点も潰されておりました」
企業が本気で打って出ようとするのだから、逃げ場を残しておくなんてことをする訳が無かった。と言うより、筒抜けなことが問題だった。コレを良しとしたのは、ドルマヤンだった。
「そうか。ならば仕方あるまい。私は皆の元に戻るよ。セリア、久方の逢瀬。楽しかったよ」
『何を言っているの? これからも続くのよ?』
ガシっとアストヒクの腕を掴まれた。ジェネレーターの出力の関係上振り払うことは適わない。かと言って、殴り掛かろう物なら無事で済む訳もない。
「しかし、だな。私は人間であり食事をしなければ死んでしまうのだ」
『だから、コーラルリリースが必要だったんですね』
人間として不都合なことはコーラルリリースで帳消しに出来ると思っているらしかった。このままでは一足先にドーザーを超えて、コーラルその物になりかねない中。ドルマヤンは苦し紛れにコーラルを吸引し、衰えたシナプスの加速を試みた。……すると、突飛もないアイデアが出て来た。
「セリア。先日まで、私と君の仮初の日々は楽しい物だった。憶えているか? 共に汚染された海で水浴びをしたり、雪合戦をしたことを」
『えぇ。とても美しく、素晴らしい時間だったわ。最高の思い出作りだった』
「私はその日々を続けたいと思っている。それを可能とするのが、今や盟友としたカーラ嬢なのだな」
「は?」
これにはオールマインドも言葉を失っていた。言っている意味がまるで分からない。と言った具合だった。
『どういうこと?』
「彼女は技術者集団。つまり、義足や義体に関するプロフェッショナルだ」
「いや、生体工学と普通の工学は別物だが」
『それがどうしたの?』
スッラのツッコミは何処吹く風か。ドルマヤンはアストヒクに保存されていたHDDから画像を引っ張り出して来た。今となっては、エンゲブレト坑道で朽ちている友人から分けて貰ったケモ春画だった。
「彼女の手に掛かれば、この様な造詣の義体も作って貰えるだろう」
「きっしょ」
「色づくな。同じ老人として恥ずかしい」
オールマインドとスッラから心無い暴言が飛んできて、一瞬スタッガーになり掛けたが、肝心なのはセリアの反応である。……当然の如く、難色を示していた。
『サムはこう言うのが良いの?』
「そうだ。触れ合うことは温かさ。温かさとは毛なのだ」
もはや自分でも何を言っているのか分かっていなかったが、今のドルマヤンはこの窮状を逃れたい一心で必死に話していた。……やがて、セリアは何かに納得した様に『SOL』を頷かせた。
『分かった。じゃあ、サムを連れて行って作って貰えるようにお願いするわ』
「え……」
「良いですね。依頼主から正式に条件を伝える必要はあるでしょう。今の会話は全て録音してありますので」
どうやら、オールマインドとしてはかなり不快な会話だったらしく、珍しく敵愾心を剥き出しにしていた。
「俺達も同伴させて貰うぞ。貴様を助け、護衛を務めると言う大義名分があるからな。さっさと行くぞ、変態爺」
「全ては消えゆく余燼に過ぎない」
ついに語る言葉を無くしたのか。まるで、自分の矜持を表すが如き警句を呟きながら、ドルマヤンはザイレム方面へと連行されて行った。