戦え! 超強化生命体傭兵レイヴンちゃん!【本編完結】   作:ゼフィガルド

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 前回の話で100話目でしたが、副題の方で『100話目』となるのは今回の話なので、少し特別編の方を書かせて貰いました。応援して下さっている皆様のおかげで、ここまで来れました! 今後ともよろしくお願いいたします!


依頼00件目:プロローグ

 人命が安く買い叩かれる時代。彼女は物覚えが付く前に実験場に連れて来られた。両親の顔も知らないし、自分の名前も分からない。便宜的には『C4-621』と言う名前が与えられていた。

 周りには同じ様な年齢の者達が多数いたが、彼らと話した覚えは殆ど無かった。昨日会った人間が、今日にはいなくなっていることも珍しくはない。

 

「博士。こんな小さい子供達を使う実験だなんて、常軌を逸していますよ」

「だからだ。子供は脳が形成過程にある。即ち、今から変化を呑み込んでいける土壌があるのだ。コーラルを馴染ませるとしたら、このタイミングしかない」

「なるほど、そう言う考えもありますか」

 

 勿論、この会話を彼女に理解できる訳もない。よく分からない機械に繋がれ、定期的に開頭手術を受けての繰り返し。その度に、同じ様な境遇の者達が減っていく。中には逃げ出そうとした者もいたが、直ぐに連れ戻されていた。

 恐怖、憤怒、絶望。色々な感情が渦巻いていた場所で、621はどの感情をも持っていなかった。生死に関して極度に興味が無かったと言って良い。

 

「死ぬのが怖くないの?」

 

 そのことを不気味に思った者もいたのだろう。同い年位の少女に尋ねられたこともあったが、彼女は淡々と返した。

 

「何が?」

「嫌だよ。私、死にたくないよ」

 

 たった、数分話をしただけの少女も翌日にはいなくなっていた。粗末な食事を口にしている傍ら、白衣を着た男性達が訪れる回数が増えた。

 

「この被験体が例の」

「はい。彼女には感情が麻痺している為か、手術が上手く行っているんです。今まで失敗した検体の大半はショック死。つまり、ストレスに耐え切れなかったのですが……」

「ふむ。仮説としては、情報導体であるコーラルによって感情から来る反応が増幅され、その矛先が自らに向ってしまうと言う所か。なるほど、よし残っているのはコイツ位だ。『C3-291』と違い、バイタルも安定している。これは傑作になるぞ」

 

 今までの実験に加えて、肉体的トレーニングやVRシミュレーターなどに従事させられることが増えた。食事も豪勢になり、以前よりも快適な暮らしを送れる機会が増えた。

 

「身体の成長速度、VRの反応速度。いずれも常軌を逸している、全身の循環物をコーラルに順応させることが出来れば、我々も……」

「いや、危険すぎます。感情に揺さぶられることがあれば、内側に潜むコーラルに憑り殺されかねないんですよ」

「うめっ。うめっ」

 

 いつもの粗末なブロック食ではなく、動物性のたんぱく質であるミールワームを頬張りながら、621のバイタルは図られていた。多少の上下はあったが、大きなブレは一切見当たらなかった。

 見目にそぐわない筋肉を蓄え、パイロットとしての技量を磨く日々に疑問を抱くことも無く。自由に焦がれることも、自らの境遇に絶望することもない。彼女は他者だけではなく、己に対してすら無関心だった。

 

「なに!? アーキバスが代替技術を!?」

「はい。コーラルを用いた、旧世代の強化人間の相場は下がり続けています。早く捌かないと赤字に……」

 

 そこから、彼女は色々な企業にPRされたが、ある企業では微かな倫理観で拒絶され、ある企業では娼婦の宣伝と嘲笑われ、とんと買い手は着かなかった。

 損切りに失敗した博士達が困窮した頃、とある男から商談を持ち掛けられた。旧型の強化人間を買い取りたいと。提示された価格は、ギリギリ彼女に投入したコストを回収できる程度だった。それでもマシだと判断され、彼女は引き渡された。

 

「コイツの情報や仕様をまとめたデータも添付した。後はお前達が好きにしてくれても良いが、何故今更?」

「知り合いが、人的損失を出しそうなことをし始めたのでな。少しでも使えそうな強化人間を回収している。アーキバスの代替技術が確立されてから、旧世代は何処も叩き売り状態だ」

 

 そうして、621は男に連れて行かれた。今まで居た場所を去ることを特段名残惜しくも思わず、連れて来られた先には大量の強化人間が居たが、彼女ほど幼い者は誰も居なかった。

 いずれもくたびれた風体をしており、荒んだ空気を醸し出していたが、強化人間として使われる立場を理解していたのか、問題を起こす者達は居なかった。そんな中、彼女の興味を引いた物があった。

 

「ねぇ、おじさん。それなに?」

「あ? コーラルだよ。こんな物でも吸わなきゃやってらんねぇ」

 

 中年の男が吸引していたパイプの先からモクモクと赤い煙が昇っていく。今まで、殆ど何にも関心を示さなかった彼女がどうして惹かれたのかは、本人も分かっていないことだろう。

 

「吸うか?」

「うん」

 

 男がしていた様に受け取ったパイプを吸引する。体内にコーラルが流れ込む。語感の全てが開けていく様な感覚があった。

 

【気味の悪ぃ餓鬼だな……】

「なんか言った?」

「いや、何も言ってねぇよ」

 

 男は慌てて口元を覆っていた。自分が失言したのかと思ったのだろう。

 一方、コーラルを吸引した621はケタケタと笑っていた。何が楽しいかは自分でもよく分からないが、気分は良かった。

 

~~

 

「621、お披露目会だ。しくじるなよ」

「はーい」

 

 強化人間達が己の技量を示す為に、単発の依頼を受注すると言うことも珍しくはなかった。帰還率は良くて3割。大半の者達はPRの段階だけで命を散らすことになっていた。

 彼女としても初めての実戦であり、宛がわれたMTを用いてのミッション。内容は対立企業の襲撃とありふれた物であり、強化人間達は捨て駒として用いられていた。

 

【ギャッ!】

 

 彼女の背後で僚機が爆散した。相手はMTだけではなくACも入り混じっており、旧世代の強化人間達が次々と撃破されて行く中。彼女だけは違っていた。

 

【なんだこのMT!?】

【クソ! 死ね!】

「えい」

 

 襲い掛かって来たMTが何をするのか、彼女には聞き取れていた。煩い位に聞こえていた。攻撃を避け、装甲の薄い部分にマシンガンを叩きこむ。

 

【や、やめ、いや、死】

「うるさい」

 

 コックピット付近に銃撃を受けた相手MTは爆散した。断末魔に上がった悲鳴は脳を劈く様な悲鳴だった。しかし、生き残る為に戦わねばならない。何機も何機も潰しては、武器を拾い上げて次の機体を潰していく。

 

【ば、化け物】

【うわぁあああああ!!】

【脱出装置。うわ、つかえな】

「うるさい!!」

 

 単純に煩いのが不快だったのか、叫び声を上げた手前。何かが唇を伝った。どうやら鼻血を出していたらしい。

 流石に相手企業も彼女を放っておくわけにもいかず、ACが出て来た。全身をBASHOフレームで固めた、半分MTに足を突っ込んでいる機体だった。

 

【クソ。ルビコンに行く為の旅費を稼ぐ楽なミッションだと思っていたら、こんな面倒臭いことになるとは。まぁ、良い。この新しく買ったパルスブレードで切り裂いてやるよ!】

 

 MTと違い、ACはかなり高速で立ち回って来たが彼女には軌跡が見えていた。これは、VRによる蓄積と彼女の脳内を走るコーラルにより向上した計算能力により、導き出されていた物だった。

 自分が撃破して来たMTから拾い上げたハンドミサイルやバズーカ。ライフルを用いながら、相手の回避軌道上に弾丸を打ち込んでいく。十把一絡げのMTがACを相手に戦っている。

 

【どうして、MTでACについて来られるんだ。糞! ぶっ殺してやる!】

 

 相手は背面のブーストを吹かして突っ込んで来た。MTでは考えられない、アサルトブーストを用いた推進をしつつ、左腕部のパルスブレードを展開する。

 MT相手ならばバターの様に断ち切られてしまうだろうが、彼女は相手が機体に振るうコマンドを入力するタイミングを計り、MTの緩やかなスピードで近付いた。タイミングをずらされた斬撃は空振りとなり、背面に背を向けることになった。

 

【あ】

 

 BASHOフレームは迅速な旋回が出来る訳ではない。だが、621は予め背中を取れることが分かっていたのか、背面を見せながら回避動作を行っていたのだ。

 手にしたマシンガンを、コアのジェネレーター部分に向けて集中的に放った。装甲が徐々に徐々に食い破られ、ジェネレーターに達した時。行き場を無くしたエネルギーが機体を呑み込む爆発を引き起こした。……辺りには誰も居なくなっていた。通信が入る。

 

「621、作戦は成功だ。お前の陽動で想像以上に戦力を散らせたらしい。依頼主のアーキバスも喜んでいた」

「そうなんだ」

「だが、旧世代の強化人間は要らんということだ。戻って来い」

 

 短く告げられると、彼女は大破した先のACから『HI-32: BU-TT/A』だけを引っぺがして帰投していく。他の僚機は残骸として転がるばかりで、誰も生きていない。その中で、彼女は特定の機体に近付いた。彼女にコーラル入りパイプを吸わせた男が乗っていた機体だ。

 ハッチを開くと、中には男の死体があった。彼女は悲しむ訳でもなく、彼の懐をまさぐり、目的物を見つけると目を輝かせていた。

 

「あった!」

 

 それは、男が使っていたパイプとコーラルの染みた葉だった。彼女は急いで機体へと持ち帰り、コックピット内で吸引した。

 先の鼻血が口に入り込んで気持ちが悪かったが、コーラルを吸引すると雑音や不快な物が削ぎ落とされ、自分にとって心地の良い情報だけが残った。

 

「うめっ、うめっ」

 

 その後も、幾度か戦場に出される度に彼女だけが帰って来た。次第に周囲から疎まれ初め、新世代の強化人間が戦場を埋めて来た頃。彼女達の元に1人の男が現れた。

 

「617たちは その後どうだ。ハンドラー・ウォルター」

 

 同年代の子達から遺志を引き継いだわけでも無ければ、同じ強化人間達から生き方を学んだ訳でもない。自由と言うにはあまりにも空々しい少女が、1人の調教師と出会い、翼を手に入れる話のプロローグ。

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