戦え! 超強化生命体傭兵レイヴンちゃん!【本編完結】 作:ゼフィガルド
以前まで、ウォッチポイント・アルファの深部には惑星封鎖機構が残して行った無人機『AM02:DENOISER』達が侵入者を拒んでいた。
しかし、今はそう言った機体の存在が見当たらない。先の隔壁前でゴースト達に襲撃されて以降、何の音沙汰もなかった。また、深度が深くなって来た為か、あるいは惑星封鎖機構のジャミングが入ったのか、ウォルターからの通信も途絶えた。
レイヴン達が解除してくれた隔壁を開くと、熱交換室へと出た。ミシガン達はスキャンを行いながら、警戒しつつ先に進んでいた。
「ゴーストが潜んでいるという訳でもなさそうだ。扉の先に『執行者』が居る訳でもない。ここには設置する暇も無かったということか」
「ならば、さっさと通り過ぎるぞ」
レッドも警戒心を緩めず、ミシガンも歩を進める。その中でブルートゥが周囲の熱交換器に関心を向けていた。
『ブルートゥス。何かあるのか?』
「いえ。妙に稼働していると思いまして。総長、何か嫌な予感がします」
ウォッチポイント・アルファは氷原に存在している。故に、施設内の温度を保つ為に、熱交換室の存在は欠かせない。設備的には何ら不自然さは見当たらないが、早々に抜けるべきだとブルートゥの勘が告げていた。
しかし、彼の警告は一手遅かった。隔壁がロックされ、熱交換器が凄まじい勢いで動き出し、室温が上昇していく。
「破壊しろ!!」
ミシガンの号令に応じて、部屋内の熱交換器を破壊しようとするが、部屋内の温度の上昇に呼応するようにして堅牢な壁が出現した。銃弾をはじき返し、ミルクトゥースのダブルトラブルも刃が立たなかった。
「このままじゃ蒸し焼きだ! 総長! 隔壁は!」
「今、やっている!」
ライガーテイルがありたっけの弾丸を叩き込むが、開く気配は無かった。続いて、レッドが隔壁へのアクセスを試みるが、弾かれていた。
「駄目だ、プログラムが一新されている!」
コックピットで汗を流しながら戸惑っていた。例えACが耐えられたとしても、機体内部まで無事で居られるかは別問題だ。一刻も早くの脱出が望まれる中、ブルートゥはカエサルに呼び掛けた。
「ご友人。やれますか?」
『ここでやらねば、全員蒸し焼きだ。エア程ではないが、やるしかない』
ブルートゥとカエサルが同時にアクセスした瞬間、部屋内の天井や壁の一部が変形し、レーザー砲台やミサイルが出現していた。
アクセスを試みるミルクトゥースを破砕するべく、一斉に攻撃が放たれようとしたが、ライガーテイルが吠えた。
「ブルートゥ! 構わずやれ! この程度なら、俺達でスクラップに出来る!」
「頼むぞ!」
次々と部屋内に出現する砲台を破壊しながら、ブルートゥ達は障壁の解除に臨んでいた。
RaDに所属していた頃、ソフトウェアの造詣に詳しいカーラから手解きも受けていたとは言え、障壁の解除は骨が折れる仕事だった。
「カエサル。そのプログラムは触らないで下さい。アクセス遮断をする際に使われる、ダミーです。カーラもよく同じ様なトラップを仕掛けていました」
『そうか。よし、その調子でナビゲートを続けてくれ』
もしも、このプログラムにアクセスを試みる者が居たとすれば、窮地に陥った人間の賢明な抵抗を嘲笑うかのような、トラップやダミーが大量に設置されていた。無機質であるはずのコードに、作り手の悪意が滲み出ていた。
「このプログラムには笑いが足りませんね。きっと、カーラならそう言います」
『よし。コレか!!』
幾重もの障害と隠蔽を乗り越えた先。隔壁へとアクセスすると、殺意に満ちた部屋の脱出口が開かれた。少なくない弾薬とAPを消費しながら、通路に出た一同は、コックピット内で汗を拭った。
「このサウナの調整をした奴は誰だ! 責任者を出せ!!」
「総長。多分、電子レンジの間違いだと思います」
レッドもミシガンのノリが分かって来たのか、修羅場を潜り抜けたばかりだというのに軽口を叩いていた。水分を取った後、周囲のスキャンも欠かさず進んでいた一同は開けた場所に出た。
瞬間。3機のモニタにアラートが表示された。スキャンをした限りでは何も見つからなかったハズだというのに。最初に気付いたのはカエサルだった。
『ブルートゥス! 上だ!』
ミルクトゥースのカメラをズームさせると、そこには超高出力ENユニットに大型プラズマライフルを連結させている『AAP03: ENFORCER』の姿があった。
強大な複合エネルギー弾が放たれ、3機が渡ろうとしていた通路が落ちた。四脚ACであるライガーテイルは直ぐに態勢を立て直したが、レッドは突然の事態に対応が遅れていた。
「ご友人!」
ミシガンと同じく直ぐに態勢を立て直したブルートゥは背部兵装をパージした後、武器をハンガーへと収めてハーミットを掴んだ。
武装を搭載したハーミットを掴んで上昇することは出来なかったが、落下速度が緩やかになったことでレッドも冷静さを取り戻して、態勢を立て直して近くの足場に着陸した。
「すまない。私としたことが」
「いいえ、ご無事でしたら何よりです。それよりも! 例の機体は!」
レーダーには自分達以外に2機の反応があった。ライガーテイルと『執行者』である。応援に駆け付けようにも、この様な場所では満足に戦うことも出来ない。レッドが通信を入れた。
「総長!! 援護に!」
「碌に動けん貴様ら等役立たずだ! さっさとここから離れろ! ただし、何処から入ったかのルートだけは送れ! 俺もそこから逃げる!」
実際、この様な足場も少ない開放的な空間で戦えるのは四脚AC位だった。
レッドも以前に深部の調査に参加していたことはあったが、あの時の『執行者』は二脚型の兵器だったはずだ。
今は、ザイレムで確認されたという『アーキバス・バルテウス』と同じく大型のブースターユニットとリング状の超高出力ENユニットを装備しており、空戦も可能な機体へと変貌していた。
「分かりました! ブルートゥ!」
「えぇ!」
壁伝いに点在している足場を進んでいく。すると、そこには換気ダクトがあった。AC程の大きさしか通過できず、『執行者』が潜るのは不可能だった。
レッドが先んじて入ると、レーザーガンやスタンスモッグを装備した『AM01: REPAIRER』が降下して来た。
「どけ!!」
『SG-027 ZIMMERMAN』の弾丸が彼らを食い破る。元々、修理用のドローンとして使われていた機体を警備用に改造した物である為か、装甲は非常に薄く簡単に破壊された。そんな彼にブルートゥが通信を入れた。
「ご友人。相手にしている暇も弾丸も無い筈です。早く、進みましょう」
「あぁ!」
レッドはミシガンに、ここに至るまでのルートを送信した。モニタには2機が交戦される様子がずっと表示されていた。
~~
「なんだ、アレは」
コーラル集積に配備されていた惑星封鎖機構&アーキバスのパイロット達は我が目を疑っていた。ここにいる者達は、バスキュラープラントの護衛を任される程のエリート達であり、多少の事態では動じない者達だった。
そんな彼らでさえ驚愕せざるを得ない光景が目の前に広がっていた。先頭に立っているのは、レッドガン部隊のG5のヘッドブリンガーであり隣にはレイヴンが乗るA.NULの姿がある。そして、その後ろには大量の巨大ミールワームが蠢いていた。
「構わん。やれ!」
多少、戸惑いはしたが命令を遂行することに変わりはない。LCやMT達が一斉に引き金くと、レーザーを始めとした殺意の塊がイグアス達へと襲い掛かった。
当然、彼らに命中する訳も無いのだが、動きが鈍いミールワーム達は被弾しては爆散して、肉片と体液を飛び散らしていた。
「頑張れー! 頑張れー!!」
『レイヴン?』
そんな彼らを哀れに思ったのか、あるいは何も考えていないのか。レイヴンはミールワーム達に向けて、加減したコーラルキャノンやミサイルを放っていた。
大量のコーラルを吸収したミールワーム達の体は膨れ上がり、攻撃された恨みを晴らすかのように各々が上体を起こして、口と思しき場所から赤色のレーザーを発していた。
「な!?」
当然、ミールワームにこんな生態があるとは思っておらず、パイロット達は驚愕していた。大きくなったことで耐久度も増したのか、多少の攻撃を食らった程度では爆散することも無くなり、惑星封鎖機構の面々は予期せぬ戦力との交戦を強いられることとなった。
「行こ―」
「嘘だろ……」
イグアスもなまじ信じられない光景であったが、ルビコニアンデスワームおよびデスビートルとも交戦している手前、認めるしかなかった。問題があるとすれば、レイヴンがこんな事態を引き起こしたことだが。
『レイヴン。まさか、この特性を知って?』
「うん。あの子達、欲しいって言っていた」
「お前、本当に何者なんだよ」
耳鳴りに多少の不快感を覚えながらも、多数の戦力をスルーしながらイグアス達は進んでいく。現場には多少の混乱がもたらされていた。
「侵入者達が巨大化したミールワームを引き連れて来た! うわ! 変態しやがった! 小型のデスビートルを確認! 応援を!!」
漏れて来た通信内容を確認するに、少なからずの被害を出している様だ。まさか、交戦も無しにこうも順調に進むとは、イグアスも思っていなかった。
「俺達はツイていやがる。この調子でいけば、バスキュラープラントの防衛戦力も無くなっているかもしれねぇ」
「ううん。いるよ。凄く強いのが」
背後で起きているパニックを他所に進んで行った先。当初見た時よりも延伸されたバスキュラープラントの根元に佇む者が1機。
イグアスも映像でしか知らない機体であり、交戦経験のあるレイヴンとエアは緊張感に包まれた。
『あの機体、背部兵装が『CEL 240』の物と酷似していますね。搭乗者は言うまでもないでしょう』
「フロイト」
このルビコンにおいて、数少ないレイヴンと互角の実力を持つパイロット。アーキバスのヴェスパー部隊1番隊長であり、アリーナのトップランカー。企業の切り札とも言える存在。
「レイヴンか待ち侘びた。余計な物も付いて来ている様だが、構わない。今度こそ、決着を付けよう。他に邪魔は入らない」
湖に降り立つ。バスキュラープラントに接した周囲にはコーラルが満ちている。水面から赤い粒子が2機へと昇っていく。
「エア。サポートをお願い。フロイトは凄く強いよ」
『分かりました。レイヴン』
「オイ! 俺もいるんだぞ!」
「下がっていて!!」
レイヴンがイグアスに怒鳴り付ける。瞬間、『IB-02:ロック・スミス』から放たれた大量のコーラルオービットから赤色のレーザーが放たれた。
相手はたった1機にも関わらず、まるで小隊を相手にしているが如き包囲攻撃だった。レイヴンもミサイルを放ちつつ、オービットを落とそうとするのだが、まるで1基1基が意思を持っているかのように攻撃を避けていく。
「この機体は良い。何処にでも、俺の手がある様だ」
オービットの動きはまるで芸術的で曲芸かと見間違わんばかりだった。コーラルレーザーを照射しながら格子状に迫って来たり、あるいは幾つも束に重ねて遠隔でコーラルブレードを振るって来たりと。フロイトが持つ戦闘経験を全て反映させるが如き挙動が繰り広げられていた。
恐るべきは、彼はレイヴンのみならずイグアスをも同時に相手取っていることだった。更に、エアはとある事実に気付いて戦慄していた。
『レイヴン。彼が操るオービット、AIで制御されているのは姿勢制御位で攻撃から移動まで、全部彼が動かしています。あの、ロック・スミスを動かしながら』
ロック・スミスの動きはラスティのスティールヘイズに迫らんばかりの物であり、彼の先読みとも言える程の勘の良さも健在なままだった。
例えば、コーラルミサイルを背面から回り込むようにして打ち込んだとしてもオービット、あるいはコーラルレーザーで焼き払われ、互いのオーシレーターから発生させた刃も必要最低限の動きで回避するだけだった。
被弾しない様に立ち回っているイグアスからすれば、もはや別次元の戦いと言えた。
「畜生……!」
イグアスの脳内には、先程のレイヴンの警告がこびりついていた。自分は戦力に数えられていなかったのかと。面倒を見られる存在でしかないのかと。
だが、実際。自分はオービットの相手をしているだけで、ロック・スミスと戦うことも適わない状態だった。
「クソが!!」
苛立ち紛れに弾をばら撒こうと、オービットにすら命中しない。余計に先の言葉を実感せざるを得なかった。
足元に広がる湖は、戦いの最中に霧散して行ったコーラル粒子により徐々に赤く染まりつつあった。