戦え! 超強化生命体傭兵レイヴンちゃん!【本編完結】 作:ゼフィガルド
「ここならば、静かだな……」
ドルマヤンはザイレムと言う場所を知っていた。かつて、ルビコン解放戦線のアジトとして使う為に調査隊を派遣したこともあったが、いずれもMIAとなった。通信も途中で途絶えたことから、ECMフォグの類があるということは分かっていた。
どんな危険が潜んでいるかも分からないというのに、随伴も付けずに愛機であるAC『アストヒク』単騎でやって来るのは、自殺願望があるとしか思えない。
「……」
この場所は静かだった。戦場を包む爆音や悲鳴、解放戦線内での多様な意見による喧々囂々。いずれとも無縁な場所だった。
今頃、自分が居なくなったことを知り皆は慌てているだろうか。それとも、邪魔な人間が居なくなって清々しているだろうか。通信機器も使えない場所では、知る術もなかった。
「(今なら、君の声もまた聞こえそうだ。セリア)」
若かりし頃の彼は、コーラルを愛用するドーザーだった。特に考えも無しに高揚感に任せて暴れ回っていたが、ある日を境に声が聞こえるようになっていた。
セリア。と名乗った、姿の見えない女性は自らを『Cパルス変異波形』と言う、コーラルと言う生体物質の中で産まれた精神体であると説明してくれた。
「(他の者達が聞こえなかったのが気になるが)」
他のヤク中達に聞いても、特段そう言った話は出てこなかった為。現実か幻聴かは怪しく思う所はあったが、彼女と一緒に居た時間は蜜月の様に思えた。
誰からも嘲笑われ、見下され、排除されて然るべき存在である自分を対等な相手として接してくれた。そして、共に生きたいと言ってくれた。
「(ならば、共に生きたいと願う彼女達を一方的に搾取している私達はなんだ? 我々の住処を奪った企業達と何が違う?)」
ルビコンの恵みがコーラルの消耗によって支えられているというのなら、自分達は彼女達の血肉を貪る餓鬼ではないのかと。
セリアは尽きることはないと言っていたが、ドルマヤンはいつも考えていた。もしも、自分達が消耗しなかったコーラルの中に人格が産まれていたとしたらと。そう考えると、途端にルビコン3と言う惑星の構造が恐ろしく思えたのだ。
「(故に、コーラルリリース)」
彼女と遣り取りをしている間に気付いたことがある。自分達を遮る『肉体』と言う物は、様々な弊害をもたらすのだと。
ドーザーをしていた頃の自分は常にコーラルを吸っていたし、常に赤色吐息を吐いていたし、異様に腹が減っていたり。精神的に荒れる要素が十分すぎた。
「(私も彼女達の側になれば)」
飢えや病気、自らの生存の為に他者を糧とする必要もなくなる。だが、その選択を人々に押し付けるほどの傲慢は無かった。そして、セリアはこの意思を尊重してくれた。……それ以来、声は聞こえていない。
今でも選択を悔いることはある。現状を鑑みれば、子供達は飢えで苦しみ、同志達は戦いの中で傷付き嘆いている。もしも、あの時。彼女の誘いに乗っていれば、この様なことも無かったのだろうかと。
「(そう考えていたら、久々に吸いたくなって来たな。どんな味がしたか)」
感傷に浸っていると、長らく吸っていなかったパイプを取り出していた。煙草を入れて吸うこともあったがコーラルとは比べ物にならない程、ショボかった。
コーラルとの共生を謳っているのとセリアの件があって以来、吸える訳も無かったのだが、誰にも見られていない解放感から若干気が大きくなっていた。
「(どれどれ)」
一度、やりだしたら止まらないのが薬物乱用者(ドーザー)である。赤い粉をパッパと塗して火を付けろ。モクモクと赤い煙が上がり、体内にコーラルが流入する。先程までの感傷を洗い流す程の快楽と刺激が脳髄を叩いていた。
~~
ザイレムへと到着した621は途中でリング・フレディと合流して進んでいた。
通信が使えないだけではなく、霧も立ち込めており一寸先も見えない。もしも、離れ離れになれば、再度の合流は難しいものになるだろう。
「見て! 白いもやもや!」
「そうだな」
それ以上に難しいのが、間を持たせることだった。621にコミュ力や会話術を期待するのは無駄であるが、リング・フレディもまた口下手であった。
任務中に無駄口を叩く必要はないと言えば、それまでだが。意味がないことはない。精神的衛生を保つ上で、会話は重要だった。
「ねぇ。フレディ、男娼ってなに?」
『レイヴン。それはかなりセンシティブな話題かと』
アリーナの説明でも公表されているが、621には言葉の意味が分からなかった。気になったので聞いてみようという考えが思い浮かぶ頃には、コーラルがスッカリと疑問を流していたが、ふと思い出したので聞いていた様だ。
「支えだ。帥父はセリアと言う女性に操を立てている。故に、他の女性と関係を持つ訳には行かないのだろう」
『貞操観念にまつわる話ですか。ですが、男性ならばよいということにはなるのでしょうか?』
「男の人ならいいの?」
「考え方次第だ。だが、帥父は俺を傍に置いてくれている。それだけで良い」
「フレディは、その人と友達ってこと?」
「もっと大切な人さ。お前にもそう言った相手はいるか?」
『……』
普段は気の抜けた返事が多いが、この時ばかりは621も珍しく唸っていた。彼女なりに頭を働かせているらしい。エアも反応を待っていた。
「えっとね。ウォルター! それと、エア!」
『!!』
「エア? 誰のことだ?」
「何時も傍にいてくれるの。ツィイーやラミー達も友達だけれど、ずっと一緒にはいないから」
あわわわわ。と、621の脳内ではエアが狼狽していた。
一方、フレディは暫し考えていた。ウォルターに関しては、雇い主であるということもあって真っ当に受け取って良いかは不明だったが、エアと言う名前は聞いたことがないし、彼女に関する情報でも見たことがない。
「その、エアって奴のこと。教えてくれないか?」
「いいよ。えっとね……」
スゥっと狼狽していたエアも声を潜め、一言一句。聞き漏らさない態勢を整えた所で、静寂だったザイレムに爆音が響いた。
「なんだ!?」
レーダーが使えない以上は、カメラによる目視でしか確認方法がない。慌てて、フレディが確かめた先に居たのは……。
「不明な侵入を確認。恒常化プロセス…」
「だまらっしゃい!」
全身、赤色の塗装をした純正のBASHOフレーム。『MA-T-222 KYORAI』のナパーム弾で相手の体勢を崩しつつ、あるいは炎上範囲から逃げ出そうとした相手を次々と『HI-32:BU-TT/A』のパルスブレードで切り裂いていく。
BASHOアームは格闘適性が非常に高く、堅牢で無骨な作りは近接武器をきつく固定し、力の限り叩き付けることを可能としていた。
「帥父!?」
『どうやら、無人兵器と戦っているようですが』
無人機の軽快複雑な動きの全てに付いて行き、次々と撃破していく様子は正に歴戦の武士であったが、周囲に漏れているスピーカーからは尋常ではない状態が伝わって来た。
「うぉおおおおお! 私にも見えるぞ! コーラルよ! 共にあれぃ!!」
「あ、この声のかすれ方。お爺ちゃん、コーラル吸っている」
「え?」『え?』
常用者と言うだけにあってコーラルを使用しているかどうかは直ぐに分かるらしい。暫くは傍観していたが、周囲にいたことが災いして無人機達の攻撃が621達にも飛んで来た。
「新たな侵入者を確認」
「クソ! どうして、こんなことに!!」
『全くです。早く終わらせて、先程の続きを聞かせて下さい』
「分かった!!」
かくして、ザイレムの静寂は破られ激しい戦闘音に包まれた。