戦え! 超強化生命体傭兵レイヴンちゃん!【本編完結】 作:ゼフィガルド
「しかし、私を出撃させるとしても。機体は何処にあるのですか? バルテウスはザイレム付近に沈み、オープンフェイスはアーキバスの格納庫です」
暫く、キレ散らかした後。冷静さを取り戻したスネイルから疑問は最もだ。
彼は強化人間であり、機種転換に時間を必要とはしないが、搭乗する機体が無ければ、話にならない。ウォルターから提案して来たのだから、何かしらの用意はあると踏んでの質問だった。
「一通り、各企業のパーツは揃えている。やろうと思えば、お前が使っていた機体の再現も可能ではある。だが、予め用意している機体もある」
「それは一体?」
ウォルターがタブレットを操作すると、ベイラムの格納庫。猟犬部隊(ハウンズ)のスペース収納された1機が映し出されていた。
どの企業にも属さない異質なシルエットをした機体は深紅のカラーリングが施されている。スネイルはこの機体を知っている。自らが背負っていた殻を打ち破り、ここまで手を引いてくれていた少女が使っていた機体。
アイビスシリーズの1機であり、アーキバスバルテウスとの交戦で大破していたが修理を終えていた。
「『HAL 826』。621は『A.NUL』と言う新機体を使っている。出力、武装共々申し分ないが、とてもではないが通常のパイロットには扱える物ではないからな」
技研製の機体であり、並のパイロットでは使いこなすことも難しい。だが、その火力たるや現行機すらも凌駕する物を持っているのは事実だった。
スネイルがかつて用いていた『オープンフェイス』も重量二脚であり、火力でねじ伏せて行く。という戦い方を好んでいたことからも、性に合った機体ではあったが。
「良いのですか? 私がこの機体を持って逃亡する可能性もありますよ?」
「俺が何の仕込みをしていないとでも?」
スネイルの疑問に対して、ウォルターは挑発的な回答をした。彼の細工の正体は分からないが、翻しては自らの恭順を示す事にもなるだろうと考えた。
「良いでしょう。信用の担保として、見逃して差し上げます」
「そうとなれば、話も早い。621、お前も共に来い」
「うん!」
『まさか、V.Ⅱと共同でミッションを行うことになるとは……』
スネイルと共同でミッションを進める方向に話が進んでいることに、エアは戸惑いを隠せずにいた。このコーラル競争において最後まで対立するだろうと思っていた相手を、レイヴンは見事に懐柔していた。
ウォルターはスネイルにジャケットを渡し、見張りをしていた1317と共に格納庫へと向かった。そこには、ベイラムの開発部隊が待ち受けていた。
「お待ちしておりました。レイヴン殿、こちらが今回の作戦装備です」
『HAL826』と『A.NUL』の2機には、加工されたルビコニアンデスビートルの甲殻が装着されていた。有機質のパーツと言うのは、かなり異質な物であった。
スネイルは手渡されたカタログスペックを見た。重量の割にはAP、実弾、EN、爆発に対する防御力が高いが、EN負荷が重めだった。
「面白い素材ですね。EN負荷が高い原因は?」
「ルビコニアンデスビートルが発揮していた堅牢さを再現する為に、甲殻部分にエネルギーを通す必要があるので。この2機がコーラルジェネレーターを用いているからこそ、実現できた物です」
スタッフの説明を受けて、スネイルは実用性の低さに眉間を抑えていた。だが、コーラルではなく通常のエネルギーで代替出来れば、と考えながら機体に乗り込んでシミュレーターを起動しようとした所で引き留められた。
「待って下さい。まだ、付けて貰わねばならない物があります」
スタッフ達が用意した物を見てスネイルの表情が凍り付いた。
パイロットスーツと言うか。ルビコニアンデスビートルの甲殻を加工した鎧みたいな物を渡されたのだ。
「ふざけるな! こんな物、コスプレだろう! 戦場を嘗めるな!!」
「いえ、違います。聞いて下さい!」
怒号を飛ばそうとしたスネイルに対し、スタッフ達は戦々恐々としながらも理由を説明した。
あの後、ドローンではなく無人機から有人機を近付けた所。想定よりも早くに捕捉されてしまったそうだ。もしや、人間が乗っていたことが原因ではないかと今回の様な簡易の擬態スーツを用いた所、彼らの警戒を潜り抜けることに成功したということらしい。
「最初はパイロットスーツに貼り付けるという案だったんですが、念には念を含めて。繋ぎとかも少なめにして、素材の良さを押し出した方が仲間だと思われるんじゃないかと思って」
「貴様らの余興で命を懸けさせられるのはこちらなんだぞ!!!」
スネイルの怒りは御尤もだった。彼がブチギレている傍ら、レイヴンは特に忌避することも無くルビコンメイルを装備していた。
「うぉー! 凄い!」
パイロットスーツの素材の様に身体へと張り付く感じはないが、体の要所を守る工夫と意図は十分に伺えた。ここら辺は遊びで作った訳ではないらしい。
『似合っていますよ。レイヴン』
ミールワームを主食としているのが関係しているのかは定かではないが、不思議な位にレイヴンにフィットしていた。
流石に彼女が着込んでいる以上、スネイルも抗議をしてばかりでは面目が立たないと思ったのだろう。彼は渋々と用意されたメイルを装着した。
「似合っているぞ」
「余計なお世話だ」
ウォルターからの世辞を一蹴しつつ、スネイルは『HAL826』に乗り込んで機体の特徴を把握するべく、シミュレーターを起動した。
特製のパイロットスーツは動きを阻害する物ではなく、操縦なども十分に行えた。後は、現場でどれだけの状況の把握と処理が出来るかに掛かっていた。
「ブースターも使えないから、少しずつ這い進んでいくことを考えると気が遠くなるミッションですね」
「途中までは送り届ける」
スネイルの言う懸念はウォルター達のサポートでどれだけ解消されるのか。作戦のことを考えている内に、彼はこの異様な装いのことも気にならなくなるほど思考を深めて行った。
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「へぇ! ホーキンスさんが釈放されるかもしれないって!?」
「そうなんだ。ほら、アーキバスの態勢的に帰還できるかどうか微妙だし、ベイラム。というか、猟犬部隊(ハウンズ)に恭順した部隊長も多いからね。少しでも戦力が欲しい企業からすれば、私達を生かして使った方が得と考えたんだろうね」
「ということは。メーテルリンクも?」
「多分ね。心なしか、彼女が嬉しそうにしている様子も伝わって来るよ」
もしも、彼女が解放された時。真っ先にしばかれるのは自分だろう。多分、猟犬部隊(ハウンズ)ではなく、レッドガン部隊所属になりそうな気がした。
「この調子で、後はオキーフさんを引き抜けば全員集合って感じですね」
「フロイト君は?」
「いや~。アレはもうラスボスとして君臨する感じでしょうよ」
そもそも、レイヴンとの交戦を希望している彼が味方に付くというシチュエーションが考えられなかった。
しかし、ペイター的に彼は必要ない。自分の恩師であるホーキンスを引き抜くことが出来れば、大体のことは些事に過ぎないのだから。
「まぁ。あんまり期待しないで待っていてよ。機体も無いだろうしね」
「いえいえ、大切なのはね。ホーキンスさんと言う人間なんですよ。OK?」
「そこまで言われると、面映ゆいなぁ」
コーラルを巡る競争は佳境に入っているというのに、そんなことを一切感じさせない穏やかな会話だった。
吉報により、心身を回復させた彼が部屋へと戻る前にホーキンスが使えそうな機体は無いかと格納庫へと立ち寄った時のことである。『HAL826』と『A.NUL』から降りて来る2人の存在がこちらに気付いた。
「あ」
レイヴンは良い。小柄な少女に鎧の様な装備は可愛らしさもあったからだ。問題は、傍にいる男についてである。ええ年こいた、元上司が鎧装備で佇んでいた。
「ヒッ。げひっ、はひゃ、フヒ。がひゃ。いい年こいてなんて格好しているんですかぁあ! スネイルマン!!!」
「ふん!」
ペイターの侮辱に対する報復は、ビンタと言う形で速やかに行われた。折角、回復した心身と言うAPがガッツリと削られた。