戦え! 超強化生命体傭兵レイヴンちゃん!【本編完結】 作:ゼフィガルド
「虜囚。アーキバス所属、ヴェスパー部隊長メーテルリンク。貴殿は考えを改め、ベイラムに従うことを誓うか?」
「はい。誓います」
独房から連れ出されたメーテルリンクは、ベイラムの隊員達に囲まれながら宣誓をしていた。聴衆の中には、レッドの姿もある。
彼女は従属の証として首輪を装着された。現在地や会話内容、謀反の疑いがあれば内蔵された爆弾によって、いつでも首を飛ばされる。
元部隊長として屈辱的な処置であり、悔しさで血が滲むほど下唇を噛み締める……ということも無く、先程からチラチラとレッドの方を見ていた。彼女の野獣の様に鋭い眼光を受けて、彼は息を呑んでいた。
「(何という鋭い眼光。決して、気を許すなということか)」
「(全くのアウェー。私が生き永らえるに彼を頼るしかない)」
他力本願ここに極まれり。しかし、実際に合理的ではあった。数度の面会を経て人柄は把握したつもりではあったし、共通の話題もある。となれば、無碍に扱われることは無いと踏んでのことだった。
装着された首輪を一撫でしながら、彼女はベイラムのジャケットに袖を通した。続いて命令が下される。
「貴殿はレッドガン部隊G6に配属される。余計な真似は考えるなよ」
「了解です」
緊張感に満ちた空間ではあったが、彼女は最後まで優等生としての受け答えを貫いた。そして、改めてレッドの下に付いた訳だが。
「V.Ⅱも猟犬部隊(ハウンズ)に恭順したと?」
「その様だ。どうもG13には人を惹き付ける魅力があるらしいな。我々の中ではヴェスパーたらしとも言われている」
既に、V.Ⅷ、V.Ⅶ、V.Ⅳと毒牙に掛かっているのだから、都合ヴェスパー部隊長の半分は彼女に篭絡されたということだ。実際、ACの操縦技術に関してはメーテルリンクの遥か上を行っているのは、彼女も認めざるを得ない所だった。
だが、あくまで認めるのは操縦技術だけだ。それだけでヴェスパー部隊長達が彼女に付くというのなら、V.Ⅰフロイトは皆に慕われているハズだ。
「私はあまり話したことが無いから。どんな子か気になる」
「G13は多忙だからな。今も、次のミッションに向けて訓練中だそうだ。勿論、君にだって訓練は積んで貰う。ここにはアーキバス製のコアは無いからな」
彼女の愛機であった『インフェクション』のフレームの大半はアーキバス製であった為、それらが用意できないというのは仕方ない話でもある。
「構わない。ただ、ベイラムは軽量の機体が少ないと聞く。体感の違いには慣れておきたい」
「良い心掛けだ。なら、今からでも慣らしに行くぞ」
コーラルを巡る状況は逼迫している。1分1秒でも無駄に出来ない状況の中、彼女の積極性はレッドにとっても有難い物だった。そんな彼女を格納庫へと案内しようとした矢先の話である。
フラフラと覚束ない足取りでコチラに向って来る男が居た。見れば、顔面が微妙に腫れていた。頻りに拳も擦っていた。
「あの野郎。逆樹大枝細にしやがって……」
ベイラムらしい奥ゆかしい例えで恨み言を呟いていたのはペイターだった。
彼がその様な負傷を追うアクシデントに遭遇するのも珍しい。一体何があったのかと、問いかけようとして。
「ペイター。何が――」
「隊長。行きましょう。こんなことに時間を費やしている暇はありません」
負傷したペイターへと向ける、メーテルリンクの視線は氷の様に冷たい物……ではなく、まるで路傍に転がる石へと向けられる様な酷く無関心な物だった。
彼女の圧に従うような形でレッドは質問を打ち切り、共に格納庫へと向かう中。背後ではペイターの舌打ちが聞こえた。
「(当然と言えば、当然か)」
ある意味当然とも言える会合だった。捕虜奪還作戦の為とは言え、彼女を欺いたのは事実だ。……いや、彼が矢面に立っただけで、自分も彼女を陥れた者達の一員だ。彼にばかり責任を押し付けても良い物か。
ただ、ここで謝罪をするのも自己満足でしかない。ならば、せめて彼女の良き上司となるべく、気を引き締めた。
「最初の内はベイラムと関連企業の兵装だけになるだろうが、実績を積めばタキガワ・ハーモニクスなどの武器を申請することも出来る。任務の達成ごとにCOAMが支給され、一定額を満たせば首輪が外れるということになっている。作戦の遂行こそが自由への近道だと覚えておけ」
「了解した」
必要金額がどれ程の物かはレッドも知らされていない。真っ当な金額かもしれないし、理不尽な額であるかもしれないが彼女は戦うしかない。ならば、せめて少しでも戦えるようにするのが自分の役目だ。
辿り着いた格納庫は騒がしかった。猟犬部隊(ハウンズ)の機体が格納されているスペースに人が集まっていた。何事かと思って覗いてみれば。
「あ。レッド!」
「G13!? なんだその衣装は!?」
手を振っているレイヴンの見た目は奇妙な物になっていた。一般的なパイロットスーツではなく、ルビコニアンデスビートルの甲殻を加工して作られた鎧とも言える物であった。そして、隣の男性も同じ様な装いをしている。
「……スネイル?」
メーテルリンクとしても疑問符を浮かべた。神経質と言う言葉を体現したが如き男が、少女と同じ装いをして佇んでいる。だが、彼は毅然としていた。
「ほぅ。貴方はベイラムに付いたのですか」
「そう言うあなたは、その。随分と独特な格好を」
「これは今作戦における専用のスーツです。何一つとしておかしなことも無ければ、笑える所もありません」
「スネイルマン!!」
不意にレイヴンが叫び、スタッフ達が噴き出す中。メーテルリンクの表情は凄絶な物になっていた。
戸惑い、笑い、困惑、失望、怒り。全てが綯い交ぜになり、かつての尊敬と現状の認識がかち合い、何とも言えない感情を生み出していた。その末に出て来た言葉と言えば。
「ロリコンだったんですか?」
これはペイターに見せた時の様な怒りや当てつけでは無かった。彼女自身も整理できないまま言葉を発してしまったのだ。
ただ、言わんとしていることは分からないまでもない。年端も行かぬ少女と同じ装いをして、あまつさえ親しみを込めてあだ名で呼ばれている。ともなれば、スネイルが彼女と懇意であることは想像できた。
これは、メーテルリンクがスネイルとレイヴンが交流を育んでいるという前提を知らない所も大きかった。何故なら、彼女はコーラル集積で囚われて以降、殆ど虜囚の身であったからだ。
「私がロリコンと」
「あ、いえ。その。随分、レイヴンと懇意な様に見えたので」
よせばいいのに、咄嗟に弁明じみた言い訳が出て来るのが彼女の立場を悪くさせる原因の一つであったが、スネイルはキレ散らかしたりはしなかった。
「そうですね。今度の任務は彼女と共同で行う物ですから。他者から見ても良好に見えるのでしたら、仲違いによる齟齬は心配ありませんね」
鎧を着て理知的なことを言ってもやや閉まらないが、彼がここまで丸くなることをどうして予想できただろうか。その原因へと目を向けると、鎧を着た彼女は匍匐前進をしていた。
「ミールワーム」
「隊長。コレ、誰かのお子さんを連れ込んだとか、そう言うことはありませんか?」
「いや、正真正銘レイヴンだ」
無駄に動き方がミールワームを再現していて微妙にキモイ。だが、レッドから言われたならメーテルリンクも信じるしかなかった。やはり、彼女はレイヴンなのだと。そもそも、一度顔合わせはしているのだが。
「アレ? お姉さん誰?」
レイヴンの方は記憶に残っていなかったらしい。メーテルリンクとしても引っ掛かる所ではあったが、自身の存在を主張するようにして言う。
「ベイラムレッドガン部隊。G6レッド隊長の部下、メーテルリンクです。以後、お見知りおきを」
アーキバスとの決別を含めての自己紹介をしている彼女を、スネイルは淡々と眺めていた。