戦え! 超強化生命体傭兵レイヴンちゃん!【本編完結】 作:ゼフィガルド
訓練を終えたレイヴンはスネイルと共に食堂へと向かおうとして、ピタリと足を止めた。
【あいつと一緒に食堂に向かうのか。止めておいた方が良いのに】
先程までは懇切丁寧に対応してくれていたスタッフ達だったが、本音としてはスネイルに対して思うことがあったらしい。
当然だ。スウィンバーンやホーキンスの様に部隊長として活動していただけならば、ベイラムの者達も飲み込むことは出来た。彼らはあくまで企業の言いつけ通りに動いていただけだと。
だが、スネイル程の立場になれば話も別だ。彼は自身も指示を下し、解放戦線を始めとしてベイラムの者達にも多数の被害を出している。憎むべき対立企業と同一視されていた。
「今日は疲れたから、部屋に戻る」
「そうしましょうか」【気遣ってくれているのですね】
スネイルも相槌を打っていたが、察していないはずもない。部屋に戻ると、猟犬部隊(ハウンズ)のメンバーに加えて、首輪を付けたホーキンスの姿もあった。彼と話をしていたペイターは、スネイルを見るや露骨に嫌そうな顔をしていた。
「やぁ、スネイル。退院出来たのかい?」
「おかげさまで。それにしても見慣れたメンツですね」
まさか、ベイラムの基地内で再び会合することになるとは思ってもいなかった。この様相を不可思議に思っていたのは、ツィイーだった。
「今までアーキバスで働いて来たのに、簡単に所属場所を変えてもいいのか?」
「私は元より捕虜として連行された身だ。身分の安全と引き換えに、レイヴン達と取引をしたのだから、納得はしている」
かつて、ザイレムで対峙したが、新機体を用いてレイヴンに敗北したスウィンバーンは身分の保証の為に、猟犬部隊(ハウンズ)へと身を寄せた。
彼とてアーキバスに思い入れが無い訳ではない。積み上げて来たキャリアもあれば人脈もある。だが、死ねば全てがご破算だ。そう考えれば、第2のキャリアを積める可能性がある上での選択を取れるのはマシと言えた。
「私はここに身を寄せる以外ありえません。ベイラム、解放戦線、RaD、シュナイダー、惑星封鎖機構。全てから恨みを買っていますのでね」
ほぼ全ての勢力から恨みを買っているスネイルに戻る所がある訳もなく。唯一、頼りに出来るハズだったアーキバスも惑星封鎖機構が入り込んでいる。過去に行ったアイスワームの排除を筆頭とした多数の行いを考えれば、どれだけ彼らの顰蹙を買っていることか。
彼の状況は詰みにも近く、本当に猟犬部隊(ハウンズ)以外で働ける場所が無かった。
「私はまぁ、戻るつもりでいたんだけれどね。流石にアーキバスが強硬な姿勢を見せた今。従属しないと立場が危ういから」
「私も口利きしたんですよ!」
そう言った意味でホーキンスは最後までアーキバスに付いていようとしたが、流石に命にまでは替えられなかったのか。ペイターの口利きもあり、猟犬部隊(ハウンズ)へと身を置くことになった。
「普通。こう言うのって返還交渉がある物だと思うんだけれど」
「事態も終盤に差し掛かろうとしているんだ。今更、そんなことに労力を割くつもりもないのだろう」
ツィイーの考えは、余裕がある平時ならば行われもしていただろう。しかし、ウォルターの言う通り。ルビコンの趨勢はあと少しで決まるかもしれない状況にまで来ている。互いに、少しでもリソースの消費を抑えたいのだろう。
「加えて、惑星封鎖機構は基本的に治安を乱す企業を嫌っている。スネイルの様な優秀な人材が戻ってくれば、自分達が支配権を握り難くなるというのもあるのだろう」
元・惑星封鎖機構所属の1317としては容易に想像できることだった。恐らく、アーキバスと手を組むことだって相当に渋ったに違いないと。
「ちなみに私は本社からガチで今まで何の声も掛かっていません。もしかして、存在を忘れ去られていますか?」
「はい。恐らく、可哀想なお友達に関しては、アーキバスの方も勘定に入れていないのではないかと」
最後にペイターが付け加えたが、ブルートゥの予想は概ね正しく、アーキバスからも存在を無かったことにされ掛かっているのだが、そんな本社の方針を知っているのはスネイル位だった。
「残す所は。V.ⅢとV.Ⅰですが、職業軍人的に動けるのはV.Ⅲのみでしょう。V.Ⅰフロイトは戦えるのなら惑星封鎖機構にだって鞍替えを辞さない」
「……ということはさ。もしかしたら、オキーフって人が居なくなったら。アーキバスって、惑星封鎖機構に乗っ取られるんじゃ?」
ツィイーの発言は突拍子もない様に思えて、現実味はあった。アーキバスが意見などを言えるのは、作戦に臨める戦力を抱えているというのもあるからだろう。それが失われれば、彼らの立場は弱くならざるを得ない。
「ヴェスパー部隊長が居なくなった所で、上層部もいますのでね。流石に、そのリスクを承知していない程。アーキバスも愚かではないでしょう」
「だよね」
先程までの考えをジョークと笑い飛ばしている傍ら、ウォルターはレイヴンの方を見ていた。
「621、エア。今度の作戦はオーバーシア―的にも重要な任務だ。あの虫達へと追い付き、可能ならば排除しろ」
「分かった!」
『了解です。ただ、個人的には彼らが何を目指しているのかも気になる所なのですが……』
コーラルより産まれた存在として、自分達を糧とするミールワーム達が何に導かれているかを解き明かしたい気持ちはあるが、今必要なのは目の前の問題を解決することだ。
「明日、俺達はバスキュラープラントの近くまで、お前達を輸送する。そこからはブーストを出来る限り用いず、奴らに追いつけ」
聞けば聞くほど不可能に近い任務の様に思えるが、やらねばならない。明日に控えて詳細な作戦を詰めつつ、時間は過ぎていく。
ただ、具体的に何をすればルビコニアンデスビートルを排除できるかという案は思い浮かばない。1匹や2匹なら実力で潰せるだろうが、それが大群ともなれば困難を極める。誰もが話に煮詰まる中、レイヴンは早々に飽きて来たのか飼育されているミールワームのゲージを見ていた。
「あ。見て! 見て!」
出来れば、作戦開始まで見たくない物の筆頭ではあるのだが、彼女が嬉しそうにしているので顔を近づけて見れば。そこには1匹のミールワーム目掛けて、他のミールワームが殺到していた。
他の個体を押しのけ、特定の個体に組み付いている姿を見て何をしているのかは直ぐに察した。レイヴンはケラケラと笑い、ツィイーは目を輝かせていた。
「交尾だよ。交尾!」
「知っているわ! バカモン! 声に出すな!」
「というか、コイツらって成虫じゃなくても交尾するんですね……」
おっさんであるスウィンバーンが咎め、ペイターがあまりにも謎な生態に驚いていた。
普段は比較的おとなしい筈のミールワームが子孫を残さんと他者を押しのける姿に、生物が持つ本能を感じさせずにはいられなかった。その様子を見たスネイルが閃いた。
「これです! レイヴン、この飼育ゲージごと中身を借りて行きますよ。幾らルビコニアンデスビートルが強靭な生命であるにしても、奴らは虫です。生物です。ならば、奴らのルールに従いましょう」
「なるほど。そう言うことか」
何かを理解したようなウォルターはスネイルと共に兵器の開発部へと向かって行った。何かしらの天啓があったようだが、折角の食糧の繫殖機会を奪われたレイヴンは不服そうな顔をしていた。
「私の……」
『きっと、明日には沢山の成虫に出会えますよ』
~~
翌日のことである。『HAL826』と『A.NUL』を積んだ大型ドローンはバスキュラープラントの根元から上昇していた。
『欲を言えばバスキュラープラントの頂上から降ろしたかったが、奴らの前方に出れば餌食になる。故に後方からの接近となる』
ウォルターからの通信が入る。ルビコニアンデスビートルの攻撃は主に頭部から行われることは判明しており、前方に出るのはあまりに危険な試みであった。故に、こうして地上から徐々に徐々に接近していくという形を取っている。
「こちら、スネイル。連中の姿は確認できない。引き続き、上昇を」
絶えずスキャンを行い、最後尾に位置付けるように意識して近付いて行く。そうして、上昇して行った先に機影を確認した。
「お前達も来ていたか」
「オキーフですか」
惑星封鎖機構達も同じ考えに至っていたのか、バレンフラワーにもルビコニアンデスビートルの甲殻が貼り付けられていた。彼が留まっているということは。
「ドローンはここまでにしておいた方が良い。見ろ」
『スキャン。反応を多数確認』
エアも確認していた。バスキュラープラントの外周を埋め尽くす、黒。これらは全てルビコニアンデスビートルまとわりついている故であり、見る者に生理的嫌悪感を湧き立たせるような光景が繰り広げられていた。
『俺達が送り届けられるのはここまでだ。後は頼んだぞ』
ウォルターが操縦するドローンが離れて行き、3機がルビコニアンデスビートルの後方へと張り付いた。コーラルが組み上げられているバスキュラープラントに隣接していることもあり、レイヴンは奇妙な感覚を味わっていた。
「……呼ばれている」
『奇遇ですね。私もその様な感じがあります』
「誰にですか? 通信の類は入っていませんが」
通信の際に使用する周波がルビコニアンデスビートルを刺激することも鑑みて、スネイル達の通信は接触回線で行われていた。
「分かんない。この先にある何かに呼ばれている気がする」
「コーラルの導きと言う物ですか。多少オカルトめいていますが」
既に目の前で常識を覆す程の事態が起きているのだから、多少のオカルトも飲み込むべきだと考えていた。
3機はバスキュラープラントを昇っていく。専用の装備もあって、落ちることは無いにしても、彼らの後方に甘んじるもどかしさはあった。オキーフもまた接触回線を用いて、彼らに交信を図っていた。
「スネイル。何か策があるのか?」
「はい。ただ、奴らの行動がどれだけコーラルに左右されているかを知る為、間近で観察する必要があります」
基本的には進み、止まり、休み、再び進む。の繰り返しである。休んでいる間にバスキュラープラントからコーラルを吸っている。という報告は既に上がっており、概ねの行動に相違が無いことは確認できた。
「行動パターンだけを見れば、まるで虫だが。奴らは踏みつぶせる存在などでは無い。スネイル、どうするつもりだ?」
「目の前の使命すらも置き去りに、全てを忘我させるほどの女を差し出しましょう。レイヴン」
「うん!」
彼女は背部兵装に収納していたスプレーを自らに散布した。すると、先を行く多数のルビコニアンデスビートル達の動きが止まった。彼らの感心は一斉に、レイヴンの機体である『A.NUL』へと向けられていた。
「これは、フェロモンか?」
「はい。彼女はミールワームを飼育しています。丁度、飼っていたメスの個体が繁殖期を迎えていたので、採取したフェロモンを素に誘惑物質を生産しました」
スネイルとオキーフよりも前に出る。そして、ルビコニアンデスビートル達の集団へと接触した瞬間、統率されていた群れは明らかな異変を見せ始めた。
【うーっ。やらせろ!!】
実際の所、デスビートル達に言葉らしいものは無かったはずだが。エアも感じ取る程の激しい情念を言葉に表すとすれば、この様な物になっていた。
『きっしょ』
「あわわわ」
レイヴン(の機体)と交尾しようとデスビートル達が殺到し、自身が子孫を残さんがために他の個体を跳ね除けていく。当然、弾き飛ばされた個体は落下していくことになる。
後方だけではなく、側面からも進行方向を変えた個体が迫り来る様子はさながらパニックホラーめいた光景になっていた。あまりの悍ましさにオキーフも開いた口がふさがらない。
「スネイル。助けなくていいのか?」
これに対して『HAL826』は暫く停止していた。彼ほどの男もここまでの効果を上げるとは思ってもおらず、戸惑っているのだろう。と、オキーフが考えていたのも束の間だった。
「どけ!!! 私は保護者だぞ!!!」
「いや、飼い主はハンドラー・ウォルターでは……」
コーラル粒子を撒き散らしながら、彼はルビコニアンデスビートル達のパーティ会場に乱入していた。ブーストを使うなと言われていたことを忘れているのだろうか。
こうして、虫けら達の乱闘に蝸牛も乱入することになった。今まで、一糸乱れぬ統率を誇っていた彼らも本能の前では個としての意思を優先させてしまった為、激しい生存競争が繰り広げられることになった。
「まぁ、この場は任せたぞ」
そんな争いを傍目に。オキーフは誰よりも先にバスキュラープラントの頂上を目指して進むのであった。