戦え! 超強化生命体傭兵レイヴンちゃん!【本編完結】   作:ゼフィガルド

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依頼120件目:ここに至るまで(近しくて遠い場所と。遠いが近い場所にいる者達から見た場合)

 レイヴンの愛機である『A.NUL』はHLVへと収納されていた。RaDから受け取った衛星砲のデータを素に製作された物であり、理論上は打ち上げ途中に狙撃されても問題ないとはされている。

 

「隊長。難しい顔をされていますね」

 

 まだ、馴染まないレッドガン部隊のジャケットを羽織ったメーテルリンクがG6レッドの険しい表情を見ながら言った。彼の隣にいるリトル・ツィイーもまた同じ様な顔をしていた。

 

「この役割を任せられるのは彼女だけ。というのは分かっているんだが、企業や大人達が彼女ばかりに責任を負わせることは、やはり引っ掛かる物がある。それに対して、彼女が何も文句を言わないことも」

 

 彼には年頃の妹がいる。故に等身大の少女が持つ願望や性質を知っているからこそ、レイヴンを見て思うことがあったのだろう。

 

「多分、企業からはCOAMが支払われているんだろうけれど。本来なら、私達が守らないといけないんだよね……」

 

 まだ、年若いツィイーですら認識しているのだから、実際にレイヴンは庇護されて然るべき対象なのだろう。だが、人の尊厳が買い叩かれる世界においては、そうはならなかった。

 

「二人共。それは彼女の選択に対する侮蔑では? 彼女がここにいるのも、ミッションを受諾しているのも、彼女自身の意思であるはずです。自分達の価値観や常識を適用させるのはどうかと」

 

 かつて、アーキバスにおいて自らの意思で強化人間となり戦場に身を置き続けた女性として、メーテルリンクは2人の同情を切り捨てていた。

 恐らく、彼女も似た様な憐憫……と言う名の軽蔑を味わったことがあるのだろう。最も、レイヴンの場合は女性と言うよりも少年兵と言う意味合いの方が大きいが。

 

「部下に諭されるとは、私もまだまだか」

「あんまり隊長ってガラでもない気がするけれど」

 

 ツィイーにチクリと刺された言葉は、レッドも自覚していることだった。

 メーテルリンクが彼の下に付けられたのは、面会での交流回数もあるだろうが、元・部隊長としての自覚を彼にも伝授させる為と言うのもあるのだろう。

 そんな、見送り現場とも言える場所の雰囲気に誘われるようにして、G3の五花海とG5イグアスも足を運んでいた。

 

「貴方達も見送りですか? 悠長なことですね」

「どうせ、俺達も待機だからすることが無いんだけれどな」

「なので、心残りと言うか。そう言ったことを残さない為にもですね。これがG13を見る最後の機会にもなるかもしれないので」

 

 もしかしたら、彼女が敗北することもあるかもしれないし、自分達が次の大規模任務で殉職する可能性もある。少しでも心残りを作らない為に出来ることをする。というのは、心の整理の為にも必要なことだった。

 

「隊長。弱気は部下にも伝播します。……私との約束、忘れてないだろうな」

「勿論だ。この戦いが終わったら、一緒に水星に来て欲しい」

「え? 何? 2人ともまさか、そう言う関係?」

 

 ちょっとだけ、上司と部下の関係を抜きにしたメーテルリンクの発言にツィイーが目を輝かせていた。一方で、イグアスは眉間に皺を寄せていた。

 

「コレ。映画なら死ぬパターンだ。俺はイルブリードで学んだんだ」

「なんで、貴方は変な映画しか見ないんですか?」

 

 イグアスが娯楽物の様に後輩の関係を楽しもうとしている姿に、五花海でさえ怪訝な顔をしていた。

 そんなトンチキが行われている間、打ち上げられる前のレイヴンはG2ナイルやG1ミシガンとの最後の作戦確認を行っていた。

 

「宙域でブランチ・レイヴンと合流後。衛星砲の内部に侵入して、動力源を破壊して欲しい。ブランチから送られて来たデータでは、衛星砲周辺に『IB-02:ロック・スミス』の姿は確認されなかった。恐らく、内部に居るはずだ」

「分かった」

 

 いつもの様な明朗な返事ではない。彼女としても緊張せざるを得ない程の規格外。暫く、猟犬部隊(ハウンズ)として共に行動したナイルでも、この様な彼女を見ることは殆ど無かった。

 

「エア、レイヴンのことを支えてやってくれ」

『……お任せ下さい』

 

 ナイルにエアの声は聞こえない。しかし、もしも聞き取れていたら返事をするまでに少しの間を置いたことが引っ掛かったかもしれない。

 

「G13! 連中に思い知らせてやれ! ルビコンを舞う(レイヴン)を封じ込めることは誰にも出来ないのだと! 高みから見下ろしている奴らを引きずりおろしてこい!!」

「おっけー!」

 

 最後にミシガンからの激励を受け、HLVは打ち上げ態勢に入る。ナビゲーションに従う傍ら、レイヴンの中ではエアの声が響いていた。

 

『レイヴン。不安は無いですか?』

「あるよ。でも、大丈夫!」

 

 無いとは言わなかった。先程の緊張した様子からも分かる通り、彼女も緊張せざるを得ない程の相手が待ち受けているのだ。

 ここでの敗北は、企業やウォルター達の破滅をも意味する。少女に負わせるには余りに重すぎる。しかし、彼女は笑っていた。

 

『……こんなことを出撃前に言うべきではないとは思うのですが。私は非常に不安です。レイヴンが雌雄を決しに行くこと。そして、今回の作戦でコーラルがどうなってしまうのかも』

 

 エアやカエサルはコーラルと言う潮流の中で生まれた『C型変異波形』と呼ばれる存在であり、ルビコンでの戦いにおいては同胞達が消費されている。レイヴンが乗る機体でさえ、そうだった。

 

『もしも、私が誰にも知られないまま。焼かれて消えるなら、悔しくはあるでしょうが怖くは無かったでしょう。何もなかったのですから。でも、今はとても恐ろしいんです。貴方や皆との記憶が、全て失われることが』

 

 今の彼女は、コーラルとしての自分よりも。エアとして積み上げて来た存在を優先していた。声色に罪悪感が滲んでいるのを察して、レイヴンも笑顔を引っ込め、無機質な素の表情を出していた。

 

「きっと、私も同じ。死ぬことも生きることもよく分かってない。誰かに言われたことをして来ただけだった。でも、今は自分がしたいことも混ざっている」

『それは?』

「この先も皆と一緒に居ること。もう、何もなかった自分じゃないから」

 

 彼女が言語化出来ない記憶の領域。使い潰されて行く被検体の中で、悲しみも憤りも何もなく残ったこと。強化人間のお披露目会として、他のパイロット達が使い潰されて行く中、やはり生き延びたこと。無くしてばかりで、残る物は何もなかった。

 ウォルターに付いて行ったことでさえ、自分の中にある生存本能に従っただけだったかもしれない。だが、旅路の中で手に入れた物があった。

 自分が関心を持つに足り得る物が集まって、周りに無関心でいられなくなった。集まった物で自身が色付けられていた。……自分は、思ったよりも普通の感性を持っていたのと自覚した。

 

『では、私も少しだけ我がままになりました。カエサルやセリアさんには申し訳ありませんが、この先。何があったとしてもあなたと共に』

 

 HLVが打ち上げられる。ルビコンの空を突き抜け、カーマンラインを超えて、宇宙区間へと出る。途中、衛星砲による迎撃が無かったのは、自分との対峙を待ち侘びている誰かの計らいなのかという気がした。……通信が入る。

 

「こちら『ブランチ』オペレーター。621、送った座標へ来て下さい。合流します」

「分かった」

 

 宇宙空間でACを動かすのは多少の差異があったが直ぐに慣れた。途中、惑星封鎖機構からの妨害が入るかと思ったが、やはり何もなかった。拍子抜けするほど、アッサリとブランチの母艦とも合流した。

 

「少し見ない間に、小鴉の機体も立派な物になったね」

「アイビスシリーズか。有人機仕様にカスタムされたのは1機だけと聞いていたが……」

 

 シャルトルーズとキングが感想を漏らす中、各機のレーダーに巨大な反応が映ると同時に、オペレーターからの通信が入る。

 

「前方に超巨大反応。質量兵器『パラス』です」

 

 巨大な石の塊を武装化しただけの無骨な兵器。しかし、コーラルと言う動力源を用いることで、周囲に破壊を撒き散らす物へと変貌していた。周囲に随伴機体が見られないのは、フレンドリファイヤを避ける為だろう。

 

「態々、合流のタイミングに合わせて来たか。迂回するにはちょっと遅すぎたな。レイヴン、行けるか?」

 

 キングが問いかけたのは同僚に対してだけでなく、彼女に対してでもあった。

 大型機体とは訳が違う。洗練や機能性からは程遠い雑な兵器。2羽の鴉が頷いた。

 

「今度は問題ない」

「行ける」

 

 飛行形態へと変形した『A.NUL』へと掴まり、ブランチ・レイヴンのナイトフォールも標的へと向かう。多数のコーラルミサイルやレーザーが彼らを出迎える。

 機動力に劣るタンク型と重量4脚の2機は周辺を警戒しながら、吶喊した2機の状況も確認していた。

 

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