戦え! 超強化生命体傭兵レイヴンちゃん!【本編完結】   作:ゼフィガルド

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依頼127件目:最強

「(そろそろ、母艦も危うい)」

 

 ナイトフォールから脱出したブランチ・レイヴンは衛星砲のコントロール室へとアクセス出来ないかを試していた。

 ハクティビスト集団の一員である彼はパイロットとしての技量が抜きんでているが、ハッカーとしての能力も持ち合わせている。

 

「(よし)」

 

 だが、惑星封鎖機構が施したプロテクトは強力だった。個人で解除できる部分は限られており、あらゆるコマンドを入れてはセキュリティを騙して隔壁を1枚ずつ取り払っていたが、それでも最後までは開けなかった。

 オービットによる包囲攻撃が無いにしても、背後では未だにレイヴンとフロイトが戦闘を繰り広げており、いつ自分に流れ弾が飛んで来るかも分からない。

 

「(頼むぞ)」

 

 その折、彼が頼ったのは大破したナイトフォールから回収した左腕部の『PB-033M ASHMEAD』パイルバンカーだった。

 幸いにして、この武器はレーザーブレードなどの様にエネルギー供給を必要とする物ではなく、杭を撃ちだす超近距離射撃武器とも言える代物でもあった為、回収した部分だけでも動かすことが出来た。最も装填された1発限りではあるが。

 

「(行け!!)」

 

 距離を取り、パイルバンカーを起動させた。施設内ではあるが、宇宙空間でもある為、轟音が響くということは無かった。

 ACの様に固定して撃ちだすことが出来なかった為、威力が半減するかと思いきや。彼が信じていた得物はキッチリと仕事を果たしていた。取り除いて行った先、僅かに残っていた障壁をぶち抜いていた。

 

「(早く)」

 

 穿たれた穴から侵入した先、宙を漂う杭を傍目に彼は衛星砲へとアクセスしていた。何重にも施されたプロテクトは前に、彼はもう一つの戦いを始めていた。

 失敗すればザイレムはおろか仲間達の献身さえ無駄になりかねない状況。途轍もない程の重責を負いながらも、彼はこの状況を打開するべく動いていた。

 

~~

 

 ブランチ・レイヴンがコントロール室へと向かうのを止めもしなかったのは、彼に注意を割くほどの余裕が無かったからか。あるいは、もっと個人的な物だったかもしれない。

 非常にシンプルな武装構成となったロック・スミスの動きは、蓄積したダメージを感じさせない程に精彩に富んだ物だった。

 

「一世一代のミッションだ! 全てを覆うか! 全てを失うか!」

『何が全てですか。貴方には何もない癖に』

 

 エアが苛立ちを口にした。ヴェスパー部隊長という地位を捨て、所属場所であったアーキバスを抜けて、愛機であったロック・スミスさえも乗り換えて。ただ、戦う為だけにこの場所にいる。

 この場に来る為に色々な物を抱えながらに来たレイヴンを見ている彼女は、無責任にも思える彼の奔放さがどうしても気に入らなかった。

 

「私はフロイトと違う。何も無くしたくないの」

「惰弱だ。安寧と安穏は君には似合わない。……だが」

 

 そして、フロイトもまた苛立ちを口にしていた。戦場を舞う鴉(レイヴン)は自身と同類だと考えていた。依頼一つでどの企業にも属さないで戦い続ける闘争の化身。

 戦場で雌雄を決することを夢に見ていた彼が相対したのは、守りたい物の為に戦う……ただの少女でしかなかったのだから。

 

「全てを失いたくないなら私を止めてみろ! さもなければ、スネイル達も死ぬことになるぞ!」

『レイヴン!』

「早……!?」

 

 白兵戦では、レイヴンは無類の強さを誇る。というのも、相手の行動を無条件に先読みすることが出来るからだ。相手の動きを知れば対策するのも訳はない。

 仮にこういった条件を知り、フェイントなどを織り交ぜたとしても彼女には通じない。故に、思考が分かってもどうしようもない程の機体性能で押し潰す、というのがスネイルも取っていた方法だった。

 だが、それらを可能とする大型背部兵装は破壊された。故に、フロイトは完封されるかと思いきや、彼の動きはもはや獣じみたものになっていた。

 

【正面から突っ込んで刺突して、斜め下から切り込んで切り込んで、至近距離でコーラルキャノンを放ちながらブーストキックを織り交ぜて】

「(思考と行動の同期が早すぎて読めない……!!)」

 

 ただでさえ、フロイトは思考から行動に移すのが早かったが、まだ行動の範囲が単一の物を織り交ぜて来るので追い付くことが出来た。

 しかし、今の彼は思考がどの様な加速を起こしているのか。彼女の能力をもってしても全てを把握し切ることが出来ずにいた。

 

『レイヴンが押されて……』

 

 それでも彼女が追い付けているのは戦い続けた経験による物だが、年季の話で言えばフロイトの方が圧倒的に上だった。

 

「遅い!」

 

 背部兵装と肩部兵装が切り飛ばされた。追撃と言わんばかりにロック・スミスからコーラルキャノンを放たれたが、瞬時に展開したコーラルアーマーで事なきを得た。しかし、攻撃の手が緩むことは無い。

 

『レイヴン! 胴体への攻撃はフェイントです! フロイトはコーラルキャノンのチャージを終えています!』

【このままコーラルブレードが直撃をするならばそれでもかまわない。コーラルキャノンが本命だと思うならば、このままブレードの一撃を本命にしよう。さぁ、どちらが本命と受け取る!!】

 

 恐るべきことに。フロイトは敢えて行動を読ませることでレイヴンに選択を強要していた。簡単に言ってのけるが、彼女がどちらを取るかを瞬時に判断して自らも選択をせねばならず、数秒にも満たない刹那の遣り取りで己の命が散りかねないことだ。

 常軌を逸した胆力であり、ある種のチキンレースとも言えた。コーラルブレードを弾いた瞬間、チャージを終えていたコーラルキャノンが放たれた。

 

『アーマー。フル出力展開!』

 

 バリア発生装置の出力限界を超えてシールドを形成した。それでも殺しきれなかった威力が、左腕部を消し飛ばしていた。

 だが、レイヴンはダメージを意にも介さないで脚部を振り上げていた。脛部に展開したコーラルブレードの一撃が、ロック・スミスのオーシレーターを切り飛ばしていた。

 

【まだだ!】

 

 フロイトの反撃は早かった。直ぐにキャノンを構えて砲撃を行い、A.NULの蹴り上げた足が吹き飛んだ。そして、レイヴンは残った右腕部のオーシレーターに展開した刃で、ロック・スミスのコーラルキャノンを切り捨てた。

 

『これで、決着が』

【うぉおおお!!】

 

 武装を全て失くしたとしても、フロイトは勝負を諦めていなかった。彼は宙に漂う2つのオービットを掴み取って、エネルギーを流し込むと、簡易的なナイフのような武器へと変わっていた。

 レイヴンも残された脚部に展開したコーラル刃で攻撃をするが、ほぼすべての武装を捨てたロック・スミスを捉えるには至らなかった。

 

「こんな方法。君との戦いが無ければ、思いも付かなかっただろう」

 

 少しでも軌道を変えれば、自身を切り裂くコーラル刃があるにも関わらず、フロイトはオービットから展開したナイフのような刃でA.NULの残された脚部を切り飛ばしていた。

 レイヴンには見えていた。装甲で覆われた関節部分を縫うようにしてナイフを振るい、全く同じ軌跡を通っていた。

 

「(ひょっとして、この人。何があっても倒れないんじゃ)」

 

 自らの内に沸いた懸念を振り払うようにして、彼女もまた刃を振るった。

 ロック・スミスの両腕部を切り飛ばすでは飽き足らず、コックピットを避けて上半身と下半身になる様に切り飛ばしていた。

 

【まだだ。まだ、動く方法が……くっ!】

 

 ついに、彼も戦闘の続行が不可能だと悟ったのか、機体からコックピットが射出された後、コーラルによる爆発を巻き起こした。……かくして、ルビコンで最強のパイロットが誰なのかが決まった。

 

『レイヴン?』

「……っ」

 

 戦いを終えた彼女に一切の余裕は無かった。震える手を握り締めて、その場に蹲っていた。……疲労と恐怖が彼女を打ち据えていた。

 

『衛星砲のハッキングは私に任せて、休んでください』

 

 片腕しか残っていないA.NULを動かす。ロック・スミスの背後にあった隔壁が開かれる。作業に当たっていたブランチ・レイヴンは機体を見て、驚いていた。

 

「勝ったのか……」

「うん。作業、手伝う」

『はい』

 

 ブランチ・レイヴンと共に衛星砲のコントロール掌握へと動き出す。戦況を覆す一手が、静かに動き始めようとしていた。

 

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