戦え! 超強化生命体傭兵レイヴンちゃん!【本編完結】 作:ゼフィガルド
ベイラムグループの医療施設。G5ことイグアスは焦る気持ちを抑えられず、歩を速めていた。
何度も訪れているだけにあって、足取りに淀みは無く目的地へは直ぐに辿り着いた。入り口のネームプレートには『ヴォルタ』の名前が記されている。
「おい! ヴォルタ!」
「うるせぇ。起きたばかりにテメェの声は響くんだよ」
ベッドで上体だけを起こしていたヴォルタは粥を口に運んでいた。味付けも殆どされていないが、作戦行動中に食うレーションよりは遥かに美味い。
「そうですよ。彼は目を覚ましてから日も浅いのですから」
黒髪の男性ことG3である五花海は、持って来ていた果物を剝いていた。生鮮品は粥よりも更に貴重であり、詐欺師でもあった男が持って来る品物とは思えなかった。
「おい、イグアス。コイツに果物を持たせたのは、ミシガン総長だからな」
「こうして親切心で剝いているというのに余計なことを」
食するには適さない部分を取り除いて皿に盛りつけた。イグアスも手を伸ばしそうになったが、スッと引っ込めた。
ベッドの傍に置かれていた椅子を引っ張り出して腰掛けた後、彼の中では様々な疑問が浮かんでは消えていた。だが、真っ先に気になったことがあったとするならば。
「ヴォルタ。お前は、パイロットとして復帰できるのか?」
「無理だ。思ったよりも損傷が激しいらしい。医者から聞いたんだが、生きているだけでも奇跡なんだとさ」
予想はしていたが、やはりショックではあった。
ルビコン解放戦線が要塞化した『壁』の攻略。当初は、ヴォルタと共に参加する予定のイグアスだったが、直前で作戦から外された。
レッドガン部隊からの参戦はヴォルタだけとなったが、壁に配備されていた戦力は想像以上だった。投入された戦力の殆どは返り討ちに遭い、彼もまた死を覚悟していたのだが。
「独立傭兵レイヴンでしたか? 彼女に助けて貰ったと聞きましたが」
「は? なんで、あのアホ犬が壁にいやがったんだ?」
アホ犬。かつて、多重ダム襲撃の際に随伴させた独立傭兵であり、会話も碌に成り立たなければ集団行動なども望めない割には、パイロットとしての腕前はずば抜けている少女であり……
「知らねぇよ。お前と口論始めたからって、作戦行動中に殴りかかってくる奴の頭ん中なんて分かる訳ねぇだろ」
多重ダムでイグアスと口論の末、解放戦線そっちのけで同士討ちを始めた本物のアホ。いや、もはや狂犬と言っても良いレベルだった。
「レイヴンは重度のヤク中ですからね。壁に居たのも、正気を失していたからではないでしょうか?」
かつて、ベイラムの経済圏内で社会を蝕む病理となっていた五花海は、人間の果て。と言う物をよく見ていた。薬物中毒者もまたその一つであった。
「あるいは、アイツの飼い主から視察でも命じられていたんじゃないか? おかげで、俺は運よくアイツに拾われて生き延びた訳だが」
ヴォルタの愛機である『キャノンヘッド』は非常に完成度の高いアセンブルとして、ベイラム内でも有名だった。多数の相手から、AC戦。そして、これらを支える堅固なフレームと機動性を損なわないタンク型の脚部。
相棒であるイグアスのヘッドブリンガーとのコンビによる突破力は、多数の作戦を成功へと導いて来た。
だが、欠点もあった。フレームの大きさから非常に被弾がしやすいことである。普段はこの欠点を回避する為にイグアスとコンビを組んでいるのだが、壁の攻略時に彼が参加できなかったことで、ヴォルタは危うく命を落としかけた。
「先日はG2ナイル参謀も拉致されましたね。向こうで元気にやっているそうですが」
「本当に上層部はクソだな」
G4への粗雑な扱い。何時まで経っても行われない参謀の返還交渉。上層部が自分達を疎んでいるのは、もはや疑う余地も無かった。
「俺も五花海から、今まで何が起きたか聞いていたけれどよ。アイツは愉快じゃねぇか。なんなら、俺達もアイツの所に行ってみるか?」
「ふざけんな! なんで、俺がアホ犬と一緒に飼われなきゃならねぇんだよ!」
イグアスは憤慨していたが、ヴォルタの表情は至ってまともな物だった。
「ふざけちゃいねぇよ。このままじゃ、俺達は上の奴らに使い潰されちまう。向こうにはナイル参謀もいるんだろ? だったら、根無し草でやって行くよりはよっぽど、マシだろ?」
「加えるなら。ハンドラー・ウォルターは総長とも旧知の間柄だというそうではないですか」
五花海が付け加えた。上層部がレッドガン部隊をぞんざいに扱う様に、彼らもまた上層部に対する忠義心は薄い。
それでも籍を置き続けるのは、総長であるミシガンの存在があまりにも大きかった。……それがまた、上層部としては面白くない所なのだろうが。
「俺がアイツと……」
「どっちにしろ。俺はこれ以上、キャノンヘッドに乗り続けるのは無理だ。総長の顔面に一発入れるのは諦めて、次の生き方を探すさ」
五花海の方を見た。以前から彼に商いを学んでいたヴォルタとしては、パイロットを諦めて新しい道を歩む契機になると考えていた。
「心得はあくまで心得。商売には色々と必要になりますが、まずは伝手が必要です。生憎、私がベイラムに持っていた伝手は潰されましたが」
「そもそも。ベイラムグループから抜けるんなら、連中の経済圏でやっていけねぇだろ」
イグアスの言う通り、円満な退役とは言い難い形になる為、今後の展望は明るくはない。かと言って、全く知らない場所でやって行くのも難しいだろう。
「だから、このルビコンでやって行くんですよ。来る物拒まずな、打って付けの場所があるんです。その為に、ちょっとG5に働いて貰う必要があります」
「俺が?」
なんで? と言いかけて口を噤んだ。今までの相棒が新しい道を進もうとしているなら力を貸してやるのも餞別だと考えていた。
「はい。丁度、連中は対立している組織に悩まされているらしく、その助力としてAC乗りが必要であるらしく……」
~~
「ビジター。1つ、仕事を頼みたい。……って、おや? 今日はアンタが受け付けかい?」
「そうだ。ウォルターは所用で席を外している」
RaDのトップ。シンダー・カーラからの依頼に応対していたのは、ナイルだった。621に電話番を任せられる訳もなく、こういった事務作業が出来る人物と言うことで、必然的に彼に任されていた。
「そうかい。いや、アンタが出てくれたのは丁度良かったと言うべきか」
「どういうことだ?」
「後で話すさ。まず、ビジターへの依頼内容だ。ジャンカー・コヨーテスの連中が惑星封鎖機構に付いた」
「何だと? ドーザーがアレだけのことをして来たのにか?」
1317が反応した。先日の燃料基地の一件もあり、惑星封鎖機構は企業のみならずドーザー達にも敵意を向けている。
「だから、敵同士を潰し合わせる気なんだろうさ。事実、後ろ盾を得たアイツらはウチのシマにもちょっかいを掛けている。勿論、許す気はないさ」
通信画面に映し出されたのは巨大ミサイルの建造現場だった。使用用途は言うまでもないだろう。
「連中に一発くれてやるということか」
「そういうこった。だけど、連中も流石に易々とは撃たせてくれない。そこでビジターにミサイルの防衛を頼みたいんだが」
「やるー! カーラの仕事手伝う―!」
いつも通り、即断だった。ウォルターに次いで621は彼女のことも気に入っているのか、割とホイホイ依頼を受諾する傾向があった。
「そうかい。やっぱり、ビジターの即決ぶりは気持ちがいいねぇ。今回は共同任務になる。ウチに恩を売りたいって奴がいてね、そいつにも力を貸して貰う。入って来な」
カーラが促すと、このブリーフィングルームに件の人物が入って来たのだが、ナイルは少しばかり驚いていた。
「ほぅ。G5か」
「ナイル!? ってことは、まさか今回の共同相手ってのは」
「イグアスだ! 久しぶりー!」
過去に起こした喧嘩のことなど、すっかりコーラルで洗い流されたのか底抜けに明るい声で挨拶をかましていたが、イグアスは声を荒げていた。
「おい! コイツと一緒なんて御免だぞ!」
「うん? アンタの相棒、ウチで面倒見なくていいのかい?」
「くっ……」
少しばかり荒い鼻息が聞こえた後、小さく分かった。と返事をしていた。一連の流れを見ていたナイルは深く頷いた。
「そうか、ヴォルタは目を覚ましたか。アイツの為に動くとは、お前にしては殊勝な心掛けだ」
「言ってろ。おい、アホ犬! 今度は俺のこと撃つんじゃねぇぞ」
「ワンワン」
「テメェ、ふざけてんのか!?」
ダラーっと舌を出しながら答えている姿には挑発以外の意図を感じないのだが、いつも通り何も考えておらず、犬という単語に反応しただけだろう。
そんなコントを聞いていたカーラのツボに入ったのか、彼女の呵々大笑が響いていた。
「いや、こんなに抜けているブリーフィングは初めてだ。アンタら仲がいいね」
「でしょ?」
「どこがだ!?」
イグアスの訴えは悉く無視され、作戦概要などが説明されつつ目的地まで向かっていた。
『レイヴン。彼とは口論をしていたようですが、本当に仲が良いのですか?』
「仲良し、仲良し」
『では、V.Ⅳのラスティとどちらの方が好きですか?』
「ラスティ」
即答だった。人間の遣り取りや機微に関して疎い所のあるエアは、イグアスと621の関係が良好な物かどうかという判断に困っていた。