戦え! 超強化生命体傭兵レイヴンちゃん!【本編完結】 作:ゼフィガルド
ザイレムの内部に一部の部隊が侵入しつつある中、未だに主戦場は上層街区であり、企業連合、惑星封鎖、ルビコニアンデスビートルが暴れる三つ巴になっていた。
混沌とする戦場において、未だに戦いを続けられる者達は強い信念と意思を宿した者達かコーラルを決めて感覚を麻痺させた者達位であり、大半は逃げ惑っていた。その中でどうにもならない男が居た。
「どうしよう……」
最初はルビコニアンデスビートルの背中にしがみつき、調子に乗っていたノーザークであったが、次第に虫の方も気にならなくなって来たのか。彼を背中に乗せたまま行動するようになっていた。
と言っても、彼は虫を操れる訳ではない。だからと言って、こちらからアクションを起こしたら、高確率で安全は崩壊する。逃げることも進むことも出来ず、手に入る物が0状態ではあった。
「(そうだ。この状況を録画しておけば、何かしらのマネタイズにはなるかもしれません。いや、録画した物を編集している暇もありませんね。こうなりゃ、LIVEです!!)」
例えるなら、深夜の誰もいない道路に全裸で飛び出す様な感覚。
いつもと違う状況から正常な判断が出来なくなっている。周囲の誰もが闘争か逃走を迫られる中、怪物の背中で安全が確保されている。と思い込んだ故の行動だった。彼も大分おかしくなっていた。
加えて、詐欺師として培ってきた撮影技術もある。媒体を如何に魅力的に魅せるかというのは、彼の得手としている事だった。
「うぉおおおお! アイツだけずりぃぞ! 俺も乗せろぉ!」
両手の『DF-GA-08 HU-BEN』ガトリングガンを使い切ったラミーが、ルビコニアンデスビートルの背中に飛び乗る。当然だが、異物が背中に乗って来たので滅茶苦茶に暴れており、ノーザークは一連の光景を撮影していた。
「彼はアリーナランク最下位の男。インビンシブル・ラミーです。かつて、私と共に惑星封鎖機構の暴虐に対するべく、共に立ち上がった戦友です!! 武器を失ったとしても、彼は皆を守るべくして戦っているのです!」
事実とは殆ど合致していない実況であったが、ラミーの音声が入って来ることも無い為、果敢にも身を挺して仲間を守ろうとしている。様に見えなくもない。
暫く、虫との格闘を繰り広げていたがノーザークの時よりも数倍早く大人しくなった。異物を背中に載せている同胞を見て学んだのか、あるいはラミーがコーラル中毒者であったことが作用しているかは分かった物ではないし、検証の仕様も無い。
「見て下さい! 彼の心意気に虫も暴れるのを止めました。このルビコニアンデスビートル達もルビコンで生まれた生命達。この惑星(ほし)を守ろうとする、彼の心意気に応えたのです!」
すっとカメラを別の場所へと向けた瞬間。ノーザークの解説など知ったことかと言わんばかりにラミーを載せたルビコニアンデスビートルは周囲に破壊を振り撒いていた。
「ギャハハ。いいぞ! やっちまえ!」
という、ラミーのガラガラ声はノイズなので省くとして。戦場では未だに戦いが続いている。そこら中に惑星封鎖機構や企業連合の機体が転がっている。
惨劇としか言いようのない光景ではあるが、この状況を彩る言葉を吐いてこその詐欺師であり――魔術師である。
「我々。独立傭兵やルビコニアン達は企業から搾取され、惑星封鎖機構に弾圧されるという不当な扱いを受けて来ました。ですが、今はどうでしょうか? 企業と手を組み、ルビコンを取り戻す為に戦っている! ご覧ください! この光景を! かつての戦いを思い出して下さい! 野ざらしにされていた残骸はいつもルビコン解放戦線や我々のMTやAC達でした! ですが、今は惑星封鎖機構のLCが! エクドロモイが! 特務機体が転がっています! 我々は戦えているのです!!」
もはや、本人も何を話しているのかよく分かっていなかった。ただ、撮影において無言が視聴者を退屈させ、あっと言う間に動画の価値を下げるということは分かっていたので、とりあえず共感できそうなことを吐きまくっていた。
……奇しくも、それはルビコン解放戦線や独立傭兵を鼓舞するプロパガンダとなっていた。
「ノーザーク! ……そうだ! 我々は! 戦えているんだ!」
これにはスマートクリーナーを動かしていたインデックス・ダナムも感銘を受けた。清廉な烈士である彼には純粋な激励にしか聞こえていなかった。
「どうせ、奴のことだから。この広告で無心するつもりなんだろうが。まぁ、聞いていて気分は良いな」
ダナムと違い、リング・フレディにはノーザークの広報がただのCMであることは分かっていた。しかし、それでいて気分を悪くさせない言葉を並べる辺り、彼は詐欺師としてある程度の能力は持っているのだろう。
「どうせ、ロクでもねぇことしか考えてねぇんだろうが」
RaDに身を置き、付き合いの多いヴォルタとしては眉間に皺を寄せる程度のことでしかないが、音声を切る様な真似はしなかった。
「回線を開け!!」
これを一早く利用しようと考えたのは、ミドル・フラットウェルだった。
個人の回線だけではなく、シュナイダーや長年の活動によって得た人脈からノーザークの広報は、ルビコンのあらゆる場所へと届けられた。
~~
ベイラム基地防衛線において、リトル・ツィイーは目覚ましい活躍を見せていた。迫り来る惑星封鎖機構の機体達を次々と撃破し、共に防衛に当たる仲間達を励ましながら戦う姿に、ベイラムの隊員達は一つの考えを共有していた。
「レイヴンだ……」
劣勢に立たされていたコーラル競争。時には、自分達に矛先を向けて来ることもあったが、立ちふさがる脅威を払い続けてくれた少女。
彼女よりは少し大きいが、大人でさえ恐怖ですくむ戦場で凛然としている姿に、自分達のシンボルを重ねていた。
「私も。負けてられない」
リトル・ツィイー。皆の妹分として可愛がられ、戦場から身を引くことを願われていた少女。実際、安全の為に猟犬部隊(ハウンズ)に送られてからは歯噛みしていることの方が多かった。
自分は役に立てていない。それでいて、スウィンバーンや皆の様に他に何が出来る訳でもない。だから、今回の作戦においても彼女は基地に置いて行かれていた。
「あの子みたいになれなくても」
空いた時間。何もしていなかった訳ではない。シミュレーターを用いての訓練も重ねた。そして、動き方の研究もした。結果としてブランチ・レイヴンと似た様な立ち回りになったことは奇妙な縁すら感じる物であった。
「この!! 土人共が!」
「うぉおおお!」
高速で飛来して来たエクドロモイが構えたエネルギーパイルとツィイーのユエユーが構えた『PB-033M ASHMEAD』が交差する。
エネルギーパイルはユエユーの肩部の一部を持って行き、パイルバンカーはエクドロモイを上から打ち付け、地面へと縫い付けていた。少し遅れて、コックピットが射出された後、爆散した。そして、程なくしてノーザークの広域通信が入って来た。
『立ち上がりましょう! もう、無力感に打ちひしがれて諦める必要はありません! ルビコンの有史に残す戦いに! この! 全ての状況を変えたレイヴンに! 彼女の勇姿に! どうか、皆さまの雄姿を見せて下さい! このノーザークの名に懸けて! こればかりは詐欺ではありません! 皆さまの有志が! 彼女への融資となるのです!!』
ザイレムの映像が映し出されていた。惑星封鎖機構も企業連合も互角の戦いを繰り広げる中、ルビコニアンデスビートルも暴れている未曽有の状況。
だからこそ、今でなら奇跡すら起こるのではないのかと思えた。ツィイーが自らの高ぶりを感じている中、ウォルターから通信が入った。
「増援が来た」
ベイラム基地の遠方から強襲艦隊が来ているのが見えた。LCだけではなくMTも発艦し……惑星封鎖機構の機体に攻撃を始めた。
「な……!? 貴様ら、裏切って……!」
「うるせぇ! テメェらを含めた上の横暴にはうんざりしていたんだ!」
上空でも内部分裂が始まり、地上部では先の広報に対して独立傭兵達の士気も大いに上がっていた。
「俺達のな」
ウォルターの様子から察するに、アーキバスの造反も仕込まれていた物であったらしい。ベイラム基地周辺の状況が変わる。次々と惑星封鎖機構の機体が落とされ、パイロットが捕縛されて行く。
「行きましょうか。レイヴン達の戦場へ」
近くで戦っていた独立傭兵から声を掛けられた。このルビコンでは珍しく整ったアセンブルをしており、両腕に『MA-J-200 RANSETSU-RF』を装備し、両肩部の兵装に『BML-G1/P07VTC-1』を載せながらも中量に留まっている機体。
フレームは六文銭も使っていた『MIND ALPHA』シリーズで構成されており、頭部にはブランチ・レイヴンが使用していた『HC-2000/BC SHADE EYE』が用いられていた。その頭部に貼り付けられた青い星のエンブレムが特徴的であった。
「うん!」
強襲艦隊が着陸し、武器の補充や修理を済ませた独立傭兵達も共に乗り込んでいく。その中にはG3五花海の姿もあった。
「ここまで来たら、私も駆けつける外ありません。……まぁ、残った隊長である私が出たら、乗っ取られるかもしれませんがね!」
「気にするな。独立傭兵の伝手は広い。俺が管理しておく。……俺が言えた義理ではないが、621を頼む」
基地はウォルターと独立傭兵達に任せ、ツィイー達も強襲艦隊へと乗り込んでカーマンライン付近へと向かう。ルビコンにおける主要人物達全てが集おうとしていた。