戦え! 超強化生命体傭兵レイヴンちゃん!【本編完結】 作:ゼフィガルド
ザイレム内部。チャティを始めとしたお出迎えたちによって迎撃はされているが、それでも擦り抜けて来る手練れは居る。
心臓部とも言えるジェネレーター付近まで侵入して来たのは、先程まで部隊に指示を出していた隊長格の男だった。カタフラクトの相手は彼らに任せ、自身は速やかに任務を終えるべく行動をしていたが。
「!」
虚空からプラズマスロワーが現れ、周囲に爆発を引き起こす。僅かなラグの後、バズーカが放たれ、逃げ道を防ぐようにしてオービットが周囲に展開されていた。
もしも、これが凡百のパイロットならば反応すら出来なかっただろう。だが、彼は隊長格の男はモニタやレーダーに表示された僅かな違和感だけで回避動作を取った。
砲撃を避け、オービットからのレーザー攻撃を受けつつも、距離を取る。多少のダメージを受けながらも、戦闘続行に支障は来していない。
「ここまで来るだけにあるか」
現れたのは、全身にステルス機能を施した『エンタングル』だった
惑星封鎖機構の男にとっては不可思議なことだった。彼は逐次スキャンをしながら来ていたし、アーキバスからのデータも流用してRaD式のステルス機体にも対応するべく有機反応も検知する様にアップデートしていたというのに、何故引っ掛からなかったのか。
「目標の排除に当たる」
惑星封鎖機構のデータの中にもスッラは脅威として登録されていた。
第1世代の強化人間であり、未だに前線で戦い続ける男。何よりケイト・マークソンのコピーであるオールマインドに従事し続けた者として、許されざる存在だった。
ザイレムの心臓が貫かれるか否か。本当にギリギリの場面だからこそ、スッラと言う男が置かれていた。
~~
もう一つの艦船。ケレス内の一角では、コールドコールとイグアス達の戦いが続いていた。
無人機のサポートに徹する老獪な動きもあって、イグアス達が攻勢に転じきれずにいた。時折、反撃を試みるも無人機は被弾前提で作られていることもあって、中々に倒れない。
特に1317には疲労の色が濃く見られていた。徐々に無人機の攻撃を捌き切れなくなっていた。
「助けてやらなくていいのか?」
「そうですね。イグアス! 助けて差し上げましょう!」
「おうよ!」
コールドコールとしては軽口のつもりだったが、ペイターとイグアスの返事は奇妙なほどに明るかった。不審に思ったのも束の間。彼らは二手に分かれて、1317の所へと移動を始めた。
「(なるほどな。避け続けるアレを援護……するように見せかけて、前方に出た坊やがブーストキックで蹴飛ばして無人機を巻き添えにした後、後方から追い上げて来た坊やが追撃すると言った所か)」
ペイターが頻繁に行う友情攻撃についてはコールドコールも把握していた。
ならば、自分は友軍機体を蹴り飛ばして追撃を掛けようとした瞬間を狙えば良い。実際、彼の予想通り。イグアスのヘッドブリンガーはアサルトブーストによって得た加速で1317を蹴り飛ばしていた。
「ギャッ!!」
当然、了承は取っていない為、1317は何が起きているかも分からないまま吹っ飛ばされていた。進行方向には無人機達が居る。
「(奇襲攻撃は何度もやっていたら陳腐でしかあるまい)」
吹っ飛ばす方向が分かっていれば、無人機に指示を出すだけでいい。回避方向についての指令を送ると無人機達はサッカーボールと化した1317を避けていた。そうすれば、後ろから追い上げて来ているペイターが巻き混まれるだけになる。そう考えていたが。
「待っていましたよ!」
だが、ペイターのHM型もオーバーブーストレベルの加速を吹かしていた。
そして、彼に向って飛んで来た1317のLCをもう一度蹴り飛ばしていた。2回も連続で蹴られた為、機体の一部が変形し装甲も吹っ飛んだが、信じられない勢いで送り返されて来た。その先にあった物は……。
「可哀想に」
戦場とはコンマ1秒単位でのやり取りである。コールドコールもまた追撃を掛けるべくブーストを吹かしている中、予想外の一撃に対応できる訳もなく、砲弾と化した1317に巻き込まれて吹っ飛ばされていた。
「うぉおおおおお! 友情パワー!!!!!!!」
「生きて帰れたらとっておきの映画見せてやるからな!!」
「……死ね」
散々機体内部でシェイクされた1317の意識は朦朧としていたが、一つだけハッキリしていたことがある。友人を騙る2人の外道を決して許してはならないということだ。
奇跡的に稼働する脱出機構を用いて、機体から撃ちだされた後。コールドコールの機体ごと叩き込まれた攻撃によって爆散した。
そうなれば、残りは今まで何度も戦って来た無人機達である。デッドスレッドのサポートが無ければ大した脅威にもならず、2機は順当に撃破していた。……そして、戦いを終えた後のことである。
「…………何か言うことは?」
2人を回収しに来た矢先。今から人を殺さんと言わんばかりの1317の視線を受けながらペイター達は弁明していた。
「やりましたね! お手柄です!」
「お前が居なければ、俺達はきっとコールドコールに勝てなかった!」
「弁明をしろ」
「友人のことは慮ってやれ」
敵対していたハズのコールドコールが苦言を呈するレベルで罪悪感が見当たらない弁明であった。
長らく生身でいるべきでないと判断し、1317はペイターのHM型へと同乗し、コールドコールもイグアスのヘッドブリンガーに同乗しながら事情聴取を行っていた。
「さっき言っていた、アレってのは何だ? 惑星封鎖機構にはまだ秘密兵器でもあるって言うのか?」
「秘密と言う程でもないがな。連中はアイビスシリーズがどうだとか言っていた。一方的にやられた」
先の戦いを見るに、コールドコールはベテランの傭兵である。暗殺を生業としていることもあって対人戦を得手としている彼が、何も出来なかった。というのは、相当だった。
「ま~た、隠されたアイビスシリーズですか。この調子でいけばIB-0とかみたいな、ロストナンバー機体とかもありそうですね。1317、そこら辺どうなんですか?」
「どうと言われても。アイビスシリーズは秘匿情報だ。俺が知っている訳が無いだろう」
「……それをコールドコールには漏らしたというんですか?」
技研の兵器であり、オーバーテクノロジーとも言える産物。そんな情報を一介の独立傭兵に漏らすというのは奇妙な話だった。
彼らが本気でコールドコールを取り込もうとしているとは思い難かった。だというのにベラベラ話したということは。
「恐らく。連中は俺程度に漏れても問題ないか。あるいは、最初から使い潰すつもりで聞かせてやっていたのかもな」
「そんな奴相手に尻尾振っていたのか。情けねぇな」
「従って生きるか。あるいは坊や達に殺されるか。いずれも歯向かう選択は無かっただけさ」
彼のドライな意見を聞いて、一同に緊張が走った。この先には恐ろしく強大な相手がいる。
「スネイル達が先に倒してくれていたら良いんですけれどね。ハハッ」
「レイヴンの力も欲しいな」
衛星砲の排除に向かったとは聞いていたが、未だに成功したかどうかも分からない。外の情報を入れるべく、通信を立ち上げた刹那。耳障りな声が聞こえて来た。
『あぁ! 見て下さい! 皆さん! 空から一条の光が!! あの流星! 間違いありません! 皆さん、刮目して下さい! アレは間違いなく彼女です!』
えらくテンションの高いノーザークの実況が聞こえて来た。先とは違う意味での緊張が走る。カーマンライン付近よりも上、宇宙から降りて来る者がいるとすれば……。
~~
話は少し前に遡る。衛星砲へと到着したブランチの一同は総掛かりで砲台のコントロールをしている一方、辛うじて母艦の一部ごと脱出できたオペレーターはレイヴンへと説明をしていた。
「持って来ることが出来たのはナイトフォールのフレームと。一部の武器だけです。……コレ、お気に入りでしたよね」
「あー! ジマーマンだ!」
『最近はアイビスシリーズに乗ることが多くて、忘れていましたが』
『SG-027 ZIMMERMAN』。レイヴンがACを乗り回していた頃に使っていた得物であり、ベイラムが大量生産へと舵を切る前に作られた物である為、性能も従来の物だった。
「カーマンライン付近には惑星封鎖機構の巨大母艦『ケレス』が降下しており、同時に質量兵器『パラス』も落とされようとしています。我々は、この衛星砲を用いてパラスの落下阻止を図りますが……正直、難しいと思われます」
惑星封鎖機構の部隊を葬った砲台をもってしても、質量兵器の撃墜は容易いことではない。そんな物が落ちて来るカーマンライン付近へ行くことがどういうことであるかと言えば。
「彼女に死を押し付けるつもりか?」
『貴方は……!』
声のした方を向けば、両手を上げて白旗を振っているフロイトが居た。もう戦う術も気力も無いようだ。直ぐにキングが彼の両手に手錠を掛けた後、尋問を始めた。
「おい、惑星封鎖機構は何を考えている。答えろ」
「信じて貰えないとは思うが、俺は何も知らない。というより、何も教えて貰えていない」【マジで何も知らないんだ。レイヴン、助けてくれ】
「その人、何も知らないよ?」
事前にレイヴンの能力を聞いている彼らとしては頷かざるを得なかった。納得して貰えた所で、フロイトは続ける。
「達成不可能なミッションに向かうのは賢明じゃない。それよりも、ここから皆で逃げるというのはどうだ? ルビコンの争いなんか放っておいて逃げれば……少なくとも俺達は助かる」
「する訳無いじゃん」
彼の提案は合理的な物であったが、レイヴンは一蹴していた。向かわない、という選択肢は存在していない。
「聞くだけ無駄だったか。もしも、よかったら二人だけで逃避行とも考えていたが」
「きっしょ」『きっしょ』
ブランチのオペレーターとエアから罵倒を浴びせられたが、特段気にしている様子も無いようだった。
彼の存在は無い物として扱われ、レイヴンが乗り込んだナイトフォールが降下カプセルに収納されて行く。
「小鴉なんて言って悪かった。アンタは十分立派だ」
「こちらでも何とかする。上のことは心配するな」
「うん!」
シャルトルーズとキングから激励を受け取る。作業中のブランチ・レイヴンは目配せをして、静かに頷くだけだった。降下態勢へと入る。
「621。……この惑星に戦いを招き入れた私達が言う権利は無いと思います。それで、お願いしたいことがあります。どうかルビコンの空を切り開いて下さい、借物ではない貴女自身の翼で。……ご武運を! レイヴン!!」
「行って来まーす」
気合を入れて送り出してみたが、帰って来たのは間の抜けた返事だった。
……しかし、こんな窮地においても誰もが唇の端を釣り上げてしまう様な陽気さこそが、この戦いに終止符を齎してくれるような気がした。