戦え! 超強化生命体傭兵レイヴンちゃん!【本編完結】 作:ゼフィガルド
ザイレムは外も中もドンパチ騒ぎだった。ルビコン史上最大のドンパチを前に集った傭兵達はピンからキリまであったが、数だけは居た。
惑星封鎖機構としても利益だけで動く有象無象が、これ程の規模で結託したのは予想外だった。内部から攻略することも、外部から直接叩くのも捗らないまま戦力だけが浪費されて行く。
「隊長、現状の戦力では不可能です。撤退しましょう」
「そうです。衛星砲を乗っ取られ、多くの強襲艦や機体を失いました。これ以上戦っても損耗し続けるだけです」
ザイレム内部で戦場の通信を傍受しているカーラは、ここが決め時だと考えていた。幾ら惑星封鎖機構のパイロット達がメンタル面での訓練を受けていたとしても、立て続けに予想外の出来事に見舞われれば疲弊もする。
一方、こちらに付いている連中はドーザー並に合理性よりも感情と気分で動く連中であり、士気が落ちる気配は見当たらない。
「チャティ! 全域通信を入れな!」
「了解した」
半壊したカタフラクトから返事が来た。チャティがカーマンライン付近全域へのチャンネルを開き、カーラが手短に告げた。
「惑星封鎖機構に告ぐ。アンタらの親玉は決して忠義に報いたりはしないよ。この惑星に向けて、デカイ石塊を落とそうとしている」
一帯に流された映像にはルビコンに向って来るパラスが映し出されていた。
ケレスよりも小規模ではあるが、アレだけの質量が衝突した際の被害は成層圏近くにいる自分達にまで及ぶかもしれない。
いや、そもそもバスキュラープラントにまで被害が及んで連鎖的にコーラルへと引火すれば、自分達の生存すら危ぶまれる。
「死んでも尽くそうとするなら戦えば良い。でも、それはアンタらの意思か? 考えてないだけじゃないか?」
宇宙にまで活動圏を拡げた人類の秩序を維持するという目的の為に、惑星封鎖機構に所属した。
ミールワームが宇宙に放たれ増殖した所で秩序が保たれるのか。そもそも、自分達が企業と道連れになった所で意味があるのか?
戦闘を続行する者もいたが、困惑する者も少なからずいた。任務の為に命を投げ出すことは惜しくないが、意味の無い死は耐え難い。
「迷う位ならどきな! アンタらだけでも宇宙に逃げ帰れば死にはしない。生きてさえいれば、大好きな治安維持活動もやりたい放題だ。私達を道連れにした所で、人間は止まらないよ!!」
「いいぞー! ボス! もっと言ってやれー!!」
「おぅ、帰れ。帰れー!」
カーラの勧告に対して野次が乗った。いずれもドーザーや根無し草の独立傭兵など。……惑星封鎖機構からすれば大悪を成し遂げる訳でもない、自分の欲望に忠実なカスの集まりだった。
果たして、自分達の使命と命はこんなのに費やす価値があるのだろうかと? 惑星外にはもっと取り締まらねばならない悪がある筈だ。
「強襲艦から脱出した小型艇を引き上げろ! こんなバカ共と命運を共にしてやる必要はない!!」
誰が発した命令だったかは定かではないが、惑星封鎖機構としても帳尻が合わないと判断されたのか、交戦していた機体達が引き上げていく。
成果を得られないからとこのまま損耗し続けるよりかは余程賢い選択であった。撤退していく惑星封鎖機構に対して、企業連合の面々はブーイングを飛ばしたり中指を立てたりと、品性の欠片も見当たらない反応をかましていた。
「エイシャァアアアア!!」
しかし、ルビコニアンデスビートル達は撤退する訳もなく。バスキュラープラントへと接近していることもあって、攻勢は増々強まっていた。
前方にはケレス。頭上からはパラスも近付いている中、ルビコンの命運が決まる瞬間は確実に近付いていた。
~~
ケレス外部で惑星封鎖機構の戦力が撤退していく中、ケイトとの戦いは続いていた。ホーキンスが隠し腕を潰したことで近接戦が仕掛けやすくなったこともあり、レイヴン、ドルマヤン、セリア、ラスティに加えてペイターとスッラも加わり6機掛かりで抑え込んでいた。
「手を緩めるな! 叩き込め!」
ミシガンは声も銃弾も枯れ果てんばかりに出し尽くしていた。大量の実弾とエネルギー弾がオーダーへと叩き込まれる中、ケイトの機体が赤く光る。
「来るぞ!!」
凄まじい衝撃と共に周囲にパルス波が叩き付けられた。直撃は避けたが、密集状態が解除されると同時にオーダーは腕部のブレードを展開して、SOLへと向けて突撃した。
アイビスシリーズの1機ということもあり、ACとは掛け離れた性能を持つ機体に狙いをつけるというのは合理的であった。だからこそ、その動きを予想していた者が居た。
「分かりやすい動きだ。戦闘に関しては、お前達は本当に素直だ」
エンタングルの左腕部が宙を舞うと同時に右手に握っていた『44-141 JVLN ALPHA』の引き金を引いた。
ゼロ距離での射撃。離脱しようにもブレードが左肩に突き刺さっている為、直ぐには動けない。予め、彼の思惑を理解していなければ避けることは不可能な一撃だった。
「お見事です、スッラ。ですが、一手足りませんでしたね」
しかし、ケイトの反応速度は人間の物を遥かに超えた。胴体へと向けて放たれた一撃を、オーダーは体を僅かに逸らすことで回避してみせた。だが、スッラは止まらない。
「その一手はアイツが付け足している」
バズーカと言う武器種に取り付けるには一般的ではないオプション。スッラも苦言を呈した『44-141 JVLN ALPHA』の先端に取り付けられた銃剣が、オーダーの胴体を貫いていた。
「では言い直しましょう。2手足りませんね」
エンタングルの左肩から腰部に掛けて、ブレードが通り抜けた瞬間。彼の機体を貫いて飛び出した、コーラルブレードがオーダーの左腕部を切り飛ばしていた。
「残念だったのだ。2手目は、私が埋めといたのだ」
落下していくエンタングルのフレーム部分にコックピットが収まっていたのかどうかは定かではないが、ここに来てオーダーはフレームの一部を切り飛ばされる程の損傷を受けた。
『レイヴン! 今です!』
「落ちろ!!」
『SG-027 ZIMMERMAN』の引き金を引く吐き出された散弾が、オーダーの胴体へと叩き込まれる。間髪入れずして、他の者達からも攻撃が叩き込まれ、爆破炎上した。
『やりましたか!?』
「待つのだ! まだ、何かが」
セリアが皆へと通信を入れた瞬間、ドルマヤンの機体は刺し貫かれていた。煙が晴れた先には、オーダーの脚部だったと思しきフレーム部分が変形した機体が居た。
落下していくドルマヤンを回収するべく高度を下げたSOLにパルス弾とグレネードランチャーが叩き込まれ、ブースター系統を損傷したのか落ちていく。
「だいぶ減りましたね。ですが、まだですよ!!」
「いい加減くたばりやがれ!!」
イグアスが叫ぶ。このまま戦い続けたら、損耗していく一方だ。
先程から続く極限状態で皆の体力もかなり減っている。長期戦になれば磨り潰されるのは目に見えていた。
~~
船内は不気味なほどに静まり返っていた。哨戒していた無人機達は粗方破壊し尽くされており、傍ではルビコニアンデスビートルがジッとしている。何時、気が変わって自分達を排除して来るか気が気でない。
「ツィイー。貴様はコイツらに詳しかったな。どういった状態なんだ?」
「知らないよ。ミールワームが栄養豊富状態になることなんて滅多にないし、そこから更に栄養を蓄えた状態になるだなんて」
スウィンバーンが知っている限りでは、この場で最もミールワームの生態に詳しい彼女が分からないと言っている以上、誰も知る者が居ないということだろう。
そもそも、栄養を蓄える前に誰かに食われるという生態をしていた虫達がこんなにも成虫になっていること事態が異常なのだが。
「近い状態なら、初めて会合した時のアレと似ているが」
レッドは思い返していた。ルビコニアンワームと呼ばれていた幼体が、ウォッチポイント・アルファで変態したことを。
このカーマンライン付近で見掛ける者達は全て成虫らしかったが、そこから更に変態する。ということがあり得るのだろうか。
「早く通り過ぎましょうよ。何が起きるか分かったモンじゃないんですから」
ノーザークがビビりながら先へ行くことを促した。何時目覚めるとも分からない恐怖に怯えながら進む。半壊した機体のコックピットに乗り切らないラミーはキャンドル・リングの肩に乗って、周囲を見渡していたがあることに気付いた。
「なんか良い気分だなぁ、オイ。こりゃ、コーラルだ。コーラルが漂ってやがる」
「は?」
リング・フレディは思わず声を上げてしまった。しかし、ドーザーでもある帥父に付き従っている彼には分かる。確かに船内にはコーラルが漂っている。
皆が焦燥感を覚える中、最も早くに視界に映る異常に気付いたのはメーテルリンクだった。
「あの虫達。体表の色が変わって来ていないか?」
気のせい。では、済まされない位に沈黙していたルビコニアンデスビートル達の体表が真っ赤に染まっていた。さながら、コーラルにより着色された様だ。
「多分、絶対、何か良くないと思います。早く進みましょう!」
悲鳴を上げて飛び出したい衝動に駆られながらも、ノーザークは堪えた。さもなければ、染みになる未来がやって来るからだ。
そんな彼の願いが通じたのか、進み続けること数十分。破壊されたゲートの先。多数のルビコニアンデスビートルが沈黙する空間にメインコンピュータと思しき物が見つかった。
「コレは船の操縦に関わる物なのか?」
「あぁ、強襲艦と似た様な物だな。流石に艦船の操縦に神経コネクタは使えんな。……メーテルリンク、レッド。動かし方は分かるか?」
「アーキバスで教わった基礎的な物なら」
「総長から船の動かし方については教わったが……」
少なくとも無教養の者達よりはマシだと判断されたのか、スウィンバーンが主体でメインコンピュータへのアクセスが試みられた。
こういったノウハウが無いルビコン解放戦線とRaDのメンツは待機をする外なかった。ノーザークがビビっている横でラミーは深呼吸を繰り返していた。
「見ろよ! コーラル吸い放題だ!」
「静かにして下さい…! 刺激したらどうするんですか…!」
ノーザークが声量を絞りながら注意した。もしも、この虫達が暴れたら自分達には抵抗の術がない。
「でもよ、良い気分になれるぜ。ワームのコーラル絞りだ。そう言えばよ、ザイレムの修理していたときあるじゃねぇか。あの時、オールマインドから聞いたネタがあるんだけれどよ」
「今、話す必要があるのか?」
流石にリング・フレディも危機感を抱いていたらしい。このテンションの上がり方は、コーラルによる陶酔感から来ている物だろうと推測していた。このまま喋らせ続けたら碌なことにならない気がした。
「まぁまぁ、聞けって。アイツ、フィーカ好きのヴェスパー部隊長と組んでいたことがあったらしいんだよ。ソイツの苦労を労うべく、量産されているフィーカにひと手間加えようと。アーガイブに乗っていた高級フィーカの作り方を実践したらしいんだよ」
「何したの?」
作業中のスウィンバーン達からすれば集中力を乱す話でしかないが、恐怖に支配される位なら雑談程度は構わないと判断されたのか、ツィイーが続きを促した。
「コピ・ルアクってコーヒーがあったんだよ。あ、コーヒーってのはフィーカの昔の呼び方な。それの素材の作り方がだな。猫に食わせた後、ウンコをさせて未消化のタネを使って作るんだよ。ウンコーヒーってな!」
誰も何の反応もしなかった。デバイスの入力音だけが響く、嫌なほどの静寂に支配された。しかし、この程度のスタッガーを物ともしないのがラミーだった。
「だから、それを再現しようとミールワームに食わせた後、糞を採取して未消化のタネを取り出して作ったらしいぜ。何が面白いって、今までで一番美味いって好評だったらしい。つまり、俺が今吸っているウンコーラルも美味いのは当たり前なんだよ!!」
もしも、この真実をオキーフが知った場合。彼はどういった行動を起こすのだろうか? という好奇心がメーテルリンクの中に沸き上がったが、目の前の作業に集中すべきだと気を取り直した。
そして、ラミーの話に反応する者は誰も居なかった。……と思いきや、沈黙していたハズのルビコニアンデスビートルがズリズリと近付いて来た。
「ヒェッ」
ノーザークが短く悲鳴を上げ、他の者達も声を出さない様に口を押える中。ラミーだけが大口を開けていた。
「うめぇ、うめぇ」
その時、一同は思った。あ、コイツドーザーなんだ。と。