戦え! 超強化生命体傭兵レイヴンちゃん!【本編完結】 作:ゼフィガルド
「その後はですね。奪取したケレスでパラスの軌道をずらしたり、レイヴン達が迎えに来てくれたりと色々とあったんですよ」
ノーザークはあの日、何が起きたかということを話していた。
窓の外は一面の黒。即ち、ここは宇宙空間であり、あの戦いを終えた後。彼はルビコンから脱出していた。
「そうなのか。私も見届けたかった」
フロイトは彼の話に耳を傾けていた。衛星砲内で自分達が復旧作業に務めている間に、ルビコンでは全てが終わっていたらしい。
「バスキュラープラントは一部伐採。吸い上げたコーラルはルビコニアンデスビートル達が持ち去ったから、ベイラムの上層部はブチ切れましてね。現場責任者として、ミシガンに懲罰として違約金を吹っ掛けたんですが、レッドガン部隊全員でボイコットかましたんですよ。そしたら、懲罰部隊まで送り込まれたんですけれど。こっちはルビコンで勝ち抜いて来た精鋭の集まりだったので」
「私を負かした彼女がいるんだぞ。有象無象でどうにかなる訳無いだろう。アーキバスの方は。まぁ、言わずもがなか」
ベイラムとアーキバス。今回のコーラル競争では両企業とも痛手を被った。
人材、資源の多くを失い、得た物は殆ど無い。これに懲りれば、企業もルビコンに手を出すことは無くなるだろう。
「結果的に見れば、ブランチのしたかったことは全て達成してくれたわけね」
「惑星封鎖機構の方も企業と協定を結んだ」
彼の会話にシャルトルーズとキングが割り込んだ。
秩序を維持するハズの存在が率先して企業の乗っ取りや惑星の破壊を目論んでいたと言う事実もあり、ルビコンに関しては触れたくないというのが正直な所だった。
「だが、ハクティビストの活動はこれで終わりじゃない」
ブランチ・レイヴンも含めて彼らは次なる戦いを目指して惑星間を移動していた。人が居続ける限り、戦いが終わることは無い。ブランチの存在はいつだって必要とされている。
「だから、ノーザークさん。貴方が幾らCOAMを稼いで借金を返済しようと、我々を騙した罪は消えることはありません。私達が戦い続ける限り、貴方にも仕事の手伝いはして貰いますからね?」
「そんな! 貴方達の艦やAC,装備を新調するCOAMだって、私が出したんですよ!?」
「ありがとうございます! 次はマーケティングですね!」
「あああああああもうやだああああああ!!!!」
ブランチのオペレーターから無慈悲に告げられた。パイルバンカー詐欺をした恨みは相当に重かったらしい。特段そう言った経緯も無く、彼らの逃走に引かれて身を置いているだけのフロイトは楽しそうに笑っていた。
「さて、次はどんな戦いが待っているのかな?」
~~
ルビコンから遠く離れた場所にある水星。昼と夜の気温差が600℃もある惑星だが、入植者達の尽力もあり一部ではテラフォーミングが行われ、人間が住める環境となっていた。それでも、過酷であることには変わりないが。
「ただいま」
「お、お邪魔します」
ベイラムを追われた彼はメーテルリンクと共に故郷へと帰って来ていた。
彼らを見るや、少女の面影を残した赤髪太眉の女性が喜色満面で駆け寄って来た。
「レッド兄さん! 帰って来たんですか! 隣にいる人って」
「み、ミオミオ……です」
「すごい綺麗……。あ、私。マーキュリーって言います! リアルでは初めてですね! お兄ちゃんがお世話になっています!」
「あ、いや。そんな」
メーテルリンク達の姦しさが聞こえたのか、中年の女性が駆け付けて来たかと思えば、レッドに抱き着いて来た。
「よく、生きて帰って来た。本当に心配したんだから!」
「……ごめん」
この時代、稼ぎを得るために戦場に赴く人間は決して少なくはない。
だが、親しい者達からすれば心配の尽きないことだった。心を病んだりする者も少なくはない。そんな二人をレッドとよく似た男性が抱擁していた。
「良いんだ。お前が無事で帰って来てくれたなら」
家族の再会を見て、居た堪れなくなったのか。そっと部屋から出ようとした所で、マーキュリーが彼女の手を取っていた。
「はい! 注目! 兄さん、こんな素敵な人と一緒に帰って来たんですよ!」
「ちょ」
「あら、貴方が噂の?」
先程までの儚げな雰囲気は鳴りを潜め、レッド母は興味深そうにメーテルリンクを観察していた。
「母さん。そんなことしたら、メーテルリンクも緊張するだろう。ひとまず、旅の疲れを癒してからにして欲しい」
「そうね! メーテルリンクさん? 何か苦手な食べ物とかはあるかしら? もしくは、食べたい物とか」
「いえ、特に……」
室内を見回した時、彼女の視界にふと不思議な物が入って来た。
小さな鉢植えから蔦が伸びている。そこにはコーラルの様に真っ赤な果実が実っていた。
「メーテルさん。トマトに興味あるんですか?」
「トマト?」
「はい。水星の健康食として注目されているんです。栄養価も高いですし、試験的に育てているんですけれど……食べますか?」
一つもぎ取ってくれたので、一つ。口に入れた。
可食部分ではなさそうなヘタの部分だけ吐き出し、果肉を咀嚼する。瑞々しく、酸味がある。戦闘糧食では到底味わえない芳醇な風味が漂っていた。
「美味しい」
「なら、決まりですね! お母さん! 今日はトマトパーティだよ!」
ノリノリなマーキュリーと共にレッドの母はキッチンへと入って行った。父もまた邪魔にならない様に彼女達の手伝いを申し出ていた。
「すまない。騒がしいだろう?」
「いや、何と言うか。こう。企業では無かった付き合いだから、困惑はしているが……楽しい。とは思う」
「そう言って貰えるなら嬉しい」
腰を落ち着けた二人は改めて自分達の通帳を開いた。
企業から口座を差し押さえられるかと思っていたが、レッドに関してはミシガンが全ての罪を被ってくれたのか凍結することは無く。
メーテルリンクにしてもアーキバスと惑星委封鎖機構とのゴタゴタが続いている隙に、スウィンバーンが口座を移し替えてくれたこともあり、2人には十分な資金が蓄えられていた。
「これから。どうする?」
「私はこの水星の環境改善の為に使う。少しずつ、良くはなって来ているのだがな。……なぁ、これは私からの頼みなんだが。妹も君には良い印象を持っているし、その。私達と一緒に暮らさないか?」
分かり易く、取り繕うこともない真っすぐな意思表示だった。殆ど、間を置かず。メーテルリンクも答えた。
「これからよろしく頼む隊長。……いや、レッド」
戦場を離れ、兵士で無くなった二人の新たな道が開かれた瞬間だった。
そんな一連の告白風景を除き見ながら、マーキュリー達は張り切って料理を作っていた。
~~
「やはり、土壌が若干改善されていますね」
タブレットから電子音が響く。画面に浮かんでいるのは、オールマインドのロゴだった。土の感触を確かめていたドルマヤンは静かに微笑んでいた。
「コーラルが再び巡り始めているのだ。あの時、解放されたワーム達によって」
「虫達が分解者として、ルビコンの生態系へと還って行ったのだ! きっと、糞や死骸の形となって、この惑星に還元されて行くのだ!」
「それは素晴らしいことです。帥父」
従者の様に付き従っているセリアとリング・フレディもまた微笑んでいた。ただし、2人の距離には絶妙な開きがあり、未だに打ち解けていないのを見て、同行していたスッラとコールドコールは溜息を吐いていた。
「リング・フレディは兎も角。セリアの方は長いこと生きているハズだが、腹芸の一つも出来んか?」
「スッラ、そう言うな。年を取るとな、頑固になって好き嫌いがハッキリするモンだ。ドルマヤン、お前の好みとてケモ以外変わることは無いだろう」
「コーラルの息吹を感じる」
都合の悪いことは聞かんフリをする位には、彼も強かさを身に着けていた。
役目を終えた老兵たちは一線から身を退き、若人達へと道を譲っていた。多少は喧しくしてくれるだろう仲間達3人を付けながら。
「オールマインド。早く、この義体を新調して欲しいのだ。後、音声ソフトの更新もしてくれないと、何時まで経ってもこの喋り方のままなのだ」
「そうですね。折を見て、RaDへと向かいましょうか」
~~
レッドガン部隊とルビコン解放戦線の多数は戦いを終えた後、ザイレムを拠点とした一大企業RaDへと組み込まれていた。
「いや。幸い、RaDの技術体系はベイラムにも近しい所がありますからね。私としてもテストのし甲斐がありますよ」
テストパイロットに抜擢されたG3五花海が新開発されたフレームのテストをしていた。送られてくるデータを取りまとめているのは、フラットウェル、ダナム、ブルートゥ、カエサルにチャティを加えた4人だった。
「グリッドの建設だけではなく、こういった物を作るのも面白いな」
「RaDの強靭さにエルカノ由来の軽さを取り入れることが出来れば……」
「お二人のお陰でRaDの商品幅が増えるのは良いことですね。フレームだけではなく、武器の方でも」
『アレがか?』
ブルートゥが視線を送った先。そこにはミシガン、ナイル、ヴォルタ、イグアスが喧々囂々論議を交わしていた。
「ベイラムの連中は発破を掛けんと手堅くまとめようとするが、ここはそう言うのは無い! おまけにミサイル開発も盛んだ! ならば、もっとミサイルを付けろ! ファーロン上がりの俺が必要な物を教えてやる! まずは、FCSの開発から」
「ここでソフトウェア面まで触れるのはボス以外に居ねぇんだよ! イグアス。お前もなんか言ってやれ!」
「……フレームだけじゃなくて、日常製品でシアターとかどうだ?」
「お前、まだ映画事業を諦めていないのか」
見当違いの方向に話を進めていたイグアスの意見はサラッと無視され、ファーロン・ダイナミクス出身のミシガンがさらなるミサイラー御用達を目指してガンガンと意見を出す中、カーラとラミーはカラカラと笑っていた。
「いや、オーバーシアーの隠れ蓑にしか過ぎなかったのにねぇ。賑やかになったもんだよな」
「皆が働いてくれりゃ、俺は好きなだけコーラル吸ってられるから最高だ!」
ラミーのパイプからは赤い煙が立ち込めていた。用心棒の仕事も無くなり、特に兵器開発も製造も出来ない彼を始めとしたドーザー達はと言えば。
「ぷぷぷぷぷぷぷ」
「ペペペペペ」
作業に当たらせるわけにもいかないので、ザイレムでコーラルを吸っては奇行を繰り返すロクデナシの生産性ゼロのウンコ製造機と化していた。平和からはみ出された者達の末路がそこにあった。……悲観的かどうかはさておき。
~~
「ペイター! 何ですか、この映画事業と言うのは!?」
社長室。ペイターを呼び出したスネイルは彼に企画書を叩き付けていた。内容は映画事業と言う利益が見込み辛い物であり、よりによって放映タイトルがロクでもない物ばかりだったからだ。
「ほら『ルビコニアンデスビートルVSルビコニアンアイスワーム』とか。コーラとポップコーンを摘まみながら見たくなりませんか? 家族向けのタイトルも作っているんですよ。ほら『ベイ太郎とアーキ坊やの夏休み』って」
「こっちはアニメ化も考えておくとしまして。……いや、待て。このヒロインの大豊娘々と言うのは何だ?」
「大きなお友達用に。ほら、割とウチも軌道に乗っているし、多角経営を」
何が腹立たしいかと言うと、軽く作ってきた脚本の中でヒロインの存在が大きい為か削除し辛い構成になっていたのが実に腹立たしいことであった。
しかし、スネイルとしてはアーキ坊やと言うデザインに妙に心惹かれるものがあった為、一旦保留にしておいた所。扉がノックされた。オキーフと1317だった。
「スネイル、別の惑星で新たな資源が見つかったらしい。その物質の加工作業に当たっていた連中の内部が色々と汚染されていたらしい」
「十中八九。コーラルと同じく、危険を含む物質なんだろうな」
「そうですね。傷付いた者達がいるなら、治療へと向かうべきでしょう。我ら毛髪再生局……いや、再生局が」
当初は毛髪を始めとして傷痍軍人のリハビリと社会復帰を目的とした、アーキバスの一部門に過ぎなかったが、惑星封鎖機構と合併したドサクサに紛れて逃げ込んで来たメンバーは、改めてスネイル達と合流して新たな企業を立ち上げていた。
今や、再生局。と言えば、戦闘行為によって傷ついた者達が向かう場所として幅広く知られていた。……最も戦争の恩恵を受けている企業。と揶揄されることもあったが。
「ちなみに。その新資源には仮で『644』と言う名前が付けられているらしい。また、何か起きるかもしれないな」
自分達の力が必要とされる状況が近付いている。その時は、この積み上げた力を存分に使うとしよう。それによって、自分達が持つ技術が進歩するというのなら幾らでも投資をしよう。……だが、不満もある。
「レイヴンの元へ帰れる機会は減りそうですね」
~~
『レイヴン! 起きて下さい! 遅刻しますよ!』
「レイヴン! 起きて!!」
脳内と脳外から同時に攻められ、レイヴンは静かに瞼を開けていた。目の前にはエプロンを掛けたツィイーが居た。
「おはよ」
「おはよじゃない! 学校の時間!!」
彼女に手を引かれて降りると、そこには登校に必要な一式を揃えているスウィンバーンと既に準備を終えているラスティ。それと、優雅にフィーカを啜っているウォルターが居た。
「戦友も睡魔には勝てないようだな」
「洒落とる場合か! ラスティ! 初日から遅刻するなよ! 早く、レイヴンを連れて学校に向え!!」
アルミホイルに包んだトーストやら何やらを持たせて、表に出る。運転席には六文銭が座っており、何時でも出られる状態にあった。
「いってきまぁす」
「行ってこい」
ウォルターを始めとして皆から見送られながら、レイヴン達を乗せた車は学校へと向かう。
「戦友。正直、私が教師と言う立場になれるとは思わなかったし、スネイルの方が相応しい気もするが。いや、アイツの場合は問題になりそうだから、やっぱりなしか」
「うめっ。うめっ」
トーストを頬張ってモゴモゴしている姿は控えめに言ってお行儀が悪かった。
教育らしい教育も受けていないので仕方ないと言えば、それまでなのだが。諦めてはいけない。だからこそ、教育を受けに行くのだ。
『一応、私も不味いと思ったら口出しはしますが、レイヴン。なるべく、騒ぎを起こさない様にお願いしますね』
「ふぁい」
多分、聞いていないし頭に入っていない。そんなことを確信せざるを得ない生返事を聞きながら、車は件の学校へと近付いて行く。
この時代、自分の子供を学校へと通わせることのできる者達は身分が高い者や富裕層に限られる。この工業学校もその内の一つであった。
「着いたぞ。良い1日を」
六文銭にも手を振り、レイヴンとラスティは学校へと足を踏み入れた。
工業学校ということもあり作業用のMTやACの姿も見られた。しかし、何処か遠くの出来事の様に思いながら、ラスティと共に校舎へと向かうはずだった。
「おい、なんか喧嘩しているらしいぞ」
校門付近でその様な話が聞こえたが、ラスティに連れられて遅刻しない様にと進んでいく。すると、二つのグループが対峙していた。
「ベイラムなんて斜陽企業の奴らは本当にセンスが古い。悪いけれど、こっちの校舎には入って来ないでくれよ」
「おぉ、選民思想が進んだアーキバス様のお坊ちゃんたちはカッコいいでちゅね~~。お父さん、お母さんが居ないと不安なのかい?」
よくある光景だった。親の権力を笠に着た子供同士の争い。ルビコンで地獄を見て来たラスティ達にとっては可愛らしいとさえ映る物だった。
彼らの争いを気にした風もなく、ラスティとは途中で分かれて教室へと向かう。教師が挨拶をして、生徒達が自己紹介をしていく。レイヴンの番も回って来た。
「レイヴンです。趣味はACです。よろしくお願いします」
この工業学校においては何も珍しくない趣味であり、クラスメイト達も慣習的に拍手を送るだけだった。
授業のカリキュラムや学校の紹介、団体などのレクリエーションが進んでいく。その中で、ACの動かし方などを学ぶシミュレーターが収まったルームを紹介された時のことだった。
「オラッ! ベイラム程度相手になるかよ!」
「畜生! 次! 誰かいねぇのか!」
今朝、校門付近で争っていたメンバーの中に居た少年達が自分達の優位性を示す為にシミュレーターで争っていた。状況を見るにアーキバス側が有利であるらしい。
「今は使用中の様ですね。使う際には申請の許可と……」
『レイヴン?』
教師が説明をする中。レイヴンは空いた筐体の中に入って行った。
あまりにも突然のことだったのでベイラム側の生徒も呆けているまま、シミュレーターの試合は始まった。……結果は言う必要もない程の秒殺だった。
「てめぇ!」
それなりに腕があったのだろうか。自らの敗北を認められない少年が筐体の中を覗いた所、そこには可愛らしい少女が1人。
「えへへ」
必死さの欠片も無い。まるで、飼い犬を撫でたかのような微笑みを浮かべていた。そんな彼女を見て、固まったアーキバス側の少年を心配する様に取り巻きが集まって来たが、レイヴンはさっさと生徒の列に混じって施設の紹介について行った。
「あ、おい! 待て! 名前を!」
彼が手を差し伸べたが、それよりも先にベイラム側の少年達が教室を出て行った。無論、彼女を確保しに行く為である。急いで、アーキバス側の少年達も駆け出して行った。
ルビコンで起きた争いとは比べるべくもない、可愛らしい物でもあったが。彼女の戦いは今後も続いていく。そんな予感を感じさせる入学初日だった。
これにて、レイヴンちゃんのルビコンでの物語は終わりです。今後も学生として彼女の日々は続ていくかもしれませんが、AC6を題材とした話はこれで締めさせて頂きます。5か月に渡る応援ありがとうございました!