戦え! 超強化生命体傭兵レイヴンちゃん!【本編完結】 作:ゼフィガルド
ウォッチポイント・デルタ。レイヴンがエアと出会った場所であり、現在はカーラ達がミサイルの発射準備をしていた。
ジャンカー・コヨーテス達も阻止せんとMTで接近して来るが、防衛タレットに加えてレイヴンとイグアスが居るのだから、突破できる訳が無かった。
「よわーい!!」
「今回の任務は楽が出来そうだな」
惑星封鎖機構のLCや軽装歩兵(エクドロモイ)。名だたるAC乗り達を打ち倒して来たレイヴンにとって、たかがドーザーの駆るMTが相手になる訳が無い。
コーラルをキメても目を逸らせない圧倒的な現実を前に、ジャンカー・コヨーテスのドーザー達は声を荒げていた。
『おい! 惑星封鎖機構の連中は何をしてんだ!? 俺達の奉仕活動に協力してくれんじゃなかったのか!?』
『話が違うじゃねぇか! 畜生! アイツを呼べ!!』
惑星封鎖機構もハナからドーザーに力を貸すつもりなど無かったらしく、ドローン達がやる気なくレーザーを放っていたが、当たり前の様に撃墜されていた。
「ボス、ミサイルの発射シーケンスはサブミサイルも含めて順調だ」
「紹介がまだだったね、ビジター。チャティはウチのシステム担当だ。無口だが仕事の出来る奴だ。連中もビビッて近付いて来なくなったし、何か一つ。ジョークでも言ってくれよ」
いわゆる無茶振りと言うやつである。レイヴンもイグアスもそんなユーモア差を持っている訳がない。
『レイヴン。ジョークとは一体?』
「わかんなーい。イグアスおねがーい」
「は!?」
「ほらほら、円滑なコミュニケーションも仕事の内だよ!」
イグアスは悩んでいた。もしも、これが五花海ならスラスラと答えられたのだろうが、自分はそんなウィットは持ち合わせていない。ならば、以前聞き流したジョークを拾い上げて、お披露目するしかない。
「虫は1匹。ACやMTは1機って数えるよな。じゃあ、犬は?」
「1匹?」
「答えは1着、2着だ!」
「………………」
「ボス。今の回答はどういうことなんだ?」
かつて、博徒をしていた頃に聞いたドッグレースに関するジョークだったが、物の見事に受けなかった。
痛ましい沈黙が走る中、チャティだけが解説を求めたが、赤っ恥を掻かされたイグアスは激昂した。
「お前らが言えって……」
しかし、彼は最後まで言い切ることなくレイヴンの機体に蹴り飛ばされていた。直後、無事だった2基のサブミサイルが破壊された。
「なっ!?」
「流石はウォルターの猟犬だな」
『レイヴン。この気配は!』
恐らく、彼は最初からこの戦場に居たのだろう。ジャンカー・コヨーテス達が無駄な突撃を繰り返している間に忍び寄り、完全に油断する時を待っていた。
赤と黒が絡み合う様な配色を施された痩身の機体。かつて相対した時とは装備も一新されていた。両肩には2連装砲グレネードキャノン『SONGBIRDS』。両手にはベイラムが誇る重ショットガン『ZIMMERMAN』。
「スッラ!!」
「まさか、今度は俺が攻め入る側になるとはな」
レイヴンが叫んだ。劣悪な施術環境で生き残り、今もなお戦い続けている古強者。独立傭兵スッラだった。
彼はAC達に目もくれず、目標物であるミサイルに銃撃を加えていた。重ショットガンの至近距離での威力がどれだけ強力かというのは、ルビコンにも広く知れ渡っている。
「させるか!」
「撃てるか? 狂犬」
スッラはミサイルを背にしていた。彼を目掛けての攻撃を外せば、そのまま護衛対象へのダメージにも繋がる。判断の躊躇と言う間隙に付け入る様に、イグアスの頭部に不可解な痛みが走った。
「(畜生。耳鳴りがする。頭が痛ェ)」
「ほぅ、このガキもそうなのか」
老兵は目の前にぶら下げられた餌に食い付こうとはせずに依然としてミサイルへの攻撃に終始していた。さながら、イグアスの存在など目に入っていないかのようだった。
「そこから離れろ!!」
アサルトブーストを吹かして、スッラの機体を蹴り飛ばした。ミサイルから距離を取ると、2機4丁の重ショットガンによる鉛玉の暴風が吹き荒れた。
「チャティ! 照準の精度はどうなっている!」
「95%だ。多少ブレるが、このままでは破壊されかねない」
「行きな!」
カーラの決断は早かった。スッラの奇襲により損傷したミサイルは、目標であるジャンカー・コヨーテスのグリッドを目掛けて飛翔するが。
「させんよ」
レイヴンと交戦していたスッラは、飛翔するミサイルに目掛けて『SONGBIRDS』を放った。直撃こそはしなかったが、精緻なコントロールを必要とするミサイルの軌道がずれるには至った。
一瞬の隙も許されない交戦の中で、スッラは依頼達成の為の一手を打っていた。このままでは目標へとは届かない。
「ボス。軌道が逸れすぎている。修正が必要だ」
「どうすりゃいいんだ!?」
2機の戦いに入り込めないイグアスが痛みを掻き消す様にして吠えた。既に機体のアサルトブーストを吹かして、自身もミサイルへと接近していた。
「よっし! 上方向に蹴り飛ばせ!」
「分かった!」
蹴った時の衝撃でミサイルが爆発しないのか。あるいは、自身がミサイルを破壊してしまわないのか。という不安は一切浮かばず、カーラに言われた通りにミサイルを蹴り飛ばした。
すると、どうだろうか。逸れていた軌道は僅かに上向き、そこから高速で修正が入り……ミサイルはグリッドに着弾した。
「俺の負けか」
「うん。私達の、勝ち」
互いに継戦は可能だったが、片方の目標が達成された以上。意味のない交戦は互いに望む所では無かった。
「独立傭兵スッラ。どうして、アンタがジャンカー・コヨーテスなんかに雇われているんだ?」
「前金を貰っているからな。もっとも、修理費と弾薬費で消えそうだが」
独立傭兵は金さえ払えば、勢力に関係なく就きはするがドーザーの連中と契約を結ぶメリットは薄い。彼らはケチだからだ。
スッラの言葉を聞いたカーラの雰囲気が険しい物になって行く。前金を払う様な金払いの良いドーザーなど、数少ない。
「ソイツの名前。オーネスト・ブルートゥっていう奴じゃないのか?」
「知り合いだったのか。では、もう一つ伝言だ。カーラのご友人と会える日を楽しみにしています。だそうだ。俺は伝えたぞ」
スッラは作戦の失敗を悟ると、この場から去って行った。
2基のサブミサイルの他、防衛の為に設置したタレットの数々も破壊されており、たった1機によりここまで荒らされたことを考えると。スッラと言う独立傭兵の恐ろしさが伝わって来た。
一方、レイヴンはミサイルが着弾したグリッドを見ていた。的確に撃ち込まれた為か、バランスが崩壊して建造物の破片が落ちていく。
『綺麗な流れ星ですね』
「よだれみたい」
せっかく、ロマンティストに決めようとしたのに風情もクソもないことを言われたので抗議しようかと考えたが、心拍数を始めとしたバイタルが緊張状態であることを示しているのを見て、エアは驚いていた。
『レイヴン?』
「スッラ。凄く強くなっていた」
第1世代強化人間の生き残り。かつて、レイヴンとはこの場所で相対したと聞いたが、彼はここの護衛を仰せ付かっていただけだったのだろうか?
「ハァ、ふぅ。おい! 依頼達成したんだから、約束は果たせよ!」
「分かっているよ。イグアスだっけ? アンタの相棒をグリッド086まで連れて来な。私がRaDの流儀を教えてやるよ!」
作戦後の交渉に入っているイグアス達を傍目に、レイヴンは震える手でコーラルを吸引していた。