戦え! 超強化生命体傭兵レイヴンちゃん!【本編完結】 作:ゼフィガルド
1人の少女と1人の少年だった男の日常
レイヴンが学校に通い出してから数日。校内ではある程度のグループや人間関係が築かれており、その大半は保護者が持つ権力や立場に依る物だった。
『ベイラムグループ』と『アーキバスグループ』に大別されており、何かに付けて対立していた。関係のない生徒達は遠巻きに見守り、教師陣も我関せず貫く中、レイヴンは両グループのトップに挟まれていた。
「レイヴン、ウチのグループに来い。お前なら、このデイヴィッド様の取り巻きにしてやる」
角刈りの金髪と碧眼。少年ながらも鍛えこまれた肉体をしており、スクールカーストの頂点。ジョックに位置するということは一目でわかった。
彼の隣には、黒髪ツインシニヨンの大柄な少女が控えていた。デイヴィッドの引き絞られた肉体とは対照的だった。そして、雰囲気までも正反対と言えた。
「お団子もあるよ」
「なにそれ?」
デイヴィッドの話には一つも興味を持っていなかったが、大柄な少女が取り出した白くて丸い有機物には惹かれたようで、手を伸ばそうとした所で掴まれた。
「レイヴン。そんな安っぽい物に釣られてはいけない。君は僕達と一緒に高みへと来るべきだ」
彼女の手を掴んだのは、銀髪オールバックに眼鏡を掛けた神経質そうな少年だった。何処となく知り合いと似通った雰囲気を感じさせる容姿にレイヴンはジィっと彼の顔を見つめていた。
「レイヴンはアークさんに一目惚れです。間違いありませんね」
アークの取り巻きを代表する少年はヒョロヒョロのノッポだった。だが、何故か眼力だけは異様に強く、他者に物を言わせない圧力があった。
しかし、デイヴィッドが怯む訳もなく。両社、両者が一触即発の状況になっている中、レイヴンは彼らの気も知らず大柄な少女から団子を受け取っていた。
「うめっ、うめっ」
「はい、食べたからこっちね」
ほんわかした雰囲気の様に見えて、シッカリと側近としての強かさはあるらしくレイヴンの腕を引こうとした所で大声が響いた。
「レイヴンンン!!! 早く食堂に来い!!!!」
「うわ。ボンバー・マリーだ」
教室の入り口にいたのは、レイヴンと大して身長も変わらない少女だったが、体内の何処かにアンプが仕込まれているんじゃないかと言う位の爆音声量が特徴的な少女だった。
「今、行くー」
デイヴィッドとアークの争いを放って、彼女はドタドタとマリーの方に付いて行った。一連の光景を隅で見ていた黒髪の少年はポツリと呟いた。
「アイツら。連日やって飽きないのかよ……」
~~
マリーに連れられたレイヴンがやって来たのは食堂……ではなく、中庭だった。先程の様に絡まれるのを避ける為である。
「レイヴン!! なんで、嫌だって言わないの!!」
「興味ないって言ったのに絡んで来る」
『一応、嫌だとも言っているんですけれどね。改めて、レイヴンが如何に素直であったかが分かりますね』
持たされたランチボックスの中に入っていたサンドイッチを一心不乱に頬張り、ペットボトルの水で流し込んでいる。
「もっとゆっくり食べなよ!! 誰も取らないから!!」
「え? 早いの?」
『こればかりは癖ですからね。中々取れません』
エアが覚えている限りでは、ルビコンでの食事と言うのは如何に流し込むか。と言う物が基本的であり、ミールワームに関しても味わって食べていたというよりも遊びながら食していたという方が正しい。
アーキバスやベイラムに居た頃には企業から食事が提供されていたが、長年染み付いた早食いの癖は矯正し難い物だった
「そう! もっと!! ゆっくり!!!」
『出来れば、貴方はもっと静かに……』
入学初日。何故か、レイヴンはこの異常に声量の大きい少女に絡まれて以来、こうして行動を共にしている。どういった思惑があるのかと思い、心の中を読んでみたこともあるが。
【そんなに早く食べるなんて私と一緒に居たくないのかな。ひょっとして、さっき無理矢理連れて来たこと怒っているのかな……。もしかして、声が大きいのが嫌がられているのかな。でも、作業場が爆発音ばっかりで煩いから、大声出さないと何も聞こえないし】
「分かった」
「ヨシ!!!」
声量とは裏腹に胸中に秘めた考えは、気弱な少女然とした物だった。
サンドイッチを咀嚼しながら、レイヴンの視線や注意は色々な所に散っていた。ルビコンに居た頃は、周囲の思考は似た様な物だったので聞き流すことも多かったが、ここに関してはあまりにも色々な思考が錯綜していたので興味津々だった。……となれば、必然。目の前の話題には集中しなくなる訳で。
「レイヴンちゃん!! 私の話!! 聞いている!!?」
「聞いている。聞いている」
一つサンドイッチを食い終えた後、集中力を上げる為にコーラルを吸う……訳にも行かないので、代わりに葉巻状の焼き菓子を取り出して咥えていた。
煙が出る訳もない所か吸引しても呼気が通り抜けて行くばかりである。吸引した物を吐き出せば、焼き菓子のカスがマリーの顔へと降り注いだ。だが、特に気にした風もなく話を続けていた。
「それでね!! 私ね!! 将来可愛いバズーカを作ろうと思うの!!! 女の子でも持てるタイプの!!!!」
「SONGBIRDSじゃダメ?」
「駄目!!!!!! アレは世間(パンピー)に流(おど)されて作らされた物だからよくない!!!!!!」
『彼女は独特な喋り方をしますね』
レイヴンもルビコンに居た頃はSONGBIRDSを愛用していただけに、否定されてションボリしていた。
「良いと思う!」
「でしょ!!!」
『何も考えてない返事の常套句ですね』
大人がやっていたら笑えない会話でも少女同士ならば幾らか微笑ましく見えた。しかし、こんなバカでかい声で話していたら当然注目も集める訳で。
「うぉおおおおお!! 何の話をしているんだ!!!」
彼女らのクソデカ声量を聞いて1人の男子が駆け付けていた。
とりあえず騒ぎを聞いては駆け付けて来ることから、ミサイル・ハロンと言うあだ名を持つ坊主頭の少年だった。
「可愛いバズーカを作りたい!!」
「すげぇ!! こっちはデカイミサイルを作るからな!!」
「すごい!!」
『レイヴン。合わせなくても良いんですよ』
もはや会話じゃなくて鳴き声みたいになっているが、当人達が楽しそうなので周囲は距離を取りながら放っておくことにした。
~~
「ただいま~」
「お帰り」
六文銭が運転する車に乗って帰宅したレイヴンはツィイーに迎えられていた。ラスティはまだ教員としての仕事がある為、帰れない。
「待て。レイヴン、今日は小テストを受けたはずだ。答案を出せ」
手洗いをして部屋に行こうとした彼女を、スウィンバーンが引き留めた。
多少迷いはしたが、観念したようにバッグの中から取り出したタブレットを渡した。バッグの荒れようを示すかのように、タブレットの表面には食べかす等が付着していた。して、画面の方を見れば暗澹たる回答が並んでいた。
「まず、隠さなかったことは褒めよう。それにテストの点が悪いからと言って別に怒ったりはせん。学び始めたばかりのお前には間違える権利があるのだからな」
「……そうなの?」
そもそも、彼女はテストが何かすら分かっていなかった。
ただ、周囲の不安そうな声や意見から見せては不味い物。ということだけを漠然と感じていたが、エアからの勧めもあって隠すことはしなかった。
「間違えたのなら学べばいい。幸い、我々には時間がある。どれ、問題も合わせて見てみようか」
スウィンバーンだけではなくツィイーも同じ様に画面を覗き込んでいた。
レイヴンよりも年上であるが、長らくルビコン解放戦線に身を置いていた彼女は教育と言う物を殆ど受けていない。故に、レイヴンが持って帰って来たテストと言う物についても興味深そうにしていた。
「まずは文字の練習からか。幼稚舎の間に住んでいるだろうこともキチンと復習する良いカリキュラムだな。レイヴン、パーツを選ぶ際は文字の形だけを覚えていたのだろうが、キチンと意味も含めて憶えねばならんぞ」
「が、頑張る」
戦場では彼女に手も足も出なかったスウィンバーンが、日常では彼女に手取り足取り教えているというのは環境の変遷を感じさせるものだった。隣ではツィイーも同じ様に文字を書く練習を始めていた。
そんな様子を見ながら、六文銭はそっとキッチンに上がり料理の下ごしらえを始めていた。
~~
「ホーキンス。621の状態についての報告を」
「今の所は直ぐに現れる問題は無いだろうけれど、彼女は強化人間として特殊だ。何せ幼少の頃から改造されているなんて聞いたことが無い」
再生局。ウォルターはホーキンスに案内され、レイヴンの身体情報を閲覧していた。
ルビコンにいる間は何もなかったが、今後も何もないとは限らない。ある日、唐突に身体に異変を来すことだってあり得る。
「普通は強化手術に耐えられないからな」
「だから丁寧に彼女の肉体を作り替えて行ったんだろうけれどさ。スネイルだって、彼女に何かがあった時の為に再生局で研究を続けているんだから」
「助かる。俺にはそこまでの経営手腕は無いからな」
ウォルターの年齢的にも何時までもレイヴンと一緒に生き続けられる訳ではない。少しでも、彼女の周りに信頼できる者達を作っておきたかった。
「……で、どう。彼女は楽しそうにしているかい?」
「恐らくな。同年代の友人も出来たらしい。学校での話を俺達にもしてくれる」
そう語るウォルターの表情は、ルビコンで決して見せることの無かった慈しみに満ちた物だった。
「良かったね。こんな日々が続く様にボチボチとやらせて貰うよ。……それと、こっちも。ルビコンのコーラルのデータ。今の所は穏やかな物だよ」
RaDから定期的に送られてくるデータを見ても、ルビコンも穏やかだった。
自分がなすべきことを成し遂げた達成感から燃え尽きるかと思いきや、ウォルターの中でも残りカスの様な欲望が出て来た。
「では、俺は暫くこの余生を楽しませて貰おう」
「そうして欲しい。あ、ペイター君が申請した映画の脚本なんだけれど。スポンサーが見つかって実現しそうなんだって」
自責や贖罪からも解き放たれて、失われた時間を自分勝手に生きてみよう。
共に駆け続けたパートナーが見せてくれているのだから自分もやってみるべきだと。ウォルターは暫しホーキンスとの談笑に興じていた。
では、皆さま! コーラルと共に在れ!