戦え! 超強化生命体傭兵レイヴンちゃん!【本編完結】 作:ゼフィガルド
2月14日。バレンタインデーと呼ばれる祝祭の日は、企業の思惑とマーケティングにより、女性が男性へと成果を送る日へと変わり果てていた。
レイヴンが通う学園でも、初等部の女子生徒から教員達まで様々な思惑が錯綜し、騒がしくも楽しく終えたあの日から1か月が経とうとしていた。
「レイヴンちゃんッッ!! もう直ぐホワイトデーだねッッ!!」
「なにそれ?」
今日は、ハロンを除いてマリーと二人だけで昼食を取っていた。
最近は落ち着いて食事を取ることも覚えたのか、ペースを合わせるという気遣いを見せるにまで至っていた。
「バレンタインデーにはねッッ! チョコを渡した相手からのお返しがあるのッッ! 楽しみだねッッ! レイヴンちゃんは欲しい物とかあるッッ!?」
何も知らない人が見れば恫喝している様に見える光景であるが、会話内容自体は至って平凡な物である。レイヴンは視線を彷徨わせて、暫く考えたが首を横に振っていた。
「特にない」
「可愛い洋服とかッッ! アクセとかッッ! そう言うのも無いのッッ!?」
「ない」
元より、彼女はオシャレに無関心である。そう言ったことを覚える間もなく戦い続けていたのだから仕方がないと言えば、そうなのだが。
そもそも、彼女はウォルターの猟犬をしていた頃の蓄えもあり、その気になればどんなブランドの服やバッグでも購入することが出来る。だが、物欲らしい物は殆ど無かった
「じゃあ、レイヴンちゃんは普段何してるのッ!?」
「宿題したり、テレビ見たり、皆と話したり、映画見たり」
「映画ッ! 良いじゃない! 何の映画を見ているのッッ!」
「イルブリード」
マリーは直ぐにスマホを取り出して調べ始めた。こういった時に直ぐに調べる積極性は、この学園の生徒らしい物だった。なお、検索結果。
「クソ映画。製作陣はヤクキメながら作った。捨てる所のないゴミ。……レイヴンちゃんッッ!! もっと他のを見ましょうッッ!」
「他のも見ている。地獄甲子園」
「うんこ映画。画太郎も吐いた。終盤で眼鏡が主人公を庇い、毒バット攻撃を受けたシーンは涙なしでは見れませんでした。……レイヴンちゃんッッ!!!! もっと普通のを見ましょうッッ!」
「クロマティ高校」
マリーはレイヴンの家庭は和気藹々とした物だと思っていたが、途端に虐待さているのでは? と言う疑念が湧き上がっていた。
~~
「本来、ホワイトデー等と呼ばれる日がベイラムの経済圏での限定的な物日であることは、まぁ良いでしょう。学園の出資者にはベイラムグループの者達も居ますからね」
毛髪再生局。再生医療をメインとした企業の社長室には、呼んでもいないのにペイターと1317がやって来ていた。
「社長! 出来る男は返礼品が違うんですよね。高価な金品やアクセサリーを贈答すりゃ満足するだろうという手は使えません。レイヴンに取っちゃ、そんなモンに価値はありませんからね!」
「おや。彼女から貰っていないのに気にするんですね」
スネイルがチクチク言葉で攻撃するが、ペイターは全く気にした様子も無く、壁面のモニタで動画を再生していた。
それは、ルビコン時代の彼女の部屋を映していた物だったが、部屋にはミールワームの飼育ケースがある位で、他には脱ぎ散らかされた衣服があるだけのやや殺風景な部屋だった。
「見て下さい。この趣味らしい、趣味も無い彼女の部屋。彼女へのプレゼントチョイスは相当に難しいでしょう。無難に行くならクッキー辺りを返せば良いでしょうし、高級な焼き菓子位は直ぐに手配できることでしょう」
実際、先月のバレンタインデーにおいてチョコを贈答して来た企業には返礼品として焼き菓子を手配している。あくまで社交的なやり取りにしか過ぎず、そこにスネイルの思惑が入る余地は殆ど無い。
「何か考えがあるのですか?」
「えぇ!! とっておきが!!」
バンとスネイルの机に叩き付けたのは有給申請だった。
腹立たしいことに、普段は社長を社長と思わない嘗めた口を利くが、その働きぶりは社内で随一と言っても良かった。……その隣では1317も控えめに有給申請を提出していた。
「具体的何をするか話してみなさい」
「これから、私達はレイヴンのホワイトデーのプレゼントとして……惑星ルビコンで『イルブリードⅡ』を撮影しに行くんですよ!!!!!!!」
一瞬、ペイターが何を言っているか理解できず、スネイルは今の言葉を脳内で反芻していた。何度考えても、含みや隠喩的な解釈は出来ず、そのまま受け取る外なかった。
「そうですか。有給が切れる前には帰って来なさい」
「今回の撮影にはスポンサーにウォルター! スウィンバーン! が付いているんですからね! キャストにはエアさん。そして、現地のドーザー達も盛り込んだ一大スペクタクルホラーになるんですよ!」
何も期待できないのだが、本人達がやる気ならば好きにさせよう。自分は別にホワイトデーのプレゼントを考えることにして。
「では、業務の引継ぎだけを」
「スネイル。貴方も行くんですよ! 体で返すんですよ!」
「何をする! 私は企業だぞ!!」
不遜も不遜であるが、ペイターはスネイルにも強制的に休暇を取らせていた。彼らがルビコン行きの船に乗り込んだのは、その日の内の話であった。
~~
今回、エアがルビコンでイルブリードⅡに出演することを決めたのは、バレンタインデーに義体を貰ったお返しがしたいというのが大きかった。
レイヴンと一緒に映画を見て、映画を見て、映画を見て。悉くが面白くないか、ストーリーや世界観が把握し難い物ばかりだったが、隣で彼女が笑ってみているということが何よりも大きかった。
「良いですか! 今回の映画の出来で、イルブリードは現代に蘇るかもしれないのです! 配給は出来ないにしても動画を広める手段なら大量にある!」
グラサンに帽子を被って、形からだけでも監督になり切っているのか。ペイターは安っぽいプラスチックのメガホンを持って叫んでいた。
「野郎ども! この映画のスポンサーには『RaD』って文字も入るんだ! 気合入れて行くぞ!」
「最高ッだぁ! イルブリードは甦るんだ!」
「なんかよくわからねぇけれど、コーラル行っとくか?」
カーラを始めイグアスや他のドーザー達もノリノリだった。イマイチ乗り切れない者達は苦々しい顔をするばかりだった。
キャスト達に台本が渡され、イルブリードⅡが如何な物語であるかが記されていた。ウォルターやエア達も読み込んだが、一つ言えることがあるとすれば。
「何だ、これは」
「書いている側が楽しいだけの話ですよね?」
辛辣な評価が下されるばかりだった。
『惑星イルブリード』に眠るという新資源を求めて、アクィバスとベイツから派遣された企業戦士達が日夜争いを繰り広げていた。
周辺環境を顧みない、彼らの傲慢な採掘作業により、遺伝子に変異を来した原生生物が人を食らっていく……と言う、企業名から見ても分かる通り全方面に喧嘩を売るタイプの映画だった。
「うるせぇ! お堅い話なんて配給会社にでもやらせとけ! 私はね! 現代のイルブリードが撮りたいんですよ!」
ペイターが熱く語っていた。今回、主役となるのはエアだった。
彼女はベイツが広報活動の為に連れて来たマスッコトガールとも言える存在であり、煽情的な肢体を強調するスリットの入った服を着こんでいた。
こんな流れ弾が飛び交うかもしれない戦場に来たのには訳があった。エアが演じる『エーリカ』は、幼い頃に戦場を行き交っていたので恐怖心が麻痺してしまっていた。ここならば、失ってしまった恐怖心が蘇るかもしれない。そんな一縷の望みをかけて、足を運んで来たのだ。
「1日目はカメラスタッフと共に兵士達を鼓舞する為に前線へ行くんですね。普通ならばやらないんですが、彼女は恐怖心が麻痺しているので問題ありません」
普段は交戦音が絶えない戦場であったが、今日に限っては嫌になる程静かだった。敵も味方も誰も通信に応答しない。
疑問に思った兵士が基地へと突入すると、間もなく悲鳴が聞こえて来た。何があったのか、エアが演じるエーリカが様子を見に行くと。そこには、虫に寄生された兵士の姿があった。
アクィバスのマスコットであるアーキ坊や(中身はスネイル)が正に襲われようとした所。エーリカは颯爽とスリットから見えるホルスターから拳銃を引き抜いて、兵士の頭を打ち抜いていた。
「き、君は?」
「私はエーリカです。この惑星で何が起きているのですか?」
この寄生虫はミールワームと言い、人々を糧とする凶悪な性質へと変貌していた。この惑星に閉じ込められたエーリカとアーキ坊やは生きて奪取するべく、ルビコンを奔走する。
ある時は、翼を生やした全方位にエネルギー弾を放って来るワームが居た。また、ある場所には強靭で鋼鉄の節足を持ちながら、飛翔も出来るワームが居た。地中を食らい氷原を爆走するワームに大地からエネルギーを吸い取るタイプや諸々。
「おい、ペイター。これは621の記録ではないのか?」
「こんなバカげた話。物語に使わない手は無いでしょう!」
彼女がやった事を再現しても荒唐無稽にしかならない辺り、如何にこのルビコンで起きた話が馬鹿げた物だったかがよく分かる。
そして、物語の終盤。実はこの惑星は、カーラ演じる『ケイト・レイノーア』が建設した惑星規模のテーマパークであり、新資源も客達をおびき寄せる為に作り上げたのだという。
「欲の皮が突っ張った奴らがくたばって行くのを見るのは気持ちが良かったよ! やっぱり、スリリングテーマパークにバカは付き物だからねぇ!」
「許せません。人の命を何だと思っているんですか!」
「消えろ! 害獣!!」
すっかり、マスコットの愛くるしさを失った二人は物騒な武器をケイトに向けて発砲したりと。ホラーの割にはアクションシーンと濡れ場が多めだったので、あんまり見せたくなるような物でも無かった。
また、ことあるごとに下劣な話や揶揄と取られかねないパロディも随時挿入されていた。撮った映像を見る度、RaDやペイターの様なイカレポンチ達は笑顔を浮かべ、真っ当な人間はゲンナリするばかりだった。
「レイヴン。それでも、私は貴方が喜んでくれるなら……」
「帰ったら覚えていろ」
主役として体を張っていた2人は無茶苦茶とも言えるスケジュールをこなして、ペイター達の有給と言う限られたスケジュールの中でみっちりと詰め込み、CGや映像加工も加えて……。何とかホワイトデーには間に合っていた。
「完成だぁああああああああああ!」
カーラも誰も彼もがヘロヘロになっている。会計をしていたスウィンバーンは殆ど無言になっていたし、なんならウォルターは途中で帰っていた。
「皆さん。ありがとう、ありがとうございます!」
ペイターが感涙に咽び泣く中、彼とは対照的に精魂尽き果てたエア達は帰りの船の中で泥のように眠っていた。……そして、ホワイトデー当日。
上映会は彼女の家で行われた。不幸なことにマリーが巻き込まれていた。内容のナンセンスさに彼女が青褪めて行く中、レイヴンは目を輝かせて言った。
「クソ!!!」
「残念です」
エアとしても分かり切っていたことだが、笑ってクソと言えるだけマシかもしれない。……真っ当なホワイトデーのプレゼントは他の人達の物を期待しよう。エアは全てを投げ捨てていた。