戦え! 超強化生命体傭兵レイヴンちゃん!【本編完結】 作:ゼフィガルド
ホワイトデー近く。アホ共が心血を注いで駄作を作っている中。真っ当に準備をする者達が居た。RaDに移籍したミシガンへと連絡を入れていたハロン少年も、その一人だった。
「ハロン坊やもプレイボーイになったな! メリニット社の令嬢にレイヴンまで惹き付けるとは!」
『不思議なことに気が合うんですよ! でも、シミュレーターじゃあレイヴンに負けちゃうし、世間的な知識やトレンディはマリーに負けてしまう! だから、俺は持ち前のお勉強を見せてやりたいんです!』
ACやMTのシミュレーターでレイヴンに勝つのは大人でさえ無理だし、ベイラムのレッドガン部隊ですらボコボコにされていたのだから仕方ないにしても。
世間の常識や流行については、堅物気味のハロンは不得手としている部分だった。しかし、持ち前の真面目さを使って追い付こうとしている気概にミシガンは感銘を受けていた。
「良いだろう! 馬鹿共がスプラッタホラーで挑むなら、こちらは甘酸っぱいラブコメディだ!」
『(バカ共? って誰だろう?)』
こんなやり取りをしている中、ミシガンの傍ではイルブリードⅡの撮影が行われているのだが、絵面が非常に良くない為。ミシガンは意図的に映さずにいた。
さて、ハロンがミシガンへと連絡を入れたのには理由がある。彼もまた幼いながらインターネットなどを自由に使えるのだから、ホワイトデーのお返しを調べる程度なら出来るし、それなりの贈答品に関しては両親に頼れば相応の品を用意して貰える。
ただ、それはあくまで形式的なお礼に過ぎず、この学園内で取引される物にしか過ぎなくなる。ということを嫌った、可愛らしい反骨心から来る物だった。
「やい、ミシガン! 何か楽しい話をしている様だね! その声、ひょっとして。ハロン坊やかい!」
『食堂のおばさん!』
「これはとっておきのゲストの登場だ!」
レッドガン部隊が全員解雇された際、何故か食堂に居たおばさんまで一緒にRaDへと付いて来ていた。
彼女のお陰で、ドーザー及び元レッドガン部隊の食事情が多少改善しているのはさておき。やはり、料理の心得がある者がいるとなれば、心強くはあった。
『おばさん! 実は返礼品として送りたい物は決めているんだ。自分で品物だけは決めておきたいからね』
「そうかい! なら、話も早い! 言ってみな!」
ミシガンは頷いていた。もしも、返礼品を何にすればいい? と、ホワイトデーのプレゼントの選別までコチラに振って来るようであれば、お叱りを入れるつもりだったが、キチンと考えていた。
彼が提案するプレゼントは至って普通な物であった。だからこそ、作り手側の丁寧さ真摯さが求められる物でもあった。
「そうかい。その様子だと、材料はキチンと揃えているんだね!」
『小麦粉やアーモンド。調味料は一通り揃えたからね!』
「よし。じゃあ、そのまま撮影モードのタブレットを立てて起きな。私とミシガンが見ておいてやるよ!」
あくまで必要なのは最低限の支え。少年の誠実さを微笑ましく見守りながら、背後では少年ハードを忘れないだけのおっさん達が見るも無残な映画の撮影をしていた。
「この無人都市ザイアームにケモ娘を生み出そうとして、やって来る企業人達を捕まえて改造する異常性愛者ドルマーヤと生み出された失敗作フレディがですね! エーリカが理想的な姿をしていることを激しく憎む濡れ場が挟まるんですよ!!!」
「そうだエーリカ!! お前は全身に透き通る様に美しい白毛を生やした後、人間のことを無条件に愛でるヒトナーにならなくてはならない!!」
ペイターの演技指導の下。ドルマヤンの狂気が惜しみも無く発揮され、イルブリードⅡには僅かながらの面白さが付与されていた気がしたが、外野から眺めているスッラ達は只管に白い眼を向けていた。
「久々に惑星にやって来たと思ったら。アイツらは何をしているんだ?」
「レイヴンに返礼する為の映画撮影をしている様です。ストーリー、カメラアングル、演技は揃ってクソですが。義体エアの美貌とアクションと演出だけでゴリ押ししている映画ですね」
何時の間にかちゃっかり義体を用意していたオールマインドによる冷静な分析からクソと言う結論が導き出されていたが、そんな物。彼女に頼らなくても、この場にいる誰もが分かっていた。
「なるほどな。若い奴はこういうのが好きなのか。イグアスの坊やも喜んでいる」
「何の為にその衣装にスリット入れたと思ってんだ! もっと、見せるように倒れろ!!」
ペイターの横で副監督みたいなツラして叫んでいる戦犯2を見守るコールドコールの眼差しは、お爺ちゃんの様に優しさと諦観が混じっていた。
「ぐぬぬ。どうして、私は出られないのだ」
「今の時代。やっぱり映像的にはロリは難しいらしい」
スッラの冷淡な解説に歯ぎしりをした。未だに奇妙なロリボディから解放されないセリアは映画にも出演させて貰えず、編集ばっかりを任されていた。
「さぁ、ご友人への贈答品です! 我々も盛大にやりましょう!」
「レイヴンには借りがあるからな!」
「操縦は任せろ!!」
『バンブローの話もあるから、惜しみも無く巨大メカを作れるというのは嬉しいな。ただ、AC戦は金が掛かり過ぎるから無理だが』
撮影に全面協力しているRaDの面々は技術力とノリを惜しみも無く使い、テーマパーク惑星イルブリードの恐ろしい装置とロケーションを次々と生み出していた。ブルートゥが装置を全面的に設計し、建物などはダナムが作成していた。
これらの機体を酩酊状態のラミーが操縦することにより、挙動不審な動きはホラーらしい不気味さを伴う様になっていた。
「フフフ。この時の為に大量のフォロワー数を持つアカウントも購入しておきました。拡散力は抜群ですよ。フラットウェル氏も協力してくれたら、もっと拡散できたんですけれどねぇ?」
「品性を疑われるからやらん」
拡散する為の布石は五花海によって打たれていた。フラットウェルにも打診はあったようだが、当然の如く断られていた。
そんな物ばっかり協力させられているんだから、レッドガン部隊の面々が知り合いの男児のコイバナっぽい方に興味を引かれるのは無理もないことだった。いつの間にかミシガン達の周りには、ナイルやヴォルタ達まで集まっていた。
「ハロン。そっちでレイヴン達はどんな感じなんだ?」
『シミュレーターの授業については無茶苦茶に強くて、彼女だけ先生が相手しているよ。後、運動神経も良いけれど。座学はビックリするくらいに出来ない!』
元・ハウンズとして、レッドガン部隊で一番付き合いのあったナイルとしては予想通りだった。
先日まで戦場に居た彼女が直ぐに日常に戻れる訳がない。だからこそ、親や企業と言った出資者達の意図を汲んでくれ易い学園に編入させたのだろう。
「どれ位、出来ないんだ?」
『よくスペルを間違える。後、字が汚い。計算とかは凄く早いんだけれど。文章問題とかは苦手みたい』
ヴォルタも頷いた。育ちが悪いと教育を受けられず、文字を読むことも書くことも出来ない。自分達も散々書類の付き合い方については、ミシガンに指導されたことだった。レイヴンが日常に馴染むにはまだまだ時間が掛かるらしい。
「マリーの方はどうだ?」
『凄く行儀が良いけれど、声が滅茶苦茶大きい。あれって、どうしてなの?』
「よし、ハロン坊や。クイズだ。何故、マリーは声が大きいと思う? ヒントは彼女がメリニット社。つまり、爆発物を大量に扱う会社の令嬢だということだ」
ミシガンは簡単に答えを与えない。これはベイラムに居た頃も同じで、至急回答を必要とする現場では手短に伝えるが、基本的に相手に考えさせる発問を行っていた。
ベイラムからすれば、駒として使う兵士達に余計なことを考えさせる力を付けさせたくなかったこともあり、こういった所もまた彼が白眼視された原因でもあったのだろう。
『爆発物。ということは、周りは凄く煩いのかな。……そうか、その状態だと声を掻き消されない為に、大きくなっちゃうのか』
「そう思うだろう? だが、実際の爆発の実験はもっと安全に行われる物だから、実際は爆発の気勢に感化されて大きくなっただけだ! しょうもないだろう!」
ミシガンのジョークに笑いが起きた。こういったウィットに富んだことを吐けるのは、彼が粗暴な鬼教官だけではないということの表れでもあった。
一方、彼らの背後では映画撮影がてらにきったねぇ爆笑が起きていた。エアのパートナーとして随伴させられたアーキ坊やの中身ことスネイルがブチギレていたからだ。
「ペイター!! この半裸のエーリカにストレッチをする意味は何だ! 腰にも来るし、アーキ坊やに下劣な印象を植え付けるんじゃない!!」
「分かってないですね~。こうして可愛らしいマスコットがシモネタを遠慮なく行うギャップがまたイルブリードⅡに彩を与えてくれるんですよ」
多分、その彩は鮮やかさではなく汚濁に満ちた茶色辺りの配色がふんだんに散りばめられている所だった。
「じゃあ、次の部隊はルビコニアンデスワーム達のウンコを潜って、攫われたベイツの同僚を助けに行くシーンの撮影をしますね」
「スネイル。今のペイターは正気なのでしょうか?」
「やめてくれ。もしも、この状態が正気だったら、営業先で案件を勝ち得ている傍ら、このシーンを考え続けていたことになる」
あまりに何の躊躇いも無く映画の撮影を続ける為、エアとしてもペイターの脳みそがコーラルで焼かれたのではないかと思ったし、スネイルもそうであることを願っていたが、彼らの願望も空しく。彼は正気でこの映画を撮影していた。
そして、こんな狂気の映画にも染まり切れず。かと言って、レイヴンの学友の話し相手としてしゃしゃり出る気にもなれないウォルターとスウィンバーンはコッソリと自分達だけのホワイトデーのプレゼントを用意していた。
「ウォルター。貴様は何にする? 出来るだけ被らない様にしたい」
「生憎、俺はこういった物に慣れていない。だから、ペイターの誘いに乗ってこの映画に出資させて貰ったのだが」
真っ当な子供時代を過ごせたとは言い難く、子供と関わったことも殆ど無かったウォルターとしては何を渡せばいいかが分からない。
そう思っていた矢先、レイヴンの趣味となっていた映画にかこつけて、ペイターから勧誘を受け、こんなクソ映画に出資することになった訳だが。
「明らかに何かを間違えている気がするぞ」
「だが、ペイター達も楽しそうだし良かったとは思っている。……スウィンバーン、お前のプレゼントは?」
「私はコレだ」
タブレットに表示したのは文具を取り扱ったサイトだった。
これだけ電子化の時代になっても、やはりパーソナリティなどのセキュリティ面やスタンドアローン方面においてもアナログは強い。故に学園においては、子供達もペンを使用している。会計を務めていたスウィンバーンは特にアナログの重要性を理解していたのだろう。
「万年筆か。レイヴンには少し早くないか?」
「早めに使って馴染んで欲しいという願望も籠っているかもしれんな」
戦場に身を置いていた彼女が日常へと戻ることを願っていた願望が少し前のめりに出た様な感じになっていたが、ウォルターは微笑んだ。
「お前がそう言った考えで送るなら、きっと喜ぶだろうさ。だが、この先はどうするんだ?」
「次は手帳あたりでも送るとしようか」
アホの様にはしゃいでいるおっさん達もいる傍ら、紳士に年を取った男達のシットリした会話も交わされていた。
~~
「ツィイー殿。コレを」
来るべきホワイトデー。六文銭がツィイーへと渡したのは……壺だった。工業的な物ではなく、明らかに手焼きで自家製なのだが。何処から土を調達して来たのだろうかと首を傾げていると。
「俺だ。先日、ペイター達の映画撮影の様子を見にルビコンに行ったのでな。その時、幾らか持って帰って来た。検閲はちゃんと通している」
「そうなんだ。有難う、六文銭。でも、どう使うのコレ?」
「この大きさから花でも挿しておくと良いだろう」
手作り故の下手さ。とかそう言うのは無く、恐らくキチンと心得があるのだろう壺はしっかりと形になってはいたが、使い道に関しては誰も分からなかった。
ツィイーへの贈答が行われている傍ら、スウィンバーンもまたレイヴンに件の万年筆を渡していた。
「ありがとう!」
「インクなどが切れたらまた言うと良い。補充もしてやろう」
小さく溜息を吐いていた所を見るに、渡す直前まで喜ばれるかどうかなど。色々と心配していたが、全て杞憂に終わったらしかった。
彼から貰ったことを皮切りにレイヴンはエア、ウォルター、ラスティにも期待していたが、エアが気まずそうな顔をする中。ウォルターが代りに言った。
「お前へのプレゼントは学校が終わった後でだ。色々な人達の返礼を含めている」
「どんなの?」
「えぇっと、その。凄い奴です」
エアが言い淀んだのは撮影した物が物だったからだろう。特にそう言った物も無かったラスティは懐から包装紙に包まれた物を取り出した。
「私からはこれを」
ペリペリと包を破る。すると、中から出て来たのは可愛らしい髪留めだった。贈答品としてはごくありふれた物だ。
「お。欲しかった奴だ」
「授業中、髪を掻き上げる所作が多いと聞いていてね。スネイルとも相談して、選んだ」
言葉にはしなかったが、レイヴンはスネイルの息が掛かった理髪店にしか行けない。と言うのも、彼女の頭部には施術跡があるからだ。故に、彼女は髪を伸ばしている。
髪留めは幾らか買ってあるにしても、ラスティとスネイルが特注した物なのか。不思議な色合いをした髪留めだった。
「二人共ありがとう!」
幸せな朝を迎えている中、エアの中では只管に焦燥が募っていた。
日常への回帰を願って万年筆をプレゼントしたスウィンバーン。今の彼女に必要な物をキチンと把握した上でアクセサリーとしても問題なく使用できる髪留めをプレゼントしたラスティとスネイル。そして、自分は……イルブリードⅡ。
「二人共。そろそろ、学校へ行こう」
「分かった!」
準備を終えたレイヴンとラスティが車に向かう中、エアも義体を待機状態にして、彼女と共に学園へと向かった。
~~
「二人共! ホワイトデーのお返し!」
昼休み、ハロンはレイヴンとマリーに包を渡していた。ラッピングを解くと、レイヴンには鳥をあしらったクッキーが。マリーには導火線をあしらったトッピングが乗せられたマカロンが渡されていた。
「意外ッッ! ちょっと、オシャレッ!!」
「うめっ、うめっ」
マリーが感心する傍ら、レイヴンは早速口に放り込んでいた。元より食の偏差値が低い彼女は大いに美味そうに食っていた。
これを陰からコッソリと眺めていたのは、スナイデルを連れたアークとティンフーを連れたデイヴィッドだった。
「おい、まさかの手作りかよ。女子じゃねーんだから」
「今はジェンダーフリーの時代だよ~」
デイヴィッドの手には親に手配して貰った、それなりに高級な品物が握られていた。だが、手作りと言う付加価値を前に怯んでいた。一方、アークは先に出ていた。
「レイヴン。こんな所に居たのか、これ。先月のお返しに」
「お。ありがと!」
如何にもクールと言った様子だったが、マリーとハロンは見逃さなかった。
アークの手が微妙に震えていたこと。緊張の為か耳が真っ赤になっていたこと。そんな彼の気を恐らく知っていたのだろうが、特に意に介していないレイヴンは彼から貰ったプレゼントの包を解いていた。中には、手帳が入っていた。
「おぉ! 丁度、欲しかった奴! ありがと!」
「ま、大したものじゃないが」
プレゼントのピックアップに関して、アークはかつてない程の手ごたえを感じていた。陰ではスナイデルが笑っていた。
「(クックック! フラットウェル叔父さんに聞いた甲斐があった! 彼女は万年筆を受け取っているから、書く為の物が喜ばれると!)」
ベイラムと違い、最適解を速攻で弾き出す辺りは合理性を主とするアーキバスの関連企業であるシュナイダーの人間らしい答えだった。
ここで負けてられぬとデイヴィットもまたティンフーを連れて、出て行った所。先にレイヴンが手を振っていた。
「ティンフー。前にくれたチョコ饅ありがとう。これ、お返し」
「あ。覚えてくれていたんだ~。嬉しいな」
案外律儀な性分であったらしく、レイヴンはティンフーにフィナンシェを渡していた。この贈答の機会に乗じて、デイヴィッドもプレゼントを渡していた。
「これは、俺からだ。おい、個人端末出せ」
訳も分からないまま。端末を出すと、何かを受信した。見れば、流行の映画の電子チケットだった。
「ウチがスポンサーをやっている超名大作の続編だからな。お前が映画好きってのは聞いているからな」
「……ありがと?」
明らかに反応が悪かった。そして、これには同席していたマリーも苦々しい顔をしていた。
違うのよ。彼女が好きな映画はクソ映画なのよ、と。何とも言えなくなった場を誤魔化す為に、マリーはハロンから受け取ったマカロンを頬張っていた。その意図を汲んでくれたのか、ティンフーもフィナンシェを齧っていた。
「うん、このフィナンシェ美味しい」
「こっちのマカロンもねッッ!」
少女達の気遣いによって保たれた場で皆が笑い合っている中、スナイデルがふと口にした。
「アレ? レイヴンちゃん。髪飾り変えたんですね。良く似合っていますよ」
「本当!? 嬉しい!」
この場で一番の笑顔を見せたことにより、親分であるアークから睨まれ、デイヴィッドからも睨まれる羽目になっていた。
~~
「今日は大変だった……」
流石にチョコを貰った生徒全員に返礼をする訳にはいかず、同期や保護者達へのお返しに留めたラスティだったが、それでも相当な負担になっていた。家へと帰って来ると、レイヴンがぴょんぴょんと跳ねながら迎えに来た。
「ラスティ! 映画! 映画!!」
「ほぅ? 何の映画を?」
彼女がここまで楽しみにするタイトルは何だろうかと爽やかな笑いを浮かべていたのも束の間。向かった先のリビングにペイターとイグアスが居るのを発見して、彼の表情は一瞬で歪んだ。
「あ。ラスティ! この度はホワイトデーに向けた超大作が完成したんです! レイヴンはお友達も誘ってくれてねぇ!」
「レイヴンちゃんッッ!! どうして、私を騙したのッッ!!」
「だましてわるいが。これもイルブリの為」
レイヴンの旧友の所業に級友が巻き込まれているのは見ていて居た堪れなかったが、彼女はラスティを見た瞬間パァっと明るくなっていた。
「ラスティ先生ッッ!? なんでここにッ!?」
「色々あって同居していてね。あの学園では、在校生徒の保護者が教師をしていることも珍しくないんだ。……その、多分。今から上映される映画は刺激が強いだろうから、マリー君は」
「大丈夫ッッ!! 私も、レイヴンちゃんが見ている映画を見たくなったッッ!」
「ええぞー!」
先程の悲嘆はどうしたのか。一転して、この上映会に参加の姿勢を見せた彼女としては、ラスティに抱き着いたりできるチャンスと思ってなのだろうが、間もなくして彼女の期待は後悔に変わった。
イルブリードⅡはイルブリードの名を冠するに相応しいクソ映画だった。エログロスプラッタと言う、大人のお子様ランチとも言える属性目白押し。
同席していたエアは顔を覆っていた。あの時はレイヴンに何かのお礼を! と思っていたが、折角もらった義体でなんつーことをしているんだろうかと。恐る恐る、彼女の方を見てみれば。
「「「ギャハハハ!!」」」
キャラメルポップコーンを食いながら、ペイターやイグアスと共に大爆笑していた。その隣では、可哀想に言葉を失ったマリーが静かにラスティに抱き着いていた。……そして、嵐の様な上映会を終えた後。ペイターは尋ねた。
「レイヴン。どうでしたか! 我々の超大作! イルブリードⅡは!」
「俺とペイターが作ったんだから、最高に決まっているよな!」
ペイターとイグアスは絶対的な自信を持って問うていた。対するレイヴンもまた瞳を輝かせながら言った。
「クソ!!!」
「だよな!!」
「でも、最高!!」
他の視聴者達がドン引きする中、3人はケタケタと笑っていた。そして、レイヴンは主役を務めたエアに寄り掛かるのだった。
「エア! 最高だった! 特に終盤のウンコーラル噴出シーン最高!!」
「喜んでもらえてよかったです。この評価が無ければ、この上映会後、ペイターを指定する場所に呼び出すつもりでした」
サラッと死刑宣言がされていたが、レイヴンの笑顔に免じてチャラになったので安い物だった。本人が笑っているなら良いかとエアも安堵の息を吐き、楽しく終わったホワイトデーの後日のことである。
「キチンと宣伝しておきました!」
「は?」
半ば存在を忘れていた五花海から爆弾発言が投下された。まさかと思い、彼のアカウントを見れば、件のクソ映画イルブリードⅡがSNSを通じて拡散され再生数をジンワリ伸ばしていた。
バズらない辺り、この映画のポテンシャルが大した物でないことは分かっていたが、気になったのは評価だった。
『主演女優の可愛さとアクションだけで成り立っている映画』
『あのストーリーは何?』
『(女優が)哀れ』
『きっしょ。もう撮るな。死ね』
『強化人間の末路』
評価の殆どは罵詈雑言や痛罵だったが、中には狂おしい位にこの映画を褒め称える者達も居た。
『終盤のウンコーラルにまみれたエーリカのガチで嫌そうな顔が最高でした』
『アーキ坊や君が可愛いけれど、無駄にストレッチさせた脚本は首にしろ』
『名作イルブリードのリスペクトが各所に感じられる作品だった。この監督は間違いなくイルブリーダー』
『未成年が視聴できるAV』
『感銘を受けました。次回作はダンガンで並み居る敵をロンパする作品を作ろうと思います』
「ペイタァアアアアア!」
スネイルの怒りが理解できたと同時に。この世には、決して帳消しに出来ない無礼が有るのだということを理解した。
エアが出来ることは鬼通報位だったが、全く効果も無く。彼女の身を呈した映画はジワジワと拡散されて行くばかりだった……。