戦え! 超強化生命体傭兵レイヴンちゃん!【本編完結】 作:ゼフィガルド
4月1日用のネタ ~~もしも、621を拾ったのがウォルターではなく……~~
「畜生! 落ちろ!!」
惑星ルビコン、べリウス南部。グリッド135と呼ばれる汚染都市では戦闘行為が繰り広げられていた。
『AH12: HC HELICOPTER』。惑星封鎖機構と呼ばれる、星間秩序を維持する組織の大型武装ヘリは1機のACに苦戦を強いられていた。
『やってしまいなさい! 621!!』
相対するACのフレームは戦闘用の物ではなく、作業用に組まれた廉価な物であり戦闘行為に耐え得る物ではないハズだが、降り注ぐ弾丸とミサイルの雨を回避しながら、武装ヘリに攻撃を加えていた。
『RF-024 TURNER』アサルトライフルから放たれた弾丸が装甲へと食らいつき、『BML-G1/P20MLT-04』小型4連ミサイルにより牽制攻撃の積み重ねで、機体に損傷が蓄積していく。
「じゃあね」
やがて、武装ヘリのダメージが捌き切れぬものとなり、ACS負荷。衝撃が逃せなくなった瞬間、作業用AC『LORDER 4』はブーストを激しく燃焼させて接近して来た。
武装ヘリに吊り下げられたガトリングガンの砲台は潰されているか、焼け落ちていた。パイロットが出来ることはただ一つ、緊急用脱出レバーを引いた。
『621! 待ちなさい! ヘリコプターを鹵獲……』
通信機から聞こえて来る声が制動を試みたが、一度勢いが付いた物は止められる訳も無く。『HI-32: BU-TT/A』パルスブレードから発振された刃が、大型武装ヘリを切り刻んだ。
~~
「ノーザーク~? ライセンスが見つからなかったけれど、どうする?」
『どうするじゃありませんよ! なんで、いきなり惑星封鎖機構に喧嘩を売っているんですか!? そのせいで、独立傭兵共も逃げ出していますし! 放っておけば、アイツらのライセンスが奪えたかもしれないのに!!』
グリッド135は独立傭兵や企業。更には原住民であるルビコニアンによって結成された『ルビコン解放戦線』の者達が戦闘を繰り広げるホットスポットである。
常に機体の残骸が転がっている場所になら、主を無くしたライセンスが転がっているのではないかと睨み、621と呼ばれる少女は周囲を探索していたのだが。彼女は哨戒に来ていた大型武装ヘリを落としていた。
「だって、アイツのせいで煩かったし」
『私の苦労も考えなさい、この駄犬! あぁ。もう! 近くに擱座している機体が無いか調べなさい!!』
ノーザークと呼ばれている通信相手の声に従い、彼女が周囲を調べると。程なくして、アーキバスとシュナイダーの混成フレームACが擱座しているのが見えた。近付いてアクセスをしてデータを抜き取っている最中のことである。
「ねぇ、ノーザーク。中に誰かいる」
『は!? パイロットが生存しているんですか!? 調べなさい!』
コックピットを調べて見れば、中には人がいた。ただし、上半身が吹き飛んでいた。そんな遺体に擦り寄っている存在がいる。
「ウクク。ウキャ。ウクッ」
「ノーザーク! お猿さんがいる!!」
『は!?』
遺体に擦り寄っていたのは猿だった。全身に生えた体毛に赤ら顔。主人と思しき存在が死んだとしても、特に感傷的になることは無く『餌まだかよ』と言わんばかりの、思いやりもへったくれも無い態度だった。
「おいで、おいで」
「カーッ!!」
意思疎通が出来ているのか。621と呼ばれた少女に手招きをされると、猿は機体内から何かを持ち出した後、少女のACに乗り込んでいた。
『モンキー・ゴードですか。ペットにあやかって付けた名前ですかね? ランク圏外ですが、まぁ。企業の物を使うよりかはマシでしょう』
「貴方、バナナって言うのね! よろしく!」
「アーッ!!」
全員の会話が明後日の方向を向きながらも、任務を終えた621改めモンキー・ゴードは速やかにグリッド135を離れて行った。
……そして。生き延びた傭兵や企業のパイロット達は、彼女の戦闘記録を鮮明に刻んでいた。彼女達の通信を傍受していたベイラムのパイロット『G7 ハークラー』もその一人だった。
「これは、ミシガン総長に報告せねば」
~~
ノーザークと621の拠点はハンガーも備えた大型の輸送ヘリ。と言う訳ではなく、企業のスペースを間借りしているだけだった。
しかも、彼の悪評は多方面に聞こえている為、大企業であるベイラムやアーキバスに雇って貰えることは無く。土着の企業である『BAWS』に身を寄せていた。……他の利用者達から白い目で見られながらも。
「全く。パイロットとしてずば抜けていると聞いたから、貴方を買ったというのに」
詐欺師か傭兵か微妙な所にいるノーザークはある程度の情報網を所有していた。そんな彼が、621と呼ばれる少女を買ったのは……セールをしていたからであった。後で話を聞けば、数日後に別の顧客が来たとかなんだとか。
売り文句であったパイロットとしての技量は紛うこと無く随一の物であったが、精神的な幼さに関してはマネジメントが必須とも言えた。当然、ノーザークに子守の経験などある訳もない。
「ヒヒーッ」
「ぷちぷち」
先程、死闘を繰り広げて来たばかりの少女は、拾ってきた猿の毛繕いをしていた。どちらが上なのか分からなくなる光景を見ていると、ノーザークは溜息を吐く外なかった。本当にやって行けるのだろうかと。
「やって行けますよ」
「ヒャッ! 工場長!? あぁ、待って下さい。ここを追い出されたら、この少女と猿と私はルビコンの寒空の下に放り出されてしまうことになるのです!」
少女と動物を前に出して保身を図る姿は浅ましいという外なかったが、袈裟を着た坊主頭の工場長は穏やかに微笑んでいた。
「大丈夫ですよ。我々は誰にでも分け隔てなく接しますから」
「流石工場長。お話が通じるお方だ!」
ノーザークが媚売りーヌに転じていると、工場長は微笑んだまま懐から依頼が書かれた書面を持ち出していた。
「なので、場所を貸している代金として依頼を受けて貰います。喜んでください。シュナイダーからの依頼ですよ」
内容を見れば、シュナイダーグループからの依頼でありベイラム系列企業の大豊が提供する試供ACを撃破して来いという物だった。
企業間によくある諍いであり、難易度としては高くはない。相応に報酬も安かったが、有名企業に名を売るという意味では悪くない。
「ふぅん、この程度の依頼ならば我々でも十分だ。良し! 621! 行って来なさい!!」
「はーい」
イキった挙句。少女に他力本願するノーザークの姿は大人として恥ずかしい物であったが、特段反対することも無く猿と一緒に機体に乗り込んでいく姿に、周囲の独立傭兵やBAWSの整備士達が彼に向って抗議をしていた。
「あんな小さい子を戦わせて恥ずかしくないのか!」
「早くまともに働くべきだよ。独立傭兵で稼げる人じゃない」
「根性腐ってそう」
「黙れ!!! カス共! お前達はあの子を自由にしてやったか! 私は研究所から連れ出してやったんだぞ!!!」
「いや、貴方に飼われているなら自由になっていないのでは?」
工場長から冷静なツッコミが入るが、都合が悪いことはスルーされていた。
だが、ノーザークは自身の尊厳が甚く傷つけられたことに御立腹だった。自らの評判を落とさせない為にも捲し立て始めた。
「私は研究所で安売りされていた彼女の身柄を引き受けたのです。ルビコンに渡る為に多大な投資をした後にですよ!? こんなことが出来るのは私以外にいません! その上、彼女の手足となるACまで購入したんです! これはもう、彼女を守るべき存在としてではなく、1人の人間として対等に見ているからです!」
「バカヤロー! 独立傭兵なんてクソみたいな仕事にガキを付き合わせるんじゃねぇ! てか、お前が出ろよ!!」
もしも、このセリフを吐いた人間がノーザークでは無く、とある老紳士であったのなら、周囲の人間も納得してくれたかもしれないが、そうはならなかった。
「やかましい! 私が戦うより、あの娘が戦った方が強いんだ! 文句を言ったら、ウチの621を差し向けるぞ!」
「なんて、情けねぇんだ……」
他人事ながらも、あまりの情けなさに独立傭兵の目には涙が浮かんでいた。自分の将来の姿がこうであると示唆されている様な気分になったからだ。
子供に守られている保護者。と言う、何の比喩も無く使うにはあまりな構図であったが、ノーザークは口論を切り上げてさっさと通信室へと向かった。そして、彼が居なくなった後でボソっと工場長が言った。
「実はあの娘が使っているACの代金は、あの娘の借金として上乗せしているんですよ」
「マジかよ」
~~
相も変わらずの汚染都市。人が寄り付かないので、ACの試運転などにうってつけの場所にて、大豊から選出されたテスターACは張り切っていた。
「俺がこれからの企業戦争を支えるんだ!!」
『テスターAC! 落ち着け! これは輸送任務だ!』
通信士の声は憔悴していた。この任務に当たった者達は一様にして『なんで、コイツをテスターに選んだんだ?』と言う疑問が浮かんでいたが、企業間闘争で人的消耗も激しい為、猫の手も借りざるを得ない状況だった。
恐らくだが、このテスターACは壊滅的な位に協調性や常識がない癖に、腕だけはまぁまぁ良いという非常に扱いに困る類だった。ついでにコーラルを始めとした何かをキメている訳でもないのに、ややせん妄状態にあった。
「あぁ! 見ろ! 敵対企業の襲撃だ!!」
『は!?』
通信士が何時もの妄言と切り捨てようとした時、テスターが操るACが飛び退いた場所にミサイルが着弾した。崖の上には1機の作業用ACが居る。
「うーん。お兄さん、何考えているか全然わかんないや」
「アーイ!!」
「来たな! 大豊の栄光は俺が守るっ!!」
『おい! 馬鹿! 戦闘は止めろ! 逃げろ!! 近くに待機させているMTやACがいるんだ!』
通信士の判断は常識的な物であったが、この状況で逃げられるかどうかは怪しい物だった。ならば、迎撃しようとするテスターの判断も間違っているとは言い難い。
アセンブルは最適化されているとは言い難いにしても、そもそも万全な状態で挑める戦場の方が珍しいのだ。
『621! 相手はイカれています! やっちまいなさい!!』
「ウッキー!!」
彼女の変わりに同乗していた猿が返事をしていた。アセンブル途中の機体と作業用の機体。まさに、ルビコンの底辺とも言える争いであったが搭乗者によって2機はまるで違う動きを見せるに至っていた。
「俺は戦えている!」
テスターが用いているACは大豊のフレームでも統一されていたが、武装は近接兵器の『HI-32: BU-TT/A』に、低反動ARの『MA-J-201 RANSETSU-AR』と。フレームの強みを活かせていない武装であったが、彼は両手の武器を背中へとマウントして試験用に積み込んでいた武装を取り出していた。
『待て! まだ、そいつはルビコンに流通させるつもりは!』
取り出したのは大型のマシンガン『DF-MG-02 CHANG-CHEN』だった。
大豊の強靭なフレームには打って付けの武器であり、621のLORDER4に向けて一斉に放たれた。
「うわわわわ!!」
「キーッ!!」
想定外の反撃を食らったことで、621にしては珍しく機体にダメージを貰っていた。独立傭兵と言う戦闘のプロフェッショナルに食らいつけている。その事実がテスターの気を更に大きくしていた。
「俺でも戦えている! レッドガン入りは間近だな!」
『よく戦えている! だから、さっさと逃げろ! 深入りするな!!』
通信士から頻りに撤退を促されていたが、テスターは止まること無かった。
そして、増長して油断した相手の挙動が単純になる。と言うのは、伝統芸とも言える挙動であり、特にテスターと言う戦場の経験を積んでいない彼が陥るのは、当然の流れであり。
「あ。みっけ」
「え?」
何を見つけたのか? と、問うよりも先に。テスターが使っていたACの腕は切り飛ばされ、全身を切り刻まれて機能停止に陥った。パイロットはさっさと脱出した様だが、ノーザークから通信が入る。
『621! 転がっている装備品は持って帰って来なさい! それがあなたの武器になりますから!』
「わかったー」
ACは持ち帰れないにしても、手持ちの武装位ならお持ち帰りすることも出来る。彼女は戦利品を拾い上げて、意気揚々と帰還した。
~~
『貴様がモンキーか!』
先日の大豊テスター襲撃の件から、ランク外だった彼女の評判は徐々に広まり始めていた。今回の依頼はベイラムと言う大口からの依頼であり、ノーザークも緊張して通信を聞いていた。
「は、はい。私がモンキーのマネージャでして」
『G7からも聞いている! 封鎖機構に中指を突き立てたそうだな! 是非とも本人と話をしたいが、貴様の様な詐欺師が窓口をしているとはな! まぁ、良い。今回のミッションはだ!』
ブリーフィングに依れば、今回のミッションはルビコン解放戦線のインフラを担っている多重ダムの襲撃であり、今後に控えている『壁』と言う要塞攻略に向けての前哨作戦と言った所だろう。
これにはノーザークもチラリと工場長の機嫌を伺った。BAWSはルビコン土着の企業であり、彼らの同胞と言える解放戦線に矛を向けても良いのかと。
「あ、構いません。むしろ、機体を壊してくれた方がウチの商品がまた売れるので。ジャンジャン、破壊してください」
「流石工場長。話が分かるお方だ」
クソ坊主だった。話はトントン拍子でまとまり、621ことモンキーも多重ダムの攻略に参加する運びとなった。その際、ベイラムからもレッドガン部隊を付けられることになったのだが。
「なんで、俺が猿の面倒を見なきゃいけねぇんだよ!」
G5イグアスが抗議の声を上げた。自分達だけで十分だと思っていた任務に外部の人間が入り込む。と言った状況が我慢ならなかったらしい。
「しかも、あのノーザークの子飼いだって言うじゃねぇか。ルビコン解放戦線の奴らから金を受け取って、後ろからズドンされるかもしれねぇな」
G4ヴォルタもまた不服そうな声を上げた。ノーザークと言う男の不評は企業にも知れ渡っているらしい。だが、621は気にした風も無かった。
「大丈夫、大丈夫」
『えぇ、私達は依頼を遂行しますとも。滞りなく!』
上手く行けば、そのまま壁越えの依頼もされて、企業と良い関係を築けるかもしれない! サクセスロードは目の前に見ていた。
そして、ルビコン解放戦線の面々は弱かった。3機のACに責められてなす術も無く撃破されて行く中、イグアスが621に通信を入れていた。
「お前の所の主人は詐欺師らしいな。このルビコンで企業を出し抜こうとしてんなら無駄だぜ。犬の餌になるのがオチだ」
嘲笑を多分に含んだ物であったが、同時に警告でもあった。独立傭兵だけではなく個人など、企業からすれば取るに足らない存在。上手く立ち回れる等と思うなということであった。
「だってさ」
『気にせず、任務を続けなさい』
悪口は言われ慣れているのか、ノーザークは気にした風も無かった。
621も素性を知られない為に通信に応答しないようにと言う教育を受けていたので無言でいたが、相手には図星と思われたらしい。
「今度の壁越えに捨て駒を雇いたい為の広報活動の一環だとしたら、詐欺師は打って付けだよな。そんな乞食野郎でも雇って貰えるってことなんだからよ。ソイツに拾われたお前は、一体どんな虫けらなんだ?」
任務に従事していた621の動きがピタリと止まった。そして、イグアスのヘッドブリンガーに向けて、先日鹵獲したばかりの『DF-MG-02 CHANG-CHEN』の引き金を引いた。放たれた弾丸が装甲を穿った。
「テメェ!?」
「ノーザークの悪口は……部分的には許すけど。やっぱり、許さない!」
「ッチ。やっぱり、裏切り前提って訳か!」
異変を察したヴォルタのキャノンヘッドも直ぐに踵を返して、621と交戦状態に入った。この事態に、ノーザークは愕然としていた。
『何やっているんですかぁ!? 悪口なんて言われ慣れているんですから、その程度で怒るんじゃありませんよ!? 直ぐに誤射だと伝えて……』
『やはり、貴様にアレを飼いならすのは無理だったか!』
訂正をすることは許さん。と言わんばかりに、間髪入れずミシガンからの通信が入って来た。
『ヒェ。これはあのその』
『何、気に病む必要はない! ウォルターが口惜しみ、G7が絶賛する程の物だから是非とも目にしたいと思っていたが、随分と可愛らしい癇癪だ。G4! G5! モンキーはお前達とオママゴトがしたいらしい! 付き合ってやれ!』
モニタ内では口論から始まった同士討ちが殺し合いにまで発展しており、ノーザークは絶句する外なかった。間違いなく、企業から睨まれたと。
『お終いだ。私のルビコンサクセスストーリー……』
通信越しに膝をつく様子が伝わって来るようだった。
何も事情を知らない、ダムの防衛者であるインデックス・ダナムはモンキーこと621の行動に困惑する外なかった。
「アイツら。何故、急に同士討ちを?」
報酬で揉めたりしたのだろうかと考えていたが、やがて争いが終わった。
勝者は謀反をした1機であるらしく、2機の残骸を傍目に多重ダムから去っていた。一体、何が目的だったのかと考えて……ダナムは一つの結論に達した。
「そうか! 奴はインフラを破壊されることで困窮する我々を見過ごせず!」
そもそも、企業で謀反をするメリットなどまるで存在していないのだから、同士討ちを始めた理由を考えれば、こういった帰結になるのはある種の必然だった。
「奴とはいずれ手を取り合える気がする」
勝手な期待を押し付けられている621はと言えば、散々に喧嘩して満足したのか。通信を入れていた。
「今から帰るねー」
「ウッキー!」
『あぁああああああああああああああああああああ』
通信からは依頼をご破算にされたノーザークの絶叫が響いていた。