戦え! 超強化生命体傭兵レイヴンちゃん!【本編完結】 作:ゼフィガルド
多重ダムにおける任務の不履行に関して、不思議なことにノーザークは咎められることは無かった。違約金を支払わずに済んだことは喜ばしかったが、今後。ベイラムからの依頼は絶望的だと考えていた。
「621! なんで、私が怒らず貴方がキレ散らかしているんですか!!」
「腹立ったから」
お猿のバナナと一緒にコーラルが沁みたミールワームを頬張る彼女に反省の色は見当たらない。ノーザークだけがキレ散らかしているのを見て、袈裟を着た坊主頭の工場長が割り込んで来た。
「子供のすることです。そんなに怒らず。むしろ、主の愚弄に対して憤慨する良き忠臣ではありませんか」
「そういうのは求めていま……」
工場長が手にしていた端末には、先の任務でベイラムが提示していた報酬額の2倍のCOAMがノーザークの口座に振り込まれる様子が映し出されていた。
「有志曰く、感動したそうです。直接、彼らから振り込まれては今後のビズに関係するということで、私が窓口をさせて頂きました」
「ンフフ。そうですね、621。よくやりました」
「でしょ」「オー」
よく分からない内に機嫌を直していたので、621はテキトーに相槌を打ち、バナナは大仰に手を叩いていた。
「つきましては、貴方達に依頼が入っているのですが」
「解放戦線からですか?」
「いいえ、アーキバスからです」
話の流れ的にルビコン解放戦線からの依頼だと思っていたが、違っていた。
任務の内容を見て、ノーザークは目を剝いた。解放戦線の重要拠点『壁』の攻略に参加して欲しいという物だった。
「工場長? ここは、話の流れ的に解放戦線側で防衛に回ると言う物では?」
「ノーザークさん。今後のビズ的に考えて、仕事の伝手は増やして行きたいでしょう? 受けられる所は満遍なく受けて行きましょう」
「本音は?」
「アーキバスに壁を収めて貰って、ベイラムと小競り合いして貰った方がMTをバンバン壊してくれますので。何より、壁にいる『ジャガーノート』のせいでルビコン解放戦線側の消耗が少なくて困っているんですよ」
相変わらずの銭ゲバ坊主だった。ベイラムとは角が立ったばかりであるし、ならば大手企業であるアーキバスとの伝手を作るのも悪くはない。ノーザークは二つ返事で依頼を引き受けた。
後日のことである。工場長は仕事を取り次いでくれるが、直接的な交渉などは行ってくれない。故に、アーキバスが主体で行う『壁越え』の作戦会議にはノーザークも出る必要があったのだが。
「おや、星間詐欺師が居ますね」
開口一番にノーザークは事実と言う名の痛罵を食らっていた。
相手は強化人間で構成されたヴェスパー部隊の2番隊長『スネイル』だった。パイロットとしてだけではなく、戦略家としても高い能力を持つ彼が会議に赴いていることから、アーキバス社の力の入れ具合が分かる物であった。
「いや、そんな。詐欺師だなんてとんでもない。今の私は独立傭兵でして、こういった場での活躍は今後の広報にも繋がりまして……」
「浅い戦略眼ですね。噂によれば、貴方もペットを飼い始めたそうですね。先日のダムの一件を聞くに、貴方に相応しい駄犬をお飼いの様で」
先日の謀反については既にバレているらしい。嫌味を述べた後に、スネイルは雇い入れた独立傭兵達に『壁越え』の作戦内容を説明していた。
多数の砲台やMTに加えて、侵入者達を拒むようにして建てられた防壁。その屋上には、超遠距離射撃を行う移動重砲台『ジャガーノート』が存在している。
「本来ならば、ベイラムの連中が失敗をするまで待つつもりでしたが。連中の精鋭部隊であるレッドガン部隊のメンバーが、駄犬に小便を引っ掛けられて怖じ気付いたらしいので、先んじて我々が攻略に出る事となりました。これ以上、連中にコーラルを吸い上げられては堪りませんからね」
相手を打ち破りたいだけなら、アーキバスも持久戦を行えば良い。
ルビコン解放戦線は資源に乏しく、先にどちらが息切れを起こすかは目に見えている。だが、時間を掛ければ掛けるほど『壁』付近にあるコーラルはどんどん吸い上げられることだろう。
「つまり、我々が露払いをして。ヴェスパー部隊の精鋭である皆さんがジャガーノートを討ち取る。と言った具合でしょうか?」
「その予定です。貴方達の貧相なACでは、アレを打ち破るのは難しいでしょうからね。ただ、もしもターゲットの撃破に貢献した者が居れば、報酬に加算しましょう」
ノーザーク以外の傭兵達は湧き立つ。ここで活躍できれば、アーキバスで名前を憶えて貰えるかもしれない。そうなったら、根無し草の様な生活を抜けられるかもしれないという希望が、彼らを沸かせていた。
その中で、ノーザークだけは留まっていた。詐欺師である彼は、自分達を欺こうとする思惑にはある程度敏感だったからだ。
「621。アーキバスの連中は我々を捨て駒にするつもりです。しかし、貴方の力を見せてやりましょう。そうすれば、きっと。我々の覚えも良くはなる筈です」
「分かった!」
「アーッ!」
他の奴らとは差を付けて目に物を見せてやろうというノーザークの発想もまた、凡百の域を出ない物であり、スネイルやアーキバスの上層部が想定する捨て駒のモチベーションに当てはまるものでしかなかった。
ただ、一つ違っていたのか。ルビコンでモンキーと呼ばれている少女は、ACの操作技術に関しては、他とは一線を画していたということだ。
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「ギャッ!!」
当日。壁の攻略に参加した独立傭兵達は、自らの甘さを知ることになる。
ジャガーノートの砲撃により、機体は輸送機ごと落される。市街地の攻略に当たった者達は多数の砲台とMTの攻撃により、次々と撃墜されて行く。
「見たか! 企業共! これがルビコンの怒」
ルビコニアンの怒りを代弁しようとしたパイロットの声は爆炎と共に掻き消された。数の暴力が強いのはルビコン解放戦線だけではない。生き延びた独立傭兵達は、機体の残骸を盾にして砲台やMTを撃破していた。
熾烈な戦闘が繰り広げられる中、戦場で奇異な動きをする者がいた。擦れ違う重MTを撃破し、聳え立つ防壁へと上がり砲台を潰して内部へと侵入していくACは621が操る『LORDER 4』だった。
「ノーザーク。耳が痛い」
『これだけの激戦区ですからね。しかし、出し抜いてやりましたね。さぁ、このまま突き進んで下さい!』
内部の防衛に当たっていたMT部隊から抵抗を受けるが、彼ら自身の技量は大した物では無かったので直ぐに突破された。
屋上へと昇る物資搬入用のエレベーターへと乗り、ジャガーノートが居る場所に向おうとしている中、621は声を上げた。
「ノーザーク。補給とかは無いの?」
『補給シェルパは高いんですよ! 頑張ってリペアキットを3つも積んであげたんですから、それで何とかしてください!』
戦場に向かう少女へのサポートとしてはあまりに心許ない物だった。
ここまでの交戦で『DF-MG-02 CHANG-CHEN』の弾薬はかなり消耗されていたので、『RF-024 TURNER』に持ち替えたが重機体相手には心許なかった。
屋上へと続く隔壁を開くと同時に、上空から1機の機体が降り立った。戦闘用に調整された細身のシルエットは、美しさすら覚える物だった。
「おや、ここまで来れる者がいたのか。私ヴェスパー部隊4番隊長のラスティ。君の名前は?」
「モンキー!」
返って来た声に、ラスティは言葉を失っていた。
パイロットの顔が映し出されていないにしても、声質などから相手の素性に関してはある程度把握できる。戦場に立つ少女としてはあまりに幼い物であり、決して何かのライブラリから引用した物でもないのだろう。
明らかに作業用の機体でここまで来れたことを考えるに、彼女の技量が卓越した物であることさえも把握していた。
「モンキー、か。色々と話したいことはあるが」
ジャガーノートのカメラが2機を捉えていた。さして、慌てることも無く直ぐに迎撃に切り替えたことから、搭乗している砲撃手が判断能力に優れていることは間違いなかった。
「まずは、共に壁越えと行こうか」
「おっけー」
「キャー!!」
ルビコンにおける大局を動かしかねない戦闘の開始を告げるには、あまりに間の抜けた声であった。
ジャガーノートの履帯が火花を伴って床を舐め上げる。ACの体躯を上回る巨体が速度を持って突っ込んで来たら、それは凶器と何ら変わりない。
2機は回避行動を取るが、前面に取り付けられたバックブースターを吹かして方向転換を行い、621へと狙いを定めた。
「(落ちろ、独立傭兵)」
「見えた」
彼女にはとある能力がある。相手の心理や思考を読み取ると言う物だ。
先程の市街地戦では悲鳴と絶望と怒りが交差していたが、今は静かな物だった。相手は極めて冷静な思考の上で、こちらを殺そうとしている。
積まれているFCSが起動し、LORDER4へとロックを付けているのを感じ取っていた。彼女は『RF-024 TURNER』の引き金を引いていた。射出直後のミサイルランチャーに命中し爆発を引き起こした。
『モンキー! 気を付けなさい! 調べたところ、重装甲板が取り付けられていて正面からの攻撃は効きません! 後ろから攻撃しなさい!』
「君の雇い主の言う通りだな。機体性能的にも翻弄するのは難しいだろう。囮は私のスティールヘイズが買って出よう」
「お願い!」
ラスティは非常に優れたパイロットだった。相手の機体性能を鑑みて、即座に自分に適した役割を遂行していた。即ち、あの強大な火力に曝され続けるということだが、彼は危うげなく攻撃を避け続けていた。
彼が作り出してくれた隙を存分に使っていた621は、ジャガーノートの背面を『HI-32: BU-TT/A』で切り刻んでいた。
「(クッソ!!)」
背面に対する攻撃手段は乏しいので、背面のブースターで焼こうとしたが、直ぐに背面から離れてしまう為、上手く行かない。
「やるな。欲張り過ぎない、良い攻めだ!」
「えへへ」
ただでさえ、褒められることが少ない彼女はラスティからの称賛に頬を緩めていた。極限状況に似つかわしくない緩い雰囲気が漂う中、スティールヘイズに通信が入っていた。
『V.Ⅳ。増援が来ています。残りは、そこにいる駄犬に任せなさい』
「スネイル。あの作業用ACじゃ、単機では」
『命令です』
「……了解した」
企業の意向に逆らう訳にはいかない。ジャガーノートもかなり損耗しているが、まだまだ能力は十分に発揮できる状況にあった。
「戦友。増援が来ているらしい。私はそちらの応対に当たる。死ぬなよ」
「オッオッ」
「はーい」
スティールヘイズはわき目も降らずに戦場を脱した。1機残された、621が眼前の時と向かい合う中、通信ではノーザークの悲鳴が響いていた。
『アイツ、何逃げてんの!?!? ふざけんな。マジふざけるな! これはもう報酬を2倍にして貰わないと、納得できませんよ!!』
「うっさい」
流石に堪りかねたのか、621は通信を切った。
単機になったことで、相手も強気に出たのか、先程より攻めの手は強くなっていた。また、スティールヘイズに翻弄されていた際には自らの機動を確保する為にばら撒いていなかった、地雷をも撒くようになっていた。
「(こんな作業用機体なら!)」
『LORDER 4』の機動力では、ジャガーノートに追いつけない。
相手は距離さえとれば、幾らでも攻撃手段はある。副砲から離れた砲弾が爆発と共に周囲を抉りとり、未だ稼働状態にある多連装ミサイルランチャーが降り注ぐ。そして、回避した先には撒いていた地雷がある。
もしも、他の独立傭兵が奇跡的にこの場所に辿り着けていたとしても、やはり残骸を晒すことになっていたであろう激しい攻め手であったが、621は回避挙動を取りながら地雷の方へと突っ込み……、拾い上げていた。
「(なんだと?)」
相手パイロットからの困惑が伝わって来た。普通の人間なら回避か攻撃かに意識を取られるはずだというのに、彼女は起爆させずに地雷を拾い上げていた。それも何枚も。
「コーッ!」
「うんうん。バナナって面白いことを考えるよね」
『BML-G1/P20MLT-04』小型ミサイルランチャーをパージして、『RF-024 TURNER』をマウントすると、両手に地雷を所持した上でジャガーノートに突っ込んで来た。
「(玉砕か)」
副砲と3連グレネードランチャーが火を噴く。いずれも、彼女を捉えるには至らなかったが、背面にマウントされていた『RF-024 TURNER』が吹っ飛んだ。
そして、『LORDER4』はまるで燕の様にジャガーノートの正面で垂直に飛翔し、背面へと回り込んだ瞬間、大型ブースターの中に地雷を突っ込んでいた。
「上げる!」
「(!!)」
先と同じ様に、振り落とさんと吹かそうとしていた挙動を急に止めることは出来ない。ブースター内に投入された地雷に反応し、背面で大爆発が起きた。
それでも、パイロットは諦めず。前面のバックブースターで逃げようとしたが、『HI-32: BU-TT/A』から発振されたパルス刃が、ジャガーノートの武装を尽く切り裂いていた。
「畜生!!」
戦闘行為がこれ以上不可能だと判断してか、パイロットは脱出レバーを引いた。ジャガーノートは機能を停止させ、ここにアーキバスの壁越えは果たされた。
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「ペイター、調べて欲しいことがある。」
任務終了後。増援に来ていたルビコン解放戦線の戦力を迎撃し、帰還したラスティは、傭兵起用担当のV.Ⅷペイターを尋ねていた。
若輩ながらも察しが良く、上層部の覚えもめでたい男であったが、スネイル
や同期からは非常に嫌われている男だ。
「一緒に壁越えをした傭兵についてでしょう? データはそちらにまとめていますよ」
「助かる」
だが、不評を覆す位には有能だった。ラスティにとっては数少ない友と呼べる存在であり、彼が出してくれたデータに目を通した。
「モンキー・ゴードか。最近になって任務の成功率を伸ばしているな。窓口を担当しているのが、ノーザークと言うのが疑問だが」
「どうせ、借金取り相手に護衛でも雇ったら、思いの外強くて。そのまま傭兵稼業をやらせている感じでしょう」
彼の悪名は企業にも広く知れ渡っているし、本来なら壁越えに参加させるつもりなど無かったが、彼が雇っているモンキー・ゴードと言う傭兵の直近戦績だけは目覚ましい物があった。
「ほぅ、直前でレッドガン部隊を二人も撃退しているのか。これ程の傭兵がどうして埋もれていたのか」
「さぁね。ただ、使用機体も考えたら金が無さそうですよね。どうでしょう? 我々でスネイルに具申してみるのはどうでしょうか。ノーザークの飼い犬を引き取りませんか! と」
「中々に面白い提案だが、スネイルは決して許可しないだろうな」
猜疑心が人の形をしたような男だ。そんな素性のしれない存在を身内に入れるなんて真似をすることはしないだろう。
「ですよねー。あのハゲ、デコは広い癖に心は狭いんだから」
ペイターはカラカラと笑っていたが、ラスティは割と真剣に悩んでいた。
もしも、彼女の飼い主が大義ある人間だったり、企業であれば引き剥がすのも難しかっただろうが、相手は小狡いだけの男だ。ひょっとして……と考えたが、首を振った。
「(私は私だけのことを考えるべきだ。他者に気を掛けている余裕はない)」
激戦が繰り広げられた壁の跡地で、アーキバスの部隊が警備に当たりつつルビコン解放戦線が使っていた機体の残骸を調べている光景を傍目に、ラスティは決意を新たにしていた。
~~
「良いですか! 621! ちょっと優しくされたからって、そんなに気を許すんじゃありません! 世には人を騙そうとする輩など大量にいるのですから!」
作戦終了後。帰還した621がラスティのことばかりを話すので、ノーザークは切れていた。そして、彼の言葉には凄まじいまでの説得力が伴っていた。
「カーッ!!」
「バナナが人に物を言えるかお前。だってさ」
「バナナが言ったことにするんじゃありませんよ!!」
彼が捲し立てていると。少し慌てた様子の工場長が入って来た。彼を見てノーザークはビビった。
「あ。いや、ルビコン解放戦線を倒しても良いと言ったのは工場長でして」
「私からの依頼です。BAWSの第2工廠が襲撃を受けました。調査に向って下さい」
今まで、飄々としていた工場長が浮かべる物とは思えない位に切迫した表情に、ノーザーク達は頷く外なかった。