戦え! 超強化生命体傭兵レイヴンちゃん!【本編完結】 作:ゼフィガルド
「通信不良ということはあり得ません。何者かが悪意を持って第2工廠へと攻撃を仕掛けています」
BAWSの工場長にはある程度の確信があるようだった。
彼らの顧客を選ばない姿勢は、ルビコン解放戦線のみならず惑星を侵略している星外企業にすら適用される。故に、これらの顧客が第2工廠へと攻撃を仕掛けて来る可能性は低いと考えていた。
「企業が工場に攻撃を仕掛ければ、泥沼になりますからね」
これに関してはノーザークも企業間で協定が結ばれていることを知っている。
相手の戦力を削ぐ為に互いの工場を攻撃し続ければ、生産力が損耗していき共倒れになる未来が待ち受けているからだ。互いに企業である為、損をするだけの戦いは避けたい所なのだ。
これは、星外企業にとって目障りなルビコン解放戦線にMTを売っているBAWSですら例外でない。
「心当たりがあるとすれば一つ。……と言うより、何の証拠も残さず、こんなことが出来るテクノロジーを持っている連中なんて彼ら位しかいませんが」
工場長の口調こそ丁寧であったが、声には怒りが滲み出ていた。下手人にもある程度の目星は付いているらしい。
ここでノーザークも考えた。まず、企業が攻撃してくることは無い。ルビコン解放戦線も攻撃する理由がない。とすれば、残された勢力は一つ。
「惑星封鎖機構ですか?」
「そう思っています。何せ、私達はコーラルを違法採掘している訳ではなく、顧客に商品を売っているだけですから」
彼らが売った商品がルビコンで争いを引き起こしていたとしても、彼ら自身には違法性はない。商売をしているだけなのだから。
「確かに。刺殺事件が起きたとしても、包丁を売った店に罪はありませんからね」
「そういうことです」
欺瞞だけで構築された会話が行われている間、LORDER4はBAWSの第二工廠を探索していた。
機械の稼働音は一切聞こえず、哨戒している機体の姿も見当たらない。明らかに不自然な状態であるが、一体何が起きているかは621には分からない。漠然とした不穏は感じていた物の。
「バナナ。何かわかる?」
「ウィィイ!」
バナナが歯茎を剥き出しにして鳴き声を上げた。強い敵意と威嚇を示す者であり、LORDER4のアラートが鳴った。
彼女が回避行動を取った数瞬後、先程まで機体があった場所をレーザーが通り過ぎていた。射線から直ぐに相手の居場所を割り出し、アサルトブーストを吹かして肉薄する。
『は!? 何が!?』
通信相手であるノーザークにも何が起きているか分かっていない。同期されているデータには何も観測されていないからだ。
だが、現場にいる彼女には分かった。カメラアイには映っていなかったとしても、そこに何かが居るということは。空へと振り被ったハズのパルス刃は装甲を引き裂き、内部パーツを焼き溶かし、爆散していた。先程まで姿の無かった幽霊(ゴースト)の様な存在は、残骸となって現れた。
『モンキーさん。スキャンをして下さい。データが欲しいです』
工場長に促され、スキャンしたデータを送ると。彼は解析に勤め始めた。その間のオペレーターはノーザークに託されていた。
『最初の一撃はどうやって避けたんですか?』
「バナナが教えてくれた」
「ウィウィ」
コックピット内では、バナナが勝ち誇るかのように歯茎を見せて笑みを浮かべていた。普段のノーザークならば一笑に附していた所であるが、相手が未知数な存在であることもあって、藁にも縋りたい気持ちであった。
『野生の勘。とか、そういったものがあるのかもしれんな。協力して、詳細を調べてくれ』
「ウゥー」
「分かった」
いつものように彼女の声が間延びしていないのも、緊張状態にあることの表れなのだろう。静謐な工廠には、姿の見えない襲撃者が居る。
何も刺激が無いからこそ、緊張状態を保つのも難しい中。バナナがコンソールに触れた。すると、周囲がスキャンされ、姿の見えない敵の質量をレーダーが捉えた。
「居た」
スキャンで発見されたというのに、相手は驚いた様子も見せない。感覚を研ぎ澄ませても相手の声が聞こえない。となれば、理由は一つ。
「誰も乗っていない」
『その通りです。機体名は『ゴースト』ということにしておきましょう。彼らは無人機です』
急ピッチで解析を終えた工場長から情報がもたらされた。潜伏しての攻撃や一方的な襲撃には強いようだが、交戦状態に入るとなす術も無くゴーストは撃退された。
スキャンのタイミングをバナナに任せ、彼女は迎撃の耐性を取りながら進んで行く。1機、また1機。物陰に、コンテナの上に潜んでいたゴースト嗅ぎ当て、葬り去って行く。
『ノーザークさん。貴方は良い猟犬をお飼いのようだ』
『いやはや。私のね。マネジメントの賜物ですよ』
あまりの快調ぶりに既に任務を成功したとでも思っているのか、ノーザークは調子に乗っていた。
621達が隔壁を開くと、遥か眼下に広がる物に気付いた。彼女にとってもなじみの深い物だった。
「コーラルだ」
『え?』
『他言無用にお願いします』
間近で見る為に高所から飛び降りる。ルビコンの地からコーラルが染み出る場所は井戸と呼ばれており、星外企業が躍起になって入手しようとしている目的物でもあった。……ただし、この場にある井戸から染み出るコーラルの湧出量は少ない物であったが。
『なるほど。連中はBAWSへの制裁とコレを』
「キャーッ!!」
「来る!!」
バナナと621が同時に声を上げた。LORDER4が飛び退いた地点に高出力レーザーが着弾し、レーザーウィップが叩きつけられた。
近接用の装備で身を固めたゴーストは周囲にパルスアーマーを展開して、621に対して白兵戦を挑んで来た。無人機特有の無駄のない動きであったが。
「邪魔」
『HI-32: BU-TT/A』から発振したパルス刃が展開されていたアーマーと干渉し、打ち消し合う。と、同時にレーザーウィップを振るう腕を掴み取り、もう片方の手に装備していた『DF-MG-02 CHANG-CHEN』を至近距離で撃ち込んだ。
機体中心部に据えていたレドームの様な胴体の装甲が食い破られ、内部へと被弾し、機能停止に陥ろうとした瞬間。LORDER4を巻き添えにせんと、3方からレーザーが放たれた。
『証拠隠滅も兼ねていますか』
寸での所で、621は脱すると、同時に射撃方向に向かってアサルトブーストを噴かした。正面から1つ、背面、側面からレーザーが放たれたが、彼女を捉えるに至らない。
「動作が素直すぎるよ」
ゴーストの挙動は正確な物であったが、逆に言えば攻撃を受ける側からも予想しやすい物であった。瞬く間に1機を唐竹割に切り裂いた。
壁に張り付いていたゴーストが地に落ちて行く間にゆっくりと振り返る。他の機体達も場所を移動した様だが、彼女が向かう先に迷いは無かった。予想通り、正面と背面からレーザーが飛んで来た。
「終わり」
次の機体は真横に切り裂いた。残り1機ではどうすることも出来ず、悪あがきと言わんばかりに射撃を行っていたが、彼女を捉えるには至らず。切り伏せられていた。
『お見事です。解析したデータを追加した上で、周囲をスキャンさせて頂きましたが敵影は見当たりません。お疲れ様です』
工場長からの報せが入り、第2工廠を襲った襲撃者達を全て撃破したことを告げられ、621は大きな溜息を吐いた。……そして、少しだけ換気口を開けた。
「気持ちいい」
「ウゥゥー」
井戸から湧き出るコーラルを全身で堪能しながら、621とバナナは暫しの間、酩酊状態に浸っていた。
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「ウヒヒ、口止め代に報酬。堪りませんね。アレだけ困難な任務を果たしてくれましたし、彼女達にはいつもより太いミールワームでも買ってあげましょうかね」
その程度しか還元する気がないらしい。ビックリする位の中抜きが行われている中、笑顔の工場長が姿を現した。
「ノーザークさん。先の任務、とても助かりました」
「いえいえ、私と工場長の仲ですから。幾らでも仰ってください」
「では、お言葉に甘えて。とある方からの依頼です。そして、同時に私からの依頼でもあります。通信を繋げます」
BAWSの工場長から認められ、依頼も斡旋して貰える様になったのかとノーザークが上機嫌で通信を繋げると、低く落ち着いた初老の声が聞こえた。
「お前が、モンキーの飼い主か?」
「えぇ、その通りです。多数の任務を成功させ、先日は壁越えの任務にも多大なる貢献をさせて頂きました。そんな傭兵のマネジメントを務めます私の名前はノーザークと申します!」
「そうか。依頼の話に入らせて貰おう」
張り切って自己紹介をしたというのに、殆どスルーされた。抗議をしたい気持ちはあったが、相手の機嫌を損ねる訳にも行かず、席に着いた。
「ウォッチポイントと呼ばれる施設がある」
地中に眠るコーラルの支脈を監視、流通、運用する施設であるそうだ。
現在は惑星封鎖機構に管理されているらしく、企業も表立って手を出さない場所であるらしい。
「その施設を襲撃して欲しい」
「却下!! 嫌ですよ!? なんで、惑星封鎖機構に喧嘩を売らなきゃいけないんですか!?」
ノーザークは全力で拒否していた。先のBAWSでの一件は惑星封鎖機構側にも非があった為、不問となっていたが、自分から襲いに行くのでは話が違う。
折角、企業の覚えもめでたくなったというのに。惑星封鎖機構から監視されているともなれば、今後の活動すら危ぶまれる。
常識的に考えれば受ける奴なんか居る訳がない。ノーザークが断ろうとした所で、工場長にガッシリと肩を掴まれた。
「我が社を嘗め腐った連中にはお礼参りの一つでもしないと。ですよ?」
「いや、あの。出来れば別の方に依頼をぅ……」
もしも、この依頼を断ればBAWSにお前の居場所があるとは思うなよ? と言わんばかりの気迫であった。ここでノーザークは考える。
「(いや、ある程度の手柄はあるんだし。このまま大企業辺りにでも逃げれば)」
自分で思い浮かべておきながら非常に甘い考えだと言わざるを得ない。
あくまで価値を見出されているのは621に対してであり、付属品でしかない自分の扱いがロクでもないということは想像できたからだ。
それならば、まだ窓口として取り扱って貰えているBAWSの方がマシだ。何せ、この企業にはレッドガン部隊やヴェスパー部隊の様な自前の特務部隊が存在していないのだから。
「ご決断。なされましたか?」
「……仕方ありませんね。工場長と私の仲ですからね。BAWSきっての頼みですから!!」
何かあったらお前のせいだからな。と言ったことを、言外に含めながら不承不承と言った具合でノーザークは承諾した。
「そうか。現場で仕事をするだろうモンキーとも話がしたい。代わって貰えるか?」
本当を言うなら、621が少女であることは外部に漏らしたくはないのだが、既に幾らか漏れているし、依頼の件もあるので代わった。
「はーい。こんにちはー」
「……噂通りか。お前がモンキーか?」
「うん。お爺ちゃんは?」
621に通信を代わった辺りから、相手には僅かな動揺が見られたが、直ぐに収まった。そして、元通りの落ち着きを取り戻して名乗った。
「俺の名前はハンドラー・ウォルターと言う。お前達の工場長とは知り合いだ。色々と話は聞いている」
「そうなんだ。どんな風に?」
「桃太郎チームと聞いている」
聞き慣れない言葉に工場長を除く全員が首を傾げた。そんな彼らの反応を見て、彼は笑顔で解説をした。
「日系の昔話には桃太郎。と言う侍が、悪しき鬼を退治するという話がありましてね。そのお供が『犬』『猿』『雉』なんですよ。雉っていうのは、まぁ鳥みたいな物でしてね」
「なるほど。猿はいるな。そして、モンキーは飼い犬とも揶揄されていたな。鳥は何処だ?」
「貴方です」
鳥の様に自由な男と言う意味で言われたのかと思い、多少の自己陶酔に浸ろうとした所で、通信相手が訂正を入れた。
「俺も聞いた程度だが、日系には『鷺』と言う鳥がいる。種類にもよるが、常に泣いていて煩く、周囲に糞などをばら撒き、水産物や農産物を食い荒らし手は迷惑を掛けたりしたことがあったらしい」
「私がサギ師だって言いたいんですか!?」
日系らしいダブルミーニングを兼ねた奥ゆかしい表現であったが、ノーザークを憤慨させる以外の何物でもなかった。
「オッオッ」
「バナナも上手い。だってさ」
621とバナナはケラケラと笑っていた。――この後、彼女達が挑む任務がルビコンの趨勢を左右する物だとは知らずに。