戦え! 超強化生命体傭兵レイヴンちゃん!【本編完結】 作:ゼフィガルド
いつもはBAWSから輸送機をレンタルして向かうか、近い場合は直接機体で向っていたのだが、今回は依頼者であるハンドラー・ウォルター自前の物を使用して向かうことになった。
驚くべきは、内装の充実ぶりである。機体整備用のハンガーに各種取り揃えられたフレームや武装。移動する工場とでも形容できそうな程だった。これには621も目を輝かせていた。
「物珍しいか?」
「あ。おじさん」
輸送機の操縦をオートパイロットに切り替えたのか、ウォルターが姿を見せた。この場にいるのは2人と1匹のみで、彼女の主人であるノーザークはいない。
「お前の飼い主は?」
「後ろからサポートするだってさ」
「合理的だな。態々、戦場に足を運ぶ理由はないからな」
「じゃあ、どうしてウォルターはここにいるの?」
輸送機に関しても遠隔で操作する技術もあれば、オートパイロットでの運用することも可能だ。だが、彼は自らここに来ている。
「この作戦は特別だ。何が起きても対応できるように、俺も近くで待機する必要がある。指示も俺が飛ばす」
杖を突いていることから、足腰を悪くしているのだろう。だが、ウォルターは621と視線を合わせる為にしゃがみ込んだ後、そう説明した。
「ノーザークは?」
「今回の作戦に関われば、奴の評判にも瑕疵が付くだろうと判断してだ。今の奴は、トチ狂った老害に大切な飼い犬を奪われた哀れな男だ。機体に関しても好きな物を使え」
彼が立ち上がろうとした時、621が脇に入って補助をしていた。傍目から見れば、祖父と孫娘の様に見えなくも無かったかもしれない。
「好きな機体?」
「……企業から出ているフレームやカタログを見たことは無いか?」
「知らない」
だとすると、彼女はずっと作業用の機体で激戦をさせられていたことになる。
飼い主の倹約ぶりに感心しながら、ウォルターは彼女の理解力に合わせた解説をした。
色々なフレームや武装があることを知った彼女は、シミュレーターで色々と試しながら、無邪気にアセンブルを組んでいた。
「すごい! この機体、軽い!! ビューンって飛ぶ!!」
「お前が使っていた『LORDER4』は作業用のフレームだからな。フレームのアセンブルは……ヴェスパー部隊の4番隊長を真似たのか」
ウォルターは画面を注視していた。シュナイダー社のフレームは速度に特化しており、並のパイロットでは振り回されるばかりだ。
だが、彼女は軽量機体によって発揮されるスピードに乗っていた。仮想相手のミサイルや射撃を潜り抜け、手にした武器で粉砕していた。
「この武器も凄い!」
「『SG-027 ZIMMERMAN』か。ベイラムの傑作製品と言われているが」
独立傭兵の中でも愛用する物が多い傑作武器であり、近距離での威力・衝撃は凄まじく、なおかつ足を止めずに撃てる。現在の彼女が使っているシュナイダーフレームと合わせれば、速さと攻撃力を兼ね備えた構成になっていた。
「しかも、敵にちゃんと狙いも付けられる!! 凄い!! ちゃんと照準が追いかけてくれる!」
「『FC-008 TALBOT』はバランスの良いFCSだ。今、お前が使っている機体スピードに合わせて敵をロックオンしてくれるだろう」
依頼相手の情報を盗み見るのは行儀がいいとは言えないが、あまりに621が喜んでいるので、ウォルターは彼女が使っていた機体を見た。フレームが作業用の物であることは知っていたが、内装を覗いて頭を抱えた。
「(何だこれは。『FCS-G1/P01』なんて、何処のジャンク屋から買い取って来た? ジェネレーターの『AG-J-098 JOSO』も作業用MTクラスだ)」
現在はアーキバスの傑作ジェネレーター『VP-20C』を積んでいるが、もしも作業用機体のまま任務に行かせていたらと思うと、ゾッとした。
シミュレーター内で粗方、操作感を叩き込んだ彼女は満足そうな顔をしており、傍らにいるバナナも手を叩いていた。
「ウォルター、本当にこれで出ていいの?」
天真爛漫な少女の様に見えるが、コストなどの関係で散々にグチグチ言われて来たのだろう。彼女の問いかけには不安が混じっていた。
「問題ない。この依頼は何としてでも達して貰いたい。存分に使え。弾薬費もこちらで持つ」
「本当!? 私、やるね!」
満面の笑顔を浮かべる彼女を見て、思わず釣られて笑いそうになったウォルターであったが、直ぐに引っ込めた。
「(何を考えている。こんな子供に人殺しの道具を渡しているというのに、俺に笑う権利など)」
直ぐに彼の笑みは自嘲めいた物に変わった。そんな彼を見た621は何を言うべきか戸惑ったまま、言葉に出来ずにいた。
「オォー」
かなりギリギリまで試みていたのか、作戦エリアは目の前に迫っていた。バナナに促され、621は機体に乗り込んだ。
「バナナ。機体名は何にしよう?」
猿に過ぎない彼が人語を発することは無い。しかし、読心能力を持つ彼女にはバナナの思考が見えていた。
彼女が度々話しかけているのは、自己満足の為ではない。孤独に戦う戦場において心強いパートナーであり、良き相談相手であったからだ。そんな彼の答えはと言うと。
「オォー(腹減った)」
「ハラ・ヘッタ? 我慢してね」
結局、名前は決まらないまま、彼女は新生された機体で任務に出向くことになった。
~~
ウォッチポイント・アルファ。今もコーラルの支脈を監視する場所と使われている施設には、惑星封鎖機構のMT『SENTRY』が配備されている。
MTでありながらも飛行機能を有しており、BAWSなどの企業から出ているMT
よりも遥かに性能は高い。これらに加えて、侵入者を迎撃する為のレーザー砲台も設置されていた。
『モンキー、目撃者は全て消せ』
通信から聞こえて来たウォルターの声はクリアだった。
彼女の機体が闇夜の中で走る。両手に装備した『SG-027 ZIMMERMAN』が火を噴き、すれ違った『SENTRY』に散弾が叩き込まれた。
「侵入者を確認! 増援を……何?」
『増援は来ない』
バックアップも充実しており、惑星封鎖機構の通信は妨害されていた。
彼らが復旧作業に当たっている間も621は止まらない。軽快な挙動でレーザー砲台のロックを切り、散弾を叩き込んでいく。先程まで静寂に包まれていたウォッチポイント・アルファは爆音が響く場所になっていた。
「相手は1機だ。何をしている」
哨戒に当たっていたMT達が応戦するが、いずれも彼女を捉えるには至らない。立ちふさがる障害を次々と排除して行くと、開けた場所に出た。
『モンキー。橋を渡った先にある、ウォッチポイントの制御センターが見えるか? あの内部に目標物がある』
「分かった」
制御センターへと向かう621のレーダーに反応があった。惑星封鎖機構の物ではなく、独立傭兵の物であり。ウォルターの動揺が伝わって来た。
「ウォッチポイントを襲撃するか。暫く、話を聞かなかったから何をしていたと思えば……」
『貴様、スッラか?』
制御センターの屋上に姿を現したのは赤と黒が交差するようなカラーリングが施されたAC『エンタングル』だった。
主にアーキバス製のフレームで組まれており、脚部や背部兵装など。一部はウォルターにも見覚えのない物が装備されていた。
動揺していたのは621も同じだった。いつもは聞こえてくるはずの相手の声が何も聞こえない。だというのに、人間がそこにいるというのは分かる。相手はAIでも遠隔操作でもない。
「おじさんは一体?」
「ほぅ。今回は随分と趣味の良い物を飼っている様だな。何度でも殺してやろう」
エンタングルが飛び降りる。『45-091 JVLN BETA』から放たれたデトネイティングミサイルが、621の周辺に連鎖爆破を引き起こして逃げ道を封じようとするが、彼女の機動力を封じるには至らない。
「独立傭兵スッラ。第一世代の強化人間の生き残りだ」
古強者。そういった言葉がよく似合う相手だった。
いつもは楽しむように戦場を駆けている彼女だが、極度の緊張状態に曝されていた。まず、彼女にはAC戦の経験が殆ど無い。唯一あったテスターとの戦いはAC戦と呼べるほどの駆け引きに至っていなかった。
それが、いきなり歴戦のパイロットとである。加えて、彼女が対人戦において持っていた絶対的なイニシアティブである読心能力がまるで機能していない。純粋なパイロットとしての能力だけで挑まねばならなかった。
「動きが固いな。ここに来るまでは猿の様に飛び回っていたというのに」
『HI-18:GU-A2』から放たれたパルス弾が621の機体を捉える。軽量機体ということもあって、多少のダメージでも命取りになりかねない。かつてない程に濃厚な死の気配に、彼女の手は震えていた。
「キャーッ!」
内から沸き上がる恐怖を打ち消す為に、バナナの真似をして猿叫を上げた。
すると、普段から摂取していたコーラルが再分泌されるようにして緊張がジンワリと溶けて行く。まやかしでしか無くても、今の彼女には重要だった。
実際、水面を滑るようにして走る彼女の高速機動はスッラとしても捉え難い物だった。発射レスポンスの良い『44-141 JVLN ALPHA』でもあたる訳が無く、『HI-18:GU-A2』では決定打に欠ける。故に背部兵装のミサイル達でダメージを削り取って行こうと考えていたが。
「ワーッ!!!」
「ウォルターめ。アイツはいつ猿を飼い始めたんだ?」
近接での攻撃が致命傷になりかねないという中、621は敢えて白兵戦を挑んでいた。彼女の機体が手にしている『SG-027 ZIMMERMAN』は近距離で生きる武器でもあったからだ。
「どけ!」
「アー!!」
スッラはブーストを噴かした上でキックを放ったが、彼女は信じられない反応速度で避けていた。勢い余って背後を見せたエンタングルの背中に大量の散弾が叩きつけられた。
堪らず、機体が姿勢制御を失うと。彼女はハンガーにマウントしていた『HI-32: BU-TT/A』を取り出し、更に背面を切り裂いた。エンタングルのブースターが爆発を引き起こした。
「(リペアキット。駄目か、修復不可能箇所だ。命を捨てるほどではないか)」
スッラの判断は早かった。高速戦闘においては命とも言えるブースターの損傷率を鑑みて、直ぐに距離を取った。621も追い打ちを掛けようとしたが。ウォルターから通信が入った。
『待て。無理に追い打ちをすれば、手痛い反撃を受ける』
これは慈悲を掛けた訳では無く、スッラと言う男の強かさと生き汚さを警戒した上での意見だった。
レーダーから反応が消えるまで待機した後、彼女はヘルメットを脱いでコーラルを入れたパイプに火を付けた。ジンワリと戻って来た恐怖が再び、曖昧になって行く様な感覚だった。
「……ふぅ」
『一服は済んだか?』
「ん」
再びヘルメットを被り、制御センターへと進んで行く。隔壁を開け、高台から飛び折ると目標物である『センシングバルブ』があった。
『それを破壊しろ』
防衛機構も無人兵器も無いとなれば後は簡単だ。背面にマウントしていた『DF-MG-02 CHANG-CHEN』を取り出して引き金を引く。放たれた弾丸が着弾すると爆発を引き起こし、あっけない位にあっさりと壊れた。
『よくやった、モンキー。帰投しろ』
「やっと帰れる……」
彼女が安堵したのも束の間。周囲の床から赤い光が漏れだしていた。彼女には何が起きようとしているか、脳に染み込んだコーラルが教えてくれていた。
「あ。コーラル」
『モンキー! 退避をしろ!』
「ワーッ!!」
何かを察したバナナも悲鳴を上げていたが間に合わない。周囲のコーラルの奔流が迸り、機体を呑み込んでいた。
~~
暗闇。何も見つからない闇の中。一縷の赤い光が見えていた。
「あなたは…?」
声が響いていた。脳に直接響いているかのようで、鮮明に聞き取ることが出来た。誰かが居る。
「……モンキー」
「オォーッ」
「旧型の強化人間が……2人? いえ、1人と1匹??」
声の主から困惑した様子が伝わって来た。何故、人間以外の生命体がこんな所にいるのだろうと。
「あなたは?」
「私の声が届いているのですね。私はルビコニアンのエア。目を覚まして下さい。貴方達の意識が散逸してしまう前に」
周囲の暗闇が晴れて行く。先の逆流で制御センターの一部は吹き飛んで、見通しが良くなっていた。
自分がコックピット内にいることを確認すると同時に無機質な音声が流れる。
『パイロットの生体反応を確認。オートパイロットを解除、ハンドラーへ通信を』
ノイズに阻まれた。巨大な機体がブースターを吹かしてやって来た。
『敵性機体の接近を確認。『AAP07: BALTEUS』。惑星封鎖機構所属の無人機体です』
「エア?」
脳内に響いたのは、先程の夢かと見紛わんばかりのやり取りの中で出会ったエアと呼ばれる女性の声だった。
『貴方の脳波と同期し、交信でサポートします』
先程のスッラとは違い、人の気配は感じない。しかし、侵入者を確実に抹殺せんとする無機質な殺意が確かにあった。リングから156連装に及ぶ多連装ミサイルランチャーの砲門が姿を現した。
状況は異常と言う外ないが、誰にも頼れない中。唯一、響いて来る『交信』を頼りに、先程の戦いで消耗した精神を立ち直らせていた。
『オラーッ! ご主人様! アイツをぶっ殺してやろうぜ!!』
『……うん?』
そんな彼女の緊張を知らずしてか、とにかく喧しく幼稚で頭の悪い発言がエアの使っているチャンネルに乗って響いて来た。
「バナナ!」
彼女の隣にいるバナナは歯茎を剥き出しにして臨戦態勢に入っていた。これにはエアも若干の困惑を覚えた。
『あの。え? 貴方は一体?』
『死ねー!!!』
エアの質問に答えることは無く、バナナが叫び声を上げるのと同期して交信に使っているチャンネルには短絡的で暴力的な叫び声が流れていた。
心地良さ皆無の叫びではあるが、621の萎えかけていた心を笑いで満たすには十分だったらしく、彼女の操縦桿を握る手に力がこもった。
「エア! バナナ! アイツをぶっ倒そう!」
『行け―ッ!!』
『様子のおかしいコックピットです』
偶然に偶然が重なり過ぎた出会いであり、命が懸かったシチュエーションだというのに、彼女達の表情は実に楽しそうな物だった。
遊戯王で新作も書いています。烙印世界でパキケファロを始めとしたメタカード達により、色々と歯車を狂わされる話です。
https://syosetu.org/novel/337228/
ミッシングリンク編を終えたら、こちらも更新する予定です。