戦え! 超強化生命体傭兵レイヴンちゃん!【本編完結】 作:ゼフィガルド
ノーザークはバックアップに徹すると言っていたが、ウォルターのオペレーティングレベルがあまりに高かった為、彼に出来ることは何もなかった。
故に、ウォッチポイント・アルファから送られてくる映像を見ているしか出来なかったのだが、あまりに動きが違っていた。
「凄いですね。元からパイロットとしての技量は高いと思っていましたが」
彼女が今まで動かして来た機体はフレーム的にも内装的にも戦闘用とは言い難い物だった。その上で、ルビコン解放戦線の要所の守護者であるジャガーノートを撃破してのけたのだ。
そんな彼女が、適正な機体に乗れば凄まじい戦果を叩き出すのは当然と言えた。……逆に言えば、彼女は今まで適切なマネジメントを受けていなかったということでもあるのだが。
「いや。私もね。ちゃんとCOAMを貯めたら新調するつもりでしたよ」
この言葉が場を取り持つ為だけの欺瞞であることは明らかだ。今や、彼の愛機であるビタープロミスも埃を被りつつある。
自分で機体を動かすよりも誰かを動かした方が安全で遥かに楽だからだ。加えて、彼女は境遇を嘆いたり抗議したりもしない。
昔は借金王と言われながらも、自身で戦場に出るだけのバイタリティはあったのだが、今の彼は行動力すら失いつつあった。
「(おのれ、ハンドラー・ウォルター! 私から621を奪うつもりですね。アレは私が目に掛けた強化人間だというのに! ……いや、でも待てよ? いざとなったら、彼女を売り飛ばして、この惑星から逃げるという手も)」
だが、それは気が早い。売り飛ばしてしまえば終わりだが、今後も彼女を運用し続ければ、資金以外にも企業からの信頼をも得られる。継続的に稼いで行ける環境が欲しいのだ。
「621は手放さない! あの子は、私の娘と言っても過言ではないから!」
「貴方は娘を戦場へと送り出すのですか……」
この発言に関しては、流石に工場長も笑って済ませることは出来ず、珍しいことであるが、飄々とした表情が歪んでいた。
~~
ウォッチポイント・アルファ、制御センター跡地。
惑星封鎖機構の無人機『AAP07: BALTEUS』は侵入者を殲滅せんと156基にも及ぶミサイルを放っていた。
降り注ぐ殺意の雨の中を621達は突き進んでいく。人体には有害とされるパルスアーマーを展開し続けられるのは、無人機ならではのアドバンテージであったが、彼女達は咆えた。
『アイツの毛! 引き抜いてやれ!』
『パルスアーマーのことでしょうか? では、モンキー。彼の毛を丁寧に剝いてあげましょう』
「毛づくろいは任せて!」
背面に取り付けられた大型のブースターユニットのお陰で、バルテウスは巨体ながらも十分な機動性を確保していた。
だが、巨体故のヒットボックスの大きさまでは対処できない。パルスアーマーを剥がさんと『SG-027 ZIMMERMAN』から大量の散弾が吐き出された。その威力にアーマーの出力は減衰していく。
『行け―ッ!』
『モンキー。接近のし過ぎには気を付けて!』
軽量機体の攻撃力を補うが如く猛威を振るっていた『SG-027 ZIMMERMAN』だったが、バルテウスもまた同様にショットガンを所有していた。しかも、4つもの銃身を取り付けた四連装型だった。
「うわ!」
もしも、彼女が使っていた機体が未だに『LORDER4』であったのなら、回避挙動が間に合わずにコックピット内部がひき肉で満たされていただろう。
だが、新調された機体の反応速度をQB推力に助けられ、間一髪でバルテウスの四連ショットガンを回避できた。だが、相手もまた手を緩めず3連装のガトリングガンが襲い掛かる。
地面が捲り上げられ、飛散した破片が621の機体に当たるが、銃弾ではないので大した傷にはならない。
彼女は再び実弾の暴風雨の中に突き進むと、バルテウスに向けて何度も散弾を叩き込んで、あるいはリロード中であるなら背面にマウントしていた『DF-MG-02 CHANG-CHEN』をも引っ張り出して攻撃を継続していた。やがて、機会は訪れた。
『モンキー。パルスアーマーが剥がれました』
バルテウスの姿勢が大きく崩れた。左腕部の武装を『HI-32: BU-TT/A』へと切り替え、パルス刃を発振させて振り下ろす。命中はしたが、巨体に見合った耐久力を持つバルテウスの機能に損傷を及ぼす程には至らなかった。
大型ブースターを吹かして、その場を離脱すると同時にリングの側面部に取り付けられた連装ミサイルが放たれた。先と同じ様に潜り抜けて回避しようとした所で、エアの声が響く。
『敵機。貴方の行動パターンを学習しています。グレネードランチャーがこちらを捉えています』
『横っ飛び!!』
バナナの言葉に反応し、連装ミサイルの攻撃を避けた瞬間に横っ飛びをした。先程までいた地点でグレネード弾が爆ぜた。直撃は避けたが、爆風と破片を浴びAPが削れる。
バルテウスは学習していた。クロスレンジでの戦いは、自機にとって不利を強いられることになる。ならば、機動力を活かしたアウトレンジからの一方的な攻撃が有効であると。
「させない!」
バルテウスの機動力はACすらも凌駕し得る物だったが、彼女が用いている軽量機体の機動力はやはり飛びぬけていた。
執拗にクロスレンジに飛び込み、その度に銃弾とミサイルの応酬を潜り抜けていた。幾らかは避け切れず、ジワジワとACS負荷も蓄積していく。もしも、スタッガー状態に陥れば、後は無い。
『温度の急上昇を確認! 可変式バーナーです!』
バルテウスが次に展開したのは鎔断にも使われるバーナーだった。パイロットの負荷を完全に無視するかのような回転をしながら突っ込んで来た。さながら、チェーンソーの様でもあった。
『跳べ―ッ!』
バナナと同じことを考えていたのか、621は飛び跳ねた。水平方向に突き進んでいたのなら咄嗟に対応は出来まいと、回避と同時に死角からの攻撃を行う為でもあったが。
『モンキー! 相手もこちらを捉えています!』
中心部分にいるコアユニットが手にしていた重火器は621を狙っていた。ガトリング弾が、彼女の機体に襲い掛かる。
「リペアキット。残量2」
リペアキットから染み出した硬化ジェルが機体の損傷個所を覆った。ガリガリとACS負荷が蓄積していく中、4連装ショットガンが襲い掛かった。彼女もまた、両手に持っていた『SG-027 ZIMMERMAN』を突き出していた。
ほぼ同タイミングで発射されたショットガンシェルは空中でぶつかり合い、跳ねまわったが、ベイラムの傑作品は雑に銃身を増やしただけのショットガンに負けはしなかった。バルテウスが放ったシェルを蹴散らしながら、コアユニットに散弾が降り注いだ。少なくない損傷が刻まれた。
『モンキー! この波形は危険です! 距離を取って下さい!』
あるいは、バルテウスがダメージを受けるのも織り込み済みだったのかもしれない。パルスアーマーが高出力で展開され、その余波が621の機体に叩き付けられた。
先のガトリング弾とは比べ物にならない程の損傷が走り、残っていたリペアキットも使い切り、全身を補修する。
『くたばり損ないの分際でおどりゃぁ!!』
『バナナのいうことは確かです。バルテウスのAPは相当に削られています。こちらも後がない状態ですが、あと少しです』
長引かせれば、自分側の動きも学習されると判断したのか、バルテウスは一気に戦い方を変えた。先程までは機動力を活かしたヒット&アウェイを取っていたが、今は621に狙いを定めて吶喊するような戦い方に切り替えていた。
ジャガーノートとは比べ物にならない程の複雑さとスピードで突っ込んで来るが、クロスレンジでの戦いは彼女も望む所だった。
『ア”-イ!!』
『モンキー。追い付けますか?』
「うん!」
3門のガトリングと4門のショットガン。加えて、大量のミサイルが殺到し、回避機動を取った先にはバーナーの刃が待ち受けている。
身を捻って避けようとするが、右腕と右肩の兵装が溶断された。残された左腕に握られていた『SG-027 ZIMMERMAN』の散弾をコアユニットに叩き込む。装甲を食い破り、機体内を跳ね回る。
背中にマウントする時間すら惜しみ、地面に投げ捨て、ハンガーにマウントしていた『HI-32: BU-TT/A』を装備して、亀裂の走ったコアユニットを切り裂いた。
『ぶっ殺したぜー!!!』
勝利を確信したかのようにバナナが鳴いた瞬間、バルテウスのコアユニットが爆発を引き起こし、機能を停止させた。
『モンキー。近くに敵機の反応はありません』
エアから報告を受けた621はヘルメットを脱ぎ捨てた。髪から何まで汗でびっしょりと濡れて、気持ち悪かった。……通信が入る。
『モンキー。通信が繋がったか。何があった?』
「帰ったら報告する」
表示された帰投場所へと向かい、621は機体を走らせた。
一刻も早く帰って休みたい。疲れ知らずの彼女をここまで辟易させるほどの激闘が、僅か1日の間に繰り広げられていた。
~~
帰投した621とバナナは直ぐにスキャンに掛けられた。センシングバルブを破壊した時に溢れたコーラルは、人体に有害な量だったからだ。
だが、両者とも健康に被害は無さそうだった。むしろ、それが不気味だった。
「何か他に異常はないか?」
621はバナナと顔を見合わせた。エアについて話すべきかと。すると、彼女の方から応答があった。
『いえ。私の存在は打ち明けないで貰えると助かります。彼が信用に足り得る相手かどうか判断できないので』
『ア”-イ!』
依然として、エアが作ったチャンネルにバナナが相乗りしている状態であったが、傍目から見れば会話している様に見えた。
「モンキー。その猿は何と?」
「ア”-イ! だってさ。何も考えてないよ」
畜生に期待をかけ過ぎたらしい。経緯は兎も角として、依頼内容は果たされた。約束通り、ノーザークの口座に多額のCOAMが振り込まれ、通信が入って来た。
『モンキー! 見事でしたよ。私は貴方のことを信じていました!』
『うっせ! なんもしてねー癖に!!』
『誰ですかこの人?』
バナナからの抗議に加え、エアも怪訝そうにしていた。実際、この任務においてノーザークは何もしていない。
「ノーザーク!」
『お疲れ様です! さぁ、少し休憩を挟んだら帰って来なさい。ウォルターさんに迷惑を掛けてはいけませんからね』
まるで、所有権が誰にあるかを主張している様であった。これに関して、621は声を上げなかったがバナナとエアからガトリングの如く不満が撃ちだされていた。
『ヤダ! オレ、ウォルターが良い!!』
『誰かは分かりませんが、少なくともこんな状態になるまで何もしてくれなかった人間について行くのはちょっと……。モンキーはどうですか?』
ただでさえ自意識が希薄な彼女である。普段、考える素振りを見せることもない彼女だが、ジッとウォルターを見上げていた。そんな彼女と目線を合わせるようにしゃがみ込んで、ウォルターは言う。
「モンキー、今のお前の主人はあの男だ。俺に付いて来ても碌なことが無い。……今回使ったACのフレームは持って行くと良い。お前への報酬だ」
「……うん」
何か言いたいことはあったのだろう。だが、今の彼女は自らの思考や願望を言葉にするのは難しかったらしく、捨てられた子犬の様に寂し気な雰囲気を漂わせるばかりだった。
そして、緊張の糸がぷっつりと切れたのか。彼女はBAWSの工場に帰投するまでの間、死んだように眠っていた。
~~
「はぁ……」
多額の報酬。惑星封鎖機構をぶん殴ったこと。自分の信用と資産では用意できなかった新規のAC。ルビコンに来てから一番の富と名声を確保したというのに、ノーザークの気分は晴れなかった。
と言うのも、帰って来てからずっと621が溜息を吐いているのだ。普段はバカと形容しても問題ない位に何も考えていないハズの彼女が、まるで思春期に入ったかのように物憂げな表情を浮かべる様になっていた。
「工場長。これは一体」
「悪徳マネージャーに搾取されていた私は、老紳士に拾われ人間としての道を歩き出す。って所でしょうか」
「ふざけんな!!」
ノーザークがここまでキレ散らかしているのには理由があった。
彼の金銭感覚は婉曲的に表現すれば独特であるが、感性自体は常人と比べても逸脱しまくっている訳ではない。だからこそ、分かってしまう。
ロクデナシのケチについて行くより、紳士的で出し惜しみもせず、気遣いもしてくれて寄り添う人間が新たに見つかれば、どちらに気持ちが靡くかということ位。
「では、少しは自分を見直してはどうでしょうか?」
「そう思って、労いの品を買って来たんですよ」
手に提げた袋には……本当に彼としては珍しく奮発したのか、嗜好品レベルのレーションが入っていた。焦っていることの証拠でもある。
戦場の兵士達にとっては垂涎とも言える品を持ちながらも、ここで留まっているのは、この労いが機嫌取りの様に思われることを恐れてのことだろう。
「普段から、そういった態度を見せていればいいのに」
「しかしですね。この世界で、そんな親身になる人間がいるとは思わないじゃないですか」
これに関してはノーザークの言うことも一理あり、この時代。人間関係はビジネスライクで成り立っていることも多い。特に独立傭兵なんて人種に関わる人間の大半はその筈だ。
そういった意味では、ハンドラー・ウォルターはあまりに特殊な人間であった。彼の存在に戸惑っているのは621だけではなく、ノーザークも同じだったかもしれない。
『元気出せよー』
『きっと、また会えますよ』
「ウォルター……」
彼女としては珍しく、いつもの様な張り付けた笑顔では無く、年頃の少女らしい憂いに染まった表情を浮かべていた。
遊戯王で新作も書いています。烙印世界でパキケファロを始めとしたメタカード達により、色々と歯車を狂わされる話です。
https://syosetu.org/novel/337228/
ミッシングリンク編を終えたら、こちらも更新する予定です。